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09.取ってからがスタートライン


 あたしたちは初等部の職員室隣にある会議室に居た。


 三人で椅子に座っている。


 初めにエリーが職員室に行き、打合せに使いたいからと先生に使用許可を貰っていた。


「尾行をして済まなかったにゃ。アタシは魔法科初等部二年Bクラスのエリー・ロッシ

にゃ。よろしくにゃー」


「一年のキャリルです」


「一年のウィンです。ところで先輩、差別とかそういうのではないんですけど、語尾のにゃーというのは口癖ですか?」


「語尾は方言にゃ。アタシは父ちゃんがネコ獣人で出身が共和国の辺境にゃ。それで母ちゃんが王都出身のヒューマンにゃ。この語尾は父ちゃんにうつされたにゃー」


「そうなんですのね。勉強になりますの」


「それでスカウトのお話とか」


「そうにゃー。学院には風紀委員会という学生自治の組織があるにゃ。活動目的は生徒の風紀の監視と改善とトラブルの解消にゃ」


「その中に『予備風紀委員』という係があることは知っています。それでスカウトというのはこの係のことですか?」


「そのとおりにゃ。食堂でキャリルちゃんが気配を消してるのを見たにゃ。それで予備風紀委員に誘おうかと思ったにゃ」


 そこまで聞いて、あたしとキャリルは視線を合わせる。


「どうしたにゃ? やっぱり面倒かにゃー」


「いえ、そもそも今日魔法科の初等部一年の教室を見て回ったのは、あたしが予備風紀委員に誘われていたからなんです。現状がどんな感じなのかを見ておこうかと思って」


「わたくしはそのつきあいですわ」


「そうなんにゃ。んー……。ウィンちゃんはもう誰かにスカウトされたにゃ?」


「はい。リー先生に誘われて、一度現場の話を聞くことになって、今週後半に風紀委員会に行くことになってました」


「にゃー……。リー先生にゃー。道理で……あの隠形は見事だったにゃ」


「ありがとうございます」


「そういうことなら、委員会に来てもらって話を聞いてもらった方がいいにゃ。個人的にはキャリルちゃんも誘いたいにゃ」


「わたくしもですか?」


「話だけでもウィンちゃんと聞いてほしいにゃ」


「そうですわね……。わかりました、伺いますわ」


「キャリル、いいの?」


「別に構いませんわ。せっかくわたくしを誘って下さったんですもの。まずはお話を聞きましょう」


「……そういうことならいいか。じゃあエリー先輩、今週後半の放課後に行こうと思いますけど、何曜日がいいですか?」


「風曜日か光曜日なら放課後には誰かしら居るにゃ。来てくれるだけでも嬉しいにゃ!」


 そう言ってエリーは微笑んだ。




「風紀委員か。俺的に気になるのは三人いるな」


 同じ日の放課後、あたしはキャリルと武術研究会に出ていた。


「気になるっていうのは、どういう意味でですか?」


 今日もライナス先輩があたしたちを相手にしてくれた。


 あたしたちはキャリルのほかに前回同様コウとカリオが居る。


「もちろん、武術面での話だ。風紀委員と予備風紀委員は魔法科の生徒から通例で選ばれるようだが、学年に一名は居ることになっているな」


「そうなんですね」


「武術的に気になる三人って、どんな生徒なんだ先輩?」


 あたしとライナスの会話に横からカリオが入ってきた。


「基本的にみんな真面目でいい奴ばっかりだったはずだが、武術の側面でいえばまず委員長のカールだな。竜征流(ドラゴンビート)を習っている」


「あら、父上と同門ですのね。ということは……」


 そう言ってキャリルはあたしを見る。


「うん、あたしの父さんとも同門だね。大剣使いかな?」


「そうだな。あとは書記のエルヴィスだが、屹楢流(シェヌモンタン)を使う。……ちなみに彼はコウの兄貴分になれるかも知れないな」


 そう言ってライナスはコウをじとっとした目で見る。


「ボクですか? それはどういう意味でですか?」


「まあ、会えば分かる」


「ちなみに、屹楢流てどんな流派なんだ、先輩?」


 首を傾げるコウの横でカリオがライナスに問う。


「グレイブと蹴り技の流派で、フサルーナ王国が発祥だな」


「グレイブって、大型武器でしたわね」


「そうだ。槍のような柄に、先端が片刃の大きな刃が付いた武器だ。武術研にも誘ったんだがゴールボール部に入ってな。その理由が……まあいいか」


 日本でいう薙刀みたいなものだろうかと思う。


「あとの一人は昼間にキャリルとウィンが会ったという女子生徒だ。エリー・ロッシだな。彼女は蒼蛇流(セレストスネーク)を使う俺の同門で皆伝者だ。彼女も武術研に誘ったが、部活は料理研に入ったんだったか」


「先輩の同門ということは、“古式ディンルーク流体術”とも呼ばれる流派ってことですね。蒼蛇流は王都が発祥だから門下数が多いって言ってましたよね?」


 興味深そうな顔をしてコウがライナスに問う。


「古式じゃない方も含めると、コロシアムで定期的に大会が行われる程度には競技人口が多いと思う。だが皆伝に至る人間は本当に少なくて一握りだな。そういう意味ではエリーは俺よりも才能がある」


