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01.本人確認のために


 魔神対応に集まった臨時チーム『諸人(もろびと)の剣』と、陛下や教皇様との会談は終了した。


 このあと陛下は国の内外に向けて、『魔神騒乱』の顛末を発表するための打合せに出るのだという。


 教皇様も国教会幹部と打合せに出席し、その結果を受けて国教会としての発表を方針付けるのだそうだ。


 あたし達の報酬についてだけれど、デイブがねちっこく迂遠に二重取りで神々を怒らせたくないと言い続けた。


 その結果、来年末までに『魔神の加護』を得た王国民は、申請すれば定額で減税される証書を発行することになった。


 「減税額は一人当たりひと月分の食事代くらいでいいだろう」


 「減免しすぎではありませんか?」


 「検証はするが『魔神の加護』持ちが増えれば、王国の生産性が上がる。安いものだ。この減税分を『諸人の剣』への報酬とさせてもらう」


 陛下とレノックス様が何やらそんなやり取りをしていた。


 デイブが微妙に引きつった笑顔を浮かべながら、「畏まりました」という声を絞り出していたのが印象的だった。


 そして陛下と教皇様は慌ただしく退室しようとするが、ここで高位の神官が会議室に現れた。


 どうやら豊穣神さまから新しい神託が下ったらしい。


「どうぞ、内容を説明してください」


 テレンス枢機卿が促すと、高位の神官が告げる。


「はい。『賛神節(さんじんせつ)は命の喜びを称える良い機会だ。我と地神(ちしん)は、本年は明日改めて実施せよ。魔神は今後は我と同じ日に実施せよ』、以上です」


「分かりました。また何かありましたらお願いします」


 そう言ってテレンス枢機卿は高位の神官を下がらせた。


「ふむ、そういうことか」


「どうしたのだ教皇よ」


「いえ陛下。豊穣神様がわざわざ神託を出されたことを考えていたのです。『賛神節』は『命の喜びを称える良い機会』と示されましたので、納得しておりました」


 そう告げる教皇様は、何となく獣人喫茶で見かけたときの笑顔を浮かべている気がした。


「そうか? さて、そろそろ打合せに向かうぞ。『諸人の剣』の者どもよ、大儀であった!」


 陛下はそう告げて起立するが、それに合わせてあたし達も起立して頭を下げる。


「皆さん、直って下さって大丈夫です」


 テレンス枢機卿がそう告げたので、あたし達は頭を上げた。




 その後あたし達はテレンス枢機卿の案内で国教会本部内を移動して、車寄せのある玄関に辿り着いた。


 そこには光竜騎士団の人たちがいて、ディアーナを王宮に連れて行く手はずになっていると説明された。


「済まんがちょっと待って欲しい。ディアーナは事情があってここ数年、肉親と過ごせていなかったようなのだ。今から呼ぶ訳にはいかないだろうか」


 グライフが問うが、騎士団の人たちはむしろ彼女の身内を呼んで欲しいという。


「そういうことなら魔道具の代金のこともあるし、私がマルゴーの奴に連絡を入れるよ」


「ありがとうございます、ブリタニーさん」


「気にするな」


 そう言ってブリタニーは【風のやまびこ(ウィンドエコー)】を唱えた。


「おーいマルゴー、大至急の連絡がある。――いいから聞きなよ。ディアーナ・メイを保護している。色々あってこの子は王宮で保護されることになった。――――仕方ないだろ、長い話になるんだよ。――ああ、ちょっと待ってな」


 ブリタニーはディアーナに視線を向ける。


「ディアーナ、マルゴーおばさんが本人確認のために、マルゴーおばさんの好物をあんたに訊きたいそうだ」


「ええと、マルゴー姉さんの好物、ですか? …………ペアー (洋梨)のタルトはいつも美味しそうに食べていた気がします」


「ペアーのタルトだってよ。――え? 三分で来るってあんたどこに居るんだい? ――ここは王立国教会本部の西口だ。車寄せがある玄関だからすぐ分かるだろ――。切っちゃったよ全く」


