12.動物や植物の気持ちは
みんなとの夕食を食べた後は片づけを手伝って、いつもの感じで早めに割り当てられた部屋に移動した。
日課のトレーニングでも始めるかと思っているとホリーから連絡があった。
「こんばんはウィン。いまいいかしら?」
「こんばんは、大丈夫よホリー。明日の鬼ごっこの件ね?」
「ええ。兄さんは参加したいって言ってたわ。あとウェスリー先輩とパトリックが遊びに来てたから、一緒に誘っておいたけど大丈夫かしら?」
おお、ウェスリーの普段のあやしい言動は気になるけれど、頭数が増えること自体は嬉しいな。
「もちろん歓迎するわ。人数が多い方が面白いと思うし」
「分かったわ。さすがに兄さんも初めての鬼ごっこでは戸惑うわよね。これで勝つる! グフグフ」
ホリーの怪しい笑い方は指摘してあげた方がいいんだろうか。
「グフグフ?」
「……ハッ! いや、何でもないわ。とにかく、明日はよろしくねー」
「うん、こちらこそ」
ホリーの連絡を終えて日課のトレーニングをしていると、今度はジャニスから連絡があった。
「ちょっといいかお嬢」
「あ、こんばんはジャニス。どうしたの?」
「明日の鬼ごっこなんだけど、わりい、エイミーは用事だとかで逃がした上にヘンな奴を呼びこんじまった」
「エイミーは用事なら仕方ないんじゃない? それよりヘンな奴って?」
「ユリオっていう例のフェレット獣人と、その弟のウィクトルって奴だ」
「うげっ、マジ?」
ユリオはともかくウィクトルが来るのか。
試合がどうこう言われないことを祈ろう。
「マジだ。ニコラスに連絡を入れた時にたまたま近くに居たようだ。ニコラスが正直に話しちまってそのまま参加だとさ」
「マジかー……。ユリオって人は知らないけど、ウィクトルって人があたしが知ってる人なら、いきなり試合とかを申し込んでくる変態よ」
「あー……。じゃあたぶん本人だろ。弟の方は知らねえけど、ユリオって奴もそんな感じだった」
微妙に不安になってきたけれど、試合の話が出てきたらうまく諭して逃げることにしよう。
鬼ごっこの頭数が増えること自体は歓迎だし。
「とりあえず分かったわ。明日はよろしくお願いします」
「おう、こっちこそよろしく。じゃあな」
いま考えても仕方がない気がしたので、あたしは日課のトレーニングの続きを行った。
しばらくステータスの情報をゆっくり確認していない気がしたので、日課のトレーニングが片付いた後で調べてみた。
そうしたら以下の状態になっていた。
【状態】
名前: ウィン・ヒースアイル
種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)
年齢: 10
役割: 影劫
耐久: 90
魔力: 370
力 : 90
知恵: 280
器用: 340
敏捷: 390
運 : 50
称号:
八重睡蓮
斬撃の乙女
諸人の剣 (仮)
悪魔刺し(仮)
撲殺君殺し(仮)
モフの巫女 (仮)
加護:
豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、魔神の加護、
薬神の巫女
スキル:
体術、短剣術、斧術、弓術、罠術、二刀流、分析、身体強化、反射速度強化、思考加速、影拍子、影縛居、専心毀斬、隠形、環境把握、魔力追駆、偽装、獣洞察、毒耐性、環境魔力制御、周天、無我、練神、風水流転
戦闘技法:
月転流
白梟流
固有スキル:
計算、瞬間記憶、並列思考、予感
魔法:
生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態、複写)
創造魔法(魔力検知、鑑定)
火魔法(熱感知)
水魔法(解毒、治癒)
地魔法(土操作、土感知、石つぶて、分離、回復)
風魔法(風操作、風感知、風の刃、風の盾、風のやまびこ、巻層の眼、振動圏)
