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10.神さまは情報屋じゃあないの


 デイブの店の前に着くとふつうに営業中だったので表から入り込む。


 店ではいつものようにブリタニーが居たので、あたしは声を掛けた。


「こんにちは、デイブ居る?」


「こんにちはお嬢。奥にいるよ」


 そのままデイブの店の奥に入り込む。


 するとデイブは開けた木箱の前に立って、武器を確かめていた。


「こんにちはデイブ。何か検品してるの?」


「ああお嬢、こんにちは。ちょっと冒険者ギルド経由で頼まれてた片手剣を入荷したんで、品質を確認してたところだ。今日はどうした?」


 そう言いながらデイブはそっと手にしていた剣を木箱に仕舞った。


「母さんを経由して頼まれてた調べ物の報告に来たのよ」


「ああ、あの件か」


 デイブはそう応えると【風操作(ウインドアート)】を唱え、周囲を防音にした。


「それで、神託とか出たのか?」


 好奇心を隠せていない表情でデイブが問う。


 ソフィエンタも呆れていた気がするけれど、神託の内容によっては今後も頼られそうだな。


 内容によっては訊くのは協力するけれど、女神をあてにする情報収集って大した根性だなと思う。


「『ノーラに血神について確認せよ』って神託だったわ」


「なるほど、吸血鬼の一族関係の話だったってか……。他にはどうだった?」


「神託はそれだけよ」


 それだけで済ませてってソフィエンタに言われてるんですよ。


 じっさい『薬神さまからの神託』として確認した内容だから、ウソはついてないし。


「そうか。さすがに何でも教えてくれるわけは無ぇよな」


 デイブはそう言って苦笑いを浮かべた。


 うーむ、こすっからい大人だ。


 あたしはラクは正義だと信じるけれど、デイブのラクは邪道な気がする。


「どうかしたかお嬢?」


「何でもないわ。――それで、薬神さまからの神託を受けたから、ノーラに話を訊いてきたわ」


「おおっと済まねえな。何か分かったか?」


「共和国の中でもマイナーな神さまというか、吸血鬼の一族の祖霊信仰らしいわよ――」


 そうしてあたしはノーラから聞いた話をデイブに伝えた。


 もちろんノーラとニナが好意で教えてくれた、吸血鬼一族の由来なんかの話はしなかったけれども。


「――ということで、吸血鬼一族としては信者を増やす理由が無いそうなのよ」


「そりゃ分かりやすい話だ。神っていうからややこしくなるが、自分らのご先祖への祈りっていうんだったら部外者は関係ねえな」


「だからこそ、『供儀を必要とする秘された神』っていうのが謎なのよ」


「ふむ……」


 デイブは腕を組んで考え込むが、直ぐに視線をあたしに向ける。


「たぶん狂信者の連中にとってちょうどいい神さまだったんだろう」


「それもヒドイ話ね」


「全くだ。酷いって言えば肝心の赤の深淵(アビッソロッソ)が相当イカレてるんだよな……」


「数年前に共和国南部であった事件の話はニナから聞いたわ。禁術ってヤバいのね」


 あたしの身内が巻き込まれた日には、王都に流入した赤の深淵の連中を狩り尽くすのに奔走すると思う。


「今のところ、旅団としては直接やり合ったことはねえな」


「闇ギルドとは敵対してるみたいよね」


「話だけは知ってるぜ。当事者じゃねえから何とも言い難いが、うちとしては関わりたくないけどな」


 そんなのあたしもそうなんですけど。


「王都に来るかしら?」


白の衝撃(インパットビアンコ)の奴の話だと、確実に来るって言ってたぜ」


 確実にって、どの辺りでそう判断されているんだろう。


「ユリオって奴の話だと、魔神さまの聖地ってのが気に入らないから、魔法的に汚そうとしてくるだろうって言ってたな」


「魔法的に汚す?」


「禁術の実践だとさ」


 普段は仕事のことではあまり表情を崩さないデイブだけれど、そう告げた時は眉をひそめていた。




「そんでお嬢、共和国から秘密組織が出張ってくる件だが、薬神さまに神託は貰えねえのか?」


「あのねえ。いちおうツッコんどくけど、神さまは情報屋じゃあないの」


「そうだな。いちおう言ってみただけだ。気にすんなお嬢」


 デイブはそう言っていつものニヤケ顔を浮かべた。


