02.納得できるやりがい
花街の獣人喫茶『肉球は全ての答』の入り口から、やや気配を抑え気味にして入り込む。
すると店内にはペットらしき動物たちの姿があった。
前回訪ねた時よりもお客さんの姿も多い気がする。
土足禁止なのであたしはブーツを脱いで【収納】で仕舞い、絨毯の上を進んで店内に入って行く。
「いらっしゃい、今年もよろしくな。ってウィンじゃねえか。どうしたんだ?」
「こんにちはマリアーノさん、急に済みません。もしかしてペット関係のイベントでもしていますか?」
店主のクマ獣人のマリアーノに声を掛けられたので確認する。
イベントをやっているなら協力を頼むのは難しいかなあ。
「今年最初の『モフ会』を開催中だよ。客として来たならまた後で配る整理券を取ってもらってからになるが……、そういう顔でも無さそうだな。どうした?」
「実は今日、商業地区で買い物をしてたら、豹獣人の男の子を保護したんです。迷子に見えたんですけど、家族が魔神さまを信仰してて巡礼のために来たそうです」
「ふーん。魔神信仰ってことは共和国出身者か。それで?」
「その子はニコラっていうんですけど、連れて来てた飼いネコが逃げ出したようなんですよ」
「なるほど、それで相談に来たってか?」
「はい」
少し考え込んだ後、マリアーノが告げる。
「分かった。モフモフ絡みの話だったら俺よりもロレーナの方が確実だ。それに今日はモフ会ってことでデリック様も来てる。来な、相談するならそっちの方がいいだろう」
教皇様が居るのはちょっと計算外だけど、国教会での仕事とかはいいんだろうか。
あたしはマリアーノに促されて二階に上がると、そこもやはり沢山のペット達とお客さんたちの姿がある。
そして奥に進むと、ネコと遊んでいる二人の姿があった。
「デリック様、ロレーナ、悪いがちょっといいだろうか。ウィンが来たが相談事があるようだ」
「おやウィンちゃん、こんにちは。今年もよろしくのう」
「ウィン、今年もよろしくな。相談事って何だ?」
「こんにちはデリック様、ロレーナさん。よろしくお願いします。ええと結論を先に言えば迷いネコの捜索の相談なんです――」
あたしはマリアーノに説明した内容に加えて、ニコラを衛兵の詰め所に預けていることまで説明した。
説明を聞いて教皇様とロレーナが考え込む。
「旅先で飼いネコを見失うのは不安じゃろう。確かに力になってやりたいのう」
「そのニコラって子も根性があっていいじゃないか。親が見捨てようとしたのに諦めないのはいいことだ。きっと将来いいモフラーになるよ」
いいモフラーってなんだろう。
職業のひとつみたいに言われてもなあ。
あたしは思わずロレーナと教皇様の表情を伺ったけれど、その疑問の答えは不明だった。
ともあれ、二人は同情的ではあるようだ。
ここからは交渉というか、上手く協力を貰えないか頼んでみればいいだろう。
「お二人は王都のモフモフ愛好家の皆さんに顔が広そうじゃないですか? 今回逃げた飼いネコを探すのに、お力を貸してもらう訳にはいかないですかね?」
「吾輩で出来ることは構わぬよ」
教皇様は躊躇せず言ってくれた。
この辺は器の大きさを感じるよ。
「そうだね。わたしも協力することは構わない。連絡網に情報を流して探させることも良くある話さ。ただ、動機づけとか、何らかのメリットが無けりゃあ直ぐには手伝ってくれないだろうね」
ロレーナのいう事も理解できる。
いくら自分たちがイヌネコなどのペットを飼っていると言っても、自分たちの生活がある。
そこに動機づけも無く無報酬で頼み込むのは、ペット好きやモフラーというだけでは難しいだろう。
「動機付け、ですか」
「ああ、メリットとか報酬と言ってもいい」
「『やりがい』が言葉としては妥当かのう。ペットの迷子はよくある話じゃ。そのために協力できる仕組みはあっていいと吾輩は思うのう」
そう言って教皇様は抱えているネコを撫でる。
教皇様の言葉に周りにいるお客さん達も頷いたりしているから、納得できるやりがいを示せれば協力してもらえる訳か。
「やりがい……。メリット……。報酬……。動機付け……」
示されたキーワードを呟きながら、あたしはモフラーの人たちを動かす仕組みが出来ないかを考える。
ロレーナが情報を送れる連絡網という話だったけれど、このお店の常連さんがメインなのだろうか。
でも動物が好きな人なら、この店の交流会には興味があるんじゃないだろうか。
その人たちが連携して迷いペットを探す仕組みは作れるだろうか。
