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03.実戦では使えないぞ


 あたしの逃亡は早々に失敗した。


 父さんが四、五人のグループを作るように指示を出したので、さり気なく気配を抑え気味にして訓練場の壁際に歩いて移動しようとした。


 すると父さんが小走りでやってきてあたしの肩を掴む。


「ウィン、おまえも参加しておけ」


「えー。あたしは今日はみんなを紹介するために来たんだよ?」


「うん、そう言うだろうと母さんが言っていた。『もし逃げるようなら明日からの鍛錬は重めにするわ』とか伝言があったぞ」


 あたしはその言葉で固まってしまった。


 何という事だ、ブルースお爺ちゃんちを出た段階で勝負が決まっていたとは。


「でも『逃げずに参加したら、年内の鍛錬はお休みにします』とも言ってたぞ。……どうする?」


「分かったわよ。参加するわ……」


 完全にあたしの動きが読まれている気がするけど、さすが母さん(ラスボス)だ。


 あたしがしょっぱい顔をして応えると、父さんは嬉しそうな顔をしていた。


 まあ父さんが嬉しそうならいいか。


 その後、どのグループに入れてもらうか考えながらトボトボと歩いていると、声を掛けられた。


「おーいウィン君。僕らのグループに入らないか?」


「カール先輩? まだあたし入れます?」


 視線を向けるとカールは頷いてくれたけれど、すでに四人集まっているようだ。


 メンバーはカールとジンとライゾウと、もう一人は竜征流の門人だろう女性の冒険者っぽい人だった。


 あたしは挨拶をしつつグループに加わった。


 その後講習会が始まったけれど、父さんとウォーレン様が訓練場の真ん中でテーマに沿った約束組手の実演をしてみせた。


 それほど速度は出ていないのだけれど、きれいな動きだなと思う。


 約束組手は型稽古の一種で、あらかじめ決められた動きを二人組で行うトレーニングだ。


 決められた動作とはいえ、父さんとウォーレン様の動きには隙が無く無駄がない。


「それではみんな、武器を選んで始めてくれ!」


『はーい』


 父さんの案内で、あたし達は訓練場の一角に用意された練習用の武器の所に集まった。


「それでこの中から武器を選べと?」


「そのようですねウィンさん。わたし達のグループではライゾウさんが刀を知っているようですし、良かったら刀をお教えしますよ?」


 使う武器はあらかじめ用意された木製武器だ。


 両手武器を使うメニューでは、ふだん片手武器を使う人も両手武器を使うように指示が出ている。


 カタナは興味が無いわけでは無いけれど、あたしが自分で両手武器を一つ選ぶなら、決めている武器がある。


「うーん、ありがたい申し出ですけれど、今日はジンさんやライゾウ先輩も参加者じゃないですか。あたしを教えるのに、お手間をとらせるわけにはいかないですよ」


「そうですか?」


「ええ。それに一度試してみたかった武器があるんです」


 そう言ってあたしは木枠に立てかけられた木製の両手斧を手に取った。


 そしてそれをジンに示すと彼は微笑む。


「分かりました。こういう機会に試したいことは試したほうがいいでしょう」


 他のメンバーのところに集まると、カールと女性冒険者は両手剣を手にしていて、ライゾウはエルヴィスが普段使うようなグレイブ (西洋薙刀)を手にしていた。




 結局あたしは両手斧を振るってカール達と約束組手を行った。


 今まで自分で手にしたことは無かったのだけれど、頭の中には父さんが両手斧を振るう動きがある。


 もちろん見ているだけでその武器を同じように使える訳はない。


 ただそれでもミスティモントで、父さんがウォーレン様とスパーリングという名の潰し合いを行ったり、クマなどの獰猛な獲物を狩るのを見てきた。


 その動きをイメージしながら体を動かした。


 参考にしたのは手で振るのではなくて、父さんが体重移動で武器へと自身の重さを込めていくイメージだ。


 地元で(きこり)のおじさんたちが、魔法とかじゃなくて両手斧で木を切る光景も覚えている。


 お爺さんの樵でも木を切っていたけれど、たぶんあれは重心とか体重移動とかで切っていたんだとおもう。


 両手武器という意味では、護身術の杖術もいちおう同じカテゴリーかも知れない。


 でも実際に振るっていると、両手斧はもっと「威力」をイメージしやすいことに気づく。


 両手斧が向かう先に、重力で落下していくようなイメージというか。


「ウィン、なかなか上手に斧が振れてるじゃないか。ブラッドに久しぶりに稽古を付けてもらったって感じか?」


 カールと約束組手をしている時に、横からアーウィンに声を掛けられた。


「おはようございますアーウィンさん。父さんから稽古、ですか? とくにそういうのは無いですけど」


「なんだそうか。普段から自主トレで頑張っているんだな。腰も入ってるし、一撃ごとの動きがキレイだ!」


 何やらアーウィンは勘違いしている気がするな。


「ええと、父さんの動きをイメージしながら、重心を意識して振るってるだけですよ? 両手斧を振るったのは今日が初めてですけど」


「「「なにーーーッ?!」」」


 あたしの言葉でアーウィンとカールと女性冒険者が声を上げた。


