06.この世界に隠された遺跡を
ライゾウはマルゴーに史跡研究会を設立した経緯を話した。
自身の故郷に外から流れてきた者の伝承があり、古い歌が残っていた。
彼らがどこから流れてきたのか不明だが、マホロバで主流の分析はプロシリア共和国南部のネコ獣人の巨石文明となっている。
それに対し、伝承の内容からディンラント王国の王都ディンルークが怪しいと睨んだライゾウは、王立ルークスケイル記念学院に留学し研究会を設立して調査を行うことにした。
足を使って調査を行っていたところ、ニナの協力が得られてカギとなりそうな地点を見付けることに成功する。
そういった事を説明した。
「――ここまでが現在までの話です。ですが問題があり、仮に古代遺跡に繋がる入り口を開くことに成功しても、そこから魔獣などが溢れるリスクがあると聞いているんです」
ライゾウはマルゴーの表情をうかがう。
彼女は終始上機嫌で話を聞いていたが、リスクの話を聞いて少し考えてから告げる。
「確かにそういう話なら、開けたとたんに何かが飛び出してくるのは想定しとくべきだねえ。ワタシは遺跡探索はどちらかといえば専門じゃ無いが、同業者には詳しい奴もいるしそいつらのグチはウンザリするほど聞いててね」
「愚痴ですか……」
「そうだ。その内容からすればライゾウ、お前さんのマトはスタンピードクラスの魔獣の流出を想定してもいいだろうさ」
マルゴーの言葉にライゾウは頷く。
「それは別の人からも言われています。ウィンの伝手で、冒険者ギルドの相談役のデイブさんと知り合ったんですが、まさにそういう話を聞いているんです」
「ハッ、デイブならそういうだろうさ。なるほど、もう月輪旅団も噛んでるってか?」
そう言ってマルゴーはあたしに歯を見せて笑う。
いや、たぶん勘違いしてるなコレは。
「旅団は表立って関わって無いわマルゴーさん。ソーン商会を案内したときにちょっとそういう話になったのよ。デイブに伝わったのは偶然の部分が大きいのよ」
「ふーん、なるほど。でもまあ、デイブが知った話なら、ヤバそうなら手を打つと思うよ」
「それはそうね。否定しないわ」
「それで、そのあとどうなったんだい? なかなか面白くなってきたじゃないか」
そう言ってマルゴーは視線をライゾウに戻した。
「はい。それで、そこまでの情報をうちの部の顧問であるマーヴィン学長先生に報告したら、王宮に相談するという話になったのが先月までの話です」
「はー……、王宮が話に出てくるってか? いよいよ本格的じゃないか。まったく昨年末には魔神の聖地になったし、これで古代遺跡でも見つかった日には、ディンルークは外からの客で溢れるだろうねえ」
マルゴーは気楽な口調で微笑みながら告げるけれど、ふと視線を移せばレノックス様が自分のこめかみを押さえている。
じっさい王都への客で溢れたら、色んな問題が起こりそうなんだよな。
「でもおb――マルゴー姉さん、王都への訪問客が増えたら、最終的には王都に落ちるお金が増えるってことなんじゃないのかい?」
「まあ、確かにそれはその通りだ。うちの店の子たちもてんてこ舞いになるのは目に見えてるけど、その分リターンも大きいね」
エルヴィスの言葉にマルゴーが頷く。
そうか、花街とか稼ぎ時というかバブルに突入するわけだな。
あたしは可能な限り全力で関わらないようにしよう。
「それで話の続きなんですが、王宮も巻き込んだ古代遺跡の入り口候補の調査を行うことになりました。予定では今月の後半に、行うことになっています」
「入り口候補か……、場所がどこかは教えてもらえるのかい?」
「済みません、それは言えないんです」
「ふーん……、王都の中か外かは教えてもらえないかい?」
「それは……」
ライゾウがマルゴーに言いよどむと、レノックス様が口を開く。
「それについては、王都を囲む壁の内側だということは言える」
「ええと……、あんたは?」
マルゴーとしては何気ない感じでレノックス様に訊いた。
