表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
430/910

02.皆さんの側ってどちら側


 竜征流(ドラゴンビート)の本部に到着した父さんたちが、あたしの方に歩いてきた。


 もちろんジェストン兄さんやバートも一緒だ。


 三人とも軽く身体強化を掛けた状態で走ってきた感じだから、疲労感などは無いと思う。


「父さんお疲れさま」


 それでもお疲れさまって声をかけちゃうんだけどさ。


「ああ、これで全員かウィン?」


「まだキャリル達が来ていないけれど、大体これくらいね。竜征流の門人のひとも二人ほど居るかしら」


 あたしと父さんのやり取りを見ている人も居るな。


 とっとと紹介してしまおうか。


「なあ、挨拶でもするか?」


「あたしも父さんを紹介しようかと思ってたんだけどね。ただそういうのって、屋外でやってしまっていいものかしら?」


 現状では竜征流の本部の建物前に集まって、みんなでお喋りしている感じだ。


 そもそもの目的からすれば、父さんの伝手でみんなを竜征流の本部に紹介することになっている。


 ここで父さんを紹介して終わりというのも中途半端な感じはするか。


「それじゃあここで簡単に名乗って、キャリル様が来た段階で中に移動して、改めて名乗る感じにするか?」


「そうだね。それでいいと思うわ」


「わかった。――皆さんおはよう! そして初めまして。おれはウィン・ヒースアイルの父のブラッド・ヒースアイルだ。また後で訓練場の中に移動してから自己紹介するが、今日はよろしくお願いします」


『よろしくお願いします!』


「皆さんには竜征流の王国の本部長を後ほど紹介する。まだ来ていない人が居るので、このままもう少し待っていてほしい。その間、ここに集まった人らは誰かの知り合いだろうから、互いに気軽に挨拶して人脈を広げておいてください」


『はーい』


 なかなか慣れた感じで話しているな。


 もともと冒険者だし、父さんはミスティモントの冒険者ギルドで相談役をしている。


 冒険者に接する機会も多いだろうから、人の前で話すのは苦にならないんだろう。


 みんなの方を見ていると、父さんに促されたのをきっかけに互いに自己紹介を始めていた。


 そんな中、コウとジンとエルヴィスがあたしと父さんのところにやってきた。


「おはようございますブラッドさん。今日はよろしくお願いいたします」


「「よろしくお願いいたします」」


 そう言ってジンとコウはお辞儀をして、エルヴィスが一礼した。


「おはよう。ええと、お辞儀をしたのは鳳鳴流シンギングフェニックスの二人だな、よろしく。話は聞いているよ。そちらのお兄さんは?」


「はい、エルヴィス・メイと申します。屹楢流(シェヌモンタン)を修めています。妹のディアーナを先日保護して下さった件では、こちらのジンさんとコウと、ウィンさんにはお世話になりました。ありがとうございました」


