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06.血の記憶なんだろう


 腕組みして目を閉じ、何やら考え込んでいる風に見えたグライフが、突然目を見開く。


「……ふむ、そういうことならコウ、お前の友たる第三王子殿下に陽動を頼んではくれまいか。その際、吾輩たちが広場の南から突入することと、吾輩たちが『諸人(もろびと)の剣』であると告げて欲しい」


「分かりましたが、『諸人の剣』ですか?」


「ああ、符丁のようなものだ。王家や教会関係者に伝わるだろう」


 グライフの言葉に頷いて、コウは【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で話を始めた。


「突然すまないレノ、大至急の話があるんだ。――うん、『諸人の剣』といえば伝わるかい? ――――そうだね、そういう人たちがいま、中央広場南側の冒険者ギルド屋上に集まっているよ」


 コウがレノックス様と話している間にも、あたしはタイムリミットが気になった。


 さり気なく胸の前で指を組んで、頭の中でソフィエンタに呼びかける。


「ソフィエンタ、タイムリミットはまだ大丈夫かしら?」


「大丈夫よウィン。現実時間でまだ一時間強の猶予があるはずね。あたし達神々で状況分析を進めているけれど、さすがに元々人間だった肉体を亜神に造り替えるのに手間取っているみたい。普通は何日もかかるのを、どうやってるのか知りたいところだけれど」


「分かったわ」


 人間を神に造り替えるのは、普通のこととは思えないんですけど。


 地球の記憶でいえば、某世界宗教の神の子は復活に三日掛けて、昇天にさらに四十日掛けているのじゃ無かったか。


 でも今は時間的猶予があるのはいい情報だな。


 それはそれとして、根本的な話をまだ聞いていない気がするぞ。


「ねえソフィエンタ。仮に今回あたし達が失敗して、魔神が邪神群側になったらどうなるの?」


「それも分析中だけれど、あまり面白い話にはならないわね。ティーマパニアによると、あくまでも未確定の選択肢として、魔神による王都ディンルークへの攻撃が行われるわ。これをあたし達神々が応戦して、王都上空で天使が群舞する戦闘状態になりそうね」


 時神さまの分析ということは、ほとんど未来予知に近いんじゃないだろうか。


 あたしはそれを聞いて念話の中で頭を抱えるイメージを送った。


「ダメじゃないそれ?! フツーにハルマゲドン的なアレになるんじゃないの?!」


「まだそうなっていないけれど、そうなる可能性もあるって話よ。王都全体として見たら護れるけれど、流れ弾が被弾する地区も出るでしょうね」


「マジかー……」


「まだそれは未確定だし、その責任は神々のものです。ウィン達に背負わせることは無いわ」


 あたしは念話の中でため息をついた。


「分かったわよ。とりあえず乗り掛かった舟だから頑張ってみる」


「うん、こちらでもいつでも観ているから」


 そこまでやり取りをしてあたしは念話を終えた。


 あたしの視界の中の光景も動き始めるけれど、程なくコウもレノックス様との連絡を終える。


「いま第三王子殿下と連絡しました。まず王国は今回の事態を『魔神騒乱』と呼ぶことにしたそうです」


 なるほど、王国は今回の件に魔神が関係していることを認定したのか。


「それで陽動に関してですが、現在光竜騎士団が主体になって王都に展開し、一体でも多く天使を狩ることにしたそうです。これには武門の貴族も参加するとのことです」


 それってあたしのマブダチも全力で参加しそうな話だな。


 でも今のあたしは中央広場に意識を集中しよう。




 そしてコウは王国による魔法を使った大規模攻撃の話を始めた。


「今から約二十分後に、王国の宮廷魔法使いが合体魔法で【竜巻(トルネード)】を使うそうです」


「ふ~ん、王国お得意の風の戦術魔法ね~。自然の竜巻と違って、標的中心部に巻き込んだものを集めるような気流を作る、凶悪な魔法だったハズよ」


 解説ありがとうノーラ。


 そんな魔法を使って周辺は大丈夫なんだろうか。


 あたしの表情を読んだのか、コウが慌てて補足する。


「対象範囲は中央広場内のみに発動するそうで、あの光柱で固定されている男性は影響を受けないだろうという判断らしいです。国教会の観測による神気の強度から判断されたそうです」


「そんな大雑把でいいのか? まあ、おれ達は助かるけどよ」


 デイブが思わず口を出すけれど、状況が状況だし仕方がないんじゃないかな。


 中央広場に群れている天使の上位個体をまとめてブッ飛ばしてくれるなら確かに助かるよね。


「【竜巻】が放たれた後は、王族による竜魔法の使用でさらに範囲攻撃を中央広場に続けるそうです。そして最後にもう一回、宮廷魔法使いが【水塊(デンスウォーター)】という水の戦術魔法を使うとのことでした」


