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10.問題提起はキライじゃない


「呪いという技術には善悪は無いわ。悪用する人が問題なのであって、そうでない人を白眼視するのは違うと思うの」


 ナタリーはしたり顔でそう言ってのけるけれど、キャリルが困った顔をして頷く。


「たしかに一理ありますわ。呪いが危険というのなら、魔法自体が危険であり忌避されるべきという話になりかねませんもの」


 でもあたし的には、釈然としない部分が残る話なんですよ。


「あたしももちろん、一般論として技術に善悪が無いというのは分かります」


「ならキャリルさんもウィンさんも、懸念は解消されたのかしら?」


 そういう訳でも無いんですよ。


「それはどうでしょうか。技術は常に使用者がセットになっていますよね? 図書館に並んでいる本の中だけの話なら『善悪が無い』と言って済みますけれど。でも、使うときには『責任』がくっついてくると思うんです」


 あたしの言葉にナタリーは眉根を寄せる。


 彼女にとっては面白くない話になるかも知れないな。


 ただ、ここで指摘はしておきたい。


「責任か……。でも技術は技術よね?」


「ええ。――でもその言葉が成り立つなら、『武器は武器』とか「薬は薬」とか成り立つじゃないですか。技術に責任が無いというなら、“武器には責任は無い”が成り立つし、“毒薬には責任が無い”も成り立ちます」


 傍らで黙って聞いていたキャリルが頷く。


「極論をいえば、賊に殺された方の身内に『剣には責任が無い』と言って癒せるかという話になりますわね」


 またエラく血生臭い話が出てきたけれど、キャリルはあたしの言いたいことは通じたか。


「…………」


 ナタリーは腕組みして何やら考え込んでいるな。


「ナタリー先輩たちを完全に否定するつもりは無いんです。でも、呪いを使う者は魔法を使う者と同じように、剣と使う者と同じように、責任があるということは覚えておいて欲しいです」


「確かに、以前お会いしたナタリー先輩の『同胞』の皆さんは、責任について考えておられるかが不安になる態度でしたわね」


 あたしとキャリルの畳みかけるような言葉に、ナタリーは気落ちしたような表情を浮かべた。


「なかなか二人とも手厳しいわね。……でも、私はそういう問題提起はキライじゃないのよ。……そうね、気を付けるわ。それはそうと、機会があればあなた達と技術的な議論を重ねてみたくなってきたわ」


