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01.友だちなんですか


 一夜明けて一月第二週の四日目――風曜日になった。


 いつも通りに起き出して朝食を済ませ、クラスに向かい午前の授業を受ける。


 お昼休みになって実習班のメンバーと食堂に向かう。


 そしていつものようにみんなで昼食を取っている時に、エルヴィスとコウが現れた。


 この二人が気配を隠すでもなく現れたことで、あたし達の周囲が――おもに女子生徒だけれども――騒ぎ始めた。


「やあウィンちゃん。昼食のときに済まないね」


「ウィン、大丈夫だとは思ったけれど、応援したくてね」


「どうしたんですか二人とも、珍しいですね?」


 あたしは天丼を食べる手を止めて二人に応えた。


 すると何を考えたかエルヴィスは腰をかがめてあたしに顔を寄せる。


 周囲の女子生徒からは声にならない悲鳴のようなものが聞こえつつ、あたしには殺気のこもった視線が送られてきた。


「エルヴィス先輩、あたしは先輩のファンを敵に回したく無いんですけれど」


「大丈夫さ、あとでみんなには『風紀委員会の後輩の味方をしていた』ってきちんと説明するから」


 みんなって誰のことなんだろう。


 エルヴィスはあたしの疑問もお構いなしに、ふと見渡して目が合った女子生徒にウインクをしてみせると、周囲の女子から「キャー」という黄色い声が上がった。


「今日キミと模擬戦をするパメラだけれど、魔道具を二種類入手した情報が飛び込んで来た」


 それは少しだけ気になる情報だ。


「どんな魔道具なんです?」


「一つは片目に装着する魔道具で、外見は包帯みたいになっている黒い布だ。表面には紋様が描かれていて、片目を閉じた状態で目が隠れるように頭に巻くらしい」


「それは、……もしかして視覚補助の魔道具ですか? 武術研の先輩たちがその可能性を言ってたんです」


 あたしの向かいの席に座ったジューンが、ベーコンとほうれん草のクリームソースパスタを食べる手を止める。


 彼女は「カッコいい魔道具です……!」と告げて、恍惚(こうこつ)とした表情をしているな。


 ジューンが体術の授業とかに付けて来なければいいんだけど。


「さすが、ご明察だね。魔力の動きを視覚情報に統合する魔道具らしい。気配の遮断くらいでは察知するそうだよ。なんせ石とか建築物に宿る魔力まで感知して、眼球が無い人でも視覚情報を補えるみたいなんだ」


 それは戦い方で何とかなるかも知れないな。


 熱感知とかだと対処を考えるのが少し面倒だったけれども。


 眼球が無くてもこの世界なら魔法で復元できるから、冒険者の非常用の魔道具なのかも知れないな。




「分かりました。とても参考になります」


「うん。そしてもうひとつは魔力を補助する魔道具で、外見はチョーカーの形をしているそうなんだ」


 その情報にもジューンが反応して何やらツボにハマったのか、恍惚とした顔でプルプルしている。


「それも武術研の先輩が想定してました。継戦能力を補助する作戦を採るんじゃないかって言ってましたね」


「継戦能力の補助かもしれないけれど、パメラはリベルイテル流槍術(そうじゅつ)の使い手だ。あの流派の絶技で一気に勝負をかけてくるかもしれない」


「絶技? どんな技なんですか?」


 あたしの問いにエルヴィスは少し考えてから告げる。


「名前は『絶技・万雷極(ばんらいごく)』だ。要するに魔力で形成した複数の槍を一斉に投げる技で、流派の認定条件は“一投で十本以上狙って投げられること”だったと思う」


