09.淡々と事実だけを話せば
ティルグレース伯爵家の応接間で、みんなとカスタードプリンを食べていたあたしだったが、想像以上の出来の良さに大満足していた。
お代わりも多めにあると言っていたので、当然のごとく頂こうとしたところで魔法で連絡があった。
「こんにちはウィン。いま大丈夫かい?」
「こんにちは、大丈夫よコウ」
「昨日はお疲れ様だったね。それで疲れているところに急な話で申し訳ないけれど、竜征流の本部に紹介してもらう件を明日にしてもらうことはできるかい? ジン兄の休暇の関係で、他に都合がつかないんだ」
ああ、そういえばジンもコウと一緒に盛大に『諸人の剣』に巻き込まれていたな。
もともとあの人はフラムプルーマ伯爵家で働いているはずなのにコウと一緒に居たけど、休暇中に巻き込まれたのか。
それはちょっと可哀そうかもしれない。
「分かったわ。もしかしてジンさんは昨日、休暇中に巻き込まれたのかしら?」
「そうなんだ。三日ある休暇の初日に被さってね。ボクと食事を取っているところに同行されたのさ」
「それはお気の毒さま」
「いや、デイブさんやグライフさんや、あんなことが無ければ知り合えない人たちと縁を作れたって嬉しそうにしていたよ。ちょっと珍しいくらい機嫌が良さそうだった」
そういうものなんだろうか。
あたしからしたらデイブとかは主に性根の面でいろいろと問題がありそうな大人だったりするけれど、あれでも月輪旅団の王都の取りまとめ役ではあるんだよな。
グライフとかノーラは高ランクの冒険者だから、ジンにとってはいい伝手が出来たのかも知れないけれど。
「機嫌がいいなら良かったわ。――たぶん大丈夫だと思うけれど、ちょっと父さんに確認してみます。折り返し連絡するわ」
「うん、ありがとう」
そうしてあたし達は一度連絡を終えた。
「ウィン、何か用事でも入りましたの?」
「ううん、ちょっとコウから連絡が入ったのよ」
「へー。やっぱりコウとウィンは付き合ってるのー? デートの相談かしら? 気を付けないと『美少年を愛でる会』にバレると横やりが入るわよー」
キャリルに訊かれたので応えると、ホリーが横から不穏なことを言い始めた。
めんどうな誤解をこじらせる前に説明をしておこう。
「そんな事実は無いわよ。コウってカタナを使うんだけど、両手武器つながりで竜征流の本部に紹介するってことになってるの」
「ああ、そういう系の話なんだー。でもウィンて竜征流とつながりがあるの?」
「まあね。父さんが王都の竜征流の道場で皆伝を取ったから、本部に知り合いがいるのよ。それであたしもつながりがある感じね。今ちょうど王都に父さんと母さんが来てるし」
「なるほどー。……あれ、でもそれってウィンのお父さんにコウを紹介するってことよね?」
何やら微妙にニヤケた顔でホリーがそんなことを言う。
ホリーめ、分かっててあたしを弄り始めてるな。
淡々と事実だけを話せばいいだろう、うん。
「紹介するのは別にコウだけじゃ無いわよ? 元々はコウとお兄さんのジンさんの二人だったわ。そのあとちょっと話が広がって、カリオやエルヴィス先輩や、ライゾウ先輩にライナス先輩なんかも行くみたい。もう数名増えるかも知れないけれど」
たしかカリオが、フレディとニコラスを連れて行くかも知れないんだよな。
「凄いわね。それってウィンと見合いをする集まりじゃ無いのよね?」
「どうしてそうなるのよ?! ちがうわよホリー」
「ごめんごめん、冗談よ。でも竜征流の本部か。有名だけど行ったことが無いわねー。興味はあるけれど、我が家の方針からすると気軽には行けないかなー」
ホリーの実家のクリーオフォン男爵家は、諜報で王国に貢献しているらしい。
あまり大っぴらに色んな武術流派の道場を渡り歩くのは、好ましくないのかも知れないな。
その時あたしはギラっとした感じの、闘志みたいな気配を感じた。
微妙にイヤな予感がしつつそちらに視線を向ける。
そこにはニコニコと笑顔を浮かべたキャリルがいて、こちらを見ていた。
「ウィン、詳しいお話をわたくしにも聞かせてくれますわよね?」
「あ、はい」
どうにもあたしに有無を言わせない雰囲気だった。
キャリルにぜんぶ説明した結果、彼女の参加も決定した。
父さんに明日の日程で大丈夫かを確認してからと予防線を張ったのだけれど、ダメならその時はシャーリィ様を経由してねじ込ませるという話 (意訳)だった。
あたし達のやり取りを聞いていたシャーリィ様は、護衛二人とエリカを連れて行くならキャリルの参加は問題無いと笑っている。
「竜征流本部は私も興味があるけれど、さすがに私が行く訳にはいかないからね」
