06.普段どおりはラクが基本
『竜狩り』の話への意見について、それ以上の話は出なかった。
そのあとギデオン様からは簡単に相談への感謝が述べられ、世間話のような内容に切り替わった。
大人たちが対応していたけれど、『魔神騒乱』を経た王都の最近の様子を聞いたりしていた。
デイブが商業地区界隈の話などをしていたけれど、ギデオン様が面白そうに話を聞いていた。
王家直轄の情報担当者とは、視点が違うから参考になるとも言っていたな。
結局そのあと解散となったけれど、ギデオン様たちには応接間で待ってもらうことになった。
応接間を出た後は、母さんがコニーお婆ちゃんに言ってお茶と菓子を用意してもらっていた。
リビングに戻って応接間での話の内容を思い出していると、リンジーとアルラ姉さんに声を掛けられる。
「ウィン、大丈夫だったか?」
「いきなり呼び出されたわね」
「大丈夫かどうかでいえば大丈夫ね」
『竜狩り』の話だったから、話の展開によっては王家の秘密が絡んでヤバかったと思うけれども。
「そうか。まったく、何の話をしてたんだか……」
「あたしでは話していいか判断できないわね。興味があるなら母さんに訊いてみて」
話すかどうかは母さんに全部任せることにした。
今日話した範囲の内容なら、母さんなら大丈夫だって言いそうな気もするけれど。
「その時点で微妙にヤバそうな臭いがしてくるよ」
「確かに集まったメンバーがメンバーだし、正直気になるわ。でも私は黙っていることにするわよ」
「うーん……。わたしもそうするよ、とりあえずピザパーティーが済むまではな」
そう言ってリンジーとアルラ姉さんとあたしは頷き合った。
微妙に台所の方からいい匂いがし始めている気がするので、あたしはそちらに向かう。
するとリンダ伯母さんとコニーお婆ちゃんが、ミネストローネを作り始めていた。
レシピについては大みそかパーティーの時に予習済みなので、二人とも今日は大きな鍋でぐつぐつと煮込み始めている。
「美味しそうな香りね。トマトの匂いがもっとすると思ったけれど、香草とかの匂いもいいわね。あとオリーブオイルの匂いもするかしら?」
「ミネストローネは要するに“トマトも入っている野菜スープ”って話らしいわね。具材の野菜は共和国の中でも地域によってずい分違いがあるらしいわ」
「ふーん」
あたしが訊くとリンダ伯母さんが教えてくれた。
とにかく水分を飛ばすために煮込めと教わったそうだ。
「それよりウィンは休んでいたのに、呼び出されて大変だったわね」
「そうね……。不敬だって言われたくないし、すっっっごく驚いたとだけ言っておくわ」
あたしの言葉にリンダ伯母さんが可笑しそうに笑う。
「ふふ、でも陛下は同席して分かったと思うけど、かなり庶民派で気さくな方でしょう?」
「それは思ったわ」
「王家の血筋というか伝統かもしれないけれど、権威で頭ごなしに上から押さえつけるのは無粋なふるまいだと考えてるかも知れないわ」
「ふーん」
伯母さんは文官だし、王宮の中で働くうちに色んな話を聞いているのかも知れないな
「それで、なにかあたし手伝うことはありそうかな?」
「まだ大丈夫だけれど、そろそろ気の早いお客さんは来るかもしれないわね。リビングで待機していて欲しいかしら」
「分かったわ。何かあったら声をかけてね」
そうしてあたしはリビングでリンジー達と時間を過ごした。
その後あっという間に集合の時間になり、開始予定時間の前に全員が揃ってしまった。
気が付けば大人たちはお酒を飲み始めている。
ちなみにギデオン様はすでに大人たちに加わって談笑しながら飲み始めているけど、最初に顔を見せた時はポールとかは顔をこわばらせていた。
それでもお酒が入ると、あっという間に大人たちで談笑し始めているけど。
フレディさん達も外交とかを考えるとあっちに加わりたいのかも知れないけど、ピザ焼きを手伝ってくれるそうだ。
庭に全員が揃ったところでサラが大きな声を上げる。
「はーい、みんな注目や! 最初やし、今回のピザパーティーの主催者の一人であるウィンちゃんから一言もらうで~!!」
「あたし? なにも考えて無いけどっ?!」
「別にいいのじゃ。かんたんな挨拶でも、今年の抱負でも何でものう。区切りなのじゃ」
いきなりそんなことを投げられてもなあ。
「“ピザの美味しい食べ方”とかでもいいの?」
「さすがにそこは、ある程度空気読んで欲しいんやけど」
サラが苦笑いを浮かべる。
「ウィン、平常心を大切にすべきと応援します」
プリシラが何やら拳を固めてそんなことを言うけれど、平常心か。