 マルゴーはそう言った後、ディアーナに「すぐ来るだろうよ」と言って微笑んだ。


 エルヴィスにはコウが連絡を入れたけれど、同じように話が進んだ。


「ディアーナ、君の兄さんのエルヴィスの好物は何だろう?」


「兄さんの好物ですか? 母さんが作るアップルパイは好きですね」


 ディアーナの家って本人確認が食べ物なのか。


 いや、分かりやすいけれども。


 あたしの場合は本人の特定に難航しそうだな。


 何でも美味しく頂いてしまうからね。


 そんなことを考えていると、玄関前の門のところにマルゴーの気配が現れた。


 デイブやブリタニーも気づいたのか、彼女に手を振る。


 すると瞬間移動したかのようにあたし達のすぐ傍に現れた。


「…………」


 ディアーナを前にして、マルゴーは固まったかのように動かなかった。


 他のみんなはともかく、ブリタニー辺りは急かしたり弄ったりしそうだけれど、流石に空気を読んだようだ。


「マルゴー姉さん、ただいま」


 みんなも二人の様子をうかがっていると、ディアーナが口を開いた。


 彼女の言葉にマルゴーはヨロヨロとした足取りで近づくと、固まった表情のままディアーナを抱きしめた。


「ごめんよ、迎えに来るのが遅れちまった」


「ううん。待たせたのはわたしだから、ごめんね」


「ああ、おかえり、ディアーナ……」


 マルゴーはディアーナを抱きしめたまま、顔を伏せて涙声で告げた。


 何となくホッとした気分で二人をみていると、エルヴィスの気配が門のところに現れた。


 あたしやコウが手を振ると、身体強化した状態で駆けてきた。


「……ディアーナ!! マルゴーお、姉さん……」


 何やら途中で言い直しつつ、エルヴィスはヨロヨロと歩いて抱き合っている二人に近づき、そのまま二人を抱きしめた。


「おかえりなさい、ディアーナ。ああ、やっと会えた……ッ!!」


「ただいま兄さん」


 そうして三人はしばらく抱き合って再会を喜んでいた。


 ふと視線を移すと何となくコウが目に留まった。


 その表情を見るに、ディアーナたちの再会を見ながら遠い何かに思いを馳せているようにも感じられた。




「それで、マルゴー姉さん。ブリタニーさんが気配を消す魔道具を売ってくれたの」


「ああ、必要だったから売ったのさ、マルゴーおばさん。代金はあんたが払ってくれるんだろ、マルゴーおばさん?」


 ブリタニーがマルゴーをおばさんと呼ぶたびに、マルゴーの殺気が加速度的に上がっている気がする。


 それに(おのの)いたのか、エルヴィスとコウがその場から一歩下がった。


「ちっ、しょうがないね。これを持っていきな」


 そう言ってマルゴーは【収納(ストレージ)】で革袋を取り出す。


 それをブリタニーが【鑑定(アプレイザル)】で鑑定してから口を開いた。


「バカだねえマルゴーおばさん、どう考えても貰いすぎだよ。――細かいのが無いみたいだし、今日はこの後予定が入ったろ。また後日貰いに行くよマルゴー」


「ったく……、ありがとうよブリタニー」


 その後ディアーナとマルゴーとエルヴィスは馬車に乗せられ、光竜騎士団の警護で王宮に向かった。


 たぶん馬車の中や王宮で、これまでのことやこれからの事を色々話すんだろう。


 再会した妹なり姪が『魔神の巫女』になっていて、なおかつ騎士爵をもらうのが確定的だ。


 ディアーナは今日中に説明しきれるんだろうかと、あたしは思わず苦笑してしまった。




 その後テレンス枢機卿があたし達を馬車で送ると言ってくれたけれど、このメンバーなら正直自分で走って行った方が速い。


 幸いソフィエンタに肉体を一時的に貸していた関係で、疲労は残さずに返してくれた。


 精神的にもソフィエンタの神界の自宅で、こたつとみかんとマンガに癒されている。


 そんなことを考えているとデイブがあっさりと、全員分の馬車を断っていた。


「それでは吾輩は失礼する」


「兄貴、ちょっとうちに寄らねえか? 茶でも飲んでってくれや」


「ふむ、まあいいか。ノーラはどうする?」


 デイブとグライフがそんな話をした後、グライフはノーラに訊いた。


「ワタクシは当然一秒でも早くダーリンのもとに帰るわ~」


「はいはいごちそうさま」


 ノーラの言葉に苦笑いしながらブリタニーが笑う。


「今回は巻き込まれた形ですが、興味深い経験が出来ました。皆さまありがとうございました」


「ありがとうございました」


 ジンとコウはそう告げて、揃ってお辞儀をした。


「みんなお疲れさまでした。あたしはお爺ちゃんちに帰るわ」


 あたしがそう告げると、みんなは頷いた。


 そしてグライフが無言で右拳を出したので、みんなでグータッチをしてから解散した。


 王立国教会の建物を出た直後に、空から何かが舞い降りる。


 ふと顔を上げると、それは雪だと気づいた。


「ああ、初雪か……。秋が終わって完全に冬だなあ」


 そう呟いてから、あたしはブルースお爺ちゃんちに向かった。



挿絵(By みてみん)

マルゴー イメージ画(aipictors使用)




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