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03.ポイントが欲しいのか


 花街の獣人喫茶『肉球は全ての答』の前では、ペットを連れた集団が数十名規模で集まっていた。


 彼らはフレデリックと、ロレーナ、そしてゴッドフリーが主催する連絡網に属する者たちだ。


 動物愛好家の集団でありモフラーなどと揶揄されたりするが、本人たちはむしろ誇りに思っている。


 そのような連中が集まっていた。


 見る限り男女比は女がやや多く、服装から冒険者と判断できそうな者が半数弱はいるだろうか。


 獣人が全体の四割ほど見られるが、その他の参加者も含めて全員が自身のペットと共に待機していた。


 やがて獣人喫茶の入り口の扉が開き、教皇とロレーナが姿を現す。


 彼らから一歩引いてウィンとマリアーノの姿もそこにはあった。


「さて諸君、急な招集に応じてくれて感謝するのじゃ。先ほど規則(レギュレーション)説明とチーム分けを済ませたが、時間になり次第『第一回モフモフ探索者ランキング』、別名『第一回モフたん』の記念すべき第一ラウンドを開始する」


『応~!!』


「今回迷いペット探しを競技化するということで、幾つかの意見があった。しかし報酬に関して他人が使えない『モフ会の予約券』を採用したことで、モフラーのための時間とすることができたのじゃ。それゆえ最終的に開催の運びとなった」


 教皇はそう言いながら、参加者たちを見渡す。


 彼らの表情は若干の緊張があるものの、これから始まる迷いペット探しに気持ちを集中し始めていた。


「迷いペットは良くあることじゃ。そしてこれまでは飼い主が自分の足を使うか、冒険者などを日数をかけて依頼して雇って行うしかなかった。しかし我々は迷いペットを探す仕組みを作り出そうとしている。その覚悟を誇りとするのじゃ諸君」


『応~!!』


「吾輩からは以上じゃ」


 教皇はそう言ってロレーナの方を見る。


「いちおう開催にあたって規則(レギュレーション)は定めたが、ムリに確保を目指す必要が無いのは覚えておいて欲しい。居場所が特定されるだけでも、十分な成果なんだ。とにかくムリはしない! それを徹底しておくれ!」


