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11.どう見えているのでしょう


 王都の中央広場から商業地区にある市場に向けて、風紀委員会のみんなと一緒に歩く。


 休日の闇曜日とはいえ、人出はそれなりに多い。


 ただ、収穫祭の頃ほどの、馬車の通行まで妨げるほどではないけれど。


 時間が経って昼近くだとか、午後の時間帯になったらどうだろう。


 年末年始の休み中に商業地区をうろついていた頃には、特に気にならなかったと思う。


 休み中は、王都が魔神さまの聖地になるということは頭の中にあった。


 それでもそういう目で実際の路地を見ていなかったのは、急激な変化が無かったからだろう。


 でも『魔神騒乱』があったのは十二月の最終週初日の地曜日だ。


 明日、一月第三週の地曜日で、もう三週間経ってしまう。


 一般の巡礼客はともかく、熱心な魔神信仰の信者ならそろそろ国外からでも駆けつけてくるんじゃないだろうか。


 今年の元日は迷いネコを探すのに力を貸したけれど、あのときの少年とその家族は王国内に住む巡礼客だった。


 それまでは王国における魔神さまへの警戒で、魔神信仰を表に出すことが出来なかった共和国出身者たちが居た。


 彼らが王都を訪ねてきている。


 じっさいに街を行く人を見れば、ローブのフードを深くかぶっていたり帽子を深くかぶっている人を見かける。


 加えて、頭にケモ耳を出して、肩で風を切って街を行く人たちも見かける。


 まるで彼らが王都を歩いていることを誇りに感じているように見えるのは、あたしの気のせいだろうか。


「ウィン、なにか気が付いたような目をしていますわね」


「あ、うん。気が付いたって程じゃないわ。獣人の人が街に増えているかなって思っただけよ」


「確かにそうですわね。――と言いましてもわたくしも王都の商業地区を積極的に歩くようになったのは、学院に入学してからですが」


 そりゃまあキャリルは伯爵家の令嬢だからなあ。


 こうしてみんなで歩いている間も、いつものティルグレース伯爵家の“庭師”の人たちの気配が近くに感じられる。


 いちいち確認していないけれど、寮を出るときに、いや、昨日の段階で散策することをキャリルから伯爵家の方に連絡を入れてあるんだろう。


「あたしだってそうよ。ミスティモントほど土地勘がある訳じゃあ無いもの」


 キャリルの言葉に応じて、あたしは道行く人に視線を走らせる。


「それでも、本当に急激に王都が変化していることは分かるわよ」


「そうですわね。そういう視点で言うなら、先輩たちにはどう見えているのでしょうね」


 それはちょっと気になる話ではある。


「訊いた方が早いわね」


 あたしは直ぐ前を歩いていたエルヴィスに声をかけた。




「エルヴィス先輩、ちょっといいですか?」


「どうしたんだいウィンちゃん?」


「いまキャリルと話していたんですが、街を行く人の流れの中に獣人の人が増えたって思ったんです」


「わたくしも同感です。ですがわたくしもウィンも王都に慣れたとはいえ、何年も暮らしている訳ではないのです。先輩たちから見てどういう印象か気になったのですわ」


 エルヴィスはあたし達の言葉に頷く。


「そうだね。ウィンちゃんとキャリルちゃんの見立てはボクも同意見かな。ええと、そうだなあ……」


「先輩?」


 何か気付いたことでもあったのだろうか。


 思わず確認するようにあたしは声を掛けた。


「あ、いや、あくまでもボクの感覚的な話になってしまうけれど……。『魔神騒乱』の前の混み具合を一として、収穫祭の頃の混み具合を十とすると、いまの混み具合は四とか五くらいかなっておもうんだ」


