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01.問題はそれだけか


 食堂で『美少年を愛でる会』のパメラたちに囲まれたので、ヘレンに妙なことを吹き込んでいたことへの苦言を伝えたら謝罪をしてもらった。


 それはいいのだけれど、その後すぐにヘレンが筋肉マニアになったのはあたしがきっかけだと騒ぎ始めた。


 正直かんべんして欲しい。


 そう思っていたらそのタイミングでニッキーとカールとローリーが現れた。


「パメラちゃんどうしたのよ? 何かずい分ウィンちゃんに詰め寄っているみたいだけれど」


「ニッキー先輩、風紀委員会の後輩の行動はしっかり監督して欲しいのです!」


「パメラ先輩、どう考えても言いがかりですよそれ」


「言いがかりではありません! あなたがきっかけでカワイイ妹が筋肉マニアに目覚めてしまったのです!」


 半ばキレ気味にパメラはあたし達にまくしたてた。


「ちょっと落ち着いて経緯を話してくれまいか」


 カールが落ち着いた口調でパメラに告げると、彼女は頷く。


「いいでしょう。――私にはヘレンという妹がいるのですが、先日初等部の入試を受けたのです。最終日を受験した後にどうやら武術研を見学したらしく、ドルフ部長の肉体が見事だと恍惚と話すようになったのです! これは堕落です!」


 パメラがそう言って拳を握りしめたところで、あたしの視界の隅でドルフ部長がサッと視線をこちらから逸らしたのが目に入った。


 このタイミングで出てきたらさらにややこしくなりそうだ。


 いまは部長には隠れていて欲しい。


「パメラ先輩よ、もしかして問題はそれだけかの?」


 あたしの後ろに控えていたニナが、のんびりした口調でパメラに問う。


 何か思いついたのだろうか。


「あなたは! 桃色の哲学(ロージーロジック)さんじゃないですか。あなたなら私の悔しさは理解いただけるでしょう?!」


「一応おぬしの気持ちは察するのじゃ。しかしこう考えることは出来るのじゃ。『これは再教育の機会である』とのう。恐らくその再教育は、計画の段階から胸が高鳴ると思うのぢゃ」


「さいきょういく、ですか?」


 ニナの妖しい微笑みに、パメラはひとり頬を染めて――いや、パメラの仲間の女子生徒たちも一緒に頬を染めて何かに思いめぐらせているようだ。


「思うに、あーんなことやこーんなことを妹君に教えたら、すぐにパメラ先輩の側に戻ると思うのぢゃ」


 ニナがそう言ったのとほぼ同時に、パメラの仲間の少女がひとり「はうっ!」と叫んで顔を押さえた。


 何となく視線を向けたら鼻血を垂らしていたようだ。


 大丈夫なのかこのひとたち。


「さ、さすがは桃色の哲学さんです。再教育のカリキュラム策定にはご協力いただくかも知れませんが」


「構わんのぢゃ」


 なにがどう構わないのかは、あたしはさっぱり分からなかった。


「なにやら話が解決しそうだが、ウィン君からも話を聞いていいだろうか?」


 カールがひどく冷静な口調で告げたので、あたしも淡々と伝えることにした。


「ええと、簡潔に話します。入試の最終日に受験生の一人から武術の試合を申し込まれたので、武術研を案内しました。そのときにパメラ先輩の妹さん達が付いてきてしまい、部活用の屋内訓練場の外から伺っていたので中に案内して試合を見学させました。以上です」


