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06.情報がひとつってこと


 勝手に自分の名前が使われたことに微妙にモヤっとしつつ、あたしは部活用の屋内訓練場に向かっていた。


 武術研究会の先輩を捕まえてパメラの情報を集めるためだ。


 部長かライナスがいれば大丈夫と思うけれど、ライナスがいればベストだ。


 このまえのウィクトルと部長の試合の時の言動について、問いただすことも出来ますし。


 そんなことを考えながら身体強化と気配遮断をして移動して、屋内訓練場の入り口に辿り着いたら数日前に見かけた顔があった。


「こんにちはー」


『こんにちはー』


 そこには武術研のメンバーに混じって、明日試験結果の発表を控えているはずのヘレンとルナの姿があった。


「ヘレンとルナじゃない。今日はどうしたの?」


「ウィンのねーちゃんちーっす」


「こんにちはウィンさん。ボクたち今日も見学に来たんです」


「ふーん。でも合格発表は明日だし、合格しても入学は一年後よね?」


「それはそれ、これはこれっつーか、家にいてもヒマっつーか?」


「ちょっとルナちゃん、それだとヒマつぶしに来たみたいじゃない。お兄さんの練習を見学したいっへいっはほへ?」


 何やらルナはヘレンの口を横から押さえているけど、べつにライナスの練習を見たいなら好きにすればいいんじゃないだろうか。


 そう思って屋内訓練場の中を見渡すと、ライナスは他の部員とユル目のスパーリングを行っていた。


 手合わせをしてるならあとで話を聞けばいいか。


 部長も別の人と軽めのスパーリングをやってるし、別の先輩に訊いてみようか。


 でもその前に、ヘレンが居るならこの子から話を訊いてみてもいいだろう。


 ただパメラから逆恨みされたうんぬんは言いたく無いんだよな。


 完全にパメラ個人の問題で、この子がドルフ部長にどういう感情を抱こうがヘレンの自由だし。


「ねえヘレン、ちょっと教えてほしいことがあるんだけれど」


「はい、何ですか?」


 そう応えてヘレンはあたしの方を向く。


 ルナは気が済んだのか、ヘレンから手を放してライナスの手合わせの方を伺いながら目を輝かせている。


「あなたのお姉さんのパメラさんと模擬戦をやることになったの。パメラさんについての情報を訊くことは大丈夫かしら?」


「お姉ちゃんと模擬戦ですか?! ええと、うーん……」


「あ、イヤならいいわ。別の人に相談してみるから」


「いえ、別にイヤでは無いんですけど、ボクの説明だと確実に言えるのはひとつだけなんです」


 それは逆に興味があるな。


 身内のヘレンから見たパメラの情報で、ひとつだけ言えることについて。


「もし良かったら、ぜひ教えてほしいわ」


「はい。お姉ちゃんは突きが得意だってことです。以上です」


「それは――シンプルね」


「はい……。お姉ちゃんのリベルイテル流槍術を説明しようとすると、突きのイメージしか思い浮かばないんです」


 そう言ってヘレンは視線を下げる。


 べつに彼女を困らせるつもりは無いんだよな。


「――どうしたウィン。ヘレンをイジメてるのか?」


「あ、ライナス先輩こんにちは。違いますよ。あたしがパメラ先輩のことで質問して困らせちゃったんです」


「ふむ、なるほどな」


 ユル目のスパーリングを一区切りつけたライナスは、あたし達のところに歩いてきた。




 ライナスはあたしがヘレンを困らせていたのが気になったんだろう。


 なんせ真っ直ぐにこっちに歩いてきたからな。


「質問てやっぱりパメラの槍術のことか?」


「そうです。模擬戦をやる以上、彼女の情報を知りたかったんです」


「それはそうだろうな」


「ええ。そしてヘレンに訊いたら、『確実に言えるのは突きが得意だってことです』って言われたんです。それで彼女、情報がひとつってことを気にしてるんですよ」


「それは……、意外と悪くない情報かもしれないぞ。大丈夫だヘレン、その情報は意味がある情報だ」


 ライナスはそう言って真面目な顔で頷いた。


「そうですかね? ライナスさん」


「ああ。そもそも槍の使い方は突き刺すのが基本だと思われているが、それは騎兵の槍のイメージなんだ」


「「「きへいのやり?」」」


 あたしとヘレンとルナが声を揃えると、ライナスは微笑む。


「普段あまり意識しないかも知れないが、槍の基本は打撃だ。その証拠に、基本的な槍が発展して斧槍(ハルバード)やグレイブみたいな“切断に使える槍”が生まれた」