 彼女の言葉に、あたしとキャリルは顔を見合わせてから応える。


「わたくしもウィンも、魔法についてはそれほど得意ではありませんわよ」


「ええ。なんせあたしたち、まだ初等部一年生ですし」


 ナタリーはあたし達の言葉に表情を緩める。


「大丈夫よ二人とも。武術の魔力制御が出来ているから、直ぐに上達するわよ。――そろそろ私は行くわね。おもしろい話をありがとう」


 彼女はそう言ってその場を去ろうとするが、あたしはふと呪いの腕輪のことを思いつく。


「そうだ、ナタリー先輩、もし知っていたら教えてほしいんですが」


「あら、何かしら?」


「以前、教養科で呪いの腕輪が流行しそうになったじゃないですか? あの呪いというか、あの腕輪になにか心当たりはありますか?」


 あたしの問いにナタリーはまた腕組みして考え込む。


「…………」


「先輩?」


「ああ、ごめんなさい。私もあれは調べてみたけれど、心当たりが無かったのよ。同胞たちとも議論はしたけれど、彼らも作ったとは言っていなかったわ」


「それは間違いないですか?」


 調べてみたっていうのは、現物を手に取ってみたということなんだろうか。


 学院の方針的にはマズい気がするけれども。


「ええ、彼らが作ったのなら、まずは自慢から入ると思うけれど、何も言っていなかったわね。――他には何かあるかしら?」


 ここまでのところあたしのスキルでみても、ナタリーがウソを言っている感じはしなかった。


「いえ、大丈夫です。キャリルは大丈夫?」


「ええ」


 あたしとキャリルのやり取りにナタリーは微笑む。


「私はたまにここを使っているから、呪いのことで気になることがあれば声を掛けて頂戴。さっきも言ったけれど、付与技術としての可能性を感じているのよ」


「はあ……」


「それじゃあまた」


 そう言って彼女は手を振り、訓練スペースから離れて行った。


 離れて行く彼女が「武器は武器、か」とひとりで呟いていたのが、あたしの耳に残った。




 ナタリーが去った後にも【風壁(ウインドウォール)】を練習し、適当なところで切り上げてキャリルと二人で寮に戻った。


 いつもの如くアルラ姉さん達と一緒に夕食を食べたけれど、【風壁】の練習をしていた話をしたら次回は姉さん達も誘うように言われた。


 夕食の後は宿題を片付けてから日課のトレーニングを行い、読書をしてから寝た。


 翌日の朝、自室の扉がノックされて目が覚める。


 気配からキャリルだと分かるので、何とか布団から這い出して扉を開ける。


「おはようございますウィン」


「おはよう……きゃりる……」


「風紀委員会のみなさんと出かけますわよ。朝食は食べてから行きましょう」


「ちょうしょくは……そうね……たべて、行きましょうか」


 あたしはキャリルの言葉で、何とか意識を通常モードに移行させるのに成功させた。


 その後は身支度を整えて食堂で簡単な朝食を食べていると、ニッキーとアイリスとエリーが現れた。


 アイリスは目に見えてご機嫌な様子だ。


「おはようございます。……アイリス先輩、何か機嫌良さそうですね?」


「そう? デボラ先生との特訓に比べて、風紀委員会の下調べの方がまだ気楽だからかな」


「あー、そういうことですか」


 アイリスはニナの特別講義の後に、なにやらデボラとやり取りをしていた気がする。


 風紀委員会の活動を理由に逃げを打ったのか。


「ねえウィンちゃん、デボラ先生って誰かしら? アイリスちゃんに訊いてもはぐらかされるのよ」


 ニッキーが苦笑いを浮かべながらあたしに訊く。


 アイリスといえばニッキーの背後から、あたしに見えるように何やらウインクをしているな。


「ええと、そうですね……」


「精霊魔法の特別講義に参加していらっしゃる、宮廷魔法使いの方ですわね」


 空気を読まずにあっさりとキャリルがみんなにバラした。


 それを受けてエリーがつぶやく。


「んー……さっき気楽って言ってたにゃ。そのデボラ先生に確認するにゃ?」


「エリーちゃああんんん?!」


 何やらアイリスは涙目になっていた。


 食事の間アイリスはエリーの情に訴えるようにお願いしていたけれど、とりあえずデボラへと話が及ぶことは回避されたようだった。


 朝食を済ませたあたし達は揃って学院を出て、王都内の乗合い馬車を使って中央広場に向かい、待ち合わせ場所の商業ギルド前に向かった。


 あたし達が辿り着くとすでにカールとエルヴィスとジェイクが待っていて、直ぐに合流できた。


 みんなの顔を伺ってカールが口を開く。


「おはようみんな」


『おはようございます(ですの)(にゃ)』


「それじゃあこれから商業地区を散策してみるけれど、まずはそれぞれが自由に街を観察してみよう。その上で共通する課題みたいなものが見えたら、そこを掘り下げるというのはどうだろうか?」


 彼はみんなに問うけれど、特に異論も出なかった。


「それじゃあ散策を始めるが、気付いたことがあったり買い物などをしたくなったら一声かけて欲しい」


『はーい(ですの)(にゃ)』


 そうしてあたし達は商業地区を歩き始めたけれど、人出は多いかも知れないと感じる。


 時間帯によるものかたまたまなのかは分からないけれど、収穫祭ほどの人出ではない。


 けれど朝の早めの時間帯から、中央広場を目指して歩いてくる人の流れが多いようだ。


 中央広場から商業地区の中にある市場にみんなで向かうけれど、その間の人の流れもそれなりにある。


 ただ、パッと見る限りこの時間帯に歩いている人たちは、“おのぼりさん”的に困ったような様子は特に見られない。


 あるいは巡礼客がこの時間帯に魔神さまの聖地である中央広場に向かっているなら、前日までに王都に着いて中央広場の場所を確認した人が多いのだろうか。


 そんなことを思いながら、あたしはみんなと街を行く人の姿を観察しつつ歩いた。



挿絵(By みてみん)

ウィン イメージ画 (aipictors使用)




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