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06.女性陣からの横やりが


 外も暗くなって暫くしてからブルースお爺ちゃんとバリー伯父さんが屋敷に帰ってきた。


 時間的にはもう夕食の時間で、準備も出来ている。


 あたし達はリビングに集合してみんなで席に着く。


 メンバーはブルースお爺ちゃんにコニーお婆ちゃん、バリー伯父さんとリンダ伯母さん、バートとリンジーが居る。


 そこに父さんと母さん、イエナ姉さんとジェストン兄さん、アルラ姉さんとあたしだ。


 こうして見ると壮観ではあるけれど、やっぱりバリー伯父さんとバートが椅子に座っててもデカいんだよな。


 この二人に比べると、筋肉質なブルースお爺ちゃんも普通に見えてくるから不思議だ。


「よし、今年もこのメンバーで揃ったな。みんな元気そうで何よりだ!」


「そうね。せっかくだし、今日と来月一日の夕食の時くらいはお祈りしましょうか」


「ああ、――バリー、仕切ってくれ」


 ブルースお爺ちゃんとコニーお婆ちゃんがそう言って、食事の前の祈りをすることになる。


 日本の記憶がある身としては、『いただきます』と『ごちそうさま』が無い食卓は何というか気持ち的にスース―する気もする。


 無ければ無いで慣れてしまっているけれども。


「分かりました父さん。それではみんな、胸の前で指を組んで目を閉じて」


 あたし達は言われた通りにして目を閉じる。


「この日、我らが健やかに食卓を囲み食事を取れることを、神々に感謝申し上げます」


『神々に感謝申し上げます』


「はい、いいでしょう。みんな、目を開けて」


 そこまで仕切ってから、バリー伯父さんはブルースお爺ちゃんの方を見る。


 それに頷いてからお爺ちゃんが告げた。


「よし、それじゃあ食べようぜ」


『はーい』


 料理はビーフシチューとミートパイ、マトンステーキや鶏のソテーををメインにして、パンとかサラダとかが並んでいる。


 ごく普通の家庭の味だけれど、シチューに関しては母さんの味付けのような気がした。


 何となくだけれど。


 ブルースお爺ちゃんちに泊りに来た時には、夕食後にも果物がデザートで出たので配分を考えないといけないな。


 もちろん別腹ではあるのだけれど。


「そう言えばウィン、今日の模擬戦は見事だったな!」


「僕も見ましたよウィン。父さんのチームと見事に渡り合っていましたね」


「ぼくも噂は耳にしたぞウィン。高貴な方のパーティーに凄まじい手練れの少女が居るとね」


 ブルースお爺ちゃんとバリー伯父さんとバートから、予想していなかった褒め殺し攻撃を食らってしまった。


 どう反応したものだろう。


「噂の方は分からないけれど、模擬戦に関しては必死だっただけですよ。特にお爺ちゃんは、訓練場での気配で長引くだけ不利だって思ったというか」


「その割には、直接おれと戦いに来るわけじゃ無くて、おれの部下を丁寧に潰していったのは悪く無い判断だったな」


「あなたがお城でのことを話すなんて珍しいわねえ」


 あたしとブルースお爺ちゃんのやり取りをコニーお婆ちゃんが笑った。


「ウィンとの模擬戦でも話せないことはあるが、普段の仕事のことに比べたら大した秘密でも無いしな」


 いや、あたしとかコウみたいな平民がレノックス様とパーティーを組んでいることは、あんまり大っぴらにしたくない気はするんだけど。


「秘密っていえば、そもそも何でウィンは王城で模擬戦をしてたんだい?」


 ここまでの会話の流れから、さすがにジェストン兄さんが気になったようであたしに訊いてきた。


 どうしようこれ、どこまで喋っていいんだろう。




 微妙に困ったあたしはお爺ちゃんに視線を向けた。


「はっはっは。ジェストン、ウィンはキャリル嬢などクラスメイトに高貴な方が居るだろう」


「そうだね、お爺ちゃん……」


「ウィンは鍛錬目的でそういう人たちと冒険者パーティーを組んでいるんだ。友達付き合いってやつだな」


「クラスメイトで高貴な方で、キャリル様は名前が出るのに……、しかも王城……、何となく僕も話が読めてきた気がするよ」


「そうそう。まあ、いろいろ秘密なんで察してくれ」


 お爺ちゃんが、ほとんど秘密の核心部分を言ってるような気がするのは、気のせいなのだろうか。


「ところでジナ。もし仮におまえさんがあの場に居たとしたら、ウィンをどう評価するだろうな」


 お爺ちゃんはそう言って、笑みを浮かべつつ母さんの表情を伺う。


 それに対して母さんはいつもの感じでニコニコと微笑んでいた。


「ウィンはこう見えて負けず嫌いですし、頑張っている分にはいい成果を出すと思いますよ」


「はっはっは、負けず嫌いか。確かにそうかも知れないな」


 母さんの言葉でなにやらお爺ちゃんは納得して頷いていた。


 模擬戦の後に王城で母さんの気配を感じた気がしたんだけど、もしかしたら見ていたのかも知れないな。


 もしそういう状況で母さんがいまの感じなら、あたしは休み中の修行三昧は回避できるかも知れない。


 そこまで考えてあたしは平静を装い、内心では安どのため息をついていた。


「ウィンが戦いの腕を鍛えてるのは分かったんだけどさ、ボーイフレンドとかはその冒険者パーティーには居ないのか?」


 次の瞬間、リンジーが妙な火種を持ち込んできた。


『ボーイフレンド?』


 その場のみんなはそう言ってあたしに視線を集中させた。


 うわ、めんどくさいなこれ。


 何となく日本の記憶によれば、年末年始などに久しぶりに会った親戚のオバちゃんがこんなノリで絡んでくるのでは無かっただろうか。