 それを見たあたしは、困った大人だと思ってしまった。


「最後はグダグダになったけど、とりあえずあたしからの報告は以上よ」


「分かった。参考になった。ありがとよ、お嬢」


「どういたしまして」


 今回の調べものはあたしにも勉強になったし、興味深い内容だったとおもう。


 赤の深淵の連中には関わりたくないけれども。


「参考になったし、情報には情報と行くか」


「何かあったの?」


 あたしが訊くと、デイブは少し考え込むような表情を浮かべた。


「――いや、仕事の関係で仕入れた情報でな、どうやら王都が拡張される計画があるらしい?」


「拡張?! いつ?!」


「詳細は不明だ。目的は『王都の聖地化に伴う巡礼客の流入への対応』だが、実施自体はほぼ確定している」


「ヒトが増えるから街も大きくしようってことね?」


「そうだな」


 デイブは淡々と告げるけれど、ウソとか誤情報が入る余地が無いレベルで言っている感じがする。


 確信と言ってもいいと思う。


「情報の出どころは?」


「ノーコメントだ」


 デイブのことだから特殊な情報網でも使ったんだろうか。


 でも、いま計画しているということは、予算が付き次第着手される可能性がありそうだ。


「王都の拡張ってことは王家が絡むし、陛下の決済が下りたらすぐにでも始まりそうね」


「確かにな。うちとしては面倒事が増えなければいいと思ってる」


 そんなことを言っても、月輪旅団に限らず王都の住民は自動的に色々巻き込まれるんじゃないかなあ。


「確実に面倒事が王都の住民に降りかかると思うけど?」


「どういう話だ?」


「単純な話よ。ヒトが増えるってことはモノを買うお客が増えるでしょ? お客が増えるってことは商品が足りなくなるわ。そうなれば仕入れにコストが掛かったりしてモノの値段が上がると思うの」


「物価上昇か。――いや、それを言ったら人件費の上昇もあるな」


 デイブがそう言った段階で、あたしは何か重要なことを見落としている予感がした。


 でも見落としている以上、“それ”と指摘することが出来ない。


「その他にもけっこう見落としがあるんじゃないかと思うわ」


「そうだな。利権絡みの話は色んなとこで出てくるだろうし、商業ギルドの連中は激務で倒れるんじゃねえかな」


「あ、お姉ちゃんが卒業後は商業ギルド志望だった」


「それはジナの姐御に相談して、本人に話すかどうか決めた方がいい」


「分かったわ」


 でもさっき感じた見落としは、この話では無い予感がした。


「それにしても物価の話がスッと出てくるのがお嬢だよな。――他に何かあると思うか?」


 デイブの訊き方としてはそこまで切迫した感じは無かったけれど、彼の場合は聞いた内容によって対応は変えるだろう。


 案出しを希望しているなら、少し考えてみよう。


「すぐ思いつくのは王都への巡礼客の文化の違いかしら。共和国の熱心な魔神信仰の人たちと、王都の人の暮らしの違いでぶつからないかとか」


「そこは共和国の仲間に確認が要るな」


「あとは、ヒトが集まるってことはお客が増えるってもう言ったけど、それって花街のお客も増えるのよね? 裏社会の人たちが力を増したりしないかしら?」


「確かにカネが増えたら兵隊を揃えるような連中に心当たりはある」


「うーん……、個別の話を考えるのは非効率な気がするわ。ポイントは多分、ヒトとモノとおカネの流れよね」


「ああ、妥当な線だ。それと利権の問題だな。取り分の問題といってもいいだろう」


 取り分といっても、商人とその裏にいる貴族、そして裏社会の住人たちのやり取りの話だな。


 さすがにその辺りになると、あたしとは関係ないから知らないぞと言いたい。


 強いていえばイエナ姉さんが関係あるか、とまで考えて貴族というキーワードでキャリルやプリシラやレノックス様の顔が浮かんだ。


 もしかしたらいちど、『神鍮の茶会オリハルコン・ティー・パーティー』で話をした方がいいのかも知れない。


 貴族や王族はのことはあたしの身には関係無い。


 でもマブダチや友達や仲間のことなら話が別だろうと、あたしは考えていた。



挿絵(By みてみん)

ブリタニー イメージ画 (aipictors使用)




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