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05.その指をむんずと掴み


 武術研究会のみんなは部長とウィクトルの試合のために準備を始めた。


 どうやら寮から高等部の部員を何人か呼び出すみたいだ。


 ここまで話がスムーズに動いたので、あたしは彼らの試合を観ていく時間はありそうだ。


 そこまで考えて、あたしとウィクトルの後を付けてきた二人に声を掛けることにした。


 彼女たちは部活用の屋内訓練場の入り口の辺りで、外から中を伺っている。


 気配とかは隠せていないのでバレバレなのだけれど、見学なら中に誘うことにしよう。


 そう思ってあたしは気配遮断をして別の出入り口から出て、彼女たちの背後に回り込んだ。


「なんか試合とかやるみたいじゃん? うち興味出てきたし」


「なら行こうかルナちゃん。お兄さんが苦手なら、ボクが説明してあげるからさ」


「べ、べつに苦手じゃねーよ (ちょっとだけかっけーだけで)」


「じゃあルナちゃんが見学を申し込むかい?」


「そ、それは、ここからでもいいんじゃね?」


「ちょっとあなたたち」


「「はい!」」


 扉の陰から明らかに隠れられていない様子で中を伺っていた少女二人に、あたしは声を掛けた。


「見学希望者かしら? あとお兄さんとか言っていたけれど」


 誰かの妹さんだろうか。


 というかどういう二人なんだろうか、この子たちは。


「あ、えーと、うちのあにきが学院の武術研に入ってるんだよ」


「こんにちは、はじめまして。ボクたちは魔法科初等部の受験生です。ボクはヘレン・ララ・ヘンダーソンといいます。そしてこの子は幼なじみの……」


「うちはルナ・ディーンだ。よろしくな、ねーちゃん。……いや、せんぱいつった方がいい感じ?」


 二人は初等部の受験生だったか。


 ということはあたしよりも年下なのかな。


 勝気な感じがするルナという子はまだ年下だといわれても分かる気がする。


 問題は幼なじみというヘレンの方で、身体が大きくて下手をすれば高等部の受験生でも通じるかも知れない。


「こんにちはヘレン、ルナ。合格することを願ってるわ」


「あざっす!」


「もう、ルナちゃん、ちゃんとお礼を言おうよ。ありがとうございます。ええと……」


 そう言えばまだ名乗っていなかったな。


 あたしにも後輩が出来るのか。


 何か変わるのかなと思いつつ、少し頬がゆるむ。


「こんにちは、はじめまして。あたしは魔法科初等部一年のウィン・ヒースアイルといいます。風紀委員会に所属しているわ。よろしくね」


「ウィン……」


「ヒースアイル……?!」


 あたしの名前にルナとヘレンが順番に反応して、ゴクリと唾を飲み何やらつぶやき始める。


「入学早々風紀委員会に所属して、学院を掌握したゴリッゴリの武闘派じゃん?」


「制圧した非公認サークルは数知れなくて、そのメンバーの多くが夢に見てうなされるんだよね?」


「かと思えば学業にも隙が無いし魔法のセンスもあるっつー、逆らう気をベキ折ってくる優等生じゃん?」


「加えてクラスや部活や委員会では、いつも身近なところに常に美少年の影がちらついてるんだよね?」


「そして泣く子も黙る……」


「その二つ名が……」


「「斬撃の乙女(スラッシュメイデン)ッ!!」」


 そう言ってルナとヘレンは、揃ってあたしをビシッと指さした。


 あたしはその指をむんずと掴み、つとめて笑顔を作る。


 そして思わず口に出してしまった。


「あ゛?! あんたたち初対面の人間に何を言ってるのよ?!」


 反射的に殺気が漏れてしまったかもしれないけれど、あたしの言葉に二人は硬直してプルプル震え始めた。


 む、ちょっと怖がらせてしまったんだろうか。


 でも今回はあたしの方が妙な風評被害を受けている気がする。


 風評被害、だと思いたいです。


 あたしがどう説教したものかと考え込んでいると、ライナスの気配が出入り口付近に現れた。


「いったいどうしたんだウィン。俺の妹が何かしでかしたか?」


 そう言ってライナスは頭を掻くが、この時点でクレームを言うべきなんだろうか。


「ええと、この子たちはライナス先輩の知り合いですか? いま自己紹介を済ませたんですが、名乗った直後に色々言われたあげくに二人から指をさされたんですよ」


「あー……」


 あたしの言葉にライナスはバツが悪そうな顔を浮かべた。


 彼の表情の変化に、あたしの風評被害 (?)に関する情報源のひとつが、ライナスである予感が思い浮かんだ。


 あたしはルナとヘレンの指を放し、ライナスに向き直る。