 ジンとライゾウは薄く笑みを浮かべているな。


「そ、そうか。確かにまだまだ甘い部分はあるが、月転流(ムーンフェイズ)を優先して練習しているからそうなったのかと思ったぞ!」


 そりゃキチンと両手斧を振るったのは今日が初めてなんだし、甘い部分は多いでしょうよ。


 フェイントとか細かくは分かんないし、両手斧を実戦では使えないぞあたしは。


「何となく小さい頃から父さんが両手斧でクマを倒すのを見たり、ウォーレン様と強めのスパーリングをしてるのを見てるんです」


「「クマを倒す……」」


 カールと女性冒険者が何やら呻いている。


「それに地元にはお爺ちゃんの樵さんとか居て、力じゃ無くて重さとか体重移動で斧を使ってるのを見てたんです。あたしでもマネするだけならいけるかなって思って」


「そうかそうか、さすがだウィン!! おまえは間違いなくブラッドの娘だよ!!」


 アーウィンはそう言いながらあたしの両肩をむんずと手でつかんで、ガクガク前後に揺らした。


 あたしはシェイクされながら、とりあえず両手斧の動きを怒られなかったからいいかと思っていた。




 講習会自体は順調に進み、片手武器や格闘術を使った約束組手も行った。


 両手武器を持った相手に、自分が片手武器や格闘術で有利に動くという点を意識するように言われ、テーマごとにみんなで身体を動かした。


 そして最初の説明のときにライナスが質問して、父さんが『多対一』の約束組手をやるとか言っていたのも実際に行った。


 あたし達のグループは落ち着いた感じで行っていたけれど、周りでは色んな声が飛び交っていた。


「もっと殺気を込めて下さって大丈夫ですわ!」


 キャリルよ、約束組手に何を求めてるんだ。


 エリカはニコニコしながらそれに応じているけど、殺気とは何だったろうか。


「ちょーっと隙があるかな、約束組手だからって気を抜いたらケガをすると思うよ」


 尻尾をぶんぶん振りながらニコラスが動き回っているけど、あの尻尾の方が隙だらけな気がする。


「ねえみんな、これは約束組手じゃないかい? タックルを仕掛けてくるのは違うと思うんだ」


 エルヴィスは竜征流の門人の女性メンバーに何やら凄い勢いで抱き着かれそうになっているけど、攻め手は全く武器とか関係なさそうだなアレ。


 一方、コウやライナスは卒なく約束組手をこなしている。


 カリオは意外にもと言ったら失礼だけれど、『多対一』の一人の方の人にアドバイスしたりしていた。


 ともあれ、テーマごとの約束組手が終わったので、軽めのスパーリングをすることになった。


 相手は好きに決めていいという話だったので、せっかくだから竜征流の人と打ち合うことにした。


 誰にしようかと思ってキョロキョロしていると、カールに声を掛けられる。


「ウィン君、相手が決まっていないならお願いしていいだろうか?」


「あ、はい。竜征流の人とスパーリングをしようと思ってたんで、ぜひ」


 キャリルやエリカとはいつでもスパーリングは出来るだろう。


 コウやカリオやライナスとは武術研究会でいつも手合わせしている。


 というか、学院の人とはふだん手合わせする機会があるかも知れないんだよな。


 でもカールとは風紀委員会を除けば狩猟部での接点しかないし、スパーリングする機会も無いからいいか。




 訓練場で適当に広がって、ウィンとカールは軽めのスパーリングを始めた。


 すこし離れた位置でウィンは木製の短剣を二本構え、カールは木製の両手剣を構えている。


 その状態から互いに無造作に歩み寄り、カールが両手剣の間合いに入ったところで水平の斬撃を繰り出した。


 ウィンは大きめに後ろに避けた後、斬撃を繰り出して背部が見えているカールに近づき、腰部へと短剣で斬撃を繰り出す。


 だがカールはウィンがそう来ると想定していたため、武器の重心が水平移動する力を使ってそのままウィンの斬撃の間合いから身体を外す。


 そして振り切った両手剣を切り返し、カールはウィンに対して斜めの斬撃を繰り出す。


 だがそれはフェイントで、途中で止めた剣身から突きの連撃を繰り出し始めた。


 ウィンは短剣と、属性魔力で形成した刃で往なしながら、カールの突きの引き手に合わせて踏み込んだ。


 カールはそのまま水平に剣身を振るってウィンに応じる。


 だがウィンはこれを両手の短剣で十字に受けながら前方宙返りしつつカールの剣を飛び越える。


 同時に威力を弱めた魔力の刃でカールの首筋を撫でようとするが、カールは片手を剣から離して魔力を込め、自身に迫る魔力の刃を防いだ。


 そして二人は武器を構えて向き合い、動きを止める。


「それはいちどポール師範との試合で見せてもらったからな」


「そういえばそうでしたね。まだ続けます?」


「可能ならもう少し頼んでいいだろうか」


「分かりました。もう少し速度を落としてやってみていいですか?」


「ああ、頼む」


 そうしてウィンとカールは軽めのスパーリングをして過ごした。



挿絵(By みてみん)

カール イメージ画 (aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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