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03.色んな奴が流れ込む


 エルヴィスとジェイク以外の風紀委員会のメンバーは、カールとエリーの案内でおすすめの店に移動した。


 なんでも“白身魚と根菜のクリームポットパイ”が有名らしい。


 冬にポットパイとか最強だよね。


 そう思いつつ直ぐに店に辿り着く。


 案内された『幸運の矢(ラッキーアロー)』の店内は、見た感じでは地元の人がお昼を食べに来ているように見えた。


 そう感じたのは単純に、旅装をした人が少ないからだ。


 カールとエリーは店の中にずんずん進み、空いているテーブルに勝手に座ってあたし達も座るように促した。


「注文は僕のお勧めでいいだろうか?」


「アタシは異論が無いにゃ」


 あたしを含め他のみんなもカールに任せることにした。


 彼は店員さんに「いつものクリームポットパイを頼む」と告げて人数分注文をしていた。


 ちなみにキャリルの護衛の“庭師”二人も店内に入り、開いている席に座って何かを注文したようだ。


 あたしとキャリルは先輩たちからおすすめの料理店などの情報を聞いていると、料理はすぐに出てきた。


 ポットパイだから、仕込んでおけば直ぐに出せるようになっているんだろう。


 一人サイズの土鍋の口を、こんがり焼かれたパイ生地が膨らんだ状態で覆っていて、見るからにその食感を想像することが出来る。


「これは期待感が高まるわ!」


「ワタシは前にここは来たことがあるけど、久しぶりな気がするわ」


 アイリスがそう言ってニコニコと笑顔を浮かべている。


 他のみんなも目の前に来た料理に表情がゆるんでいる。


「簡単に冷めることは無いけど、温かいうちに食べよう。ここのポットパイは――」


「食べれば分かるにゃー、お先にゃ」


 カールが説明しようとしたところを、エリーがスプーンでパイ生地を割る。


 あたしもこれは遅れる訳には行くまい。


 そう思ってパイ生地を割るけれど、割と厚めな生地を使っている。


 中に見えるクリームシチューは見るからにドロッとした質感を感じさせるけれど、スプーンで掬った途端に学院の食堂のシチューなどよりも粘性が高い気がした。


 あわてず騒がずパイ生地を忘れず、あたしは最初のひと口を頂く。


 それは絶品だった。


 魚のフレーバーというか旨みがシチューの中に効いていて、クリームシチューのまろやかさに深みを与えている。


 シチュー自体も深いチーズのフレーバーが広がるけれど、さらに厚めのパイ生地の食感が相まって冬の日の幸せを感じる味だ。


「おススメな理由が分かります。これ、食堂のシチューよりもかなり濃いですね!」


「そうにゃ! しかも魚が全然臭みが無いにゃ。根菜も甘みが感じられるから、味わって食べるにゃ!」


「はいっ!」


 エリーの言葉に大きく頷き、あたしは次のひと口を食べようとしたところで邪魔が入った。


「お嬢、昼どきに済まねえ。今ちょっといいか?」


 デイブから【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡が入ってしまった。


「良くないわよ。『幸運の矢』って店で、ポットパイのふた口目をスプーンで掬ったところよ」


「あー……そいつはマジ済まねえ。今日の午後、時間があるときでいいが店に顔を出してくれねえか?」


「分かったわ」


「そんだけだ。それじゃあまた後でな」


 デイブはそう言って直ぐ連絡を終えた。


 あたしはそのあと、ポットパイを味わうのに集中した。




 みんなはポットパイに満足して昼食後に解散になった。


 そして、あたしとキャリルがデイブの店に行く話をしていたら、カールとエリーが興味を持った。


 デイブの店であるソーン商会の名は二人とも知っていたようだけれど、エルヴィス同様に値段に怯んで入ったことは無いようだった。


「店主が冒険者ギルドの相談役というのは知っていたんだがな、予算的にちょっと不安に感じていたんだ」


「アタシもにゃー」


 そういうことならデイブに紹介すると告げると、カールとエリーは食い付いた。


 けっきょくデイブの店には、あたしとキャリルとカールとエリーの四人で向かうことになった。


 ニッキーとアイリスは学院に戻るというので、まず全員で中央広場まで歩いて移動し、二人が王都内の乗合い馬車に乗るのを見届けてからデイブの店に移動した。


