12.ゴーレムに似た感じ
いつものメンバーで『闇神の狩庭』を使い、『夢の世界』に来て四大属性の操作系魔法のトレーニングをしていた。
その時にいつもこちらの寮の中をうろついている闇属性魔力の塊である『悪夢の元』よりも、格段に昏い魔力が煮詰まったかんじの塊が人型になって襲って来た。
正確にはキャリルに向かって執拗に攻撃を仕掛けている。
キャリルの方はといえば決してひるむことなく、むしろ嬉々とした感じで『壊れないおもちゃ』でも見つけたような目をして戦っている。
でも問題の闇属性魔力の塊は、ここまで攻撃を加えた結果から判断するに耐久力が異常に高いようだ。
『魔神騒乱』のときに斬った権天使を思い出したけれど、あのとき現場にいたディアーナも同じことを考えたようだ。
あたしに同じように斬ることをリクエストしてきた。
月転流の絶技・識月、正確にはその初伝を使えば、概念的な切断を行える――ハズだ。
みんなの前で披露するのは色々な面で不安要素があるけれど、状況的に打開策が見当たらないのも事実。
あたしは手の中の蒼月と蒼嘴に時属性魔力を込め、闇属性魔力の塊に意識を集中する。
この空間では時間などあって無いようなものだし、幸か不幸か状況は膠着している。
斬るのはいい。
どこを斬れば断てるのか。
そのためにあたしは意識を集中し続ける。
周囲の魔力を感じ、気配を感じ、移ろう場の動きを感じ、その中で標的の命脈を断つことだけを考える。
そして、斬ることを想うのと同時に体は動いた。
武器に時属性魔力を纏わせて四閃月冥を左右の手で放つ。
キィィィィィィィィィン――――
まるで蒼月と蒼嘴が意志を持ったかのように鳴き、硬質な音が周囲に響く。
いや、二度目だから気付くけれど、これは聴覚で捉えた音では無い気がする。
手の中の短剣と手斧が起こす魔力の波を、あたしの魔力を感じる部分が捉えている。
それが鳴いているように聞こえるんだ。
そしてあたしの手の中には、根源的な部分での切断をイメージさせる感触が余韻として残った。
絶技・識月の初伝は、どうやら安定して出せるようになったみたいだ。
実際に斬った場所は人型のみぞおちに近いところになる。
感覚的な話になるけれどそこには、何となく急所というか胸のチャクラみたいなものを感じた気がしたのだ。
斬撃自体は特に抵抗もなく決まり、その結果闇属性魔力は立ったまま動かなくなる。
そしてみんなの攻撃が加えられている中、煮詰まったかんじの昏い闇属性魔力の塊はその場から霧散して行った。
それに気が付いた人から手を止め、その場で虚空に解けていく闇属性魔力の塊を油断なく眺めていた。
「どうやら片付いたようじゃのう」
「もっと撃ち合いたかったですわ」
「ぜんっぜん効いてる感じがしなかったわねー」
「さすがですウィンさん!」
「いやもう、何だったのよアレ……」
どうやら戦闘が終わったようなので、あたしは手の中の武器を放して虚空に消した。
たぶん現実で同じことをするには無詠唱を覚える必要があると思うけれど、これができると便利そうだよなとボンヤリ考える。
そうしていると、戦闘中あたし達から距離を取っていたメンバーが駆けてきた。
「ゴーレムに似た感じじゃったのう」
のんびりした口調でニナが告げたのは、先ほど征した闇属性魔力の塊への感想だった。
「闇属性魔力のみで形成されている時点で、精霊とか精神生命体の類いを思い浮かべたけれど、ニナちゃんの感想もしっくりくるわ」
アルラ姉さんがそう言って頷いているけれど、ロレッタ様も同意している。
「どの辺がゴーレム要素があったりするん?」
「それはやはり動作じゃな。拠点警護を命じたゴーレムの自動的な動きに似ておるのじゃ」
「ニナはゴーレムも詳しいんですか?」
ジューンが目に好奇心を浮かべて問う。
それに対してニナは柔らかく微笑む。
「詳しくはないのじゃ。妾の地元に詳しい者が居って、ことあるごとに自慢をしに来たのを見たことがあるだけなのじゃ」
『ふーん』
さしずめゴーレムマニアと言った感じなのだろうか。
日本の記憶でいえば、男の子がプラモデルとかでロボット関連の模型を集めて自慢しようとする感覚だったりするのだろうか。
「ちなみにニナ、その自慢する知り合いって男の人?」
「そうじゃよ? 近所に住むゴーレムが大好きな長老の一人なのじゃ。長老と言っても、やっていることは子供じみておるのじゃがのう」
そう言ってニナは笑っていた。
「あれがゴーレムだったとして、なぜとつぜん出てきたのかな?」