ウォーレン様との約束で、シャーリィ様が練習目的で暴れる――武の腕前を披露するときは王城内でということになっているそうだ。
その理由は「ズルイから」ということらしいけれど。
ウォーレン様自身は、色んな流派の道場での出稽古を行いたいらしい。
でも主として伯爵家の仕事のせいで、そういう時間を作れないようだ。
ともあれあたしは【風のやまびこ】で父さんに連絡を入れると、二つ返事で了承された。
毎年この時期には他の土地に出た門人の一定数が本部を訪ねるそうだけれど、父さん曰く「たまには他流派の人を多く招くのも刺激になるだろう」とのことだった。
その結果をキャリルに説明してから、コウにも魔法で連絡した。
コウは「あとの連絡はこちらで済ませる」と言っていたので、あたしは全部任せた。
というか今回は『紹介』が目的なんだから、巻き込まれないようにしないとな、うん。
その後あたしは無事にカスタードプリンのお代わりを食べ、とても満足した。
それで用事も済んだので、あたしは帰らせてもらうことにした。
キャリル達はウェスリーも加えて、夕方までスパーリングを行うという。
ロレッタ様やシンディ様も見学を止めて自室などで過ごすと言っていた。
シンディ様は魔法のことで困ったことがあったら、いつでも自分やロレッタに相談していいと言ってくれた。
感謝を伝えながら、それはもう是非にとお願いしておいた。
魔法は戦いだけじゃ無くて色んな側面があるし、相談できる人が増えるのは凄くうれしかったりする。
「それでは失礼します」
あたしは訓練場でみんなに挨拶をして、通用口から出て伯爵邸の外に出た。
王都の路上に出てから内在魔力を循環させてチャクラを開き、身体強化を行ってから場に化して気配を消した。
その状態で王都を駆け、賛神節が行われている中央広場に向かった。
中央広場に移動して最初に気になったのは、やっぱり動物たちの存在だ。
昨日の夕食でバリー伯父さんが教えてくれた通り、賛神節は毎日モフの日になったようだ。
不思議なのはその告知だ。
タイミング的にどう考えても早すぎる。
神託を受けてから国教会が動物を連れて来るように王都市民に周知しても、その当日にこんなにたくさん動物たちが集まるとも思えない。
いや、教皇様や獣人喫茶のロレーナが、モフ仲間に連絡して回った可能性はあるのか。
そんなことを考えながら中央広場を歩く。
『魔神騒乱』の翌日だというのに、これだけ人が集まって神々に祈りを捧げているのは凄いなと思う。
人混みで見えづらくなっているけれど、広場の石畳はところどころで修復されている。
広場の中央には昨日用意されていた舞台と同じようなものが設置されていて、その上には祭壇と椅子がある。
聖歌隊も昨日と変わらないし、祭壇前で祈祷を進める教皇様も変わらない。
けれど今日は、王族の皆さまの姿は、レノックス様と二人の王妃様達だけになっている。
陛下は性格的に暴力には武で応えそうなイメージがあるし、昨日の天使が暴れた件で不満をもつ人たちの襲撃なんかを警戒してとかは無いだろう。
今日居ないのは単純に『魔神騒乱』の対応で忙しいからだと思う。
それでお鉢が回ってくるレノックス様もお気の毒だけど、賛神節では毎年のことみたいだから『置物』はいつも通りなのかも知れないな。
案外、自分も王宮とかで仕事を任された方が良かったと思ってそうな気がした。
中央広場を少し歩いてみたけれど、人が多すぎて知り合いの気配だけを探すのはどうにもムリそうだ。
【風のやまびこ】で母さんたちに連絡して合流してもいいけれど、たぶんもう昼食とか済ませてブルースお爺ちゃんちに戻っている気がする。
「まあいいか」
ポツリと呟いてあたしは立ち止まり、中央の舞台の方に身体を向けて胸の前で指を組み目を閉じる。
「薬神さま、ソフィエンタ、本来のミサの目的通りに祈るわ。今年もありがとう。来年もよろしくね」
その瞬間、あたしの周囲から聖歌隊の合唱や雑踏の音が消える。
思わず目を開けるとそこは真っ白な空間で、目の前にはソフィエンタの他に長身の男性が佇んでいた。
「こんにちはソフィエンタ。あと、もしかして磔にされてた人ですか?」
「こんにちはウィン」
「こんにちは、初めまして。確かにぼくは磔にされてたけど、初対面でその言い方はちょっとどうかと思うよウィン」
ニコニコと微笑むソフィエンタの横に立つ男性は、苦笑いを浮かべていた。
ジン イメージ画 (aipictors使用)
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