『応~!!』


「よし、開始まで五分を切った。各チーム、スタートの準備をしておくれ」


 やがて時間が来ると教皇がスタートの号令を掛けて、参加者を出発させた。




 何やら一時間で王都のモフラー連絡網に情報が回り、かなりの人数がニコラの子分のネコ探しに加わってくれた。


 当初はあたしも参加しようとしたのだけれど、「ウィンちゃんもポイントが欲しいのかの?」と教皇様が嬉しそうに訊くので辞退した。


 辞退を伝えたらがっかりされてしまったが。


 だって迂闊に参加すると、母さんにお説教をもらう可能性もあるし。


 それに発見されたときに、その情報はロレーナのところに来るはずだ。


 だから獣人喫茶で待機していれば連絡役くらいはできると判断した。


 加えて今回の参加者の中には、動物とコミュニケーションできるスキル持ちの人が何人か居るそうだ。


 教皇様とロレーナの話では、彼らが参加した時点で発見自体は確定したと言っていた。


 あとはどういう状態で発見されるかということらしい。


「無事に見つかってくれるといいけれど……」


 もし誘拐されてたり、野良の動物のエサになったりしていたらどう説明したらいいんだろう。


 そう思いつつも、何となくあたし的には無事に見つかる予感はあった。


「どうしたんだいウィン?」


「いいえ、何でもないです。――それより待つあいだはヒマですし、厨房や給仕とか手伝いますよ?」


「本当かウィン! そりゃ助かるぜ」


「今日はモフ会なんでしょ? 整理券も無いのにお客さんの顔をして待たせてもらう訳にもいかないですし」


「あんたも律儀な子だねえ。でもありがとうよ」


 そしてあたしは店の中に戻り、厨房の手伝いをして過ごした。


 今回の迷いネコは、イベント開始から一時間半ほどしてから無事に見つかった。


 見つけたチームからの報告をロレーナから聞いたけれど、ビルバは商業地区の外れの方の商家屋上で、ひさしの下にうずくまってじっとしていたらしい。


 動物の言葉が分かる人が確認したところ、ニコラ達と商業地区を移動している時にイヤな気配をした人間に会ったそうだ。


 ニコラに逃げようと誘う意味でネコパンチなどを食らわせたが反応が無く、恐怖に耐えきれずに自分だけで街の中を逃げ回ったという。


 その結果、見事に迷子になり途方に暮れていたそうだ。


「イヤな気配って何ですかね?」


「そのネコちゃんじゃ無いから吾輩にも分からんのう。魔獣討伐をした冒険者が、装備が汚れたまま街を歩いていたとかは直ぐに思いつくのう」


「あとは内在魔力が膨大な人間が、魔力をダダ漏れにした状態で歩いていたとかかね」


「シンプルに肉食獣系の獣人が、怒気とかを周囲にまき散らして歩いてたとかもあるかもな」


 どうにも要領を得ないけれど、教皇様達の話としては土地勘が無いことが今回は一番の原因だろうとのことだった。




 確保したニコラのネコは、【風のやまびこ(ウィンドエコー)】でアルラ姉さんに受け渡し場所を連絡した。


 その後しばらくして姉さんから無事に受け渡しが済んだと連絡があった。


 ちなみにニコラの両親は、今回見つけたチームのメンバーにお礼としてキャットフードとマタタビを多めに手渡したそうだ。


 発見者たちがネコを飼っていなくても仲間にあげれば済むだろうし、ムダにはならないだろう。


「ウィン、あなたにもお礼を受け取っているけど?」


「うーん……、おカネとかは要らないわよ? 依頼を受けた訳じゃ無いし」


「そう言うと思ったわ。私がそう応えたら、せめてこれだけでもってフィナンシェがたくさん入った紙袋を出してきたの。受け取っておいたからお爺ちゃんちで渡すわね」


「しょうちしましたおねえさま」


 さすがアルラ姉さんだ、あたしの反応を計算し尽くしているな。


 ニコラ達とも別れたそうなので、今回の迷いネコ騒動はこれで終了だろう。


 あたしは教皇様達にお礼を告げて獣人喫茶を離れようとしたら、逆にお礼を言われてしまった。


「今回の仕組みの発案には本当に感謝するぞ、ウィンちゃんよ」


「全くだよ。毎回こんなに上手く回るとは限らないだろうけど、それでも面白い仕組みが出来た」


「こちらこそモフ会をしている時に押しかけて済みませんでした」


 あたしがそう言うと、教皇様とロレーナだけではなくその場にいたお客さん達も含めて「気にするな」と言ってくれた。


 全ていい方向に向かったし、忘れないうちにフィナンシェを受け取らないとな。


 そう思って改めて挨拶してから、あたしは獣人喫茶を後にした。




 ウィンと入れ違いで一人の青年が獣人喫茶『肉球は全ての答』を訪ねた。


 その青年は商人が着るような服装をしていたが、マリアーノが応対したところ新聞記者を自称した。


 どうやら『第一回モフモフ探索者ランキング』、別名『第一回モフたん』の話を聞きつけて取材に来たらしい。


 マリアーノがフレデリックとロレーナに相談したところ取材を受けるとのことだったので、彼は青年を案内した。


 青年は教皇であるフレデリックが居るのを知って驚いたものの、すぐに取材を始める。


 当初フレデリックはさりげなく無詠唱で【鑑定(アプレイザル)】を使い、青年の職業や勤め先を調べていたが、どうやら本当に新聞記者であったようだ。


「――それで、なぜ『第一回モフたん』を開催するに至ったか、じゃったかの」


「はい。ペットの迷子の問題は生活の中では優先度が低い問題ですし、これまでは有効な対処方法を見付けられていませんでした。開催に至った経緯を教えて頂きたいのです」


「ふむ。まず吾輩は『匿名のF氏』としてもらうぞ。その上で、一人の少女の話をしなければならんのじゃ」


「少女ですか?」


「うむ。その子も匿名とした方が良いじゃろうから、仮に『モフの巫女』と呼ぶことにするのじゃ。話は先ず、彼女がこの店を訪ねたことに端を発するのう――」


 そして記者の青年の取材は進んだが、結果的にこの時のフレデリックの発言がウィンに新たな称号を追加することになったのだった。




 昼食がまだだったので、アルラ姉さんとリンジーに合流してお昼を食べることにした。


 以前ホリーと行ったミートパイの店で待ち合わせて、三人で遅めの昼食を食べた。


 その時にお礼だというフィナンシェを受け取ったけれど、けっこう量を頂いたので思わず頬がゆるんでしまった。


 その後は寄り道もせずに、王都内の乗合い馬車に乗ってブルースお爺ちゃんちに戻った。


 お爺ちゃんちに戻ると夕食の支度が始まっていたので、あたし達はすぐに台所に向かった。


 食べる前には新年最初の夕食ということで、みんなで神々に祈りを捧げた。


 その後は夕食を食べながらニコラと飼いネコの話をしたけれど、みんな面白そうに話を聞いてくれていた。


「でもウィン、あまり花街に行っちゃダメよ?」


「はい、分かっています。もちろんです!」


「よろしい」


 母さんとはそんなやり取りがあったけれど、いちおう母さんを含めてみんなからは好意的に受け止められた。


 ブルースお爺ちゃんやバリー伯父さんなどは「衛兵はさすがにネコ探しまでは手が回らない」と苦笑していたけれど。


 迷いネコの話とは別に、明日予定しているピザパーティー関係の話で、ブルースお爺ちゃんが警備体制の話をした。


 明日の午前中になにやら騎士の人たちやキャリルの家の人たち、プリシラの家の人たちが訪ねてきて相談をするとのことだった。


 それには父さんと母さんが応対することで話が付いた。


 夕食の後は早めに割り当てられている部屋に戻り、日課のトレーニングをしてから軽く読書をした。


「なんだか妙なことに巻き込まれた気がするけれど、元旦からこれじゃあ今年も色々あるのかな」


 ベッドに横になってそんなことを呟きつつ、あたしは目を閉じた。



挿絵(By みてみん)

ホリー イメージ画 (aipictors使用)




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