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07.心配はしたけど丸投げた


 ドルフ部長は話し込んでいるあたし達が気になったのか、こちらにやってきた。


「お疲れさまです部長」


「べつに疲れてなどいないけどな。ごらんの通り、今日は上着を脱いでブーツに履き替えただけのラフな格好だ」


 身体強化も行っていたみたいだし、部長がいう通り今の練習で疲労は無いだろう。


 だが、ヘレンが少しばかり頬を染めてそっとタオルを差し出しながら告げる。


「あのっ、ドルフさん。良かったらこれ、つかって下さい!」


「あ、ああ。だが汗などは【洗浄(クリーン)】を使えばいい話だ……」


 そう言ってドルフはタオルを断ろうとするかに思われた。


 ヘレンはその反応に少しだけ寂しそうな表情を浮かべ始めている。


 すると武術研の部員がこっそりこちらの様子をうかがっていたのか、手を止めて小声で何か話し始める。


「あーあ、勘が働くのはバトルだけかよ……」


「ちょっとあり得ないわよね、空気読んで欲しいわ」


「求道者を自称して視野を狭めるのは感心できないな」


「うーん、今回は流石の俺でも部長のフォローは出来んな。普通にそこは受け取るとこだよな」


「あたしも同感です。女子に優しく出来ないのはちょっと引きます」


 そう言いながら武術研らしく相手にプレッシャーを掛けるような、圧の強めのじっとりした視線をみんなでドルフ部長に送った。


「……と思ったが、わざわざ用意してくれたのだし、折角だから使わせてもらう。ありがとう、ヘレン」


「……! はいっ!」


 そのやり取りを見てあたしを含めたみんなは圧を弱めた。


 何事もなかったかのように顔や首すじなどの汗をぬぐいつつ、部長はあたし達に問う。


「ところで、ライナスやウィン達は集まって何やら話していたようだが、何かあったのか?」


「ああ、ウィンが今度の模擬戦のための情報を集めたかったみたいです」


「はい。でもイメージは出来ました。パメラはリベルイテル流槍術(そうじゅつ)を使うようですが、ヘレンの話によると突きが得意なようなんです」


 あたしの言葉に部長は「ほう?」などと興味深げな声を上げる。


 同時にタオルをもう使っていなかった様子だったのを見て「預かります」と言いつつヘレンが自然な感じで部長から受け取っていた。


 部長も「感謝する」と言って自然に手渡していたし。


 そのままヘレンは部長から見て死角の位置に移動して、何やら受け取ったタオルに顔をうずめてスーハ―息をした後【収納(ストレージ)】に仕舞っていた。


 あたしは見なかったことにしたけれども。


「――なので流派は違いますが、対パメラ先輩としてキャリルが突きメインで攻めてくるイメージで対処しようと思います」


「キャリルの雷霆流(サンダーストーム)も槍を使うし、イメージできるなら問題はないだろう。あとは魔道具か」


「ええと、模擬戦で魔道具は使ってきますかね?」


「あからさまに武器などの殺傷力を上げるものは、生徒会が使わせないだろう。だがパメラは、ウィンと自分の実力差を想像できる程度には優秀な槍使いだ。その差を埋める努力はするだろう」