「妹には俺からよく言っておく。ここは俺の顔に免じて「もしかして、ライナス先輩が色々二人に言ってくれたんですか?」」


 思わずあたしはまた殺気が漏れた気がするけれど、ライナスはそれには動じなかったな。


「いや、ちょっと待ってくれウィン」


「キチンとあたしに説明できますか? あたしの目を見て話してくださいね?」


 そう伝えた次の瞬間、ライナスは目を逸らした。


 この人だろうか。


「がっかりですよ先輩。あたしの知らないところで、妹さんとの会話のネタのために面白おかしく話をされたのは」


「ちょっと待ってくれウィン。面白おかしくは話してないぞ。ルナに何を言われたんだ?」


 このルナという子はライナスの妹だったのか。


 あたしが割とがっかりした表情を浮かべながら説明すると、ライナスはルナに困った視線を向けた後に告げる。


「俺が伝えたのは、武術研の後輩に強い奴が入ったが、優等生な上に二つ名持ちの凄い奴なんだってことくらいだったんだが」


「それは間違いないよウィンのねーちゃん」


 いちおうライナスやルナの言動は、ウソでは無さそうな感じだった。


 ライナスの場合は虚実をコントロールできるスキルくらい持っている可能性はあるけれど、さすがにこんな話の言い訳には使わないだろう。


「ということは、誰の情報ですか?」


 そう言ってルナとヘレンを見ると、ヘレンが視線を落とした。


「ルナちゃんから学院の初等部一年に、二つ名持ちのすごい人が居るって話を聞いたんです。それでボクがお姉ちゃんに訊いたんですけど、それを信じちゃったんです。ごめんなさい」


 そう言ってからヘレンは頭を下げた。


 お姉ちゃんて誰だよと思いつつ、あたしは重い溜息を吐き出した。


 ただ、ヘレンの名字に心当たりはある。


「分かったわ。謝罪を受け入れるから頭を上げなさいヘレン。でも今後は、たとえお姉さんの言葉でも簡単に信じるのはやめなさい。人の気持ちが分からない子って言われても知らないわよ」


「はい、気を付けます。ホントにごめんなさいウィンさん」


 そう言ってヘレンは目を赤くする。


 彼女の場合身体は大きいけれど、九歳の女の子だとこんなものだよなとは思う。


「それでヘレンのお姉さんだけど、もしかして槍が得意な人かしら?」


「あ、はい。お姉ちゃんはパメラ・レイエス・ヘンダーソンです。リベルイテル流槍術を習っています」


「ライナス先輩、もしかしてパメラさんって……」


「気が付いたかも知れないが、礼法部のあの(、、)パメラだな」


 非公認サークル『美少年を愛でる会』の幹部のパメラのことだな。


 あたしが風紀委員会に所属しているから、これまでの恨みなんかで色々と吹き込んでしまったんだろう。


 でも『美少年の影』とヘレンが言った時点で気が付くべきだったかな。


 あたしは思わず眉間を押さえた。


 その後、部長とウィクトルの試合の準備ができたという声があり、ルナとヘレンを含めてあたし達は見学に向かった。


 試合の準備にいつもより時間がかかったのは、練習に来ていなかった武術研究会の部員を呼び出していたからだった。


 今回は部長とウィクトルの他流試合ということもあって、大きな負傷があっても直ぐに回復できるように、いつもの武術研のメンバーを寮から呼び出した。


 試合場の四隅には地魔法の【回復(ヒール)】を使える高等部の先輩たちが一人ずつ控えている。


 そして竜芯流(ドラゴンコア)を使える高等部の先輩たちが三人、部長とウィクトルの傍らに控えた。


 彼らを見てライナスがルナに問う。


「ルナ、おまえは竜芯流がどういう流派か知ってるか?」


「バカにすんなよあにき、うちでも知ってるっつの。盾を使う片手剣の流派だろ? 盾の防御を崩すのは大変そうだけど、そこまで怖い感じはしないじゃん?」


 ルナの言葉にあたしは思わず微笑む。


「ヘレン、あなたは竜芯流をどう思う?」


「ボクもルナとおなじ意見です。あんまりこわいイメージは無いかなあ」


「それなら今日、そのイメージが変わるかも知れないわね」


「「え?」」


「ここは王立の学校にある公認の武術研究会よ。そこで部長を務める人が使う竜芯流はいろいろ勉強になるわよ。正統派剣術がなぜ正統派と言われるのか、その理由が少し分かるかも知れないわ」


 あたしの言葉を聞いていたヘレンとルナは頷き、部長とウィクトルに視線を向けた。



挿絵(By みてみん)

ライナス イメージ画 (aipictors使用)




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