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09.教会の行事みたいだから


 朝食の準備が出来たので、ブルースお爺ちゃん達とうちの家族が食堂に集まり朝食を食べている。


 リンダ伯母さんは文官の仕事が休みになったらしいけれど、ブルースお爺ちゃんとバリー伯父さんは今日も仕事のようだ。


「今週は王立国教会で賛神節(さんじんせつ)のミサが毎日行われるからな。王族も参列するからその警護で行かなきゃならん」


 お爺ちゃんはそう言ったけれど、それって教皇様がなにやら企んでいるミサもあるんじゃないだろうか。


 教会の行事みたいだから意識したことは無かったけど、どんなイベントなんだろう。


「お爺ちゃん、賛神節ってどんな行事なの?」


「どんな行事って言っても、教会が行うミサだな。中央広場に円形の舞台ができてそこに祭壇が作られる。その場に集まって神官たちが祈祷を行うんだが、王族も日替わりで参列するぞ」


 焼きソーセージと卵焼きを口に放り込みながらお爺ちゃんが教えてくれた。


「王都の人も広場に行けば祈ることはできるわねえ」


 コニーお婆ちゃんが補足するけど、要するに宗教行事か。


「もう少し細かい話をすると、一年を無事に過ごせたことへの感謝を神々に捧げる期間のことよ――」


 あたし達のやり取りを聞いていたアルラ姉さんが補足してくれた。


 それによると曜日ごとに祈る神々が決まっているらしい。


 地曜日には地神と豊穣神、水曜日には水神と薬神、火曜日には火神と戦神、風曜日には風神と財神、光曜日には光神と賢神、闇曜日には闇神と諸神への祈りが捧げられるそうだ。


「戦神様とか財神様、賢神様はあたし知らないかも」


「そうね。私も詳しくないけれど、賢神様はアヴィサパルディーっていう名前の神様で、聖杯を意味するらしいわ」


「戦神様は騎士団で篤く信仰する者が居ますが、名はアルデンゲーン様ですね。棍棒を象徴する筈です」


 あたしとアルラ姉さんのやり取りを聞いていたバリー伯父さんが教えてくれる。


「わたしは財神様については知ってるわね。商業ギルドでたまに祈ってる人が居るもの」


「どんな神さまなの?」


 財神様を祈ったら蓄財とかにつながるんだろうか。


 ソフィエンタに紹介してもらおうとしたら、お説教されそうな気がするけど。


「ええっと、植物の種の神様だったハズで、可能性の模索とかそういう神話があるとかなんとか。名前は、モリスヴェン様だったかしら」


「意外とおまえ達は神々の名を知っているんだな」


 ブルースお爺ちゃんはそう言って、少し感心したような表情を浮かべていた。


 一方あたしはミサと聞いて、教皇様が画策している『モフの聖なる日』うんぬんを思い出してしまった。


「そういえば今日はそのミサに、王都中のモフモフ好きが集まってお祈りに参加するらしいわよ」


「モフモフ好き? どういうことさ?」


「ええと、収穫祭の時にゴッドフリーお爺ちゃんがお世話になった人がいて、その人から話があったの。地曜日の王立国教会のミサは、家族扱いしてる家畜やペットを連れて大地の恵みに感謝する、だったかな。イヌネコが触り放題になるとか言ってたわ」


 リンジーに訊かれたので応えたけど、間違いは言って無いはずだ。


 ちなみに『イヌネコが触り放題』という言葉にはあたしの姉たちと兄さん、そして母さんが反応していた。


 うちは母方の血にモフラーが入っているのかも知れないな。


「ウィン、ゴッドフリーお爺ちゃんがお世話になった人って何て人かしら?」


 母さんが微妙に取り繕うようにそんなことを訊く。


 お爺ちゃんからはどの程度の(自白)が聞けているんだろう。


「んー……、デイブから聞いてるかも知れないけど、『肉球は全ての答』って獣人喫茶のロレーナ・パベルって人からの話よ。そのひとは『デリックさん』て人から話があったらしいわ」


 あたしの話を聞いて母さんはニコニコ微笑みながら一瞬笑わない目をした。


 ちなみに父さんは母さんの横で眉間を押さえている。


「ウィン……、ちょっと後で話があるわ」


「話? うん」


 何だろう、あたしは何かちょっとした自爆ボタンでも押してしまったんだろうか。


 でも現時点ではあたしの予感には危機のたぐいは検知されなかったので、気にしないことにして食事を続けた。




 朝食後の片づけを手伝った後、あたしは母さんが父さんと使っている客間に連行(ドナドナ)された。


「ウィン。食事中に話していたけれど、獣人喫茶の人から話を聞いた経緯を説明しなさい」


 そういう母さんはニコニコしながら目が笑っていなかった。


 どの辺が地雷原なのか分からないけれど、あたしの予感的には今回は問題は無さそうな気がしていた。


「え、いいけどちょっと魔法で防音にしていい?」


 あたしが確認すると母さんから風属性魔力が走り、周囲の音が消えた。


「これでいいわね?」


「うん。そもそもの話をすると、期末試験最終日に風紀委員として呪術を使った生徒と戦ったの。あたしとキャリルの二人でね」


「呪術?」


「うん。なんでも名前付きの悪魔の力を身に宿す呪術で、身体強化の一種みたいな感じだったわ」


 あたしの言葉に母さんは考え込む。


「話としては知っているけれど、実戦とかで使っている人には会ったことは無いわね。それで?」


 さすが元冒険者の上に趣味が読書なだけはある。


 母さんには知っている話だったか。


「物理攻撃が通らなくて、属性魔力を込めた素手の死帛澪月(しはくれいげつ)でケガさせて制圧。キャリルと相談して、王国国教会で呪いとか掛かって無いかあたし達を調べてもらったわ」