イベントに準じるものとして用意すれば行けるんじゃないだろうか。
たぶん行けるな、報酬に注意すればいいはずだ。
「あの、一つ思い付いたんですがいいでしょうか?」
「なにか案を思いついたかのう」
「迷いペットはよくある話で、探す仕組みはあってもいいとデリック様が言っていましたね」
「うむ」
教皇様は微笑んで頷く。
その様子を見てロレーナが告げる。
「わたしも同意するよ。それで?」
「言葉は良く無いかも知れませんが、探すことをある意味でイベント化したらどうでしょう。迷いペットをみつけた人には点数――ポイントがもらえるというイベントをするんです」
「ペットをみつけたからといって、金銭のやり取りをするわけでは無いと言っておるのかね?」
教皇様の問いにあたしは頷く。
「金銭が報酬だった場合、不正とか狂言とか自作自演をする人が居るかも知れません」
迷いペットを探すためのイベントを、不正の温床にするわけには行かないし。
「それを防ぐためにポイント制を決めて、高得点を競うランキングを行って、上位何人かにモフ会の整理券を報酬にするのはどうでしょうか? 半年とか一年間有効な整理券にするんです」
『おお~』
周りにいたお客さんが声を上げるけれど、どうやら話を聞いてくれているようだ。
興味を持ってくれたのだろうか。
「たしかに今でもモフ会の整理券は、本人しか使えないように【鑑定】でチェックしている。他人には使い道が無いから転売も防げるだろうね」
ロレーナが納得したような顔で告げる。
「モフモフ探索者……」
『えっ?』
教皇様が何やら呟いた言葉に周囲の人が反応していた。
「うむ、正式名称を『モフモフ探索者ランキング』、通称を『モフたん』として四半期ごとにランキング上位者を表彰するようにしてはどうかのう」
『賛成~!』
モフたん、か。
何やらユルい単語になってしまいそうだけれど、イベント化という案はゴーサインが出たのかも知れない。
「あと、見つけたひとが一人だけでポイントを取ると偏りそうじゃないですか? くじを使ってでもいいですから、チームを組んでもらって探すのはどうでしょう?」
「なるほど……、見つけた奴がいるチーム全員にポイントが貰えるようにするんだね」
「そうです」
『賛成!!』
「なかなか面白い話になってきたのう。吾輩としてはモフたんの開催は全面的に支持したいのう」
「わたしも賛成だよ。迷いペットの問題は前から気になってたし、うちの店としても協力できるところは協力したい。そうだよねマリアーノ?!」
そう言ってロレーナはマリアーノに同意を取る。
マリアーノはその言葉に苦笑いを浮かべた。
「俺が断る訳ねえじゃねえか。ペットの飼い主、ペットをみつけた奴、そして俺たちの店、全員にメリットがある。反対する理由は今のところはないぜ」
そう言ってマリアーノはサムズアップしてみせた。
「ふむそれでは『第一回モフたん』の開催じゃの」
『応~!!』
どうやら教皇様やロレーナを含め、その場にいたお客さん達も巻き込むことに成功したようだ。
あたしはようやく安どのため息をついた。
その後、今回の迷いネコの情報の話をしたり、チームの作り方の話をしたり、取りあえずの規則を決めたりした。
そして探索開始は一時間後となり、あたしはアルラ姉さんに【風のやまびこ】で連絡を入れた。
姉さん達は無事にニコラを両親に会わせることができたらしい。
そしていまニコラと両親と姉さんとリンジーの五人で商業地区を探しているそうだ。
「――ということだけど、そちらはどうなったの? 動物に詳しい知人に相談するって話だったわね?」
「その件なんだけど、ゴッドフリーお爺ちゃんの友達というかモフモフ仲間の人に相談したの」
「モフモフ仲間?」
アルラ姉さんが戸惑っていたので、獣人喫茶『肉球は全ての答』の説明から始めて、モフ会の話とモフたんの話を説明した。
「話は分かったけれど、お爺ちゃんて……」
何やらアルラ姉さんが呆れた口調で絶句してしまったけれど、気持ちは想像できる。
「いろいろ気になるところはあると思うけれど、今回はたくさんの人が協力してくれることになったから」
「分かったわ……。こっちのメンバーに伝えておきます」
そこまで話してあたし達は連絡を終えた。
そして、あたしが姉さんと話している間にも、モフたんの開始時刻が迫ってきていた。
アルラ イメージ画 (aipictors使用)
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