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07.何としてでも背中を押そう


 一夜明けて今週も光曜日になったけれど、今日を乗り切れば明日は休みだ。


 そう思っていつものようにクラスに向かい、午前中の授業を受ける。


 今日は『魔神の加護』を得てから最初の魔法の実習の授業があった。


 みんなで魔法の実習室に移動して授業が始まったのだけれど、今回は最初に教科担当の男の先生から話があった。


「それでは今日も魔法の実習の授業を始める。だが、みんなも知っての通りこの年末年始で王国を中心として魔法学習の環境が大きく変化した――」


 先生が話したのは『魔神の加護』のことだった。


 新聞などで今日までに公けにされている『魔神の加護』の効果の話をした後、王宮から先日情報提供があったことを説明した。


「要点を先に言うと、教会での祈祷のように口に出して魔神様に祈りを捧げることで加護を得られやすくなる。加えて、すでに心の中で祈って加護を得た者でも、祈りの言葉を捧げることで加護の効果が大きくなるという二点だ!」


『おお~!』


 クラスのみんなからどよめきが上がる。


 意外と知らなかった子がいたようだな。


「静かに! この二つを試すので、『すでに口に出して魔神様に祈った生徒』と、『祈るのを今から試したい生徒』で別れて欲しい」


 先生が告げると、数名の生徒が魔神さまへの祈りを試す方に分かれた。


「よし、それでは『すでに祈った生徒』は、前回までの授業で取り組んでいた課題を行っていて欲しい」


『はい』


 そうしてあたし達はそれぞれの課題に取り組んだ。


 あたしの課題は相変わらず【治癒(キュア)】の発動を使ったトレーニングだ。


 といっても魔法を発動しきる訳ではなく、【治癒】を発動するイメージで内在魔力を集中させて、詠唱すれば発動する状態にする。


 そしてその状態を安定的に保つというトレーニングだった。


 カンタンにいえば【治癒】を掛ける直前でストップして、その状態をキープするということだ。


 以前、魔法の実習の副担当の先生から聞いた話では、武術における任意の属性魔力を身体や武器に纏わせる技術に近いという。


 でも決定的に違うのはその要求される魔力制御の質だ。


 武術の場合はあたしが良く使うのは風や地の属性魔力で、個別の魔法まではイメージしない。


 でも無詠唱のこの段階のトレーニングでは、個別の魔法のための魔力をキープする必要がある。


 あたしは本当は風属性魔法が得意だ。


 でも魔法の実習で【治癒】を使うことにしたのは、【治癒】を上達させたかったからだ。


 結果的には確かに【治癒】が上達したけれど、【風操作(ウインドアート)】でトレーニングを進めておけばもっと授業がラクだった気もする。


 その点だけはあたしのポリシーからすれば、反省点かも知れないと思う。




 教科担当の先生が監督して、クラスのみんなが『魔神の加護』を得た。


 今回加護を得た生徒や効果を伸ばした生徒が騒ぐ中、先生が声を上げる。


「よし、これでようやく全員がスタートラインに立てた。いいか、良く聞いてほしい。『魔神の加護』は魔法を学ぶことが前提の加護だ。だから加護を頂いて安心したり、その効果の大きさで他人に自慢して満足する奴は、すぐに置いて行かれる!」


 そう言って先生はあたし達を見渡すけれど、その目には何としてでも背中を押そうという気迫が感じられた。


「大事なことだからもう一度言う。今この瞬間がスタートラインだ! 魔法は練習しなければ上達しない! それをみんなには忘れないでほしい!!」


『はい!』


「よろしい。それでは実習の続きと行きたいところだが、その前に説明をしなければならない。本来は魔法学基礎の授業で話す内容なので説明を省いていたが、無詠唱の習得のためのトレーニングについて、その各段階の話をしておく。いずれ魔法学基礎で学ぶ内容なので書きとる必要は無いが、気になる者は手元にメモしてくれ――」


