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05.判断のダメ押しになった


 しばらくソフィエンタに連絡を取っていなかったので、彼女に呼び掛けたら神域に呼び出された。


 会話の中で時魔法の話になったので、ソフィエンタがティーマパニア様に呼び掛けたら現れて魔法の説明をしてくれた。


 その流れで塩ラーメンをごちそうになっている。


「それでのれん分けの話になったけれど、ウィンが亜神の力量に至る可能性はかなり低いわよ。アレスマギカでさえ人間――古エルフ族として生きた時間は二千年ほどだし、彼の場合はその間はだいたい魔法の研鑽に努めたみたいなのよね」


 二千年て地球基準だと、あの宗教の神の子が生まれてからがその位だからとんでもない長さだな。


「それはふつうに考えて無理そうじゃない?」


「まあ、やる気があるなら精神と〇の部屋みたいなのを神域に用意して特訓してあげるけど?」


 免許合宿じゃないんだから。


 ていうか精神と〇の部屋ってなんだっけ。


「今のところは人間をやめるつもりは無いです」


「……きがかわったら……いつでもそうだんしてください……」


 ティーマパニア様が底意なく純粋に提案してくれた。


 いまのところソフィエンタからの神々の情報を聞く限り、かなりブラックそうなんだよな。


 過去に、王制の国でまつりごとを動かすためには、王には休みの日など存在しないという話を本で読んだことがある。


 でもそれ以上に、神さまって休みとか無さそうなんだよな。


 そこを指摘すると興味があると思われたり、盛大にソフィエンタからグチを聞かされそうな気がするから黙っているけれども。


「そんなときが来るかは分からないですけれど、その時はよろしくお願いします。ところでティーマパニア様、時魔法についてもう少し聞いてもいいですか?」


「……上級魔法のことなら、キミの大陸で学べるのはみっつです……」


 また訊こうとしていたことを先を越されたな。


 ティーマパニア様が教えてくれたけれど、時魔法の上級魔法は【予見(フォアナレッジ)】と【符号遡行(レトロサイン)】と【純量制御(ヴァルスカラー)】の三つだそうだ。


 【予見】はマーヴィン先生が教えるのを制限している魔法だな。


 【符号遡行】は日課のトレーニングで練習中の、上達すれば死者蘇生もできる遡行の魔法だ。


「【純量制御(ヴァルスカラー)】ってどんな魔法ですか?」


「……任意のぶっしつの概念量をせいぎょする魔法です……」


 その後ソフィエンタにも補足してもらいながら説明を聞いたけれど、王国では『転がるボールを加速させられる魔法』として有名なのだそうだ。


 でも正確には、物質が有する運動エネルギーを増減することが出来るという効果があるという。


「スカラーとベクトルのスカラーってこと?」


「……せいかいです……制御をれんしゅうすれば比較てき早くに空を飛べます……」


「お~!」


「もちろん魔力は使うけれど、自身や味方の運動速度の上昇や敵の減速に使えるわね。あと空を飛べてもバードストライクから身を守ったり、呼吸を出来るようにするのは工夫が居るわ」


