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05.神々の戦略として


 キャリルに請われて、『魔神騒乱』であたしの見聞きした情報を話すことになった。


 そのついででお昼もどうぞと言ってくれたので、心の中でわりと小躍りしながら来たら、目の前にはラルフ様を除くティルグレース伯爵家の皆さまが待っていた。


 微妙にキャリル嵌められたような気がしないでも無いけど、昼食に釣られた時点でどう考えても自業自得である。


 あたしはある種の観念をして、皆さまに挨拶した。


「こんにちは皆さま、ご無沙汰しております。ウィン・ヒースアイルでございます」


「あはは、ウィン。わたし達の前ではキャリルに接するようにしてくれて構わないよ。ブラッドの子なら娘とは言わないけど、親戚の子みたいなものだから」


 そう言ってウォーレン様が笑う。


 あたしが通されたのは大きなテーブルのある応接間だ。


 虚飾を好まないティルグレース伯爵家らしく、抑制された品のいい飾りつけの部屋だった。


「何はともあれ座りなよウィン。キャリルから君が来るという話を聞いて、みんなで待っていたんだ」


「あ、はい」


 シャーリィ様に促されて、あたしは開いている席の一つに座った。


「それで、『魔神騒乱』の話でしたね?」


「そうですわウィン。あなたは『諸人(もろびと)の剣』として、問題の解決に関わったと聞いています。あなたの知る限りの情報を教えて欲しいのです」


 キャリルがそう言ってくるけれど、あたしが巫女だという情報とか他の巫女や(かんなぎ)の情報は出せないんだよな。


 一応その辺りもディアーナからの説明で、言い逃れるためのシナリオを教えてもらっているけど。


 しかも複数の神々のお墨付きで、【真贋(オーセンティシティ)】でも真実とできるよう特別に設定された話だ。


 何でも神々の戦略として、巫女や覡の細かい動きは当面のあいだ、出来るだけ人間社会には秘密にするらしい。


 邪神群への対策らしいけど、戦略に関する詳細な説明までは無かった。


「わかったわキャリル、皆さま。あくまでもここで語る内容は、極秘ということにしておいて下さい」


「分かっている」


 ウォーレン様がそう言って微笑んだ。


「当日あたしは家族と親戚とで、賛神節(さんじんせつ)を見学しようと中央広場に居ました。すると月輪旅団の取りまとめ役であるデイブから連絡があり、大至急自分の店に来て欲しいとのことでした――」


