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05.作戦はどうするんだろう


 あたし達は貧民街の廃屋を離れ、ディアーナを連れて王都の屋根を駆ける。


 冒険者ギルドの屋上を目指しているが、行きと比べて多少は速度を落としている。


 それでもディアーナはあたし達について来ているので、問題は無さそうだ。


 気になるのは道すがら、王都の各所で天使らしき姿をした妙な気配の存在を見かけたことだ。


 地元の住民なのか冒険者なのかは分からないけれど、王都の人達が戦っているようだった。


 加えて先ほどには見なかった変化として、王都上空に天使が飛んでいる姿を見るようになった。


 そういった連中も、気配を抑えているあたし達に気づくようなことは無い。


 やがてあたし達は無事に冒険者ギルドの屋上に辿り着いた。


 そしてそこには見知った顔が集まっている。


「おお、来たなお前たち」


 最初に声を掛けてきたのはグライフだったが、戦闘服を着こんで剣を二本佩いている。


「グライフの兄貴! あんたも来たのか」


 デイブが嬉しそうな表情で微笑む。


 確かにグライフが一人いるだけで何とかなりそうな気がしてくるような、そんな気配を彼は纏っていた。


「こんにちは~、あなたたち。目的の子はその子ね~?」


 戦闘服を着こんだノーラがリラックスした表情であたし達に問う。


「なんだい、ノーラもいるのかい? こりゃ色々と安心だね」


 ブリタニーがノーラの顔を見てそう告げた。


 グライフにせよノーラにせよ、彼らは(かんなぎ)や巫女だ。


 あたしのように神々の分身だし、邪神群の対応のためにこの場にいることは(あたしは)理解できる。


「ウィン! キミは薬神さまの巫女だったんだね」


「コウ。黙ってて悪かったけれど、色々事情があって秘密にしていたのよ。それよりあなたも火神(かしん)さまの覡なのね」


 コウが火神さまの覡というのはソフィエンタから聞いた。


「うん、ボクも秘密にしていてね。子供の頃に夢の中で火神さまに告げられたのさ」


 どうやらコウは火神さまの分身では無いみたいだな。


 ソフィエンタは何も言っていなかったけれど。


「分かったわ。あたしも黙ってるから、コウもあたしの事は秘密にしてね」


 あたしの言葉に頷いてから、コウは視線を傍らに立つ男性に向ける。


「分かった。あと、前に会ったことがあるみたいだけど、いちおう紹介しておくよ。彼がボクの兄のジンだ」


「ご無沙汰しておりますウィンさん。ミスティモントでお会いして以来ですね。ジン・クズリュウでございます」


「お久しぶりですジンさん。コウには普段仲良くしてもらってありがとうございます」


「こちらこそありがとうございます」


 そう言ってジンがあたしにお辞儀をしてきたので、あたしも頭を下げた。




「さて、デイブ達以外は神託をもとにここに集まった面々で自己紹介を済ませてある。初対面の者も居るし、名前と流派と何か一言くらい自己紹介をしておこう」


「待ってくれ兄貴、自己紹介とか必要なのか?」


 グライフがその場を仕切ろうとするが、デイブが問う。


 それに対してグライフは親指で背後に広がる中央広場を示した。


「気配察知だけじゃ無くて肉眼で見てみろ。天使だけじゃ無くて大天使と権天使(ごんてんし)が出現している」


『…………』


 あとから来たあたし達は思わず広場の様子を確認した。


 するとそこには街で見た天使よりも身長が高めの個体がゾロゾロいて、その中に鎧を着こんだ個体が混ざっていた。


 あれは中央の光柱を護っている感じなんだろうか。


 グライフが説明してくれたけど、身長が高めの個体が大天使で、鎧を着た個体が権天使という種類らしい。


「耐久力でいえば一体の大天使が天使十体分で、その上の権天使が一体で天使百体分ね~」


 割とのんびりした口調でノーラが告げる。


 まさかアレを倒していかなければいけないんだろうか。


「さっきまで王国の騎士たちが広場の天使たちに攻撃していたんだが、倒した傍から現れるみたいでな。その時の行動パターンを見ていたんだが、あの天使たちは密集陣形をとった軍隊と変わらんようだ。だから吾輩たちは固まって一点突破をするつもりだが、今回の仲間の特徴は掴んでおいた方がいいだろう」