 あたしが優秀かどうかは一先ず措くけれど、魔道具によるパワーアップという話は気になるな。


 参考までに部長とライナスに、どんな魔道具を使いそうかを訊いてみた。


 部長は気配察知を補うような魔道具と言い、ライナスは魔力切れを防ぐ魔道具と応えた。


「あくまでも俺がウィンと模擬戦を行う場合の話だがな」


「でもドルフ部長は勘で何とかするんじゃないですか?」


「勘で何とかできるレベルで済めばいいが、ウィンが本気で隠れたらひどい目に遭いそうだからな」


 ひとを日本の妖怪の類いみたいに言わないで欲しいんだが。


 でも確かにパメラが魔道具を使ってくる可能性はあるのか。


「ライナス先輩は魔力切れ対策ですか」


「ああ。魔力を維持すれば防御が崩れるまでの時間を稼げる。一朝一夕に攻撃力を上げるのは難しいが、継戦能力は重要だろう」


 確かにそれは一理あるだろうとあたしは考えていた。




 妖怪の類いと頭に過ぎった時点で、あたしはライナスに問いただすことを思い出した。


「お話はだいたい整理できたと思います。部長とライナス先輩、ありがとうございました」


「気にするな」


「健闘を祈る」


 底意なく爽やかに言ってくれると気分が良くなるな。


 あたしでも少しだけ頑張ってみようかと思えてくる。


 でも話は残っているんですよ。


「ありがとうございます。それはそれとして――、ライナス先輩にはいくつか確認したいことがあるんですが」


「俺にか? なにをだろう」


「『あたしが変人を引き寄せる』とか、『俺まで凶悪な危険人物みたい』って言ってたのは、どういうつもりですか?」


 努めて笑顔を作って訊いてみたけれど、少しだけ殺気が混じってしまったかもしれない。


 ライナスは殺気ぐらいでは動じないと思うけれど、あたしの質問には視線を逸らした。


「あー、いや、誤解だ」


「なにが誤解なんですか? 視線を逸らさずあたしの目を見て話せますか?」


 そのあと最終的にライナスに謝らせることには成功した。


 それはいいのだけれど、それを見ていたルナが口を開く。


「ちょっといいかなウィンのねーちゃん」


「どうしたのよルナ?」


「もしねーちゃんがあにきと付き合いたかったら、うちと戦ってからにしてもらうし」


 この子は何を言っているんだろう。


 お兄さんであるライナスに絡んでいるのが気に入らないのか。


 それならそうか、突然お兄さんを取られそうになったと錯覚して警戒してる的な感じか。


「心配しなくても、あたしがライナス先輩と付き合うような日は来ないわよ」


「ふーん、それってあにきに魅力が無いって言ってるんじゃん?」


「別の話でしょそれは。べつに心配しなくてもルナのお兄さんを取ったりしないわよ」


「うちのおにいさん…………、ハッ、べ、べつにうちはそれで油断したりしないじゃん?」


「はいはい」


 なぜかルナは頬を赤らめているけれど、見るからにブラコン気味なのは自覚があるんだろうか。


 ともあれ武術研でパメラの情報は得られたし、この後はすこし部員たちと軽めのスパーリングをしていこうか。


 そう思っていたら屋内訓練場の入り口に知った気配がしたので目を向ける。


 するとそこにはパトリックが佇んでいたが、彼はあたしと目が合うと軽く手を振った。




 あたしは武術研のみんなと離れてパトリックのところまで移動し、話を聞いた。


「虚実の練度を高めたい、か」


「うん。鬼ごっこのときにジャニスさんにウィンに相談するようアドバイスをもらったんだ」


「アドバイスかあ……」


 たぶんパトリックのことを、心配はしたけど丸投げたパターンだなそれ。


 とはいえそういうことなら、鬼ごっこのときに言ってくれても良かったのにジャニスめ。


「なにかいいアイディアはあるかい?」


「そうね。刻易流(ライフトハッケン)のフェイント技術か……。普段はだれとトレーニングしてるの?」


「マクスが相手をしてくれているけれど、彼もフェイントは苦手みたいなんだ」


「そうなのね……」


 あいつめ、こっそりパトリックとトレーニングをしていたのか。


 魔力暴走の研究の模擬戦で、腕が上がったのは分かったんだよな。


 でも二人ともフェイントというか虚実の技術は苦手かあ。


「王都には道場が無いのよね? 学院内に使い手は他に居ないの?」


「道場は無いんだ。学院内もちょっと見当たらないね。体捌きとか気配の感じで同門の人は何となく分かるけど、生徒にはマクス以外居なさそうなんだ」


 マクスか。


 あいつはフェイントとか気にするタイプじゃ無いことをあたしは想起する。


「そうなるともう、別の武術を参考にするしかないんじゃないかしら?」


「参考にできるかな?」


「正直難しいけれど、やらないよりはマシだと思うわ」


「それは説得力があるよ。そうか……、他流派か……」


「それが嫌なら、生徒じゃなくて高等部とか附属研究所や農場、病院を含めて先生方を観察してみるかね」


「それは大変だと思うよ」


 そうなんだよな。


 第一、あたしの『ラクは正義』というモットーに反する気がする。


「ダメもとで武術研の人に訊いてみましょうか。それでダメなら他流派のフェイント技術を教えてもらう作戦でどうかしら?」


 あたしの提案にパトリックは腕組みして考えたあと、「それが手堅いと思う」と言ってからあたしに感謝を述べた。


「ウィン、武術研の人たちに相談するとき、僕は地元で刻易流の体術だけを中級レベルまで習ってるってことにしておいて欲しいんだ」


「分かったわ」


 口裏合わせも済んだところで、あたしはパトリックを連れて武術研のみんなのところに向かった。



挿絵(By みてみん)

ヘレン イメージ画 (aipictors使用)




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