 実際の行動とはちがうけれども、あたしは当日の行動の説明をした。


 ちがう部分はまず、豊穣神さまからの神託によって、ディアーナが月輪旅団の取りまとめ役を頼ったことにしたところだ。


 これによりデイブとブリタニーがグライフやノーラを呼び寄せ、あたしが同年代だからという理由で声を掛けられたことになった。


 だがディアーナに会ってみると、風紀委員会の先輩であるエルヴィスの身内と判明し、エルヴィスに連絡をしようとしたが繋がらない。


 彼と仲がいいコウに連絡をしたら商業地区に兄と居たので合流した。


 そのメンバーにディアーナが神託に従って、『このままでは大変なことになる。諸人のための力となってください』と頼んだ。


 彼女の言葉を受け、グライフが自分たちを『諸人の剣』と呼んだ。


 色々とウソが混じっているけど、そういう話にしようということでディアーナからは説明があった。


「全くウィンは、――その段階でわたくしも呼んでくれれば良かったのですわ」


「そうもいかなかったのよ。ディアーナの説明で、時間との勝負だって分かったからみんなそれに従ったの」


「それで、続きはどうなったんだい?」


 シャーリィ様が興味津々といった表情を浮かべて問いかけてきた。


 キャリルやウォーレン様も似たような視線を向けて来るし、ロレッタ様やシンディ様などは手元の手帳に何やらメモを取っている。


「そうですね。ディアーナから説明をされたのは、四人の人間に特殊な属性魔力を預けるので、同時に魔神になりつつある男性に触って欲しいというものでした――」


 あたしには風属性魔力、コウには火、グライフには地、ノーラには水を預けた――と皆さんに話す。


 ノーラがその時ディアーナに確認した話では、預かった魔力には神気が混ぜられて特殊な状態になっているとのことだった。


 ディアーナに関しては、光と闇の属性魔力を保持した状態になっていたと説明があった。


「よく分かりませんが、ディアーナの話では光と闇の魔力については、『魂の能動』と『魂の受動』という単語を使っていました」


「非常に興味深いお話ですわウィン。ディアーナという子は何才くらいの子なのでしょうか?」


「見た目からすれば、あたしと同年代くらいだと思いますシンディ様」


 あたしの言葉に頷いた後、シンディ様は同じくメモを取っていたロレッタ様となにやら頷き合っていた。


 ここまで話した内容もディアーナから説明された内容で、それをそのまま第三者に話せば専門家が勝手に解釈してくれるという話だった。




 その後は冒険者ギルド屋上に移動して王国側の戦術魔法と竜魔法を待ち、突入して魔神に成ろうとしていた男性に触れた話をした。


 途中に居た権天使(ごんてんし)は耐久力に全振りしている個体だったので、隙を見て出し抜いたという説明をした。


 光柱から男性が消えた後は説明のために国教会を訪ね、ディアーナが『魔神の巫女』として陛下と教皇様に説明した内容をキャリル達に話しておいた。


「――ということです。個人的な意見ですが、当分のあいだ王都は魔神信仰の聖地の問題で色々とさわがしくなるんじゃないかと思っています。以上です」


「非常に分かりやすい説明でしたわウィン。ありがとうございました」


 シンディ様はそう言って満足げな表情を浮かべている。


 とりあえずディアーナから聞いている内容は、間違えずに説明できたと思う。


「そう言えばウィン……、あなたは神さまから『魔神の巫女』を助けた報酬で魔法を覚えられるのよね?」


「そうですよロレッタ様」


「どの魔法にするのかは決めてあるの?」


「まだ考えてるんです。月輪旅団の仲間からは【生命圏(ライフスフィア)】って特級魔法を勧められました」


 あたしとしても他に良さそうなのが無いのなら、それでいいかなって思い始めてるけれど。


 ロレッタ様は少し考えてから口を開く。


「お婆様、どう思われますか?」


「そうですね。地魔法と風魔法から選べるのでしたか?」


「はい、シンディ様。よく分かりませんが、あたしの場合はその属性から選べることになったようです」


「そうですか……。ウィンは“単一式理論シングル・フォーミュラ・セオリー”について聞いたことはありますか?」


「え、はい。“操作に関わる魔法”を極限まで鍛えると最強の魔法に化けるとか、そういうカンジでしたでしょうか?」


 もともとはプリシラが、自分ちのお婆さんに相談したときに教わった話だったか。


 でもその方って、シンディ様とライバルだったっていう話もあった気がする。


 ロレッタ様から聞いた話だな。


「そうですわウィン。それを知っているなら話が早いです。わたくしが勧めるとすれば、風の特級魔法である【振動圏(シェイクスフィア)】ですわね」


「シェイク……。振動の効果を持つ特級魔法ですか?」


「ええ、覚えた段階で攻撃と防御と調査と回復に使えます。特級魔法ですから、魔力消費はかなり多いですけれどね」


 シンディ様の説明で、サラが上級魔法の【水壁(アクアウォール)】を使ってくたびれた顔をしていたのを何となく思い出す。


 それでも『攻撃と防御と調査と回復に使えます』っていうのは凄そうだ。


「ですが“単一式理論”に従って振動を極めれば、疑似的にすべての魔法を再現できる万能の魔法とわたくしは考えていますわ」


 さらにすごい情報を聞いてしまったぞ。


 それって最強の魔法なんじゃ無いのかと思いつつ、振動の魔法が何でそんなことになるのかを少し考える。


 そして、ある可能性に思い至った。


「もしかして、風の特級魔法と言いつつ、振動させているのは空気じゃ無くて魔素ということですか?」


「正解ですわ。魔素が振動することで、魔力の波が生まれます。魔力の波はその波長によって様々な属性に分かれるのです」


 シンディ様は嬉しそうに微笑む。


 いや、話を聞く限りだと確かに凄いけれども、そんなことが可能なんだろうか。


「回復に使うならこのようになるでしょうか」


 次の瞬間、シンディ様に濃密な風属性魔力が集中したと思うと、部屋の中を心地よい魔力が通り抜けた。


 それは波のようでもあり、風のようにも感じられた。


「無詠唱で【振動圏】を使ってみましたの。キャリルの話を聞く限り、ウィンは好奇心が強い子のようですし、調査にも使えるこの魔法はお勧めですわ」


 シンディ様が使える魔法だったのか。


 調査ってことは、魔素を使った医療用検査装置みたいなことが出来るんだろうか。


 いや、魔力が及ぶ範囲だから、地球の記憶でいう所のレーダーとかソナーに近いんだろうか。


 魔素が周辺に走るのなら、隠密行動でレーダー代わりに使うのは危険な気はするけれど。


 魔獣とか人間相手でも、魔力が察知されてバレる可能性はあるだろう。


 でも、面白そうな魔法ではある。


「そ、そうですか」


「ええ。それにこの魔法で魔素の振動を極めたら、初級魔法の【風操作(ウインドアート)】が凄い魔法に化けますわよ」


 そう言ってシンディ様はニッコリと笑った。


 底意が無い品の良い笑顔だったんだけれど、シンディ様の言葉であたしは何となく魔法の深みを想って背筋がゾクっと寒くなった。




 あたしからの説明が終わったので、少し早めだったけれど昼食にしようとシャーリィ様から声を掛けられた。


 ちなみにウォーレン様はこの後王宮に顔を出し、打合せに出ているラルフ様に合流するという。


 あたしから聞いた話を口頭でこっそり伝えるそうだ。


「そういう訳でわたしは出かけるけれど、ウィン、きみはゆっくりしていきなさい」


「ありがとうございますウォーレン様」


 みんなで応接室から出ていくウォーレン様を見送った後、あたし達は食堂に移動してお昼を頂いた。


 メニューは前菜で卵料理が出て、メインディッシュは白身魚とブロッコリーのチーズ焼きだった。


 味は間違いなく白身魚なんだけど、生臭さとかは無いし油が乗っている気がする。


 チーズもいいもの使っているのか、濃厚な味と香りを楽しめた。


 ブロッコリーも火の通り具合と味の染み具合が最高だ。


「ウィンは肉の方が良かったでしょうか」


「いいえ、大変美味しいです。昼食を頂けたことに感謝しております」


 シンディ様に問われて特にひねることも無く素直に応えた。


 食後にはリンゴのバターソテーが出てきた。


 メインが肉だったらちょっと重かったかも知れないけれど、魚料理に合わせたからか美味しく頂けた。


 これは伯爵邸に来たかいがあったなあなどと表情を緩めていたら、キャリルから笑われてしまった。



挿絵(By みてみん)

グライフ イメージ画 (aipictors使用)




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