時魔法(加速、減速、減衰、符号演算、符号遡行、純量制御)
ステータスの各値が上昇しているけれど、魔法を覚えたり母さんとの鍛錬が効いているんだろうか。
魔法に関しては宮廷魔法使いのホープから教わった、時魔法の【純量制御】が増えている。
あと風魔法の【風壁】は、まだ覚えたことにはならないみたいだ。
効果範囲とか威力とかぜんぜん足りて無いと思うし、仕方ないと思う。
それよりも妙なスキルを覚えているのに気が付いた。
「『獣洞察』ってなんだろうこれ……」
ステータスの情報に意識を集中してみると、『動物の気持ちを察することが出来る』とある。
そしてこのスキルは『世話人』という“役割”のもので、あたしはいつの間にか選べるようになっていた。
この役割についても確認すると、『動物を世話する者』となっている。
「なんだろうなこれ……」
部屋の中で頭を捻ってみたけれど、動物まわりのこととしては元旦の騒動で称号に増えた『モフの巫女 (仮)』くらいしか心当たりがない。
というか、この称号が原因な気がするな。
切っ掛けに関しても今日、学院の構内でトラネコを撫でたってことはあったけど、あの程度で“役割”やらスキルを覚えるんだろうか。
でもかなり初歩的なスキルならあるのかも知れない気もする。
あたしはソフィエンタに確認してみようかとも思ったけれど、動物関連のスキルということで父さんに訊いてみることを思いついた。
ギルドの相談役をしているし、何か知ってるんじゃないだろうか。
そう思ってお爺ちゃんちの中の気配を読むと、父さんはリビングに居るみたいだ。
あたしは階下に降りて聞きに行くことにした。
「それは調教師とか、森人を目指すときに初めのころに出てくる“役割”だなウィン」
あたしが『世話人』について訊いてみると、父さんが直ぐに教えてくれた。
リビングに行くと大人組がまだ集まってお酒を飲んでいた。
「なんだ、ウィンは調教師を目指すのか?」
「特に目指して無いわよお爺ちゃん。このまえ迷いネコ騒動に巻き込まれて『モフの巫女 (仮)』っていう称号を覚えたじゃない? あの影響だと思ってるわ」
あたしの言葉に頷きつつ、父さんが動物関連の“役割”について教えてくれた。
まず世話人を覚えると、飼育係か使役師を覚えやすくなる。
その後も経験を積んでいくと調教師か森人を覚え、この段階になると動物や動物系の魔獣と対話が出来るそうだ。
加えて森人の方は植物とも対話できるらしい。
「あたしはどっちかといえば動物よりは植物と対話する方に興味があるわ」
将来的に薬草とかを扱うなら、そっちの方がいい気がする。
「植物の方は農作業とかを見習いで数年やっていると耕作者って“役割”を覚える――」
耕作者を伸ばしていくと栽培者か植物学者を覚える。
それらを伸ばすと緑の導師とか森の守護者を覚えるとのことだった。
「いちばん最初の“役割”でも気持ちは察することが出来るから、それでも不満なら能力を伸ばせばいいと思うわ」
父さんの説明を補足するように母さんが教えてくれた。
お爺ちゃんは多少は知識があったみたいだけれど、コニーお婆ちゃんやバリー伯父さんとリンダ伯母さんは面白そうに話を聞いていた。
「耕作者って“役割”か……。どうしたら覚えられるんだろう」
「ウィンあなた、学院では薬草薬品研究会に所属したんでしょう? 先輩や顧問の先生に相談したらいいんじゃないかしら」
「母さんナイスアイディア!」
確かに植物系の“役割”は、薬薬研の先輩達が知っていそうだよな。
農場の先生たちに訊いてもいいだろうし。
「学院が始まったら訊いてみるわ母さん」
「そうしなさい」
あたしの言葉に母さんは、期待してくれているような表情を浮かべて頷いていた。
ジャニス イメージ画 (aipictors使用)
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