「普段通りっていうのはいいかも知れないわね、プリシラ」
あたしの言葉に彼女はコクコクと頷いた。
あたしの普段どおりはラクが基本だし、気楽に挨拶すればいいか。
考えるまでもなく、みんな知り合いだし。
なぜかギデオン様とかいるけど、そこは気にしないようにしよう。
行くぞ――
「はい、それでは簡単に挨拶します。皆さんこんにちは、新年おめでとうございます!」
『おめでとうございます(ですの)(にゃー)(なのじゃ)』
「あたし達が学院に入学してあっという間に一学期が終わりました。そして気が付けば新しい年を迎えています。抱負という意味では、あたしは今年も“ラクこそ正義”ということをもっと突き詰めていきたいと思っています」
そこまで告げてみんなの様子をみれば、基本的には笑いつつも微妙そうに微笑んでいる人も居る。
「以前、高等部のアミラ先生と話をした時、『ラクをするってことは無駄を省くってことだよ』と言われたことがあります」
『真面目にやってるならね』ともクギをさされたんですけどね、うん。
あと、『今のところは充分真面目』とも言われたんだったか。
「そういう意味で、“ラクこそ正義”を一段階ランクアップさせるためには、無駄を見極める力を鍛えたいと思っています」
あたしの言葉に頷いている人も何人か居るな。
みんなありがとう、こんな思い付きの挨拶でも頷いてもらえるのはちょっと嬉しい。
「あたしの“ラクこそ正義”というテーマは今年も変わりません! 皆さんのテーマは何ですか? あたしは、自分のテーマを大切にするように、皆さんのテーマを大切に思っています。だから困ったときは、みんなで相談しましょう。そういうわけで、今年もよろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!』
最後は勢いで抱負を述べたってことでカンベンしてもらおう。
あたしが何となく苦笑しているとサラが声を上げる。
「ほな、これからばんばんピザを焼くで! みんな食べながら手伝ってや!」
『応!!』
そうしてピザパーティーが始まった。
土魔法で用意されたピザ窯はフル回転でピザを焼いていく。
食欲をヤバい勢いで刺激する香りがブルースお爺ちゃんちの庭に充満しているけれど、ご近所から苦情が来なければいいな。
そのくらい美味しそうで破壊力がある香りがする。
焼けたピザは順次取り出されてカットされ、みんなに振舞われている。
このあたりの流れは大みそかパーティーで経験しているので、取り合いなどになったりはしていない。
そう言う意味では、今日の参加者は落ち着いているのかも知れないな。
「ウィン、食べてるか? おまえも焼いてばっかりじゃなくて適当に食べろ」
カリオが気を利かせてくれたのか、声を掛けてくれた。
「分かったわ、ありがとう!」
「おう。食ったらまた変わってくれ」
あたしはピザ窯の前から移動して、庭に設置された適当なテーブルに座ってピザを頂く。
薄い生地のパリパリ系のクリスピーなピザだ。
カットされたピースからはチーズが垂れて未だ温かいけれど、口の中を火傷するほどでは無さそうだ。
一口目をザクッと頂くと、その瞬間にチーズの食感とコクと、トマトソースの酸味とフレーバーが口の中に広がる。
これはいくらでも食べられそうな気がするな。
あたしが幸福感の中でもきゅもきゅとピザを食べていると、アンから声を掛けられた。
「ウィンちゃん、ピザおいしいよ! おとといの練習の時もおいしかったけど、今日もすごくおいしいね!」
「そうね! これ何枚でも食べられそうだわ」
「あ、うん。量はわたしはそんなに食べられないかな。でも、王都に来るまでピザって食べたことがなかったの」
「今回みんなで作ったから作り方は覚えたじゃない?」
「そうね。ピザ窯が無くても焼けるなら、お父さんとお母さんに食べさせられるかなって思ったわ」
そうか、アンは地元の家族のことを考えてしまったか。
「そのへんは後で共和国出身の人に訊いてみよう? ていうか、そろそろ焼く方に戻るけど、アンも行かない?」
「うん。わたしもピザを焼くわ」
そのあとあたしはアンとピザ窯の方に戻った。
途中で父さんと母さんが微妙に気配を抑え気味にして、お爺ちゃんちの建物の中に入って行くのが見えたけれど、何かあったんだろうか。
取りあえずヤバそうな予感は特に無いので、あたしはピザを焼く方に意識を向けた。
アン イメージ画 (aipictors使用)
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