そしてそれをすぐに後悔することになる。
「オレはレノ・ウォードという。エルヴィス先輩にはいつも世話になっている」
その一言でマルゴーは表情が固まるが、すぐに居住まいを正して口角を上げ席から立つ。
自然な所作で、美しい立ち姿だ。
「初めまして、マルゴー・メイと申します。平素、不肖の弟子にして我が甥がご高配を賜り光栄に存じます」
そう告げてマルゴーはレノックス様にカーテシーをしてみせた。
普段レノックス様は偽名とか言ってるけど、やっぱりすぐ気が付くよね。
マルゴーの反応に困ったような顔を浮かべてレノックス様は応える。
「済まない、ここでのオレはエルヴィス先輩の後輩にあたるレノなのだ。そうして貰わんと諸々の事情により困るので、あなたが普段話す時のように呼んで欲しいマルゴー殿」
「承知しました――――分かったよレノ。それならワタシもマルゴーさんと、ウィンが呼ぶように呼んでくれりゃあいいよ」
そう言ってマルゴーは微笑んだ。
ライゾウ達の話を聞いていたディアーナが、あたしの傍らで声を上げる。
「あの、ライゾウさんが言った入り口候補の調査ですが、わたしも参加したいです!」
その声にエルヴィスとマルゴーが固まってしまった。
そしてライゾウがディアーナに告げる。
「いまのおれの話を聞いていたなら、かなり危険なことは分かるな? 恐らくそれまでにきみは転入しているだろうし、ヘタなところにいるよりは学院内にいた方が安全だぞ?」
「はい。それでもわたしは、魔神さまに誓ったのです」
「魔神さま? なにをだ?」
「いずれ、この世界に隠された遺跡を訪ねる旅に出ると」
「旅か……」
ディアーナの言葉にライゾウはどう応えたものか言葉を探し、エルヴィスは頭を抱え、マルゴーは口を開く。
「ディアーナ、それは魔神さまの望むことなのかい?」
マルゴーとしては半ば比喩的な意味で問うた言葉だったが、ディアーナは蕩けるような笑みを浮かべつつ応える。
「間違いなく望むことなの、マルゴー姉さん」
ディアーナの目を見てマルゴーは溜息をつき室内には沈黙が満ちたが、それを破ったのもマルゴーだった。
「分かった、そういうことならワタシもディアーナの背を押そう。多分、もともとエルヴィスも参加する話がこの後出る予定だったんだろライゾウ?」
「ええ、その話をするつもりでした。保護者と聞きましたから」
「なら丁度いい、エルヴィスの尻を蹴飛ばしながら、ディアーナが特等席で遺跡調査を見るのを手伝うよ」
「マルゴー叔母さん! それはこころづよいぶほわっ」
「マルゴー姉さんだ!!」
瞬間移動したような高速移動に伴いマルゴーは、巻き込んでえぐり上げるようなパンチをエルヴィスの頬に叩き込んでいた。
あたし達は床に転がって悶絶しているエルヴィスを伺ったが、サラがそっと席を立って彼に【治癒】を掛けていた。なーむー。
そのあとレノックス様からの話で、現時点での予定としては再来週、一月第四週六日目の闇曜日に調査を行うという話があった。
「スタンピードなどは最悪の場合だ。そもそも調査がカラ振りで振出しに戻る可能性もあるんだ。あまり気負わないでほしい」
「しかしライゾウよ、妾の見立てでは今回の調査予定地点はなかなかいい感じと思うのじゃ」
「まあ、おれの勘でも何かありそうな気はするよ――」
そのあとみんなで王国内にある遺跡の話になり、コウがみんなにハーブティーを淹れて配ってくれた。
しばらく話をしたけれど、ディアーナは転入後に史跡研究会にも入ると宣言し、それを聞いたエルヴィスが終始ニコニコしていた。
夕方になってみんなで史跡研究会の部室を出て玄関で解散した。
「それじゃあみなさん、来週からよろしくお願いします」
『よろしくお願いします (ですの)(なのじゃ)』
ディアーナとマルゴーは学院の附属病院の車寄せから馬車で王宮に移動するというので、エルヴィスが見送りに同行した。
あたし達はディアーナたちを部活棟の前で見送って、その場のみんなはそれぞれ女子と男子の寮に歩いて戻った。