 店は普通に営業していたので表から入ると客がいるようだ。


 デイブとブリタニーはそれぞれ接客中だった。


「いらっしゃい。ってお嬢か」


「こんにちはデイブ。今日は風紀委員会の先輩と来たわ」


「おおそうか。済まねえ、店の中を見ててくれ」


「分かったわ」


 その後、客足が途切れたところで、デイブとブリタニーにカールとエリーを紹介した。


 あたしの先輩ということで装備の値段を勉強すると聞いて、二人はデイブ達に恐縮しきっていた。


「――まあ気にすんな。うちは取る奴から取って稼いでるからよ。とりあえず武器でも防具でも店の中を見てくれや」


「私が案内するよ。まずは防具でもどうだい?」


 ブリタニーはそう言ってカールとエリーとキャリルを促し、デイブとアイコンタクトをする。


「ちょっとおれは奥でウィンのお嬢と話をしてる。ゆっくり見ててくれ」


 デイブとあたしは店のバックヤードに移動した。


 彼はすぐに【風操作(ウインドアート)】を唱え、周囲を防音にする。


「それで話ってどうしたの?」


「ああ。今日の午前、冒険者ギルドに呼び出されてな。副支部長と支部長の三人で話をしてた。王宮からうちの旅団あてに指名で依頼があってな」


「王宮? その依頼の話ってこと?」


「そうだ。話を聞く限り、両方ともお嬢に関係するかも知れなくてな。王都地下の古代遺跡調査の護衛と、『聖地案内人』の護衛の話だ」


「あー……。ごめんなさい、知ってたのに連絡を入れて無かったわ」


 ヤバいな。


 普段と違う話を聞い段階で、デイブに流しておけば良かったのに。


「もしかして下調べが出来なくていきなり依頼されて困ってる感じ?」


 あたしが気を揉んでいるのをデイブは鼻で笑う。


「いや、まったく問題ねえ。古代遺跡の話はライゾウからネタを貰った段階で、どっかから話が来る可能性だけは考えてたからな」


「『聖地案内人』の護衛の方は? 月輪旅団(うち)が受けるような話なの?」


「問題はそっちなんだよな。その話をする前に、お嬢が知ってる話を教えてもらっていいか? ザっとでいい」


「分かったわ――」


 あたしはリー先生から最初に話を聞いたところから説明を始め、今日の午前中に風紀委員会のみんなと商業地区の様子なんかを下見したところまで説明した。


「――というところで、先ずは課題の洗い出しの段階だと思うわ。でも王宮と王都の各学校が乗り気な以上、『聖地案内人』が行われるのは確定だと思う」


「ああ、よく分かった。下見の話もいい情報だしおもしれえじゃねえか。お嬢たちの動きは中々いいセン行ってると思うぜ」


「まあね。学院の知り合いもクラスメイト以外で増えて来てるし、出来るだけトラブルは避けたいかなって思ってるわ」


 あたしがそう告げるとデイブはいつものニヤケ顔じゃなくて、すこしだけ柔らかく微笑んだ。


「まあ、何もねえ方がいいに決まってるわな。それはその通りなんだが……」


「なにか問題があるのね?」


「ちょっとなあ……。お嬢も『聖地案内人』に関わるし、説明はしておくか――」


 そう言ってからデイブは、冒険者ギルドの支部長のオーロンという人と、先日知り合った副支部長のレイチェルから聞いた話をしてくれた。


「――つうわけで、うちとしては暗部の情報分析に噛んでおくことにした」


「ええと、どこからツッコもうかって感じだけど、それ以前に暗部の本部ってお城じゃあないの?」


 あたしが訊くとデイブがニヤケ顔を浮かべる。


「あれ? 言ったことは無かったか。貧民街の一角に関係者しか入れねえ拠点がある。ちなみに王国側の関係者以外だと高位の冒険者のごく一部か、王都の裏勢力の幹部とかしか知らねえ話だから、外で話すなよ?」


 その言葉であたしはどう反応したらいいものかと固まってしまった。


 なんでそんなに嬉しそうな顔をして、あたしにそんなヤバいネタを話すんだよ。


「……もし外で話したら?」


「たぶん知った連中ともども、お説教されて闇魔法で記憶をいじられるだろうな」


 そう言ってデイブはキリっとした表情を浮かべた。


「はあ……、そうしてもらった方がいい気がしてきたんですけど」


「まあ、貧民街には色んな奴が流れ込むってのは、覚えておいた方がいいぜお嬢」


「分かったわよ」


 あたしはそう応えて重い溜息をついた。



挿絵(By みてみん)

ブリタニー イメージ画 (aipictors使用)




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