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02.貴重な出会いがありました


 いつものメンバーで昼食を食べていると、食堂にマルゴーとディアーナが現れた。


 彼女たちを相席させてニナに周囲を魔法で防音にしてもらい、エルヴィスの身内だということを紹介した。


「兄さんの身内だと、何か騒ぎになるんですか?」


「んー……、一言でいうんやったらエルヴィス先輩はモテすぎなんやわ」


「うむ。そのことでディアーナ殿を、エルヴィス先輩に接近するために利用しようとする女子生徒が現れると思うのじゃ」


「油断はしない方がいいと思いますよ」


「いざとなればわたくし達を頼って下さいまし」


 みんなの言葉にディアーナが当惑した表情を浮かべる。


「はあ……」


「あいつめ、ワタシの前では真面目そうな顔をしてるくせに、学院では乾くヒマが無いってか。困った奴だねえ」


 マルゴーは何やら一人で納得してくつくつと嗤う。


 乾くヒマが無いってどういう意味なんだろうか。


「いや、エルヴィス先輩は風紀委員会所属ですし、別に不真面目に学院生活を過ごしてるわけではありませんよ?」


「おや、ウィンはあいつを庇うのかい?」


「特に庇うつもりもないですが、事実として風紀委員会とかに、エルヴィス先輩のことで女子生徒が泣き付いてきたようなことは無いですよ」


「ふーん。もっと遊べばいいのにねえ」


 なにをもっと遊べというのやら。


「ええと、それよりもディアーナが合格したってことは、あたし達と同学年なのは決まったってことですよね? ここに居るクラスメイトを紹介しますね――」


 そう言ってあたしは無理やり話題を切り、マルゴーが妖しい方向に話を転がそうとするのを防いだ。


 さすがのマルゴーも、ディアーナの知り合いが増えるのはジャマしたりせず、優しい笑顔でやり取りを見守っていた。


 そう言えばディアーナの合格は分かったけれど、シルビアとかウィクトルはどうなったんだろうか。


 いや、ウィクトルは比較的どうでもいいんですけど。


 少なくとも食堂に居るだろうかと思い、周囲にシルビアやグロリアの気配が無いかを探ってみる。


 すると割と近いテーブルにいることが分かったので視線を向けてみた。


 直接訊いたわけではないから確証は無いけれど、シルビアとグロリアは嬉しそうな様子で微笑んで食事を取っていた。


 彼女もまた合格したという予感がした。


 幸か不幸かウィクトルは食堂には居ないようだった。


「どうしたんだいウィン?」


「いえ、シルビアも近くに居るんですけど、いい笑顔を浮かべてお姉さんと昼食を取ってるみたいなんです。受かったのかなって」


「へえ。コウはいよいよ水路に浮かぶのかねえ」


「いや、その話は前に聞いたじゃないですか」


「おっとそうだったか。――まあ、ウィンの枯れっぷりからして、コウはちょっと違うかも知れないね」


「そういう目で見たことは無いから分かりませんよ。コウは頼りになる仲間ですけど」


「そういう目で見たことがある相手の話は、今度聞かせてもらうよ? フサルーナ料理のスイーツの店でいいね?」


 そう言ってマルゴーは爽やかに微笑む。


 あたしはどう応えたらダメージ無くスイーツにありつけるのかを、頭の中で計算していた。




 いつもよりも人が多く雑然とした食堂で昼食を済ませ、パメラとその仲間の女子生徒たちは外に向かっていた。


 全員が無言だったが、食堂を出て少し歩いたところでパメラが足を止めた。


 心配した仲間が声を掛けると彼女は口を開く。


「――私はあの時、死を覚悟したわ」


斬撃の乙女(スラッシュメイデン)と向き合った時の話ね、パメラ?」


「ええ。恐怖も度を越すと、思考が麻痺してしまうのかも知れないわ。少なくともあの時、私は彼女の怒りを感じて、現実であると認めることが出来なくなってしまったもの」


「……わたし達はあなたを止めないわ。でもあなたが戦うために必要なものは、わたし達が何としてでもかき集めてくるから」


 パメラ以外の少女たちも、ウィンの殺気をその身で感じて似たような感覚を覚えてしまった。


 戦うどころの話ではない。


 自然の弱肉強食の環境であるなら、そのまま牙で裂かれて平らげられたような心持ちがあった。


 だが彼女たちは、仲間であるパメラを応援することを決めていた。


「斬撃の乙女……、そう、ウィンさんと立会う機会を得た以上、私は無様な態度はしないわ!」


