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11.その答えを得るためには


 午後の授業を受けて放課後になった。


 あたしとキャリルは実習班のみんなと別れて高等部の職員室に向かった。


 昼間の闇鍋研のことを報告しつつ、彼らの学生証をリー先生に引き渡すためだ。


 リー先生は職員室に居たので報告を済ませた。


「――なるほど、魔獣食材ですか。着眼点自体は悪くなさそうですし、お目付け役の先生を付ければ別の公認サークルとして設立できるかもしれませんね」


「公認サークルですか?」


「生徒の暴走を防ぐために、ガイド役の先生を用意するんですのね」


「ええ。食材だけだと活動範囲が狭すぎますし、魔獣素材を研究するサークルなどいいかも知れませんね」


「闇鍋研究会として妙な料理を作るよりは、かなりマシに聞こえます。……確かにお目付け役の先生がいれば、けっこうまともになりそうですね」


 あたしとキャリルの反応にリー先生は苦笑いを浮かべる。


「問題行動を起こしそうな生徒を規則で縛って、頭ごなしに方向付けを行う学校も王都にはあります。ですが我が校の場合はそれではダメなんです。なぜだと思いますか?」


 ふむ、ここでいきなりクイズか。


 第一の目標としては自分で判断できる生徒を育てたいということだろうか。


 それはすぐ思い浮かぶ。


 なぜそれを目標とするかは、それが学院の方針だからだろう。


 なぜそれが学院の方針なのかといえば、王国がそういう人材を求めているということだろうか。


「学院は王立の学校ですし、自分で自分の戦略を立てられる生徒を王国が求めているからですの?」


 キャリルの答えはあたしも賛同できる。


 その方が即戦力として卒業後も活躍しやすいだろうと思う。


 ただ、上からの指示を正確に実行できる人間もまた、王国には求められるだろう。


 その違いとは――


「ウィンさんはどう思いますか?」


「え? ……そうですね。キャリルの答えに同意しますが、その一方で素直に先生の指示に従う生徒も王国は欲しいと思うんです。そして両者のちがいでいえば、他人に指示を出せるということが学院生徒に求められてるってことですか?」


 あたしの言葉でリー先生は機嫌が良さそうに微笑む。


「いいですね。キャリルさんもウィンさんも、高等部では政治学を選択してくださいね?」


「「はあ……」」


 もしかしてあたしにしろキャリルにしろ、リー先生の前ということもあって、先走った回答をしてしまったんだろうか。


「それはさておき、我が校で頭ごなしに押さえつけないのは、勿論自分で考えられる生徒を育てたいからです。そして自分で考えられるということは、“自分で問いを立てられる”ということを含みます」


「問いを立てる、ですの?」


「ええ。様々な声はありますが、事実として我が校はディンラント王国を代表する学校です。学校は学ぶところであり、答えを知るところです。そして正しい答えを得るには、正しく問う必要があるんです」


 リー先生の言っていることは分かる。


 あたしのことでいえば、地球にあったような薬品に興味があって薬草薬品研究会に所属した。


 もちろんハーブティーが気に入ったこともあるけれども。


 でも薬薬研は薬学では無くて農学が活動の主体だった。


 この世界では医療における薬品は魔法薬がメインで、薬草による薬は民間療法という位置づけだ。


 あたしが望んだ答えはこの世界で地球にあるような医薬品を扱う(すべ)だけれど、その答えを得るためには正しく問う必要がある。


 どうすれば地球にあるような医薬品を扱えるのか、と。


「お話は分かりました」


「確かに、今回の闇鍋研究会のメンバーの行動で不適切な部分を理由に、彼らの関心や意欲まで抑え込むのはやり過ぎですわね」


「ええ、そういうことです。ですので彼らに関してはこちらで手を打っておきます」


「「はい」ですの」


 あたし達はそこまでリー先生と話をして、部活棟に向かった。


 道すがらキャリルにはパメラ先輩との模擬戦について準備が出来ているかを訊かれた。


「ドルフ部長やライナス先輩とも話したけれど、リベルイテル流槍術(そうじゅつ)を突きメインで使うみたいなの」


「そうなんですのね」


「うん。パメラ先輩の妹さんからの情報ね。何だか知らないけれど、妹さんが武術研に顔を出していたのよ。……ともあれ、パメラ先輩は『突きを多用するキャリル』ってイメージで考えているわ」


