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08.変化する王都に触れる機会


 今年最初の風紀委員会の打合せで、リー先生からあたし達に重要な連絡事項があると言われた。


 フタを開けてみると王宮から出ている協力要請で、王都を訪ねる巡礼客たちをガイドするチームを作れというものだった。


 学生たちを主体とした協力チームの名は確定していて、『聖地案内人』と呼ぶのだという。


「まず具体的な協力チームですが、我が校を含めて王都にある四つの学校から生徒が参加します――」


 リー先生が説明したのは以下の内容だ。


 ・王立ルークスケイル記念学院 (我が校)、王都ブライアーズ学園、聖セデスルシス学園、王都ボーハーブレア学園の四校の生徒が参加。


 ・活動内容は商業地区を中心とした王都内の巡回で、魔神信仰の巡礼客の案内(ガイド)が主目的だが、学生の異文化コミュニケーション促進の意図もある。


 ・実施日は平日の放課後と闇曜日で、闇曜日は午前と午後にするか放課後に該当する時間のみにするかは調整中。


 ・四名以上の実習班を五つ、各校から二十名以上の生徒を参加させる。


 ・『聖地案内人』は一チームに実習班を二班含み、この班は他校の班同士とする。


 ・一チームには冒険者の格好をした衛兵が二名付き、一緒に巡回する。


 ・参加した生徒は実習班ごとに簡単な報告書を提出する。


「――という活動が計画されています。計画であるとか協力要請と言いましたが、これに付随して王国から少なくない予算の補助が示されています。各学校が参加するのは、ほぼ確定と考えていいでしょう」


『は~……』


 いきなり説明された話にあたしを含め、みんなも戸惑っている。


 それはそうだ、学生を使った放課後ボランティアの計画と言っていいだろうから。


 だが気になる点はある。


「リー先生、生徒の安全や、『簡単な報告書の提出』というのがキナ臭く感じるのですが?」


 あたしが手を挙げて指摘すると、リー先生は苦笑する。


「流石ですねウィンさん。いい指摘です。生徒の安全に関しては、『冒険者の格好をした衛兵』とは衛兵の詰め所で合流する計画ですので、なりすましなどは防げると考えます。また王宮の担当者の『独り言』として、生徒の警護に光竜騎士団の暗部のメンバーが関わるという話もありました」


「ずい分明け透けな独り言ですね?!」


 リー先生の説明にアイリスが呻く。


「んー……。四校で少なくとも二十人ずつで最低でも八十人にゃー。これを一チームが八人ずつで十チームで巡回にゃ? 衛兵さんが二十人で、暗部の人たちも仮に同じ数だったとして二十人にゃ?」


「なかなかすごい規模ですわね。ウィンが言う通り、キナ臭さを感じますわ」


 アイリスやエリーやキャリルの反応に頷きつつ、リー先生が告げる。


「確かに各校生徒が班ごとに作成する報告書は、『偵察の資料では無いか』と笑う声もありましたね。ボーハーブレアの先生だった気がしますが、それに対して王宮の担当者は曖昧に笑うだけでした」


「うっわー……、それってけっこう確信犯ですね」


「偵察とか、場合によっては諜報活動の資料になるかもだねぇ」


 ニッキーやエルヴィスが半ば呆れたような声を上げる。


 ただ似たようなことはあたしもミスティモントでやった記憶があるし、そういう実績を知っている王宮の文官などが計画した可能性はあるか。


「王宮側の意図はどうあれ、各校の生徒は変化する王都に触れる機会を得ます。各校の運営側は資金的なメリットもありますし、全体として妥当性がある計画と判断されました」


 リー先生はそう言ってあたし達を見渡すが、みんなも一応納得した表情を浮かべて頷いた。


「この『聖地案内人』活動は、安全面では王国からの支援が期待できます。加えてわたし達教師も、いつでも問題に対処できるような体制を構築しています。そこで風紀委員の皆さんには、学院生徒の不安を受け付ける窓口を引き続きお願いしたいと思っています。――そして何か起きたら、まずはわたしか他の先生方に報告をしてください」