 各段階のことを話すのは、あらかじめ知ることで課題を達成できたかを判断する助けとするためとのことだった。


 『魔神の加護』のせいで、指導のタイミングがズレることが予想されるそうだ。


 そのズレを先生たちがチェックしやすくするため、大まかな話をするらしい。


「学院で教える無詠唱の実習は、五つの段階に分かれている――」


 先生の話を箇条書きすると以下の段階になる。


 ・第一段階:魔法のオンオフや、(ギアではなく無段階のような)滑らかな魔法の威力の制御などの、基本的制御技術の習得。


 ・第二段階:(武術ではなく)発動させる魔法の、属性魔力の保持の技術の習得。


 ・第三段階:内在魔力による魔法の、魔力波形の感覚的把握。魔法の属性が分かるレベルを目安とする。


 ・第四段階:内在魔力による魔法の、魔力波長の感覚的把握。個別の魔法が分かるレベルを目安とする。


 ・第五段階:使用者の意志の働きによる、魔力波長制御を主体とした魔法発動プロセスの制御。


「――以上だ。これまでは魔法科初等部の三年間を使って五つ目の段階まで進めれば優秀な成績となっていたが、今後もそれは変わらないことは最初に伝えておく」


 これまでの魔法の実習と評価基準が変わらないのか。


 『魔神の加護』によるトレーニング効率アップがあるなら、実習の授業はラクが出来るということだろうか。


 それはあたし的にはウエルカムな情報である。


 ところが――


「それでだ、『魔神の加護』によって早めに無詠唱を習得した生徒には、魔法構造の可視化技術に挑んでもらうことになっている! これを覚えられたらどこの国に行っても食いっぱぐれが無くなる技術だ! 先生としては頑張って挑むことを勧める!!」


『おお~』


 みんなはどよめいたけれど、ニナが挑んで苦戦している技術なんだよな。


 簡単にいえば『自分が見た魔法を、見ただけで習得できるようになる技術』らしいけれど、応用的な使い方もあるようだ。


 食いっぱぐれが無くなるという言葉は中々のパワーワードではあるけれど、あたし的にはそこまで惹かれないんだよな。


「まあ、可視化技術の方も第五段階まであるので、楽しみにしていて欲しい」


『おお~……』


 あ、みんなのテンションが少し下がったぞ。


「それでまだ言っていなかったかも知れないが、いい機会だから伝えておこう。知っている生徒もいるかも知れんが、初等部の魔法の実習の授業は、三年間の加点式だ!」


 教科担当の先生の声で、みんなのテンションが少し上がったような気がする。


「学期末試験の成績とは別に、課題を達成した分だけ加点されるし、それを次の学年に持ち越すことが出来る。ぜひ毎回の授業の時間を大切にしてほしい!」


『はい!!』


 それを最初に言えばいいのにと思いつつ、あたしはこぶしを握りしめた。




 午前中の授業と昼休みと午後の授業も終わり、放課後になった。


 週次の打合せに出るために、あたしはキャリルと共に風紀委員会室に向かった。


 委員会室にはすでにニッキーとエリーが居て、あたし達は挨拶をして他のみんなを待つ。


 そしてリー先生と風紀委員会の全員が揃ったところで打合せが始まった。


「皆さんが揃いましたので、これより今年初めの風紀委員会の週次の打合せを始めさせて頂きます。皆さん、こんにちは」


『こんにちは(ですの)(にゃー)』


「年明け早々、重要な連絡事項がありますが、先ずはその前に注意事項からお話します――」


 リー先生が最初に持ち出したのは『魔神の加護』の影響の話で、生徒たちの中には今まで以上に問題となる行動を起こす生徒が出る可能性があるというものだった。


 そしてその場合は自分だけで解決しようとせず、先生たちや先輩に連絡を入れて相談してほしいとのことだった。


「風紀委員会に所属しているとはいえ、問題を学院に連絡するだけでも十分な場合もあります。それを覚えておいてくださいね」


『はい(ですの)(にゃ)』


 みんなの返事を確認したところで、リー先生は少し真面目な表情を浮かべる。


「それでは重要な連絡事項を。これから伝えるお話は、学院の生徒の中では皆さん以外では、生徒会の方たち以外にはまだ伝えられていないお話です――」


 そう前置きしてからリー先生が告げたのは、王宮から王都にある四つの学校の生徒への協力要請だった。


「先日の『魔神騒乱』を経て、王都ディンルークは魔神様の聖地となりました。これにより今後、王都は多くの巡礼客を迎えることになります。その巡礼客たちをガイドする役目を、学生たちを主体とした協力チームに任せたいと王宮は考えています」


「それは学生たちだけでチームを組むということですか?」


 ここで委員長のカールが手を挙げて、リー先生に訊いた。


 彼が質問したということは事前の打ち合わせも無く、まさに今進行中の新しい話だと分かる。


「いいえ。もう少し、具体的な話をします。あくまでも計画段階の内容を含んでいますので、お伝えする内容から変更があるかも知れません。まず、協力チームの名称を『聖地案内人』と呼ぶことが確定しています」


『聖地案内人 (ですの)(にゃ)?』


 みんなの戸惑う声に頷き、リー先生は説明を続けた。



挿絵(By みてみん)

エリー イメージ画 (aipictors使用)




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