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03.大人げないというか


 夕食の時間になって父さんとバリー伯父さんが帰ってきた。


 父さんは竜征流(ドラゴンビート)の本部の人たちと一緒に、天使が出現して色々と散らかった商業地区を片付けるのを手伝っていた。


 バリー伯父さんについては帰ってこれたけど、今後の王都の警備体制の件でこれから打合せに出るらしい。


 たぶん王城で徹夜になるだろうということで、夜食とブルースお爺ちゃんの分の食事を詰め込んだ食器を預かっていた。


「ウィンは大活躍だったみたいだね」


「そんなことないよ伯父さん。あたしは付き添いとか添え物みたいなカンジよ。主力は月輪旅団のデイブとブリタニーと、冒険者のグライフさんとノーラさんよ」


「それでも権天使(ごんてんし)の剣や腕を斬り飛ばしたって、騎士団(うち)の若いのが褒めてたよ」


「うーん……、斬ったら斬れたっていうか、たぶんみんなからのダメージが蓄積してて、権天使の魔力なんかが削れてたんじゃないかしら」


『ふ~ん』


 あたしとバリー伯父さんの話を伺っていたみんなは、あたしの説明で一応納得したみたいだ。


 ソフィエンタから聞いた『絶技・識月(しげつ)の“初伝”』を覚えました、とは大っぴらに言えないよな。


 母さんくらいには言っておいていいかも知れないけれど。


 またそれは考えよう。


 食事中に父さんが商業地区の話をしてくれたけど、結構な数のケガ人が出たらしい。


 ケガの程度は軽かったみたいだけど、天使たちから逃げまどいながらぶつかったり転んだりで大騒ぎだったようだ。


「いちおうおれ達みたいな腕っぷしがある奴らで早めに天使たちは対処できたけど、街の連中は真相を知りたがってると思う」


「その辺は王都だし王家のおひざ元だから、暗部がまず無難な噂を流して様子見するんじゃないかしら?」


 父さんの言葉に母さんが応える。


 扇動とか情報操作は、王国の暗部の人たちだと得意分野だよね。


 下手に王都の住民が不安感を高めると、場合によってはその不満は王家に向かうかも知れないし。


「その件だけど、今回は事態が事態というか、神さまが絡む話じゃないか。だから王国としては基本的に、正直に情報を開示する方向みたいだよ。まあ、“言い方”くらいは工夫するみたいだけど」


 バリー伯父さんがそう言って説明してくれた。


 彼によると、光竜騎士団が伝令役になって王都の各地区の取りまとめ役みたいな人に、王国としての布告を伝えに行くらしい。


 王国の暗部も動くみたいだけど、その布告した内容について事実が曲げられないようにするのだそうだ。


「あと、賛神節(さんじんせつ)だけど、明日は例年だと水神さまと薬神さまへの感謝の日だけれど、今日中断された地神さまと豊穣神さまに加えて、魔神さまへの祈りも行われるらしい」


 その辺はあたしとしては国教会での会談で聞いた話だったりする。


「それに伴って教皇様の肝いりで、今回以降の賛神節では全ての日程にペットや家畜を連れて来るようにするみたいだよ。なんでも『命の喜びを称える良い機会』とかいう神託があったらしいね」


 伯父さんが教えてくれたけど、これはいま知ったぞ。


 教皇様の肝いりで、賛神節は毎日モフの日にするわけか。


 神託まで利用するとか、聖職者って大人げないというか、えげつないなあ。


 あたしはそんなことを考えていたけど、みんなは好意的に受け止めているみたいだった。


 解せぬ。


 けどまあいいか、子ネコ可愛かったし。




 夕食後にバリー伯父さんをみんなで送り出してから、昨日に引き続きあたしはアルラ姉さん同様早めに自分の客間に戻った。


 日課のトレーニングとか、今回の報酬の魔法に何を覚えるかとかは一応気になる。


 それはそれとして、キャリルとかサラとかみんなは無事だったろうか。


 そちらが気になった。


 まあ、キャリルに関しては心配はしていないのだけれど。


 あたしは【風のやまびこ(ウィンドエコー)】でキャリルに連絡を入れた。


「こんばんはキャリル。いま大丈夫かしら?」


「こんばんはウィン。ようやくの連絡ですのね。遅すぎますわ!」


 おおっと、なんか怒ってるな。


 心配させちゃったんだろうか。


「ごめんね、連絡が遅れて。色々あってこのタイミングになったのよ」


「ふむ。――仕方がありませんわね、我がマブダチは。『諸人(もろびと)の剣』の話は既に『魔神騒乱』の情報と共に我が家に入っておりますわよ」


「そ、そうなんだ。魔神の巫女に選ばれた子が、神託で月輪旅団を指名されたみたいでさ。あたしも巻き込まれた感じなのよ」


「まったくあなたは、どうして妙なことに巻き込まれるのでしょうね」


 そんなことを言われても、巻き込まれた側を責めるのは間違ってると思う。


 強いていえばステータスの運の値が低いんですよ。


「知らないわよ。……それより、『諸人の剣』の動きを知っているなら、キャリルは『魔神の加護』の話は知ってる?」


「何か事件の臭いがする言葉ですわね?」


 ふむ、知らないか。


 ティルグレース伯爵家では情報が早くに入ると思ってたけど、王家や国教会がまだ情報を制限してるのかも知れないな。


 あたしは口止めされたわけでも無いし、相手がキャリルだから説明しておこう。


「良く聞いて判断してねキャリル。実は今回の騒動の魔神さまって『魔法の守護者』らしいのよ。その関係で『魔神の加護』って魔法や魔力を使う技の上達が、少なくとも三倍以上速くなるんだって」