「魔力の槍の飽和攻撃って感じですね」


「パメラは認定条件を満たしていないし、彼女は性格的に手堅いから勝負事で賭けのようなことは避けると思う。それでも頭に入れておいて欲しい」


「分かりました。ありがとうございます」


 エルヴィスはその他に、槍に魔力の紐を付けておき、投げた後にすぐに回収する技があることも教えてくれた。


「エルヴィス先輩は詳しいんですね?」


「まあね。彼女の槍の練習相手をした事があるからさ」


「もしかしてパメラ先輩は友だちなんですか? それなら先輩は向こうの味方をした方がいいと思うんですけど」


 あたしの言葉にはエルヴィスは微笑んで首を横に振る。


「ウィンちゃんにはディアーナのことで大きな恩が出来た。君のピンチには力になると誓っている」


 そう告げてからエルヴィスは立ち上がり、握りしめた右拳をあたしに差し出した。


「今はピンチでも無いですけど、気持ちは頂いておきます」


 そう応えつつあたしがグータッチをすると、コウも同じようにしてきたので彼ともグータッチした。


 彼らとグータッチするときにまた周囲の女子の殺気が膨れ上がるかと思ったけれど、そうはならなかった。


 画的に後輩や友を戦いに送り出す仲間みたいになっていたのだろうか。


 その後二人は手を振ってあたし達の席から離れて行った。


「ふむ、魔力を検知して視覚情報に変換し、眼球の有無にかかわらず意識に直接送り込む魔道具のう……。今日の模擬戦では魔道具の使用は問題無いのじゃな?」


 ニナが白身魚のホワイトソースグラタンを食べながら問う。


 何か気がかりなことでもあるのだろうか。


「生徒会が取り仕切る模擬戦やったら、魔道具は禁止してへんとおもうで」


 トマトとチーズのリゾットを食べつつサラが応えるけれど、以前彼女への告白騒動があったし、調べたことでもあるのだろうか。


「ウィンなら少々の小細工は問題無いでしょう。わたくしの全力全開でのスパーリングをこなせるのです」


 そう言ってキャリルはキノコのクリームソースが乗ったチキンソテーを食べる。


「魔道具の方は気になる点が無いわけでもないが、ふむ。まあいいのじゃ。それよりもキャリルの全力全開をのう……」


 ニナはキャリルが雷霆流(サンダーストーム)雷陣(らいじん)を使えるのを察しているので、何やら頷いている。


 そこにどこかからのトリップから帰還したジューンが告げた。


「いっそ両目を覆う、真っ黒い包帯型の魔道具とかいいかも知れませんね。魔力を通すと赤い紋様が出てくるとかにすれば雰囲気が出るでしょうし」


 何の雰囲気だジューンよ。


 どうやら彼女はまだトリップ中だったようだ。




 午後の授業を受けて放課後になり、あたしは武術研の部室に寄って戦闘服に着替えてから模擬戦の会場に向かった。


 実習班のみんなは応援すると言ってくれていたけれど、すでに部活用の屋外訓練場の入り口で待っていてくれた。


 声を掛けてくれるみんなに応えつつ視線を屋外訓練場に向けると、建築研究会が用意した階段状の観覧席にはすでに生徒たちが集まって来ている。


 そして観覧席の前には生徒会副会長のローリーと、彼から少し距離を取った位置にパメラ達の一団があたしを待っていた。


「みんな野次馬根性にあふれてるわね」


 あたしが少々呆れたような口調で告げるとキャリルがそれを笑う。


「何なら今からわたくしが代理で参加しましょうかウィン?」


「そうしてもらおうかしら――っていつもなら言ったかもしれないけれど、今回に関してはパメラ先輩の気持ちを受け止めてみたいの」


「そうですわね。それはいい覚悟だと思いますわ」


 そう言ってキャリルが右拳を出すのであたしは彼女とグータッチをした。


 実習班のみんなともそのあとグータッチをして、一緒に観覧席の方にあたしは移動する。


 ローリーに歩み寄るとあたしに視線を向けて口を開いた。


「こんにちはウィンさん。準備は大丈夫かい?」


「あまり気乗りはしませんが、準備は出来ています。」


 そう言ってから息を吐くとローリーは微笑む。


「それでも君が来てくれたことに感謝するよ」


「不戦敗になって、あたしが土壇場で逃げる奴だと言われたらイヤなんです」


「うん、いい判断だと思う。逃げる位なら代理を立てた方がいいと思うし」


「代理を立てる位なら自分で戦いますよ」


「分かった。開始予定時刻までもう少し待って欲しい」


 あたしが頷くと、ローリーは観覧席の方にいた武術研の先輩たちと話をしに行った。


 その間に【収納(ストレージ)】から刃引きした短剣と手斧を取り出して身に着ける。


 今回あたしは半ばパメラに押し切られる形で模擬戦を受けている。


 彼女はヘレンの好みがどうこう言っているけれど、要するに言いがかりだ。


 今回仮に言いがかりであることを理由にスパっと模擬戦を断ったとしても、パメラは別のネタであたしに絡んでくるような予感がする。


 その理由までは分からないけれど、ヘレンにわざわざ好き勝手なことを言っていた時点で想像できることはある。


 パメラにとってあたしが邪魔であるか、そうでなければ嫉妬を抱いているのではないだろうか。


 正直面倒なのでかんべんして欲しいけれど、今回の模擬戦で彼女の相手をすることで、お互いにとって何かが分かればいいと思っている。


「それでは予定していた時間になりました。これよりパメラ・レイエス・ヘンダーソンさんと、ウィン・ヒースアイルさんの模擬戦を始めます。パメラさんとウィンさん、そして代理人が居る場合はこちらに集まってください」


 拡声魔法を使って集合が促されたので、あたしは実習班のみんなと別れてローリーの元に向かった。



挿絵(By みてみん)

エルヴィス イメージ画 (aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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