 カールはそこまで話を聞くと「ふむ」と呟き、周囲を見渡した。


 すると彼は知った顔を見付けたようで呼びつけたけれど、武術研の先輩の一人だった。


 カールは先輩からあたしが言った内容を確認してから下がらせると、口を開いた。


「すまないがパメラ君、話を聞く限りではウィン君の問題というより、妹さんの問題と思われるが」


「いいえ、そのきっかけは矢張りウィンさんにあると思います。ですので私は生徒会に取り仕切って頂き、彼女との模擬戦を所望します!」


『おお~』


 周囲の野次馬が盛り上がり始めたか、野次馬はジャマだなあ。


 カールの言葉に対し、パメラはあくまでもあたしに切っ掛けがあると強弁する。


 それにしても模擬戦か。


「模擬戦というけれど、パメラさんはウィンさんと戦って謝罪を求めるということかい?」


 ローリーが確認するようにパメラに訊いたが、彼女は少し考え込んでから応えた。


「副会長……。いえ、謝罪は求めませんわ。彼女には私が感じた心へのダメージを、別の形で感じてもらいます」


「ふむ、心のダメージか。残酷なことは認められないけれど」


「残酷ではありませんわ。罰ゲーム程度のことをかけて頂きます。具体的には、模擬戦に負けた方は勝った方がお腹いっぱいになるまで食堂でスイーツを奢って頂きます」


 な、なんだと。


「加えて、負けた方は勝った方がお腹いっぱいになるまで、目の前で何も食べずに見届けてもらいます」


 それはかなり残酷な罰ゲームだろう。


 けれど模擬戦に勝てばスイーツ食べ放題か。


「さあ、いかがでしょう?」


「ふむ。その位なら僕はいいと思うけれどどうだろうか?」


 ローリーは苦笑いを浮かべつつあたしに問う。


 いや、ちょっと待ってほしい。


「でも今回のことは、完全にパメラ先輩の言いがかりとか逆恨みじゃないですか?!」


「なら止めておくかい? ウィンさんが模擬戦に勝てばスイーツ食べ放題みたいだけれど」


 そう言ってローリーは真直ぐな目であたしを見た。


 その時の視線で、以前彼が言った言葉を思い出した。


 サラにおんぶ紐持参で言い寄ってきた連中の模擬戦のとき、ローリーは言っていた。


 『そもそも理性的な判断ができるならこんな仕組みには挑まないと思うよ』と。


 今回のことを言いがかりだと突っぱねるのも道理ではある。


 でも、パメラの八つ当たりを受けとめるのも、他の人が出来ないならやってみてもいいかも知れない。


 あたしはそう考えてしまった。


「まったく……。言っておきますが、やる以上は手は抜きませんよ? あたしこれでも武術研所属なので、部の評判は落としたくないですから」


「それでいいとおもう。――ねえ、パメラさん?」


「無論です。やるからには徹底的にやりましょう」


 そう言ってパメラは不敵に笑った。


『おお~!!』


 あたしたちのやり取りを聞いていた食堂の生徒たちが何やら騒ぎ始めた。


 また「賭けをやるぞー」とか聞こえてくるけど、気にしたら負けなんだろうか。


 今日は転入試験の合格発表があるから、保護者なんかもいるはずなんだけど。


 そんなことを思いつつ、半ば現実逃避するように早くお昼を食べたいなと考えていた。




 その後ローリーを交えてパメラと相談し、二日後の風曜日の放課後に模擬戦を行うことが決まった。


 決めることを決めた後に配膳口に並び、気分的に癒されそうなものを探してトマトのスープパスタを選んだ。


 みんなと開いている席をさがして座り、昼食をとる。


「なあなあウィンちゃん、新学期早々に妙なことに巻き込まれたやんな。なんか呪われとるんちゃう?」


 サラはあたしと同じでトマトのスープパスタを選んでいる。


「たぶん違うと思うけど、いきなり巻き込まれたわね。……でも、そうね、キャリルの言葉は参考になったわ。ありがとう」


 『火攻めは火で征すべしファイト・ファイヤ・ウィズ・ファイヤ』と言ったか。


 実は食堂に入るときに、“この言葉は森林火災を消す時の極意だ”とキャリルは教えてくれていた。


「とんでもございませんわ。ウィンならわたくしの言葉など無くとも何とでもしたでしょうに」


 そう告げながらキャリルは、結構大きなサイズのチキンクリームパイを食べている。


 ホワイトソースが美味しそうだなあれ。


「でも本当に、八つ当たりでしたね。私、ちょっとあきれてしまいました」


 そう言うジューンはチーズリゾットを食べているけど、これもクリーミーで美味しそうだな。


「それでもウィンが模擬戦を受けたのは、妾は良い判断だったと思うのじゃ。ここで突っぱねても、パメラ先輩の中では勝手に思い込みを深めたと思うのじゃ」


 ニナはグラタンを食べながらそう言うけれど、確かにパメラは思い込みが激しそうではある。


 それに付き合わされる方としては面倒なことこの上ないのだけれど。


 そう思う一方で、本当にそうだろうかと思う気持ちもあるが、考えても仕方がないことだったりする。


「やあウィン、ここは開いているかい?」


「え……、マルゴーさん? ええと、空いてますよ」


 あたしが声がした方に向き直ると、そこにはマルゴーとディアーナが立っていた。


 二人とも表情をうかがう限りでは、すごく機嫌が良さそうだ。


「……! もしかして合格しましたか?」


 あたしの言葉にマルゴーは優しく微笑み、ディアーナに視線を向ける。


「はい! お陰さまで転入試験に合格しました!」


「おお! おめでとうディアーナ!」


 あたしは思わず席から立ち上がった。


 握手をしたかったけれど、彼女の両手は料理が乗ったトレーで埋まっている。


「先ずはみんなに紹介するわ、二人とも座ってください」


「ああ」


「はい」


「ニナ、申し訳ないけど、ちょっと周囲を防音にしてもらっていいかしら」


「構わぬのじゃ」


 二人が席に着くとニナから風属性魔力が走り、あたし達は見えない防音壁で囲まれた。


 ニナの手並みにマルゴーが「へぇ」と感心したような声を出す。


「改めて紹介します。こちらの人は――エルヴィス先輩の親戚のお姉さんでマルゴーさんです。そしてこちらがエルヴィス先輩の妹のディアーナさんです」


 叔母さんと紹介するとガチ目にヤバいような予感が一瞬働いたので、言い方を考えた。


「ふふ、初めましてお嬢ちゃんたち。ワタシはマルゴー・メイだ。この子やエルヴィスの王都での保護者をしている。よろしく」


『よろしくお願いします(ですの)(なのじゃ)』


「あの、わたしはディアーナ・リュシー・メイともうします。皆さんと同学年になります。よろしくお願いいたします」


「なるほどのう。エルヴィス先輩の身内のお二方なら、防音にした方が騒ぎにならぬのじゃ」


 そう言ってニナは納得した顔を浮かべた。



挿絵(By みてみん)

ローリー イメージ画 (aipictors使用)




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