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07.比喩をマシマシで説明して


 午後の授業を受けたあと、帰りのホームルームでは一種異様な雰囲気が流れていた。


 新学期になったということでクラス委員長選びと席替えが行われた。


 クラス委員長選びに関しては挙手で推薦する人の名をみんなから挙げてもらい、その中からさらに挙手でいちばん賛成者が多い人を選ぶという形になった。


 これはスムーズに行われて、プリシラが二学期のクラス委員長に決定した。


 ちなみに次点はキャリルだったけれど比較的僅差だったと言っておこう。


 そこまでは良かったのだ。


 続く席替えではクジ引きが行われた。


 男子も女子も一部の生徒が祈るような顔を浮かべてクジを引き、実際に席に戻ってクジを掲げて何かに祈っている光景もあった。


 何に祈るんだよこういうのって。


 呟きなどを拾う限り、女子に関してはコウの隣や前後の席を、男子に関してはディアーナの隣や前後の席をそれぞれ狙っていた気がする。


「――それではクジを確認し、黒板に書いた席の番号に移動してください」


『はい!』


 ディナ先生の指示であたし達は移動したが、ディアーナに関しては幸か不幸か無事にあたし達が彼女を囲む席になった。


 まずディアーナは窓際の後ろから二番目の席になり、あたしが彼女の前の席、後ろがプリシラの席になった。


 ディアーナの廊下側の隣はサラの席となり、そのほか斜め前後も女子の席になった。


 コウに関しては右側がジューンの席に、左側がホリーの席に、前後がそれぞれレノックス様とマクスになった。


 ちなみにキャリルはホリーの後ろの席に決まっている。


 一部の生徒がやりなおしをディナ先生に提案したけれど、当面はこの席で固定だと言われてガッカリした表情を浮かべていた。なーむー。


 放課後になると実習班のみんなに加えて、プリシラとホリーとディアーナとで部活棟に向かった。


 そこからあたしとニナに加えてディアーナは、附属農場の“特別講義臨時訓練場”に向かう。


「ディアーナも特別講義を受けるのね」


「はい。ウィンさんには前に言ったかもしれないですけれど、わたしは風の精霊魔法を移動しながら使えます」


「ええ、あのとき屋上で聞いたわね」


 あの時というのは『魔神騒乱』の時の話だ。


「はい。それで入学にあたって精霊魔法の特別講義を案内されて、参加することにしたんです。何でも一つの属性を覚えていたら、他の四大属性の精霊魔法も覚えやすいと聞いたので」


 確かにさらに上達の余地があるなら学んでみたくなるだろう。


「ちょうど今年度から、精霊魔法の専門家をプロシリア共和国から招いて講義を始めたそうなので、興味があったんです。わたしが教わったときは天才肌の人の感覚的な説明だったので(ボスのことなんですけどね)」


 そう言ってディアーナは苦笑いを浮かべた。


 小声で何か言っていたけど、微妙に聞き取れなかったな。


 感覚的な説明っていうのも聞く方は難しいとおもう。


 ああいうのはセンスが一致するならスッと理解できるのだろうか。


 それはそうとディアーナは、精霊魔法の専門家がニナだということまでは聞いていなさそうな気がする。


 そう思ってあたしはニナに視線を送ると、のんびりした表情で彼女は頷いてみせた。




 今回の特別講義にはマーヴィン先生は参加していなかった。


 ニナからの説明によると前回の復習で、同じ内容を反復練習するらしい。


 取り急ぎあたしはマジックバッグから参加者が使う木製バケツやランタンなどを取り出して、デボラに手伝ってもらいながら用意した。


「地味な内容で退屈に感じる者も居るかも知れぬが、この練習は次の段階の基礎となるトレーニングなのじゃ――」


 ニナはディアーナへの説明も兼ねているのか、精霊魔法の特別講義で四つの段階を踏んで習得させる話を再度行った。


 環境魔力中の精霊の感知、精霊のイメージ形成と出現、精霊に環境魔力を扱わせる指示、精霊に魔法を使わせる指示の一連の流れだ。


 その上で、精霊魔法で『精霊の試練』とも呼ばれる魔力暴走のリスクが伴う部分は、精霊に指示を出す時が一番危険なのだそうだ。


 次点で危険なのが精霊を出現させるところだという。


「――妾やデボラ先生やウィンが居る限り、みんなが仮に魔力暴走の状態になっても、対処することは可能と考えておるのじゃ。しかし、少しでもそのリスクを下げるために、いまは基礎のトレーニングに集中して欲しいのじゃ」