「なるほど、それは面白い情報ですわ」


「あと、正しく努力してる人が魔神さまに祈れば、来年末までは加護を得やすくなるらしいわ。ただ王国がキャリルの家に伝えていないみたいだし、『魔神』ていう言葉で色々と相談してるのかも」


 それは間違いなく王宮で会議をしてるだろうな。


 いままで王国では魔神信仰はヤバいカテゴリーの話だったし、国内からは色んな反応がありそうだ。


「分かりましたわ……。せっかくウィンが教えてくれた情報です、まずは母上に今から相談をしてみようと思います」


 シャーリィ様に相談するなら、正しい判断をするだろう。


 先ずは今の段階でキャリルの家に情報が無い方が問題だと思う。


「ところで順番が色々ズレちゃったけど、キャリルは当然無事だったのよね?」


「わたくしが天使程度に後れをとるとお思いですのウィン?」


「ううん、全く思って無いわ。むしろ嬉々として狩りに行ったと思ってたけど」


「そこは否定はしませんわ。わたくしとエリカは乗り気でしたが、ロレッタ姉さまは終始イヤそうにしていましたけれど」


「そ、そうなんだ」


「今回、わたくしとしましては『魔神の加護』よりも、天使を狩ったのに称号が付かなかったのが不本意でしたわ!」


 なにやらキャリルが、握りこぶしを固めながらそんな発言をしている気がした。


 ロレッタ様はキャリルの暴走に巻き込まれたか。


 あたしも『諸人の剣』のことが無かったら、あるいはキャリルに巻き込まれていた可能性もあったのかも知れないな。


 そのあとキャリルからはみんなの話が聞けた。


 サラとジューン、ニナとアンなどの寮に居たメンバーは、食堂に集まって天使に対処したそうだ。


 プリシラとホリーはそれぞれ家にいて無事だったらしい。


 ニッキーからは風紀委員会のみんなが無事だという連絡が来たという。


「サラなどは心配していましたし、みんなに連絡をしなさいなウィン」


「うん、分かったわ。ありがとうねキャリル」


「いいえ。それではまた」


「うん、またね」


 あたしはキャリルとの連絡を終えると、順番にみんなに連絡を入れて行った。


 みんなはケガなんかはしていなかったみたいだし、あたしとしては妙にホッとした。




 みんなとの連絡を終えた後、あたしは一息ついてから覚える魔法について考え始めた。


 一つだけ覚えられるということで、別に急いで決める必要は無い。


 ただ、先延ばしにするのも恩恵を先送りにするみたいで損かも知れないとおもう。


 【状態(ステータス)】の魔法で確認してみたけれど、覚えられるのは地魔法か風魔法みたいだ。


 時魔法が新しく覚えられるなら凄そうだけど、ソフィエンタは時属性魔力は権能にしていないんだよな。


 少し考えてからあたしは、同じ立場のデイブとブリタニーに訊いてみることにした。


「こんばんはデイブ、ブリタニー、ちょっといいかしら?」


「こんばんはお嬢、どうしたんだい?」


 【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡を入れるとブリタニーから返事があった。


 ちなみにデイブに関しては国教会で別れた後グライフを連れて店まで戻り、そのままブリタニーも交えて三人でお酒を飲んでいたそうだ。


 いまグライフとデイブは二人とも飲みすぎで、店の上の階の住居部分で寝ているらしい。


「あー、酔いつぶれてたんだね」


「まあたまにはいいさ。それでどうしたんだい?」


「うん、神さまの依頼の報酬で、何の魔法を選ぶか考えてるのよ。ブリタニー達はどうするの?」


 あたしの問いにブリタニーは「ああ、その件か」と呟いてから告げる。


「グライフやデイブと相談してたんだけど、私やデイブは【生命圏(ライフスフィア)】の一択だろうって話になった」


「どんな魔法なの?」


「調べてみりゃわかるけど、地魔法の特級魔法だよ――」


 ブリタニーの説明によると、【生命圏】は任意の空間の生命活動を加減速できる魔法らしい。


 範囲回復はもちろん、魔力を圧縮して超回復も可能だとか。


 加えて生命活動を暴走させることもできるため、攻撃にも使用可能らしい。


「――それに加えて魔法の形状は自在に変えられるから、武器の形にして技を出しつつ魔法を決めることもできるみたいだよ。特級魔法のナントカ(スフィア)って魔法はそういうカンジみたいでね」


 話を聞く限りではなかなか凄そうな魔法だな。


「かなり強力そうじゃないその魔法!」


「ああ、グライフの兄貴が覚えるのに一年かかったそうだ。土魔法は元々かなり得意なのに、それでも覚えるだけでそれだけかかるんだとよ。でも使い勝手は間違いなくいいって言ってたね」


 グライフは地神の(かんなぎ)というのを抜きにしても、渦層流(ヴィーベルシヒト)で緻密な魔力操作をしている。


 その彼が覚えるだけで一年修行したというのは凄いかも知れないな。


 そしてそれだけの時間をかけたということは、覚えてもムダでは無いと地神さまから勧められていたのかも知れない。


「その魔法いいわね。でも一応あたし、他の魔法も調べてみる」


「ああ、期限とかは聞いて無いし、調べてみたらいいよ」


 でもあたしとしては、早目に覚えたいと思っていた。



挿絵(By みてみん)

アン イメージ画 (aipictors使用)





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