 あたしの言葉にキャリルは頷く。


 ヘレンが部長目当てということはとりあえず黙っておこう。


「そういう前提でしたら、いい判断だと思いますわ」


 自分の名が出たことに特に驚きもしなかったけれど、パメラ先輩とあたしの模擬戦が決まった段階であたしに助言するつもりだったのかも知れないな。


 なんせマブダチですから。


 あとは魔道具の利用を警戒していることを話したりして部活棟に着いた。


 キャリルは歴史研究会の部室に向かい、あたしは狩猟部の部室に向かった。


 狩猟部の部室で動ける格好に着替えたあと、あたしは部活用の屋外訓練場に移動した。




 リー先生のところに寄っていたからだろう、部活用の屋外訓練場では狩猟部のみんなが身体強化を行わない状態で合同練習を始めていた。


 あたしもみんなに挨拶をしながら練習に加わる。


 ふと視線を移せば屋外訓練場の一角では建築研究会だろう、観覧席らしきものを作り始めていた。


 たぶん明日のあたしとパメラの模擬戦用の観覧席だと思うと気が重くなったけれど、今はもう気にしないことにして弓矢を射ることに集中した。


 合同練習が終わると個別練習になったので、前回教わった属性魔力を弓矢に纏わせて射る千貫射(せんかんしゃ)の練習を復習した。


 途中で先輩にチェックしてもらうと大きな問題は無いと言われた。


 そして先輩は、このまま一分間に六本くらいのペースで早めに射ながら、一射ごとに四大属性を切り替えて千貫射を使うように言っていた。


「やっぱりウィンちゃんは覚えるのが速いわね。才能かって思ったけれど、良く考えれば他の武術を覚えているのよね」


「そうですね。魔力操作はそれなりに練習したので、何とかなっているんだと思います」


 あたしがそう応えると先輩は微笑んで、「あまり根を詰めないで楽しみながら練習してね」と言ってくれた。


 そこからあたしは黙々と弓矢を射て過ごした。


 練習が終わってみんなで挨拶をしてから解散になり、あたしはサラと一緒に部活棟に移動した。


 狩猟部の部室で着替えた後は、サラは食品研に向かうと言っていた。


 あたしは歴史研に行ってキャリルと合流するつもりだったので、サラとは狩猟部の部室で別れた。


 歴史研の部室を訪ねると部員の人たちは資料を読み込んだり、書き物をしたりして過ごしていた。


 キャリルもアルラ姉さんとロレッタ様と三人で同じテーブルに座って、何やら本を読んでいた。


「こんにちは、みんな何の本を読んでるの?」


『こんにちは(ですの)』


 アルラ姉さんは王国の歴史的事件を叙事詩のかたちでまとめた本を読んでいて、ロレッタ様は王都の発展に関する歴史の本を読んでいた。


 一方でキャリルはオルトラント公国の歴史の本を読んでいた。


「公国の公爵家に関する本を読んでおりますの」


「ふーん……。公国の元首って国王さまじゃなくて公爵さまで、複数ある公爵家から代が変わるときに選ばれるのよね?」


「ええ。ウィンも知っているでしょうけれど、公国は五大公爵家から元首を選び、公国内の貴族はその元首に仕える形をとっておりますわ」


「うん、さすがにそのくらいは知ってるわ。あとは経済規模や人口が、ディンラント王国の六割から七割の中規模の国で、五大公爵家はいずれもディンラント王家と古い縁戚関係にあるってことかしら」


 オルトラント公国はグライフやマクスやクルトの故郷だけれど、地球の記憶でいえばドイツやスイスや北欧諸国のイメージが何となく重なる気がする。


 魔道具による技術立国に成功した国で、この大陸でも存在感がある感じだと思う。


「わたくしが読んでいる本は、代々の公国の元首が選ばれる時の話をまとめた本ですの」


「へー。……結構血生臭いの?」


「各国の歴史ですと元首の代替わりなど政争の可能性が出てきますが、公国は『技術立国を支えうるか?』という点で総合的に判断する仕組みを作ったようですの。なかなか興味深いですわ」


「ふーん……。ところで資料に当たっていたところに申し訳ないけれど、この後シンディ様の課題を練習しない? あたし手のひらの上でのサイズしか練習してないのよ」


 あたしの言葉に、キャリルと姉さん達はこちらに視線を向ける。


「確かにそうよね。私もウィンと同じように手のひらの上で練習しているのよ。アルラもそうよね?」


「ええ。……フルサイズまでは行かなくても大きなサイズで練習をしておいた方がいいわね」


「わたくしもお婆様をがっかりさせたくはありませんわ」


 そう言って三人は手にしていた本を【収納(ストレージ)】に仕舞った。


 そしてあたしを含めた四人は、実習棟の魔法の実習室外にあるスペースに向かった。



挿絵(By みてみん)

リー イメージ画 (aipictors使用)




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