「おー……」


 ソフィエンタの説明で少しだけテンションが下がってしまった。


 でも空を飛ばなくても加減速に使えるのか。


 覚えられるなら覚えてみたいかも知れない。


「フィルに教わるか、デボラの伝手で宮廷魔法使いに教わればいいと思うわよ」


「……キミなら、すぐ覚えられます……」


「分かりました」


「でも空を飛びたいだけなら、風魔法に【飛行(フライ)】っていう上級魔法があるわよ?」


「マジ?」


 それは覚えたいかも知れない。


「バードストライクへの対策が不要で消費魔力も少ないけど、自分にしか掛けられないわね――」


 ソフィエンタが【飛行】について教えてくれたけれど、使用中は気配がダダ漏れになるという。


 だから王都上空とかを飛んでたらすぐにバレるらしい。


 あと、習得したら国か冒険者ギルドに登録する必要があるみたいで、難易度は特級寄りの上級魔法とのこと。


 当然だが飛行中に魔力が切れれば墜落するそうだ。


「……【純量制御】のほうが、魔力のこうりつではおすすめです……【加速(クイック)】や【減速(スロウ)】とかさねがけができます……」


「少し、考えてみます……」


 風魔法ならシンディ様が詳しいだろうし、次に会った時に聞いてみよう。


 話を聞く限りでは【純量制御】の方が優先度は高い気がするな。


 ちなみにティーマパニア様によれば時魔法の【純量制御】の上位互換として、特級魔法の【純量圏(スカラースフィア)】という魔法があるという話を聞いた。


 ただ、そっちは『混沌の魔法』という通称があって、禁術指定されているらしい。


 範囲使用できる魔法だけれど、概念量――スカラーの増減のイメージを使用者が制御することが難しいそうだ。


 過去に色々な事故が起こって使用が禁止されているという話だった。


 ある時は対象をむりやり引き延ばして肉塊にしたり、あるときは温度が上がって溶岩の池が出来たり、あるときは天地を貫く雷が降り注いだりと散々だったみたいだ。




「それで、他には相談事は無いかしら?」


 塩ラーメンを食べ終わったあたし達は、ソフィエンタが用意した緑茶を啜りながらリラックスしていた。


 ラーメンいつでも食べれたらいいんだけどな。


 それはそうとソフィエンタへの相談事か。


「ひとつあるといえばあるんだけど、相談ごとって言えないかも知れないわよ?」


「とりあえず悪ふざけしていないなら言ってみなさい」


 そういうことなら、せっかくだから訊いておくか。


「ええと、ソフィエンタに念話を飛ばすときだけど、近くに植物があることっていう条件があるじゃない?」


「ええ、そうね」


「生野菜のサラダに入っているような野菜でも、その条件は成り立つの?」


「…………」


 ソフィエンタは凄くイヤそうな顔を浮かべた。


 だって思いついちゃったんだし、言ってみろっていわれたし。


「あなたねえ、夏休みの自由研究で家族を困らせる妹分みたいなことを言うのね?」


「でも気になっちゃったのよ」


 ソフィエンタは溜息をついた後に口を開いた。


「『サラダになっている野菜の条件次第です』っていうのが回答になるわね。その条件としては植物の全能性が関係してくるわ。具体的には植物って、差し芽で増やせる品種もあるでしょ? 細胞レベルで生きているものが、植物ホルモンの働きで根を張れる状態に保たれているかって話になると思う」


「しょくぶつほるもん?」


 いちおうソフィエンタの言葉は耳に残っているので、まだ内容を理解できていると思う。


 要するにサラダになった生野菜でも、根っこを伸ばせる奴は植物って判定なんだろう。


 でも植物ホルモンの話はちょっとなあ。


「地球の知識でいえばオーキシンとかになるわ。光屈性の研究がきっかけで存在が示唆された奴で――」


 そこであたしは植物の根っこが伸びる仕組みのトリビアを、ソフィエンタから説明されてしまった。


 勉強になったからいいんだけどさ。


「――ということで分かったかしら?」


「いちおう分かったわよ。もしほかに手段が無い時はサラダの生野菜で試してみるわ」


「そうね、それでいいと思うわ」


 やってみるまで分からないなら、ソフィエンタに訊かなくても良かった気がしてしまったのは秘密である。


「光屈性の話でふと思ったんだけどさソフィエンタ」


「どうしたの?」


「あたしの周りの友達は闇神さまの加護を持つ人が多くて、あたしが時神さまの加護じゃない? 光神(こうじん)さまの加護を持つ人って少ないのかしら?」


「あー……」


 ソフィエンタはなにやら腕組みして視線を落としたあと、ティーマパニア様と目を合わせる。


 ティーマパニア様は首をコテンと傾げてみせた。


「光神――ハクティニウスは色々な事情があって加護を与える人間を絞っている状態なのよね」


「そうなんだ?」


 ソフィエンタが歯切れが悪い以上、神々の内部事情とかなんだろう。


「でもそうね。あなたの周りだとキャリルが今日、ハクティニウスの加護を得たわよ?」


「ホントに?!」


「ええ。もともと彼女の母方の関係で素養はあったみたいだけど、魔神の加護を得た後の神々への感謝の祈りが判断のダメ押しになったみたい」


 ダメ押しって何だよ。


 でもまあ、キャリルが『光神の加護』を得たのなら、いいことなんだろう。


「キャリル本人は知ってるのかしら?」


「ちょっと待ちなさい……、うん、まだ知らないみたいね」


「あたしが教えちゃってもいいかな?」


「好きにすればいいんじゃないかしら?」


「……予感がしたことにすればだいじょうぶです……」


 ティーマパニア様はソフィエンタとあたしにサムズアップしてみせた。




 大体話も済んでしまった。


 あたしはそろそろ現実に戻してもらうつもりで、ソフィエンタとティーマパニア様に挨拶をした。


「ええと、ティーマパニア様、ソフィエンタ。突然呼び立てて長々と話し込んでごめんなさいね」


「なによ改まって。気にしないでウィン」


「……だいじょうぶです、ウィン……」


「ありがとうございます。お二方には、今年もよろしくお願いしますと申し上げます」


 そう言ってあたしは椅子から立って頭を下げると、彼女たちも椅子から立って「こちらこそよろしく」と言ってくれた。


 あたしがもういちど頭を下げ、頭を上げたタイミングで自分が観葉植物の傍らで指を組んで立っていることに気づいた。


「まずはキャリルに連絡を入れた方がいいわよね」


 そう呟いてあたしは【風のやまびこ(ウィンドエコー)】を唱えた。



挿絵(By みてみん)

ソフィエンタ イメージ画 (aipictors使用)




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