『はい(ですの)(にゃ)!!』


 いきなりもたらされた話ではあるけれど、仕方がない面があるかなという気もする。


 王国としては、急激に変化する王都の情報を把握するための手段を得たかったはずだ。


 それに学生たちを巻き込んだことはどうかと思うけれど、情報収集のための戦略としては間違っていない気がした。




 リー先生からの連絡の後はみんなからの個別の連絡になった。


「それでは僕から個別の報告をさせてもらう。今週に入って『諜報技術研究会』から呪いの腕輪に関する報告があった――」


 カールからの話では、諜報研が休み中に商業地区を中心に調査を行ったそうだ。


 その結果怪しい商人の露天を見つけたので、マークして尾行したという。


「尾行は成功したんですか?」


「いや、撒かれたそうだ」


 ジェイクの問いにカールは首を横に振る。


 諜報研のだれが尾行を行ったのかは気になるところだ。


 ウェスリーは普段の言動などはともかく、あれで気配の扱いが上手だ。


 フェリックスやパトリックは王国暗部の人間には届かないけれど、王都南ダンジョンでは魔獣に感知されずに自由に移動できる力量はあると思う。


「商人の顔とかは分からないにゃ?」


「そこは尾行した奴が覚えていた。ただ【素描(ドロウイング)】は使えなかったので、以前みんなで練習した【土操作(ソイルアート)】を教えた。土人形を作ることには成功したので、僕経由でリー先生に提出してある」


 カールの説明で、あたし達はリー先生に視線を向けた。


 先生は頷いて告げる。


「はい、確かに受け取っています。人形の精度も個人を特定できそうなレベルでしたし、そのまま王都の衛兵に通報してあります」


「リー先生、ありがとうございます」


「いいえ、こちらこそ」


「僕からの報告は以上だ」


 カールの報告に納得したみんなは、それぞれ自分の報告を行った。


 みんなからは特に新しい報告が無かったけれど、エリーが「学院とは直接関係無いけど、商業地区は巡礼客のお客さんが増えてるみたいにゃー」と言っていた。


 そしてあたしは先日のパメラとの模擬戦の報告をした。


 といってもこの中では、リー先生以外は全員が応援に来てくれていたのだけれど。


「わたしは見学に行きませんでしたが、その場にいた先生たちはウィンさんとパメラさんを両方褒めていましたよ。いい模擬戦だったようですね」


「ありがとうございます。満足できる結果になったと思います。あたしからは以上です」


 そうして風紀委員会の週次の打合せは終了した。


 だが解散する前にリー先生があたしに質問をする。


「ところでウィンさん。筋肉競争部の生徒から聞いているのですが、あなたは『筋肉が多すぎる人は苦手です』と発言したと聞いています。これは事実ですか……?」


 先生からはナゾのプレッシャーを感じる。


「ええと、事実です」


「なるほど、分かりました。そうであるならば、『苦手は学生のうちに克服すべきだ』とは思いませんか?」


 そう言ってリー先生はナゾのプレッシャーを強める。


 ヘビに睨まれたカエルの気分だ。


 みんなは固唾をのんであたしと先生のやり取りを伺っている。


 何とかしてほしいんだが、みんなに視線を向けるとキャリルを含めて視線を向けた人はサッと視線を逸らした。


 これは逃げられないのだろうか。


 だがあたしは、パメラとの一件で正面突破の重要性を学んだはずだ。


「苦手な内容によるとあたしは考えています。そして筋肉はあたしにとっては優先度が低いんです」


 あたしの言葉に、リー先生はひどくガッカリしたような表情を浮かべた。


「そういうことなら今は納得しましょう。ですが、優先度が高まったときにはいつでも相談に乗りますので、安心してくださいね?」


「…………」


 あたしはここで「はい」と応えるべきなんだろうか。


「安心してくださいね?!」


 リー先生はプレッシャーに加えてナゾの笑みを浮かべて問う。


 というかこわい。


「そ、そういうことになったときには、相談させて頂きますね」


 あたしが返答を何とかひねり出すと、リー先生はニコニコと笑顔を浮かべて頷いた。


 あたしはそれを見てから、ポケットから取り出したハンカチでイヤな汗をぬぐった。




 打合せも終わったので解散する段になって、カールが『聖地案内人』のための下見をしてみないかと言い出した。


 年末年始の休みが終わってまだ一週間過ぎていないけれど、リー先生からの話を聞いた後では街歩きで普段とは別の印象を抱く可能性はあるか。


「あたしは賛成です。いつ行きますか?」


「僕は明日の闇曜日なら都合がつく。ウィン君以外のみんなはどうだろうか?」


 カールが問うがみんなも気になっていたようで、けっきょく全員で王都の商業地区を散策することになった。


 それを見ていたリー先生が、あたし達に問う。


「そういうことでしたら、より実地に近い形になるように王宮に相談しますか?」


「いえ、本格実施前の試行は、別途行った方がいいと思います。僕たちはそれ以前の雰囲気を把握しておいた方がいいでしょう。――みんなはどうだろう?」


『賛成 (ですの)(にゃー)』


「分かりました。何か気付いたことがあったら教えてくださいね」


 リー先生の言葉にあたし達は頷いた。



挿絵(By みてみん)

カール イメージ画 (aipictors使用)




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