「あ、そういうことか」


「ウィンは分かったか」


「ええ。打撃の破壊力を最大化するために、槍の先端部分――穂先の形を工夫していったんですね?」


「そうだ。槍が突くだけの武器なら、騎槍(ランス)がどこまでも発展したはずだ」


「そっか、じっさいには斧槍やグレイブ、鉾槍(ギザルム)三日月斧(バルディッシュ)が生まれたじゃん?」


 ライナスはルナの言葉に嬉しそうに微笑む。


「そこで三日月斧まで出てくるってことは、ちゃんと分かってるってことだなルナ」


「たりめーだし、チョーよゆーだし?」


 ルナはライナスの言葉でなにやら嬉しそうだけれど、本人的には平静を装ってる感じなんだろうか。


「それでヘレンがいう通りなら、パメラは突きが主体の戦い方ということだろう」


「それってつまり……、どういうことですかね?」


 ヘレンが何やら少しバツが悪そうにあたし達に訊いた。


「そんなの簡単じゃん? ……でも、どういうことじゃん?」


 ルナも分からないか。


 じっさいに立会わないとイメージが出来ないかも知れないな。


「ライナス先輩、一言でいえばパメラ先輩はキャリルと逆のタイプってことですよね?」


「まあそういうことだ。槍による打撃は威力を上げやすいが、振り上げたりすることで隙が大きくなる」


 ライナスがそう告げたことで、ヘレンやルナは気が付いたような顔を浮かべる。


「対して槍による突きは打撃より威力は上げづらいが、攻撃するときの隙が小さい」


「つまり、ええと、打撃で一撃必殺か、突き技で確実に戦うかってことですか?」


「「正解!」」


 ライナスとあたしが揃ってヘレンを指さすと、彼女は嬉しそうな顔を浮かべた。


 それを横で見ていたルナはちょっと残念そうな顔を浮かべている。


「うちだってよゆーで気づいたし。つか、あにきがそこまで教えてくれたらほとんど答えじゃん?」


「まあ、ルナも分かってただろ」


「チョーよゆーだし!」


 ルナは何やらムキになった風に応えていた。


 実際にはキャリルの雷霆流(サンダーストーム)には槍の柄のしなりを使った、突きに近いモーションで繰り出す打撃技もある。


 いうほど対処が簡単ではないけれど、ヘレンが言っていることが事実ならパメラとの戦いはイメージしやすい。


「ライナス先輩、他にリベルイテル流槍術で気を付けることはありますか?」


「そうだな。ウィンはキャリルの雷陣(らいじん)は対処できるか?」


「ノーコメントです」


 キャリルが雷陣を使えることは、本人が居ない所で応える訳には行かないんだよ。


 手の内を明かすことになるし。


「ふむ、まあいいか。雷霆流も槍とかを使った武術で、アロウグロース辺境伯領で盛んだ。その技に雷陣という技があるが、これは体得すれば雷属性魔力を扱えるようになる」


「「雷?!」」


 ヘレンとルナが驚いてるけど、知らなければそういう反応になるか。


「べつに雷の速さで動ける訳じゃあ無い。それでも普通に身体強化をやるよりは速度が上がるうえに、雷気を発することが出来るようになる」


「なにそれ?! チョーかっけー!!」


 ルナよ、そこに食いつくのか。


 たしかにカッコいいのかも知れないけど、キャリルに訊いたら魔力制御がけっこう面倒らしいんだよな。


 でも興味があるならルナは、ライナスを巻き込んででも調べるだろう。


「一方でリベルイテル流愴術だが、槍の投擲技や、魔力で形成した槍を複数投げてくる技が有名だ」


「そうなると魔法使いとか弓使いとの戦いに近くなってくるってことですか?」


「パメラの熟練度や魔力量にもよるが、恐らく距離があれば放ってくるだろう」


「分かりました。そうですね……大体イメージできたと思います」


 イメージするのは突き技を多用するキャリルか。


 正直やりたくないけど、今まで相対したときの気配の感じではキャリルほどはパメラには脅威を感じないんだよな。


 それでも決まってしまった以上はやるけれども。


 そこまで考えて微妙に気落ちしたところで、部長がこちらに歩いてきた。


「こんにちはウィン」


「こんにちはドルフ部長」


 どうやら部長は軽めのスパーリングに一区切りをつけて、こちらに歩いてきたようだった。



挿絵(By みてみん)

ルナ イメージ画 (aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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