 その話を聞いて父さんはエルヴィスに近寄り、すこし声をひそめて告げる。


「妹さんの件はウィンから聞いている。微力でもお手伝いできて良かった。これからも大変かもしれないが、いつでも相談してくれ」


「ありがとうございます」


 父さんを始め家族とお爺ちゃんたちには『魔神の巫女』であるディアーナの話をしている。


 いちおうここだけの話ということで伝え、王国が保護していることも伝えてある。


 その身内のエルヴィスがいきなり礼を言いに来た訳だけど、父さん的には社交辞令とかじゃなくて親身な感じで応じていた。


「それでエルヴィス先輩、ディアーナさんはどんな感じですか?」


「ああうん。やんごとなきお方からの指示で教師を付けてもらってね、転入試験のための勉強を始めているよ」


「学院に入ってくるんですよね? 何年生ですか?」


「魔法科の初等部一年で、ウィンやコウと同じ学年だとおもう。年齢的にはキミたちのひとつ上なんだけどね。学院で見かけたらよろしくね」


「あ、はい、分かりました」


 そうか、同学年になるのか。


 学院には浪人して入学する子も居るし、何才か上でも別に気にする人は居ないんじゃないかな。


 どのクラスに入るのかは分からないけれど、ディアーナはマジメそうな感じだった印象がある。


 生徒によってはとっつきにくく感じるかも知れない。


 その時は声を掛けてみようかと、あたしは考えていた。




 少しして一台の馬車がやってきた。


 竜征流本部の敷地には入らなかったけれど門に横付けする形で止まり、中から護衛の“庭師”二人とエリカを連れてキャリルが降りてきた。


 そしてキャリルの後から冒険者が着るような戦闘服を着てロングコートを着込み、ウォーレン様が最後に降りてきた。


 いやまあ、気配で察していたのだけれど、何でウォーレン様がここに居るのかはあたしは分からなかった。


「おはようございますウィン」


「おはようキャリル。ウォーレン様も来たのね」


「ええ。昨日の段階でブラッド様がこちらに来られることは、父上に伝えましたの。そうしましたら絶対に行くのだと参加を決定しまして」


「ふーん」


 父さんとウォーレン様が親友になったのは、この竜征流本部で知り合った縁からなんだよな。


 そういう意味では二人にとってはここは庭みたいなものなんだろうけれど。


 ウォーレン様に視線を移すと父さんに歩み寄り、二人でグータッチをしているのが見えた。


 何かしゃべっているけれど気軽な感じだ。


 父さんとウォーレン様ならミスティモントで会う機会もあるし、いつもの感じで接しているんだろう。


 キャリルも到着したので父さんはみんなに訓練場に移動するよう促した。


 そしてあたし達が中に入ると、そこにはざっと見て四十人弱の人たちがトレーニングに励んでいた。


 本部長のアーウィンや師範のポールに、名誉師範のマイルズさんの姿もある。


 アーウィンがこちらに視線を向けると父さんが手を振り、それが合図だったのかアーウィンが門人たちのトレーニングを止めさせて集めていた。


 その一団にあたし達は近づいていき適当にそこに加わると、父さんとウォーレン様が前に出てアーウィンたちと並んだ。


 そしてアーウィンが口を開く。


「さて、改めてみんなおはよう! 今日初めて会った連中に自己紹介しよう! オレはアーウィン・バーネットだ。正式な肩書は『竜征流指南所ディンラント王国本部本部長』だがクソ長い。アーウィンとか本部長とか呼んでくれればいい。よろしくな!」


『よろしくお願いします!』


 アーウィンは相変わらず人懐っこい感じの笑顔を見せるおじさんだ。


 でもこう見えてどうやらバトルマニアらしいのは、前回訪ねたときの言動で判明している。


 今回は幸いあたし以外にも標的が居るし、あたしは息をひそめていよう。


 アーウィンの挨拶の後もポールさんやマイルズさんが簡単に自己紹介した。


 そして父さんも自己紹介をする。


「おはようございます。おれはブラッド・ヒースアイルです。今の肩書は冒険者ギルドミスティモント支部相談役ですが、家の仕事は狩人をしています。マイルズ師匠の弟子で、竜征流の腕前としては師範代クラスまでは鍛えてあります。よろしく!」


『よろしくお願いします!』


 その場に集まった人たちの反応も普通だった。


 問題というか、ウォーレン様の自己紹介でみんなは戸惑っていたとおもう。


「おはようございます。わたしはウォーレン・グラハム・カドガンです。武門の貴族家の生まれですが、どちらかといえばわたしは皆さんの側の人間です。大剣や両手斧を振り回すのが大好きな人間です。マイルズ師匠に鍛えられていますので相応に頑健ですから、我こそはという方は遠慮なくいつでも試合を申し込んでくれて結構です。よろしくお願いいたします」


 皆さんの側ってどちら側なんだろう。


 あたしは自分の事を、試合開始直後に豹変して危険人物っぽいことを叫びながら突撃するタイプではないと思っているのだが。


 微妙にざわつきがあったものの、その場に集まったみんなは『よろしくお願いします!』と元気に挨拶をしていた。




 アーウィンたちが自己紹介を終えたあと、父さんからみんなに今日の流れの説明があった。


「すでに聞いている人も居るかも知れないが、今日はミスティモントの冒険者ギルドで行われている冒険者向けの講習会を、もう少し具体性を持たせた内容で行います――」


 父さんは以下の内容を説明した。


 ・四、五人程度のグループを作り、その中に必ず一人以上片手武器や格闘術などを使う者を含める。


 ・最初に『両手武器や大型武器の特徴』についてテーマごとに約束組手を行う。


 ・『両手武器や大型武器の特徴』は、「一撃の威力」、「武器の大きさの利用しやすさ」、「攻防一体に行う場合の取り回しやすさ」の三つ。


 ・次に『片手武器や格闘術などの特徴』についてテーマごとに約束組手を行う。


 ・『片手武器や格闘術などの特徴』は、「速度などの取り回し易さ」、「柔軟な機動による虚実の作りやすさ」、「携行性の良さによる戦域への対応力」の三つ。


 ・最後に約束組手の練習内容を踏まえて軽めのスパーリングを行う。


「――ということだ。ここまでで質問はあるだろうか?」


 父さんがその場のみんなに呼び掛けると、ライナスが手を挙げた。


「俺はライナス・ディーンといいます。今日はよろしくお願いします。それで質問ですが、片手武器の約束組手で、「携行性の良さによる戦域への対応力」というのは何を指していますか?」


「うん、分かりづらい内容だとは思った。カンタンにいえば「地の利をどう生かすか」という話で、例えば森の中や建物中だと両手武器は普段通りには使えない。でも片手武器や格闘術は、それを有利に使える」


「とても分かりやすいです。【土操作(ソイルアート)】で狭い通路でも作るのですか?」


 ライナスが何やら前のめりな感じで父さんに問う。


「それも悪くはないが、今回はこの人数なので『多対一』で間合いを意識した約束組手を行う予定だ」


『おお~』


 なぜか父さんの説明でその場に集まった人たちの多くが声を上げた。


 武術が好きな人には引っ掛かる内容だったんだろうか。


 そう思ってふとあたしの隣にいるキャリルに視線を向けると、嬉々とした表情を浮かべていた。


 あたしはこの段階で、どうにか見学か逃亡を選べないかを考え始めていた。



挿絵(By みてみん)

ライナス イメージ画 (aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




おもしろいと感じてくださいましたら、ブックマークと、


下の評価をおねがいいたします。




読者の皆様の応援が、筆者の力になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