寮に戻ってからはいつものように姉さん達と夕食を取り、自室に戻って宿題を済ませた。
そして日課のトレーニングをしようかと思ったけれど、今日はパメラとの模擬戦もあったし軽めにしておこうと考える。
だがそこで、模擬戦が終わった後に自分のステータスの情報を確認していなかったことを思い出し、良く見てみることにした。
「ふむ……、パメラが称号を得たって言ってたから心配してたけど、あたしは称号には変化が無いわね」
現時点でのステータスは以下のようになっていた。
【状態】
名前: ウィン・ヒースアイル
種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)
年齢: 10
役割: 影究
耐久: 90
魔力: 390
力 : 90
知恵: 290
器用: 350
敏捷: 400
運 : 50
称号:
八重睡蓮
斬撃の乙女
諸人の剣 (仮)
悪魔刺し(仮)
撲殺君殺し(仮)
モフの巫女 (仮)
加護:
豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、魔神の加護、
薬神の巫女
スキル:
体術、短剣術、斧術、弓術、罠術、二刀流、分析、身体強化、反射速度強化、思考加速、影拍子、影縛居、影朔羅、専心毀斬、隠形、環境把握、魔力追駆、偽装、獣洞察、毒耐性、環境魔力制御、周天、無我、練神、風水流転
戦闘技法:
月転流
白梟流
固有スキル:
計算、瞬間記憶、並列思考、予感
魔法:
生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態、複写)
創造魔法(魔力検知、鑑定、従僕召出)
火魔法(熱感知)
水魔法(解毒、治癒)
地魔法(土操作、土感知、石つぶて、分離、回復)
風魔法(風操作、風感知、風の刃、風の盾、風のやまびこ、巻層の眼、振動圏)
時魔法(加速、減速、減衰、符号演算、符号遡行、純量制御)
まず、ステータスの値が伸びて、とうとう敏捷が四百に到達してしまった。
嬉しいかどうかでいえば嬉しいんだけど、凄くいびつなステータス値だよなと思う。
たしか四百って達人クラスのステータス値だった気がするんだけど、ここまで上がっていいものなんだろうか。
それにもっと気になることもある。
「運が上がる気配が無いけど、どうしたらいいんだろうこれ……」
思わず呟くけれど、本格的に誰かに相談した方がいい気もするな。
それはまた考えよう。
“役割”では影究というものを覚えた。
その関係で『影朔羅』というスキルを覚えているけれど、意識を集中して効果の確認を進める。
「ふむ、“対象の影への行為が本体に通る”か……」
『対象』としか情報が無いけど、敵や味方や生物無生物の指定が無いんだよな。
というか、『行為』っていうのも曖昧だな。
「攻撃は思いつくし、もしかしたら回復も試せるかもしれないけど『行為』か……。念話……はダメだよね、そもそもふだん念話を使えないし」
そこまで考えてあたしは何となく思いつく。
「まさか念話はダメでも、影越しに会話は出来るのかな……。うーん謎だ」
謎といえば戦闘系の“役割”は上がっているけど、魔法というか始原魔力関連の“役割”は止まったままだし、時魔法使いも伸びて無いんだよな。
職人が使うような“役割”とかもあったら覚えたいし、どこから手を付けたらいいんだろう。
たぶんどこかの某本体に相談しても、そんなの好きにしなさいよとか言われて終わりそうな気がする。
いや、好きにするんだけどさ。
そこまで考えたけれど、あたしはとにかくステータスのことを保留して、日課のトレーニングを軽めにやっつけた。
そのあとは【洗浄】の魔法じゃなくて、共用のシャワーを使って身体を温めて早めに寝た。
ライゾウ イメージ画 (aipictors使用)
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