「だいたい半分ですか?」


「うん。それで増えた分の人の内訳で、半分以上が獣人の人たちかなって思うよ」


「「ふーん」」


「それは興味深いですわね、やはり共和国でもともと魔神さまを信仰していらした人たちが来ているのでしょうか」


「いちどその辺りは街を行く人たちに聞き取り調査をして、信仰についての内訳とかを調べてみてもいいかもですね」


「ああ、その手があったか。聞き取り調査っていうのは面白いかも知れないね」


 そう言ってエルヴィスはあたしに笑顔を向けた。


 あたしはそれに笑顔で頷いたのだけれど、それと同時に妙な気配を感じてしまった。


 刺すようなそれは、あたしへの敵意だった。


 敵意なのは間違いないのだけれど、それを送ってくる相手がどうにも普通の人たちな感じだ。


「…………」


「そうしたんだいウィンちゃん?」


「あ、いえ、ちょっと試しに先輩と握手させてもらっていいですか」


「握手かい? 別に構わないよ」


 エルヴィスはそう言って歩きながら手を差し出すので、あたしは握手をする。


 するとそれとほぼ同じタイミングで、あたしへの敵意はちょっとした殺意に変わっていた。


 この時点であたしは気配の正体が何となく分かった。


「うーん……、多分ですけどエルヴィス先輩のファンの人たちが、あたし達を尾行しているみたいですよ?」


「尾行ですの?」


「それは間違いないのかい?」


「ええ。さっき先輩と笑い合った時に敵意のようなものを感じて、握手をした段階で軽い殺意のようなものを向けられたんです」


「「あー……」」


 キャリルとエルヴィスは苦笑いを浮かべた。




 その後のエルヴィスの対応だけれど、前を歩いていたカールに追いつきみんなの移動を止めて状況を説明した。


 みんなはあたし達と同様に苦笑いを浮かべているが、カールはエルヴィスに問う。


「それでどうするんだ? エルヴィス君を慕う生徒が尾行しているとして、一緒に連れて歩くのか?」


「ボクに案があります。せっかく来てくれたのだし、チームを作ってみるのはどうでしょう。ここに呼び出して合流して、『聖地案内人』の試行に今から協力してもらう感じです」


「ふむ……。下調べまでなら僕はいいと思う。実際に巡礼客に声を掛けたりするのは、まだ待った方がいい」


「そうね。警備体制も整っていないし、いきなり試行するよりは今日はあくまでも王都の散策に徹した方がいいと思うわ」


 エルヴィスの提案にカールとニッキーが応えた。


 このメンバーなら戦力的には護衛も出来るとは思うけれども、衛兵の人たちほどには上手く出来ないんじゃないだろうか。


 巡礼客とやり取りをして揉め事になったときには、護衛対象が多いと護り切れない状況もあるだろう。


「それもそうか。……じゃあ、散策して商業地区の情報を集めるのはどうだろう?」


「それならまだマシだが、そもそも何人くらいいるんだ?」


「ええと、数名くらいだと思います」


「ひと組は五人ですね」


 カールとエルヴィスのやり取りをあたしは横から補足した。


 なんせ向こうは気配を隠せてないし、隠す気も無さそうだし。


『“ひと組は” (ですの)(にゃ)?』


「もうひと組いますよね? そっちは四人かな」


「うわー入れ食いにゃー」


「そういう事言っちゃダメよエリーちゃん」


 エリーが思わず漏らした言葉について、アイリスは苦笑しながらたしなめていた。


 その後もう少し話し合った。


 エルヴィスの追っかけと合流し、エルヴィスとジェイクが護衛役で同行する。


 加えてあたしとキャリルが気配を消してエルヴィス達を陰から護衛する。


 ほかのみんなは別チームとして商業地区の散策を続け、何かあったら合流する。


 そんな段取りを決めた。


「ぼくが同行ですか。邪魔者扱いされたら悲しいかな」


「それは最初にボクがとりなすから大丈夫だよジェイク」


「あ、はい……」


 ジェイクは言葉の上では納得したものの、なにやら落ち着かない様子だった。


 確かに気持ちはわかるけれども。


 そしてファンの女子たちとの合流はどうするかとカールが問う。


 エルヴィスは「それなら簡単だよ」と言って、あたしに女子たちが居る方向を確認した。


 それから彼は「おーい、みんな! こっちにおいでー!」と爽やかに微笑みながら手を振り、手招きした。


 エルヴィスの行動は通行人の視線も集めたけれど、それ以上に彼女たちの視線を集めたようだ。


 件の女子たちは、全員で街なかをダッシュしてあたし達のところにやってきた。



挿絵(By みてみん)

ジェイク イメージ画 (aipictors使用)




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