「それで自己紹介なのね」


「そうだ」


 あたしの言葉にグライフが頷いた。


「まず吾輩からだ。名はグライフ・ジュースミルヒという。渦層流(ヴィーベルシヒト)を使う。冒険者ランクはS+だ」


「ノーラ・リリー・アルティマーニ。刈葦流(タッリアーレレカンネ)を修めているわ~。冒険者ランクはSね」


「ウィン・ヒースアイルです。月転流(ムーンフェイズ)は皆伝。【回復(ヒール)】と【治癒(キュア)】は使えますが、無詠唱はムリです」


 ホントはあたしは極伝をゴッドフリーお爺ちゃんから受けてるけど、この場で言うことでは無いよね。


「デイブ・ソーントンだ。月転流を使う。冒険者ランクはS」


「私はデイブの嫁のブリタニー・ソーントンだよ。月転流皆伝で冒険者ランクはA」


 ブリタニーはデイブと同格な気がするけど、冒険者としての活動はそんなにしていないのかも知れないな。


「わたしはジン・クズリュウと申します。鳳鳴流シンギングフェニックス皆伝で、無詠唱の【回復(ヒール)】を使えます」


「ジンの弟のコウ・クズリュウです。鳳鳴流シンギングフェニックス皆伝です。【回復(ヒール)】は使えますが無詠唱は使えません」


 そこまで自己紹介をして、みんなの視線がディアーナに向かう。


「わたしはディアーナ・メイです。一心流(シンプリーチタス)皆伝です。気配の取扱いが苦手です。あと、風の精霊魔法を移動しながら使えます」


 彼女が一心流皆伝を告げたところで、デイブやジンが感心したような視線を向けた。


 そして精霊魔法という単語を聞いたところで、その場のみんなが感心した表情を浮かべた。


 というか、精霊魔法って移動しながらでも使えるのか。


 後日聞いたけれど、一心流は古エルフ族の護身術に源流を持つ実戦杖術とのことだ。


 杖術なのに魔力を武器を纏わせることで、槍の貫通力や両手剣のような切断力を出せるらしい。


 飛び道具は無いみたいだけど、近接戦闘ではかなりの強さがあるようだ。


「ディアーナには気配を小動物並みになる魔道具を渡してある。他に必要な奴は居るかい?」


 ブリタニーが見回すが、全員大丈夫そうだった。




 メンバーは理解できたけれど、作戦はどうするんだろう。


 あたしがそう思った瞬間、デイブが口を開いた。


「兄貴、さっき一点突破って言ったが、陣形とかどうするんだ?」


「そうだな……、吾輩が決めていいなら決めるぞ?」


 そう言ってグライフはあたし達を見渡すが、みんなは特に異論が無いようだった。


「よし、全員が気配を抑えた状態で、中央広場の真ん中のあの男のところまで突っ込む。陣形は吾輩とノーラが並んで先頭で斬り込む。その後は、デイブとブリタニーが並んで控えてくれ」


 グライフに名を呼ばれた三人が頷く。


「デイブとブリタニーの後ろにディアーナが続け、そして彼女の後ろにウィンとコウが並んで続け。ジンを殿(しんがり)とする。このうち、ウィン、コウ、ジンは回復を主担当として欲しい」


 あたしたちはグライフの言葉に頷いた。


「それと~、このメンバーでは神気に耐性が無い人も居るわね。ちょっと待ってね~」


 そう言ってノーラが目を閉じ、胸の前で指を組む。


 するとあたしたち全員を一瞬昏い魔力が覆ったが、直ぐに霧散した。


「はい、いまワタクシの術で神気の耐性を上げたから、広場の中央に行っても動けなくなるようなことは無いわ~」


 ノーラは得意げに微笑んでいるけど、デイブやブリタニーは感心した表情を浮かべていた。


 術と説明したけれど何やら祈っていたし、もしかしてアシマーヴィア様の奇跡なんだろうか。


 とりあえずあたしはスルーする。


 そこにジンが右手を挙げて告げた。


「中央の男に辿り着ければ勝利と聞いていますが、突入のタイミングはどうしましょうか? 成功率を少しでも上げるため、陽動が欲しいところです」


「その点はワタクシも同感ね~。王国の攻撃に合わせる感じかしら?」


「吾輩も王国の騎士団たちの攻撃をあてにしていた。だが現状では攻めあぐねている感じはするな」


 グライフが一瞬こめかみに手を当てて考え込む。


 その様子を見てジンは頷き、口を開いた。


「そういうことでしたら、幸いにもコウが第三王子殿下と縁がございます。王国に働きかけて、陽動のタイミングを作って貰うのはいかがでしょうか?」


「ふむ……、ちょっと待ってくれ」


 グライフがそう言うと目を閉じ、腕組みして何やら考えるような仕草を取る。


 あるいは彼の場合、ああやって地神さまと念話しているのかも知れないとあたしは考えていた。



挿絵(By みてみん)

ノーラ イメージ画(aipictors使用)




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