「その時に『デリックさん』に会ったのかしら?」


 そう言って母さんはニコニコと笑うけど目が全く笑って無いな。


 お爺ちゃんから話を絞り――訊き出しているのなら、『デリックさん』のことは母さんも知っているだろう。


「結論からいえばそうよ。教皇様が高位の神官様としての仕事をする日だったみたいで、あたし達を観てくれて呪いについては問題無し――」


 そこからあたしは教皇様に私用を頼まれ、手紙をロレーナに渡すのとお爺ちゃんに出すのを引き受けたことを説明した。


 ついでにその時に神気に馴染みやすいと言われたことも説明した。


「あとはその手紙をお爺ちゃんには商業ギルド経由で送付して、ロレーナさんには手渡したわ」


「そう、お爺ちゃんには手紙を出しちゃったのね。……まあいいわ、リーシャお婆ちゃんが対処するでしょう。それでウィンは花街の獣人喫茶に行ったのね?」


「そうね。あたし的には花街は何となく苦手な気がするけど、どういう形であれ教皇様とお爺ちゃんは友達だし、お使いくらいはしたわ」


 あたしの言葉で母さんは腕組みし、目を閉じてしばし考え込んだ。


「――取りあえず分かったわ。あなたが花街に入り浸っているとかだったら色々とお説教しなきゃならないところだったけど、そういう話なら仕方ないかしら」


 そう言って母さんは一つため息をついた。


「あたし花街は何となく苦手なのよ。雰囲気っていうか空気っていうか」


「母さんも苦手ね。いいイメージは無いわ」


「それで、教皇様の『モフの聖なる日』とか言ってるミサはどうする? 見物に行ってみない?」


「うーん……、私もペットになるような動物は好きだけど」


「ロレーナさんはイヌネコが触り放題になるとか言ってたわよ」


 あたしはそう言って母さんの様子を伺う。


 だが何となく気配が変わった気がする。


「行くだけ行ってみましょうか。誰かに迷惑をかけるようなイベントならダメだけど、一年の感謝を神々に祈るなら、ひどい事にはならないでしょう」


「あたしもそう思う」


「さすがに人様のペットを触り放題になるとかは信じられないけど、かわいい動物を見る分には癒されると思うし」


「そうね。あと、行くなら姉さん達や伯母さんたちはどうする?」


 母さんは少し考えて、みんなに話してみようということになった。




 みんなに話したところ、我が家は父さん以外が行くことになった。


 父さんは竜征流(ドラゴンビート)の本部に行くつもりだったそうで、あたし達で行ってこいとか言っていた。


 ちなみに父さんは何やら母さんとアイコンタクトをしていたけど、ホッとした表情を浮かべていた。


 あたしが花街の獣人喫茶に入り浸っていないか気になっていたのかも知れないな。


 十才の女児が花街の店に通うとか色々ヤバいだろ。


 ブルースお爺ちゃんちでは、コニーお婆ちゃんとリンジーがあたし達と行くことを決めた。


 ブルースお爺ちゃんとバリー伯父さんは、ミサに参列する王族の警護で王城から中央広場に行くようだ。


 二人は食事が済んだら直ぐに出かけて行った。


 リンダ伯母さんは留守番、バートは父さんと竜征流の本部に行って稽古と言っていた。


 ジェストン兄さんもその話を聞いて一瞬心が揺れたみたいだけど、最終的にはミサの方に傾いた。


『行って来まーす』


「気を付けて行ってらっしゃい」


 留守番のリンダ伯母さんに送り出され、あたし達は中央広場に向かった。


 王都内の乗合いの馬車で最寄りの停留所まで移動して中央広場に近づくと、まず大勢の人の気配と動物の気配が感じられる。


 同時に聖歌隊だろうか、何やら大人数がキレイな歌声で合唱をしているのが聴こえてきた。


「きれいな歌声ねえ」


「何だかお祭りというよりは、やっぱりミサなんだなって思うわ」


 コニーお婆ちゃんの感想に、イエナ姉さんがそう応えている。


 あたしがロレーナに渡した手紙では、教皇様はモフの聖なる日にしようとか手紙に書いていた。


 でもこの合唱がミサによるものなら、元々聖なる日に感じるんじゃ無いだろうかとあたしは考えていた。



挿絵(By みてみん)

ブラッド イメージ画(aipictors使用)




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