「ふむ、ウィン。そういう相手が出来たなら、おれにも紹介してくれ」


「父さん?」


「その時はおれ自らが相手になって、六つの試練を課さねばならないからな」


 そう言って父さんはキラーンと目を輝かせた。


「ちょっと、六つの試練て何よ父さん! 初めて聞いたんだけど?!」


 地球の記憶でいえばヘラクレスは十二の試練を受けたんだったか。


 その半分の六つとはいえ、いきなり試練とか言われてもな。


「この世で父とはそういう生き物なんだ」


「いや、待ってよ。そもそもボーイフレンドとか居ないよ?!」


「ふむ、そうか」


『え~、つまらない~』


 親戚や我が家の女性陣からの横やりが強いです。


 あ、それでもコウに竜征流(ドラゴンビート)の関係で、父さんに紹介する話をしたんだったな。


 このタイミングで話すのは悪手だろうか。


 でも後でこっそり話して、バレたときの方がめんどくさそうなんだよなあ。


「そうそう、父さんと話してて思い出したんだけど、うちのパーティーの男子をそのお兄さんと二人で父さんに紹介するかも」


『お~、二人か~』


「ほう……!」


 そこで父さんの目がシャキーンと光った。


「ちょっと、ボーイフレンドとかの話じゃ無いの! 鳳鳴流シンギングフェニックスを修めていて、竜征流に興味があるみたいなの!」


「鳳鳴流? ああ、カタナか……。そういう話か」


「そうよ。父さん竜征流の本部に顔を出してるみたいじゃない? あたしのパーティー仲間とその身内ってことで紹介してあげてくれないかしら?」


 あたしの言葉に父さんは少し考えてから告げる。


「そうだな、そういうことなら紹介すること自体は構わないよ」


「良かった! もし父さんに断られるようなら、マイルズさんのところに連れてこうかと思ってたのよ」


「……ん? もしかしてウィンは師匠に会ったのか?」


「会ったわよ。会話するたびにお約束のように名前を間違えて、変わったお爺さんだったわ」


 あたしの話を聞いて父さんは軽く頭を掻き、「まあいいか」と呟いた。


「分かった。覚えておく (ついでに見極めよう)」


 父さんが何かを呟いた気がしたけど、あたしはよく聞き取れなかった。




 その後あたしはリンジーに逆襲するつもりで、ジャロッドの話を振ってみた。


「リンジー姉こそボーイフレンドうんぬんでいえば、ジャロッドさんとはどうなったのよ?」


「わたし? 付き合ってるけど」


「ふーん、そうなんだ。……えー?!」


「知って無かったっけ?」


 あたしはリンジーとジャロッドが付き合い始めたのは知らなかったと思う。


 その顔で察したのか、リンジーが気まずそうな表情を浮かべた。


「ああ、言ってなかったならゴメンなウィン。べつに黙ってたわけじゃ無いんだけどさ」


「いいよそんなの。なに、婚約でもしたの?」


「そっ、……さすがにそこまでは行ってないよ」


 そう言ってリンジーは顔を赤らめた。


 だがその様子を見ていたバリー伯父さんが口を開く。


「リンジー、僕もジャロッド君は知っているけれど、もし婚約とかそういう話が決まりそうなら相談してね」


「う、うん、分かってるよ父さん」


 リンジーはさらに顔を赤らめて視線を伏せた。


 あたし的には少しだけお返しが出来た気分になったけれど、よくよく考えたらリンジーは彼氏持ちのリア充だ。


 べつにリンジーをやり返したわけでは無いことに気づいたあたしは、何となくため息をついた。


 その後もイエナ姉さんとかジェストン兄さんとか、アルラ姉さんやバートの近況の話になった。


 イエナ姉さんは王都の商業ギルドへの就職を考えているのは変わらないけれど、ブライアーズ学園の伝手で現場体験に近いようなことを行っているらしい。


 ジェストン兄さんは父さんも説明していたけれど、剣の方は問題無いらしい。


 ただ、ブルースお爺ちゃんから「学生のうちに戦術や戦略の立案とか組織論の基礎を勉強しておけ」とか言われていた。


 アルラ姉さんは順調に歴史学の勉強を進めているようで特に何も無し。


 あたしが学院で風紀委員として頑張っている話をしてくれたから少しホッとする。


 バートに関してはブルースお爺ちゃんの連隊に入ったようで、毎日訓練に明け暮れているようだ。


 あたしの近況の話にもなったけれど、風紀委員会で呪いの腕輪騒動を察知したときの話をしておいた。


 イエナ姉さんがあたしの話を聞いて、最近は学園内でペンダントの話を聞かなくなったとか言っていた。


「呪いの話は学園では聞かないけれど、身に着けていると効果があるアクセサリーの噂は一時期流れたわね。でも、ウィンから連絡があったあとに収まった気がするかしら」


「そう。学園で何か対策がされたのかも知れないわね」


「呪いといえば例の学生に呪いを掛けて失踪した神官だが、まだうちでは見付けられていないな――」


 ブルースお爺ちゃんが微妙に内部情報な感じの情報を教えてくれたけど、逃げた神官は見つかっていないそうだ。


 父さんと母さんも神官が逃げたところまでは知っていたけれど、冒険者ギルドの情報網で父さんに話が伝わったらしい。


「呪いとか怖いわねえ」


「でもお婆ちゃん、どうやら呪いと神々への祈りって、根っこの部分では関係しているらしいわよ」


「わたしは祈りの方だけで充分ね」


 コニーお婆ちゃんはそう言って笑っていた。



挿絵(By みてみん)

リンジー イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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