『はい』


 そのあとニナはみんなにディアーナを紹介して、トレーニングに入った。


 それを見届けつつ、ニナはディアーナに個別の指導を始めたようだ。


 ニナはあたしに手を振ってマジックバッグを持ってくるように告げる。


 初回の特別講義のときにみんなに説明した内容を、簡単に実演するつもりなんだろう。


 あたしがマジックバッグを持っていくと、ディアーナが驚いたような口調でニナと話し込んでいた。


「――すみませんホントに。ニナさんが精霊魔法の専門家とは思っていなかったんです。魔法がすごく得意そうだなとは思っていたんですが」


「ディアーナは真面目じゃのう。専門家だから偉いとか、長く学んでいるから偉いということは無いのじゃ。長く学んでいる者が、初学者を教えるのは責務なのじゃ」


「持ってきたわよニナ」


「ああ済まんのじゃウィン。それでは少し、初回の特別講義でみんなに見せたデモンストレーションを行うのじゃ。ディアーナよ、見ていて欲しいのじゃ」


「はい!」


 この段階でデボラもディアーナの近くにやってきたけれど、ニナのデモンストレーションを見学するつもりなんだろう。


 ニナは地の精霊を美少年姿で虚空に出現させる。


 そしてマジックバッグから出された鉢植えから芽を出させ、自立するピンクのバラが花開くところまでを実演してみせた。


 また、用意した丸太を美少年姿の風の精霊に加工させ、デボラを模した精巧な木像になった。


「ざっとこんなところなのじゃ」


「スゴイです!!」


 そう言ってディアーナが拍手をすると、いつの間にか他の生徒も見学をしていたようで、一緒にニナに拍手をした。


 ニナは手を挙げてそれを征する。


「みんなもこれくらいはいずれ出来るようになるのじゃ。重ねての話になるが、精霊魔法は戦いのためだけの魔法ではないのじゃ。それを覚えておいて欲しいのじゃ!」


『はい!』


 ニナがそこまで話すと、みんなは練習を再開していた。


 デボラは「普通の魔法ではここまで複雑な制御はカンタンにできないよ」などと呟き、腕組みをして考え込んでいた。




「ディアーナよ、どうじゃろうか? お主は風の精霊魔法が使えるはずじゃが、このように様々な精霊魔法の使い方は習ったことはあるかの?」


「ええと……、じつは初めてです」


 そう言ってディアーナは苦笑しながら視線を落とす。


「ふむ。天才肌の者から学んだとの話じゃったが、戦いが優先されたのかのう」


「仕方なかったんです。細かい制御も教えてくれていたのですが、自然の中にある地水火風の働きに例えられて、わたしでは感覚的な理解が出来ませんでした」


「感覚的のう」


「はい。例えば、そうですね……」


 ディアーナは少し考え込んでから告げる。


「『野に転がる岩も年月を経ると風雨で削れる。それは風によってもまた岩を削れるということなんだ。ぼくらが吹きかける息を天地が成していることを想像して、それがどこまでも細く鋭くなるさまを思い浮かべればいいんだよ』と。そう言って優しく笑ってくれたのは今でも覚えているんですが、具体的にどうすればいいのかイメージが出来なくて。戦いの中で使うことを想像したらそれは成功したんです」


『…………』


 ニナとデボラとあたしはどう反応したらいいものか絶句してしまった。


 実演による説明もあったらしいけれど、それでも感覚的な説明が多くて消化しきれなかったようだ。


「もしかしてお主の師匠は魔族かの?」


「ええと、ここだけの話にして欲しいのですが、人間だったころの魔神さまです」


『はぁ?!』


 ニナとデボラとあたしはさらに反応に困ってしまった。


「ま、まあ、確かに長く経験を重ね魔法に長じた魔族の言いそうな説明じゃな。お主の師匠に限らず、精霊魔法の奥義に属する話をたとえ話でしてくるから厄介なのじゃ」


 そう言ってニナは重い溜息をつく。


「もしかして今のディアーナから聞いた内容は、風の精霊魔法の奥義だったりするのかい?」


 デボラが問うがニナは少々困った表情で頷く。


「恐らくはそのハズなのじゃ。下手をすればあの連中は、上位の精霊への緻密な指示の仕方を比喩をマシマシで説明して、こちらが理解できたと思い込んでしまうのじゃ」


「「うへぇ……」」


 それってどう考えても、“暗号解読”の作業に似た何かが必要になるんじゃないだろうか。


 あたしがニナにそれを指摘すると、彼女は苦笑する。


「共和国の魔法文献学の一大勢力が、そういう研究をしておるのじゃ。暗号解読とは言いえて妙なのじゃ」


「「「うわぁ……」」」


 ニナの説明に今度はディアーナも加わって呆れていた。



挿絵(By みてみん)

ニナ イメージ画 (aipictors使用)




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