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04.神々に関する何か


 手はず通り隣の廃屋に入り、標的が控える廃屋の部屋の壁をデイブが四閃月冥(しせんつくよみ)の裏で扉の大きさだけ切り取る。


 デイブは切り取った壁を蹴って向こう側へと倒した。


 そしてあたし達三人は気配を消した状態で部屋の中に入る。


 幸い標的の少女はこちらに気づいていないようだ。


 そのままあたしは立ち上がった彼女――ディアーナ・メイに歩み寄り、気配を消した状態で肩に手を置いた。


 冒険者ギルドの屋上でソフィエンタから説明を受けたときに、ディアーナの話も出た。


 風紀委員会のエルヴィスの妹であり、花街のマルゴーの姪で、彼らがずっと探し続けていた少女とのことだった。


 件の男に賊から助け出されたときに懐き、そのまま付き従って今に至る。


 彼女の場合、憧憬がいつの間にか淡い恋愛感情みたいなものに変わってしまったのかとソフィエンタに訊いた。


 すると、ディアーナの場合はさらに心酔と執着が見られるのだと話していた。


 件の男がもう、人間としては生きられないこともその時聞いている。


 それを知ったディアーナがどう動くのかは分からないし、不確定要素ではあった。


 それでもディアーナは、現状で件の男の巫女とするのに最善の少女なのだという。


 ソフィエンタによれば、彼女の上司である豊穣神さまが直接説得に当たるとの話だった。


 仮にダメでも、二人目の候補に向かうとも言っていたか。


 そんなことを考えていると、ディアーナはすぐに我に返ったように部屋の中を見回した。


「ねえ! 居るのでしょう?! 薬神さまに導かれた方たち! どうかわたしを導いて下さい!! お願いします!」


 そう叫んだディアーナは、窓を背にして部屋の中央に向かって深く頭を下げた。


 彼女の様子を見て、あたし達は気配遮断を弱めて声をかける。


「頭を上げてください、ディアーナさん。あたしはウィンといいます。あなたの兄のエルヴィス先輩と、同じ学院の生徒です」


「おれはデイブで、こいつは嫁のブリタニーだ。マルゴーとは知り合いだ」


「私はブリタニーだ。あの女の身内にしちゃあ真面目そうなツラだね嬢ちゃん。よろしく」


 あたし達の言葉にディアーナは目を丸くした。




 あたし達の言葉はディアーナにとって意外なものだったのだろうか。


 何やら彼女は固まってしまった。


「兄さんとマルゴー姉さん……、神さまなんて信じて無かったのに……」


 そう呟いて彼女は泣きそうな表情を浮かべた。


 だが直ぐに手の甲で目をぬぐって告げる。


「わたしはディアーナです。よろしくお願いします!」


「ああ。状況は薬神さまの神託で大体把握してるから、任せてくれ。ただし、ディアーナには二つ確認する」


「はい!」


 ディアーナの声に間髪入れずにデイブが問う。


 ホントはあたしが訊かなければいけないような気はするけど、あたしだと舐められる心配があったんだよな。


「まず、ディアーナの身内のマルゴーや兄貴か、そいつらへの連絡は事が済んでからでいいか? マルゴーたちに伝えると、おまえを安全な場所に連れて行こうとするだろう」


「え゛、……っとそれは困ります! わたしこそアレッサンドロの第一の巫女になるのです!」


 ディアーナは杖を握っていない手で拳を握りこんで宣言した。


 目つきには妖しい光が宿り、あたしは何となく彼女の背後に巣を作ったクモのイメージ映像を見た気がした。


「お、おう……。後で何かマルゴーたちに言われたら、神託のせいってことにしてくれ」


「わかりました!」


 まずこれで懸念の一つは片付いた。


 マルゴーとエルヴィスを何かあったときの戦力として頼れないのは痛いけど、デイブが伝えた通りマルゴー達はディアーナに再会したら彼女を引っ張っていくと思う。


 それは全て済んでからでいい。


「もう一ついいか? 嬢ちゃんをまず、中央広場南の冒険者ギルドの屋上に連れて行く。この時にここから屋根を伝って最短距離を突っ走るが、身体強化や気配遮断は大丈夫か?」


「身体強化は問題ありません。でも気配の扱いは……、気配の付け替えは出来ますが、隠すのは正直得意ではありません」


 気配の付け替えが出来るなら、たぶん『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』のメンバーよりも上手い気がする。


 それでも話の腰を折りたくないし、とりあえずあたしは黙っていることにした。


 彼女の声に頷いたブリタニーは、【収納(ストレージ)】からペンダントを取り出す。


「ならこれを身に着けてくれ。魔力を通すと、小動物並みに気配が抑えられる魔道具だ」


「あ、はい。ありがとうございます!」


「なに、気にしないでおくれ。その魔道具の支払いはしらがb――マルゴーの奴から適正価格(、、、、)で頂きますだからね」


 そう言ったブリタニーは普段店では見たことが無いような、インチキ商人っぽい笑顔で微笑んでいた。


 頂きますって何だよ。


 ぜったいそれ、いろいろマシマシで頂きますって顔だよね。


 あたしはそう思ったけれど、やっぱり黙っていることにした。




 王立国教会本部の会議室には、王家の男性陣と将軍、そして教皇フレデリックと彼の懐刀であるテレンス枢機卿が集まっていた。


 王家の者は確かに不審者が使った【水壁(アクアウォール)】からは解放されたが、その過程で更に奇妙な事態が進行している。


 その情報を得るのに彼らは集まっていた。


「――つまり教皇よ、いま広場で起きている事態は何らかの神々の仕業であると結論するか?」


「その通りでございます陛下。人ならざる神気があの者より発せられ、王都の各所で天使が発生しており、切っ掛けになる出来事が起こる折に『魔神の召命』なる言葉が誰ともなく宣言されました。神々に関する何かがいま起こっていると考えられます」


