11.後ろ盾は明確に
神としての研修を受けると言ってアレッサンドロはわたしから一歩離れ、目をつぶったあと突然輝きだした。
そして、淡く白い光で輝いていたアレッサンドロの身体は、次の瞬間明るい橙色で輝き始めた。
「アレッサンドロ?」
わたしが声を掛けると、彼は目を開く。
「ああ、研修をとりあえず終わらせてきたよ。神ってほんと大変……」
そう言って彼は苦笑いを浮かべたけれど、さっきよりも存在感が変わっている気がする。
豊穣神に感じたような、神としての強い存在感を発しているように感じられた。
だが、目を閉じてから本当に直ぐの変化だ。
「まさか、もう研修は終わったんですか?」
「終わったよ? またゆっくりその話はしてあげるよ。――それよりもディアーナ、ぼくの手に触れてくれないか」
そう言ってアレッサンドロは右手を出した。
わたしは半信半疑で自分の右手で掴む。
すると、ある情報が直接わたしの頭の中に浮かび上がってきた。
「ぼくの今の名前を呼んで、自分が巫女だと宣言して欲しい」
「わかりました」
わたしは頷いて宣言する。
「わたしディアーナ・メイは、魔法の守護者たる魔神アレスマギカの第一の巫女であることを神々に宣言します」
「魔法の守護者たる魔神アレスマギカは、ディアーナ・メイを第一の巫女とすることを神々に宣言します。――よろしくね」
「よろしくお願いします、アレッサンドロ」
わたしの言葉に、彼は嬉しそうに頷いた。
意識が切り替わった瞬間、あたしは中央広場の石畳の上に落下するが、グライフが手を伸ばしキャッチしてくれた。
グライフにお礼を言おうとしたら、彼はディアーナもキャッチしたな。
コウはノーラにキャッチされたようだ。
「ありがとうグライフさん」
「「ありがとうございます」」
あたし達がグライフに礼を言って石畳に立つ。
コウもノーラに礼を言っていた。
その頃には広場の真ん中にあった光柱は薄れ始めていて、磔になっていたアレッサンドロとかいう男性の姿も消えていた。
そのことでふとディアーナが気がかりだったので、彼女に視線を向ける。
するとディアーナは、何やらさっきよりも覚悟を決めたようないい表情をしていた。
何気なくあたしが斬った権天使の方を見ると動きを止めており、全身から光の粒子を放ちながら虚空に溶け始めていた。
「やったな!」
「よし、依頼達成だね!」
「お役に立てて何よりでした」
デイブとブリタニーとジンが、みんなに声をかける。
広場の南の方――暗部の人たちが権天使二体を足止めしてくれた方から歓声が上がった。
どうやら権天使は光の粒子になって虚空に溶け始めたみたいだ。
王都の他の場所でウロついてた天使たちも、消えてくれているといいのだけれど。
「ちょっと一旦、打合せをするわよ~」
ノーラがそう告げると、彼女から闇属性魔力が走った。
「またワタクシの魔法で意識をつなげたわ~。この後の事後処理の打合せをしておきましょう?」
「そうだな、皆お疲れ様だ。臨時チームだったがいい成果を得られたと思う」
ノーラの言葉にグライフが同意の声を上げる。
王国の戦術魔法とか竜魔法で露払いしてもらったり、暗部の人たちに二体の権天使を引き受けてもらったのはあるけど、即席のメンバーで何とかなって良かったよ。
王都上空ハルマゲドンとか見たくなかったし。
「あの! 皆さんありがとうございました! わたし、無事に魔神様の第一の巫女になれました!」
「そうなのね~、おめでとう~。必ず幸せになりなさいね~!」
「はいっ!」
ノーラが何やらテンション高めに祝福している。
彼女も神界で自分の本体であるアシマーヴィア様の自宅で過ごしたんだろうけれど、その時に何か情報を得たんだろうか。
さすがのあたしでも、ディアーナが魔神になった男性に好意を持っていたことは分かる。
彼女が巫女になったことで、何かあったのかも知れないな。
「ええとそれで、この『諸人の剣』の皆さんには、二つ報酬があります。一つは『魔神の加護』を得ているはずです!」
「ほう。ディアーナ、そりゃ何か効果があるのか?」
ディアーナの話にデイブが問う。
王国では魔神信者はこれまで警戒されていたし、確かに気になる話ではある。
「魔神様は『魔法の守護者』という立場に決まりました。そのため魔神様はその権能により、魔法や魔力を使った技法を使う人たちを導きます。具体的には、加護が無い人よりも少なくとも三倍以上は魔法や魔力を使う技の上達が速くなります! これには個人差があります!」
『え~!!』
確かに、地水火風の神々の加護を持つ人は、持たない人よりもその属性の魔法が得意だったりする。
それが魔神ともなれば、魔法全体に及ぶのか。