「ふ~ん。インディゴブルーの超高粘度で高圧力の水球を作る魔法ね~。巻き込まれた生き物は潰れて、体積が数分の一くらいになるんじゃないかしら」


 それはまた恐ろしい魔法だ。


 思わずあたしは眉を顰めるけど、今回は天使たちを片付けるためなんだよな。


「あのっ!」


 ディアーナがそう言って必死な表情で手を挙げる。


「本当に光柱のところにいる男性には、影響が無いんですよね?!」


「ボクはそう聞いているよ、ちょっと待ってね」


 そう言ってコウは胸の前で指を組んで目を閉じる。


「うん、火神さまに確認したけれど、エネルギー量的に問題無いらしいよ」


 あたしも気になったので胸の前で指を組んでソフィエンタに念話で呼び掛ける。


「ソフィエンタ。王国が戦術魔法や竜魔法を放とうとしているみたいなんだけど、魔神になる人には影響は無いのよね?」


「問題無いわ。コウ君も言っていたけれど、こちらでアタリシオスが検算したもの。例えば竜巻の魔法で生じるエネルギーは自然界のものとほぼ同じなの。余りいい例えではないけれど、一回の魔法が広島型の原子爆弾で数発分以上のエネルギーがあるわ。その程度じゃ亜神に造り替えられている新人君には、毛ほどの傷も付かないわね。水塊の魔法もダメージにはならないわ」


 竜巻やそれに耐える神の身体ってすごいんだな。


 それよりもいま一瞬、気になることを言っていた気がする。


「ちなみにソフィエンタ。いまの話だと、戦術魔法って一発で地球の広島型原爆数発分の破壊力があるのよね?」


「そうよ。破壊する範囲も指定できるから、ある意味さらに凶悪ね」


「この戦術魔法って、共和国の独立戦争でも使われたの?」


「使われたわ。そしてたぶんあなたが気にしている通り、その被害の大きさに心を痛めたのが月転流(ムーンフェイズ)の創始者よ。神として知る話をすれば、月転流の人たちは時代ごとに、強大な暴力に抗って来たわ。あなたの身体にはそういう血が流れています」


 脳筋とか戦いは、あたしは好きじゃないと思っている (自称)。


 けれど、身内の誰かがどうしようもない暴力に巻き込まれたなら、あたしは躊躇なく戦いを選ぶと思う。


 多分これはあたしの魂の記憶じゃ無くて、血の記憶なんだろう。


「分かったわソフィエンタ。ありがとう」


 あたしは礼を告げて念話を終える。


 コウとディアーナの会話が続いている。


「神の身体って、人間が扱える魔力程度ではどうこう出来るものじゃないみたいなんだ。なんせ、どんな神さまでも、生身でお日さまに飛び込んで無傷で帰って来られるらしいよ。少しだけ、あの男性の強さを信じてごらん」


「分かりました! わたしはアレッサンドロを世界の誰よりも信じます!」


 そう叫んだディアーナの背後には、何となく巣を張った蜘蛛の姿が見える気がした。


 もちろん気のせいなんだけど。


 それを見ていたコウは微笑みつつも、珍しくディアーナの迫力に気圧されているように見えた。




「それから、そろそろ来ると思いますが、王国の暗部の方々がボク達一行の援護に着くそうです」


 コウがそう言った直後に、冒険者ギルドの屋上に二十人弱の暗部の人たちの気配が現れた。


 そのうちの一人が口を開く。


 特徴のない顔つきで、中肉中背のどこにでも居そうな感じの青年だ。


「諸君が『諸人の剣』を名乗る者だろうか。代表者はどなただろう?」


 代表者は特に決めていなかったけれど、みんなの視線はグライフに向かった。


 その視線を受けてグライフが口を開く。


「いちおう吾輩が『諸人の剣』という言葉をそちらのコウに伝えた者だ」


「承知した。私たちは王国の手勢だ。諸君の支援をするために来た」


「そうか。つまり協力者だな……。ノーラ、さっきの術を頼めないか?」


「わかったわ~」


 グライフに請われて、ノーラは先ほどと同じように目を閉じて胸の前で指を組む。


 そしていま現れた暗部の人たちを、一瞬昏い魔力が覆ってすぐ霧散した。


「はい、ワタクシの術で神気の耐性を上げたから、アナタ達も広場の中央に行っても動けるわ~」


 ノーラの言葉に、暗部の最初に口を開いた青年が目を丸くする。


「そんなことが可能なのか? 私たちは広場中央に近づこうとしても、神気に吹っ飛ばされていたのだ」


「ま、その辺は騙し騙し試してくれや。少なくとも『朱黒の大淫婦(しゅぐろのだいいんぷ)』は戦いについて味方に嘘はつかねえだろうぜ」


 暗部の青年の様子にデイブがノーラの二つ名を告げたが、その言葉に表情を抑えて頷いた。


 その後、グライフの口から突入のタイミングの話をした。


 それを聞いた暗部の青年によると、戦術魔法が終わった段階で光竜騎士団が広場に突入すると説明がある。


「分かった。吾輩たちはそのタイミングで広場中央を目指し、気配を消して突撃する」


「承知した。私たちの手勢も諸君を援護する。君たちの勝利条件は何だ?」


「神託があったのは、この中の五人が広場中央の男に同時に触れることだ」


 グライフの説明で、あたしたち巫女や(かんなぎ)は手を挙げた。


「承知した。あと、これは王国と教会からのお願いなのだが、諸君の作戦が終わった後、可能なら王国国教会の中央礼拝堂まで足を運んで欲しい」


「あくまでもお願いなんですね?」


 あたしが念押しをするように確認すると、表情を変えずに暗部の青年は頷いた。



挿絵(By みてみん)

コウ イメージ画(aipictors使用)




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