「パメラ、頑張って……!」


 少女たちは順番にパメラの手を取って彼女を励ました。


 その様子をたまたま通りがかって伺っていた少年が声を掛けた。


「あの、すみません。強くて美しいお姉さん、今あなたはウィンさんの名を出しましたか?」


 そう告げる丸い獣耳をした少年はウィクトルだった。


「不躾ですみませんが、風紀委員のウィンさんがどこにいるか知っていたら、ぼくに教えて頂けませんか? 強くて美しいお姉さん」


 臆面も無くそう言って、ウィクトルはパメラに歩み寄った。


 その真っすぐな目と物言いに、パメラとその場の少女たちは頬を染める。


「ええと……、あなたはどなたですか?」


 パメラの問いにウィクトルはハッとした表情を浮かべた後、居住まいを正して告げる。


「これは失礼しました。ぼくはウィクトル・フェルランテと申します。プロシリア共和国出身ですが、今回の転入試験を受験し合格しました」


「ウィクトルさんと仰いますか。転入生のあなたが、なぜウィンさんの居場所を探すのでしょう?」


「はい。ウィンさんはぼくを武術研究会に案内してくれたのです。そのお陰で貴重な出会いがありました。一言、その礼を伝えたいだけなのです」


 そこまでウィクトルが語ったところで、パメラ達はウィンが食堂で言っていたことを思い出した。


 思い出したのだが、ある意味で目の前のウィクトルは彼女たちの眼鏡に適ってしまったようだ。


「礼儀正しい態度は素晴らしいですね、ウィクトルさん。私はパメラ・レイエス・ヘンダーソンと申します。魔法科高等部一年生で、礼法部に所属します」


「そうですか。あなたからは練り上げた武の気配を感じましたが、武術研究会の方かと勝手に思ってしまいました」


「ウィクトルさんは武術研究会に興味があるのですね」


 パメラの問いにウィクトルは頷く。


「はい。自らを鍛えることは欠かせませんので」


 ウィクトルの言葉にパメラは微笑む。


「もし、あなたが武術を高めたいのでしたら、礼法部に入ることもお勧めしますよ? 我が校は兼部が出来ますので、武術研に入りながら、礼法部で隙の無い強さを磨くこともできるのです」


 パメラの言葉にウィクトルはハッとした表情を浮かべる。


「それは一理あると思います。武術をただの暴力と分けるものの一つは、礼儀であるというのは納得できるので」


 パメラはその言葉に嬉しそうに微笑む。


「武術研に通うのでしたら、やはりあなたは礼法部にも来るべきです。待っていますよ」


「ありがとうございます、パメラさん! ぜひそうさせて頂きます!」


「ええ。――それでウィンさんですが、恐らく食堂に居るはずです。今度彼女とは模擬戦をすることになりましたが、その話をしていたところだったのです」


 ウィンとの模擬戦と聞き、ウィクトルは目を丸くした。




「そうでしたか。パメラさんはやはり強い方だったんですね。ぼくも彼女に試合を申し込んだのですが、あっさりと断られてしまいました」


 ウィクトルはそう言って苦笑する。


 その笑顔にパメラとその仲間たちは頬を染めた。


「そういうことなら、模擬戦を観戦に来てください。日時と場所ですが――」


 パメラが説明するとウィクトルは嬉しそうに微笑んだ。


「分かりました、ぜひ観戦します。それではパメラさん、お友達のみなさん、失礼いたします」


「ええ、それでは」


 そこまで話したところでウィクトルは食堂に向かおうと歩き出すが、数歩進んだところで振り返る。


「あ、そうだパメラさん。よろしかったら今度、どちらかが壊れるまで試合をしましょう」


「――そこまで激しい試合はしませんよ。ですが、手合わせは歓迎します」


「ありがとうございます。では!」


 ウィクトルはパメラたちに一礼して去って行った。


 彼女たちはウィクトルを見送った後、誰ともなく呟く。


「……いい!」


「弟ほしかったのよね」


「あの丸い耳ラブリーよ」


「どちらかが壊れるまで試合……! はうっ!」


「礼法部始まったわ!」


 仲間の興奮する様子を眺めつつ、パメラは微笑む。


「まったく、ウィンさんの周りは本当に美少年ばかりですね。ですが今回はこちらにも誘導出来ました……!」


 そう呟いた後、パメラは仲間たちと共に講義棟へと歩いて行った。



挿絵(By みてみん)

ディアーナ イメージ画 (aipictors使用)




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