いや、魔力を使う技のことも言っているな。
「凄いじゃないかい!」
「王国内での魔神信仰の扱いを考えると少々心配ですが、それでも破格の加護ですね」
ブリタニーとジンが嬉しそうに述べた。
「ふむ。二つ目は何だ?」
ディアーナの説明に反応することも無く、デイブは淡々と確認を進めようとする。
「今回皆さんに依頼をした神々が権能とする属性の魔法を、何でも一つ修行せずに覚えられるそうです!」
『お~!』
「具体的には、ステータスの魔法で『はてなマーク』になっている欄に意識を集中すると、覚えられる魔法を選べるみたいです」
ゲームとかじゃ無いんだから、そんなのでいいのか。
「それは分かりやすくていいねえ。分かったよ」
コウが納得したような声を上げる。
確かに分かりやすいけれども。
「魔神様の話では、出来るだけ上位の魔法を覚えるのがお勧めなようです。元々は内在魔力が足りなくても、総量が覚えた魔法一つ分は上がるみたいです。少なくとも一回はムリなく使えるようになるそうです!」
『お~!!』
「報酬については以上です! ありがとうございました!!」
報酬の話はソフィエンタがしていた気がしたけど、こういう形になるとは思っていなかった。
魔法を修行無しで覚えられるっていうのは、ちょっと嬉しいかも知れない。
「薬神さまの属性って何だろうね?」
「確か地属性と風属性よ」
「なるほどね」
ブリタニーに訊かれて反射的に応えたけど、間違いなかったはずだ。
あたしが何を覚えるかは、また後で考えようとおもう。
「それで今後のことだけれどデイブ、表向きは月輪旅団にワタクシのディンラント王国での後ろ盾になってもらうことはできるかしら~」
「ん? 後ろ盾? 宗家から言われてるし裏も表もねえぜ。ノーラが王国で困ったときは、おれらがバックアップするのは決まってる」
「ありがとう。今から話をするけど、ワタクシ達は揃ってこの後王立国教会本部に向かうわ~。今回のことで王国と国教会とで話をしておかないといけないのよ」
その辺りの話はあたしも神界のソフィエンタの家で、こたつでミカンを頂きながら説明されたんだよな。
「あたしも月輪旅団が後ろ盾なのは変わらないわよね?」
一応確認するけれど、デイブとブリタニーには「ウィンは宗家の血筋だろ」と鼻で笑われた。
「吾輩の後ろ盾はオルトラント公国のダンジョン探索担当部局になるが、実際はその関係で貸しが溜まっている貴族家たちだな」
「ジン兄、ボクの後ろ盾はマホロバ系移民のネットワークだよね?」
「正確には、それはわたし達クズリュウ家の後ろ盾です。あなたの場合はさらに火神様の覡として、ディンラント王国の鍛冶師ギルドの総ギルド長が後ろ盾になります。これは父上が段取りしてあります」
「そうだったんだね……。それは知らなかった」
なかなかすごい話を聞いてしまった気がする。
でも鍛冶師は火を使う仕事だし、火神様の覡ということになればコウを放っておかないか。
「わたしの場合は魔神様の神託により、今後王国を後ろ盾にするという話になっています。その話を、国教会本部で行います」
「その過程で、吾輩たちが政治的判断で覡や巫女と勝手に認定されないよう、後ろ盾は明確にしておく必要がある訳だ」
「そういう事なんだね。色々めんどくさいねえ」
「めんどくせえが、王国や国教会とは話はしておくべきかも知れん。話が魔神に関することだからな」
ディアーナとグライフの話にブリタニーとデイブが感想を漏らす。
ジンは特に意見は無いみたいだ。
「いちおうあたし達は、今回はディアーナの付き添いみたいな扱いになる可能性が高いらしいわよ」
「そうね~、いま行っている打合せが終わった段階で、闇神様にみんなのステータスから覡や巫女の情報を一時的に隠してもらう段取りになっているわ~」
そう、だから後ろ盾云々は本当に念のための確認だ。
「それで皆さんには、わたしが魔神様から聞いている段取りをお話します。少々長い話になりますが聞いておいてください」
「【意念接続】の効果中は時間の心配は必要無いわよ~」
「ありがとうございます! 最初の方針として、神々はできるだけ巫女や覡の情報を当面秘密にすることにしたようです――」
そうしてあたし達はディアーナからの説明を聞いた。
説明が終わるとノーラの魔法を解除してもらい、覡や巫女がステータスから隠れているのを確認する。
それが済んだらあたし達は、中央広場から王立国教会の礼拝堂に向かった。
ブリタニー イメージ画(aipictors使用)
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