アンが不安そうな表情を浮かべる。
彼女はまだ自分で戦える手段を身につけていないし、どのくらい脅威なのかという感覚を掴めなくて不安なんだろう。
「アン、まずは安心して。急所らしい場所は分かったと思うし」
「う、うん。ごめんね。わたしも戦えたらいいのに」
「気にしなくてもいいと思うわアンちゃん。その辺はウィンが対応してくれるし、今はいいと思うの」
「そやで。アルラ先輩の言う通りや。いまはウィンちゃんらを応援しとったらええとおもうで」
その話に頷いていたジューンだったが、フォローするつもりだったのか口を開く。
「それに戦うにしろ、普段からの経験はやっぱり大切です。私も『夢の世界』では『アルプトラオムローザ』は出せますし、マーゴット先生の『シュニッター』シリーズも出せますけど、味方を巻き込まないか心配なんです」
『あー……』
ジューンが舌を出しつつ話してくれた内容にあたし達は納得した。
とりあえず彼女に死神くんシリーズを使われて、攻撃を食らいたくは無かったりする。
たしか話によると剣型の飛行する魔道具で、十三本を同時使用して攻撃しまくるらしいんだよな。
マーゴット先生ならともかくジューンが使う場面を想像すると、微妙にイヤな予感がする。
「まあ、そもそも『夢の世界』は四大属性の操作系魔法をトレーニングするために来ているのだし、ヘンな魔獣だかゴーレムと戦うのは想定外よ」
「そうじゃの。ただ、今回の戦闘を経て思うのは、もう少しこの『夢の世界』を調べた方がいいことと、キャリルが集中的に狙われた理由を考えるべきと思うのじゃ」
調査はどこまでを目標にするかが問題だけれど、ニナの提案は妥当だ。
特にキャリルが狙われた理由は早めに掴んでおきたい。
「なんでキャリルが狙われたのかしらね?」
「別にダンジョンで魔獣を挑発するときのようなことはしていなかったですけれど、なぜか狙われましたわね」
突然話題を振られたキャリルは首をかしげる。
「そうなのよね」
「戦い自体は歓迎なのですが、隠れた仕組みがあるようなら把握しておきたいところですわ」
『…………』
あたしを含め、キャリルがいう『隠れた仕組み』はみんな気になるところだと思う。
でもやっぱりキャリルが狙われる条件を特定したいんだよな。
そこにニナが何か思いついたような顔で告げる。
「今回ウィンの斬撃で撃退した闇属性魔力の塊を、便宜的に『闇ゴーレム』と呼ぶのじゃ。そのうえで今回の『闇ゴーレム』の行動が普通のゴーレム同様に拠点警護なら、キャリルを脅威とみなす理由があったはずじゃ」
「脅威ですの?」
「うむ。例えば魔道具の所持や使用であったり、特定の魔法の使用や何らかのステータス情報の保有などが関係すると思うのじゃ」
「ニナちゃん、ここは『闇神の狩庭』よね? キャリルが『光神の加護』を持っていることは関係あるかしら?」
ロレッタ様が思い付いたという表情でニナに問う。
それに対し、ニナは少し考えて首を縦に振る。
「条件設定としては不可能では無いと思うのじゃ。しかしそれよりももっとシンプルに考えて、キャリルが光魔法を使ったか、その練習をした可能性はどうかのう?」
「光魔法の【光輝】の練習も行っておりましたわ」
『それかーーーっ?!』
あたし達は揃って叫んだ。
「もしかしてそれかも知れぬのう」
「試してみますか?」
そう言ってキャリルは魔法の発動をしようとするが、あたし達は一斉に彼女を止めた。
「みなさんあんまりですわ……」
キャリルが何やら残念そうな顔をしている。
彼女に話を聞けば、魔法の発動を止められたことよりも、『闇ゴーレム』を呼べそうな可能性を止められたのが残念だったようだった。
もう一戦交えるのは流石に面倒くさいんですけど。
「それで、『闇ゴーレム』の方は当面は光魔法の発動に気を付けるとして、『夢の世界』の調査はどうしようかしら?」
「その辺は地道にやるしかないと思うのじゃ。まずはこの世界の寮の中全体を家探しして、妙な状態になっているところは無いか調べるべきと思うのじゃ」
あたしが問うとニナはそう応えた。
その言葉にあたし達は頷いたけれど、先ずは調査の前にひと息入れようということになった。
ニナによれば『夢の世界』から出るにはまだ五時間弱過ごす必要があるとのことで、みんなでお茶とお菓子を出して休憩することにした。
ウィン イメージ画 (aipictors使用)
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