「先輩も皆伝を取ったって言ってましたよね?」


 ふと思い出してあたしが訊く。


「子どものころに始めて今年の春ころにようやくな。それでも俺などまだまだだ」


「武術の皆伝って目標であると同時に、取ってからがスタートラインみたいなところがありますよね」


 自戒を込めたようなライナスの言葉にコウが苦笑しながら告げると、キャリル以外の面々はあたしを含めてそろってため息をついた。


「ライナス先輩が注目される方々は分かりましたわ。各学年に一名ということは、他の方々はどんな生徒なんですの?」


「俺も詳しくは無いが、魔法が得意な連中みたいだ」


「そうなんですのね」


 先輩の話を聞きつつ、あたしとキャリルは風紀委員会の生徒たちについて考えを巡らせていた。




 翌日の放課後、あたしたちは風紀委員会室に向かっていた。


「それであなたたちがついてくるとは思わなかったわよ」


「ライナス先輩にあんなことを言われてはね。ボクの兄貴分てどういう意味なのか気になるじゃないか」


「俺にしてもライナス先輩を超えるという蒼蛇流の使い手には会っておきたくてね」


「確かにライナス先輩はいま高等部一年で、エリー先輩は初等部二年なのよね。ライナス先輩よりも早くに皆伝を取ったっていうのは凄いとは思うわ」


「それではコウとカリオは、わたくしたちの付き添い兼見学ということでよろしいですわね?」


 二人ともそれで構わないと応えていた。


 実習室が入っている建物の中を歩くが、周囲には学生は見当たらなかった。


 程なくあたしたちは風紀委員会室の前にたどり着くので、気配を探ってみる。


 中に数人の気配があるから風紀委員がいるのだろう。


 キャリルが部屋のドアをノックすると、直ぐに扉が開いてエリーが顔を出した。


「キャリルちゃんとウィンちゃん来てくれたんにゃー。そちらの男子二人は見学かにゃ?」


「彼らは同じクラスのコウとカリオです。付き添い兼見学で来てくれました」


 二人はエリーに頷いてみせた。


「分かったにゃ。みんなに紹介するから中に入るにゃ」


 部屋の中に入ると、エリーを含めて五人の生徒がいた。




 あたしたちは室内の大きなテーブルを囲むように適当に席について、互いに自己紹介をした。


 あたしとキャリルについては先輩がたは把握していた。


 コウとカリオも自己紹介をしたが、コウについては入学式で挨拶をした関係で把握していたようだ。


「みんなよく来てくれた。僕が風紀委員長をしている魔法科高等部三年のカール・ボテスだ。風紀委員の仕事が無い時は狩猟部に顔を出している。よろしくな」


 カールは首回りや体つきを観察する限り、細身の割には鍛えられた身体をしているようだ。


 彼からは実直そうな雰囲気がうかがえる。


 それよりもあたし的には狩猟部という名前に一瞬意識がとられた。


「次は私かね。魔法科高等部二年のニッキー・ブースよ。副委員長をやってる。今回の話がどうなるにせよ、気軽に風紀委員に声をかけて欲しい。あと、委員会以外だと吹奏楽部にいるわ」


 そう告げてニッキーは微笑む。


 何となく頼りになるお姉さんという感じだろうか。


「その次はボクだね。エルヴィス・メイだ、会えて嬉しいよ新入生の諸君。魔法科高等部一年で、委員会では書記を担当している。委員会の仕事でもプライベートでも、気軽に声を掛け欲しい」


 そう告げてエルヴィスはあたしたちにやや暑苦しさを感じさせるイケメンスマイルを浮かべながら、ウィンクをしてみせた。


 ああ、ライナス先輩が言った意味が分かった気がする。


 彼は普段のノリがコウに近いのかも知れないな。


 だがそれよりも特徴的なのは、彼の髪色だろう。


 長く伸ばして後ろで束ねているエルヴィスの髪は白に近いホワイトシルバーをしている。


 いままで王都やミスティモントでほとんど見かけたことが無い色だ。


 それと身長がかなり高く、地球換算で百八十センチくらいはありそうだが、胸板はそれほど厚くない。


 ライナス先輩がゴールボール部と言っていたから、地球でいうサッカー選手体形みたいなものだろうと理解する。


「年齢順ですか? 次はぼくですね。名前はジェイク・グスマンで、君たちの二歳年上です。予備風紀委員をしていて、部活は回復魔法研究会にいることが多いです。ニッキー先輩も言ったけれど、困ったことがあったら気軽に声をかけて欲しい。問題は初期対応が肝心ですし」


 そう告げてジェイクは薄く笑った。


 回復魔法研究会というとプリシラが入っている部活か。


 ライナス先輩の情報では魔法が得意なのではという話だったけれど、そうなんだろうな。


「さいごはアタシにゃ。魔法科初等部二年生のエリー・ロッシにゃ。食べるのも作るのも好きで、料理研に行きながら予備風紀委員をしているにゃ。何でも相談してほしいにゃ。それからアタシの語尾は方言だから気にしないで欲しいにゃ」


 そう言ってエリーはニッコリと微笑んだが、方言云々を聞いてカリオが何やら頷いていた。



お読みいただきありがとうございます。


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