「それは神々の奇跡ということか?」


「現時点では膨大な神気が発生していることで、それはほぼ確定しているでしょう」


 国王ギデオンに問われ、フレデリックは事実の部分を応えた。


 フレデリックとしては『魔神』という言葉が発せられたのをどう判断すべきかを考え、テレンスに神託を求める祈祷を始めるよう指示をした。


 求める対象は、教会が知りうる神々全てだ。


 神々が人の世に秘すことも多く、王立国教会の歴史の中でも神々に問うたことに応えが無いことは膨大に文書として記録が残っている。


 だが今回ばかりは、説明の一つも欲しいところだとフレデリックやテレンスは願っていた。


「それにしても天使か。現状では王都の民を老若男女問わずに襲っているそうだ。教会の意向に背くつもりは無いが、これでは魔獣と変わらないと騒ぐ民も多く出てくるだろう」


 そう告げるのは王国の将軍を務めるオリバーだ。


 フレデリックやテレンスにしてもその点は気になっている点だった。


 故に、神託を得るに際して神々への祈祷にその点を問う祭句を加えさせている。


 その後、会議室には沈黙が満ちるが、その空気を意図的に読まずに第一王子のライオネルが口を開く。


「ところで陛下、あの仮面の男とのやり取りは楽しそうに見えました」


「まあな。国王相手にあそこまで平然と物申す者は多く無いだろう。それに、あ奴が言っていた点も、気になる話ではある」


「市井の者が武を増しているという話ですね」


 兄と父のやり取りを聞いて、レノックスが口を出した。


 彼としても気になった点であったからだ。


「そんな話をしていたのですか陛下」


 オリバーが興味深そうな表情で問う。


「ああ。もっともあ奴は先に自分の中で結論を作り、そのために話をしているようなところがあったが」


「いまは平和な時代ゆえ、市井の者の武が伸びやすい時やも知れません」


「それはあるかも知れんな」


 ギデオンはオリバーの言葉に頷いた。




 やがて会議室の扉がノックされ、高位の神官の法衣を纏った男が入ってきた。


「皆さま失礼いたします。お恐れながら、神託を発せられた神々が居られましたので、そのお話をご報告いたします」


「話しなさい」


「はい。まず、今までに神託を発せられましたのは、豊穣神さま、地神(ちしん)さま、火神(かしん)さま、闇神(あんじん)様、薬神さま、時神(じしん)さまになります――」


 テレンスに促され、高位の神官は一同に神託の説明を行った。


 ・豊穣神、地神、火神、闇神、薬神、時神より神託が発せられた。


 ・邪神という神々がおり、教会が祭る神々の敵である。


 ・邪神は土地神などと異なり、名を秘した神々だ。意図的に間違える者は神罰を受ける。


 ・世の混乱を防ぐため、邪神の存在はできるだけ秘せ。


 ・邪神たちが才ある魔族を魔神にして、仲間にしようとしている。


 ・王都に居る天使はその邪神たちの使いで、一体でも多く倒すべきだ。


 ・魔神を我々の味方とするため、すでに神託を与えた者たちがいる。


 ・彼らは諸人(もろびと)の剣として働くだろう。


「――以上になります」


「分かりました。引き続き、神託の無い神々へと祈祷を続けなさい」


 テレンスの言葉に承知して高位の神官は一礼し、会議室を去った。


 会議室には重い沈黙が満ちるが、その場に居る者の視線は自然とギデオンに集まっていた。


 ギデオンはその視線を座ったまま受けとめ、不敵に笑いながら腕組みして右手で自身の顎を掻く。


「やれやれ、神々の喧嘩に巻き込まれたってか。全くこの忙しい時期に仕事を増やしてくれるとはな。邪神と言ったか、神々とはいえ碌でもない連中だな」


「陛下、どこから手を付けますか?」


 オリバーが問うとギデオンは「ふむ」と呟いてから口を開く。


「現段階での王国の方針は二つだ。まずオリバー将軍、お前は騎士団を動かし王都の天使どもを倒せ。武門の貴族にも伝令を走らせてお前が指揮しろ。王命とする」


「御意」


 オリバーはギデオンの言葉に恭しく礼をした。


「それからライオネル。お前は急ぎ宰相に状況を説明し、王都が『魔神の聖地』になった場合の諸国への対応を始めさせろ。特に共和国には強めに出ることにしろ。王命だ」


「御意」


 ライオネルもまたギデオンの言葉に頷く。


「いまの方針を支える意味で、国教会と各機関の連絡をリンゼイ、お前に任せる。国教会が動きやすいように整えろ。王命だ」


「御意」


 リンゼイとフレデリック、そしてテレンスが礼をする。


「それから、――そうだなレノックス。お前は私を補佐しながら、『諸人の剣』なる者共を助けよ」


「御意」


 レノックスがギデオンに礼をした。


「そして、そうだな……。今回の事態を『魔神騒乱』と呼称する。各自かかれ」


『はッ!』


 そうしてディンラント王国は『魔神騒乱』への対処を開始した。



挿絵(By みてみん)

デイブ イメージ画(aipictors使用)




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