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03.暖かいことは別の話


 ブルースお爺ちゃん達との模擬戦は、想像していた通り泥仕合になった。


 あたし達もお爺ちゃんたちも、揃って近衛騎士団提供という鍛錬用の防具を装着したのだけれど、身体能力だとか魔力などの操作が防具で制限された。


 その結果、双方のメンバーが光竜騎士団の一般兵程度の戦闘力となり、初回で行ったあたしとカリオによる奇襲が使えなくなったのだ。


 仕方が無いので、ブルースお爺ちゃんのチームがまとまって攻撃して来ようとするところを、あたし達が分散して動くことで隙を作って切り崩したりした。


 二戦目ではあたしとコウとで二人一組(ツーマンセル)になり、残りのレノックス様たちが三人一組(スリーマンセル)になった。


 この二戦目ではあたしとコウによる切り崩しが成功し、最後は初戦と同じくブルースお爺ちゃんを包囲攻撃して勝利した。


 休憩を挟んで三戦目を行ったのだけれど、今度は相手も散兵になってバラけて戦った。


 三戦目ではあたしはキャリルと二人一組になり、残りのメンバーで三人一組になった。


 そしてあたしとキャリルのところにブルースお爺ちゃんが、蒼蛇流(セレストスネーク)を使う騎士を連れて突っ込んできた。


 その結果ややこちらが不利な感じでひたすら長引いた。


 身体能力や魔力操作が同レベルに揃えられたことで、体格差の有利不利が出てどうしても勝ちきれなかったのだ。


 くそ、筋肉どもめ。


 それでも試合開始からずっと技の応酬で模擬戦が拮抗し、気が付けば訓練場の周囲は当初居なかったギャラリーが集まってきていた。


 最後は審判役の人が経過時間で判断して引き分けと言ってくれたけれど、あたし達はとにかくヘトヘトになっていた。


 ブルースお爺ちゃん達のチームはまだ余裕がありそうだったから、実質負けみたいなものだと思う。


「――それでは三回目の模擬戦の講評も終わったので、本日の模擬戦はここまでとします。レノックス様、宜しいでしょうか?」


「ああ、年末年始に向けて忙しいところに手間を掛けた。今回の経験を活かし、この身に恥じない強さを我々は身につけたい」


「もったいないお言葉です。一同、パーティ『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』の一行に敬礼!」


 ブルースお爺ちゃんの号令で、整列していた騎士の人たちが一斉にあたし達に敬礼してくれた。


「よし、オレたちもパーティーとして礼を言おう。ありがとうございました!」


『ありがとうございました!』


 レノックス様の言葉に合わせ、あたし達はそう言って頭を下げた。


 するとあたし達とブルースお爺ちゃん達は、訓練場に集まっていたギャラリーから拍手をあびた。


「よし、それではこれで解散とする! 各自は昼食ののち、通常の任務に戻れ!」


『はッ!』


 お爺ちゃんが号令を出すと、騎士の人たちはバラけて移動を始めた。


「さて、オレたちも食事にしよう。そろそろ昼食にしてもいい時間だろう」


「賛成っ! 直ぐ行きましょう!」


「俺もハラ減ったぞ。肉喰おうぜ!」


「王宮のご飯かあ、楽しみだねえ」


「お昼にいたしましょう。文官の皆さんは毎日食べている食事でしょうが、確かに興味はありますわ」


 あたしはレノックス様の言葉に反射的に叫んだが、みんなもお腹が空いていたんだろう、口々に同意する言葉が上がった。


 その後ブルースお爺ちゃんも同行し、近衛兵のお兄さんたちやティルグレース伯爵家の“庭師”の二人も引き連れてあたし達は王宮の食堂に向かった。




 王城の砦部分を移動して王宮に入り、文官たちが普段使うという食堂に入る。


 するとそこは学院の食堂を思わせるような広さがあった。


 もうお昼時に入っていることもあって、食堂の利用者はそれなりの人数が居た。


 でもあたし達が料理を出す配膳口に進むと、その場に先に居た人たちは端に避けてレノックス様に先を譲った。


 第三王子殿下だし、王宮の中で文官などが彼を待たせるとかは確かにあり得ないだろう。


 避けてくれた人たちはレノックス様に一礼するが、あたし達やブルースお爺ちゃんの姿を見ると興味深そうな視線を向けていた。


 レノックス様からはビュッフェだと聞いていたけれど、確かに色んな料理が並んで取り放題になっているな。


「さて着いたぞ。見た通り学院の食堂のビュッフェと似た仕組みだが、当然無料でお代わりは自由だ。あとそうだな……」


「どうしたんですのレノ?」


「いや、厨房に声を掛けたとき、今日のおすすめの料理には星のマークを料理名のところに貼っておくと言っていたのだ」


 そう言われてみると幾つかの料理で星のマークが付いているものがあるな。


「へえ、鶏の赤ワイン煮込みとか白身魚のチーズムニエル……、ラム肉のミートパイ、マトンステーキの香草焼きはおススメみたいだね」


「よし、まずは俺はマトンステーキ行ってみる」


「さすがにマホロバ料理は無いみたいだけれど、鶏の赤ワイン煮込みは遠目でも美味しそうな色だねえ」


 コウとカリオが何やら浮足立っているな。


「城の食堂では、香草焼きは確かにお勧めだな少年よ。カリオと言ったか、さすが鼻が利きそうなだけはある。よし、おれも今日は肉の日だな」


 肉の日って何だよお爺ちゃん。


 ここ王宮だし、日本のスーパーとかを思い出すから止めようよその言い方。


 内心そんなことを考えていたけど、あたし的には白身魚のチーズムニエルが気になっている。


 加えて、星のマークが付いていない料理もビュッフェで取り放題になっていて、それらも美味しそうに見えた。


「そういえばウィンにキャリル、デザートはあちらのコーナーにあって、オレたちのパーティーはお代わりし放題だそうだ。ケーキに果物に焼き菓子などがあるから、好きなものを選べばいい」


「ありがとうレノ! その情報が今日いちばん嬉しかったわ!」


「現金ですわねウィン。でもこの時期のフルーツにどんなものがあるのかは気になりますわ」


 そうしてあたし達はそれぞれ好きなものを取り、お代わりをしながら昼食を取った。


「それじゃあお爺さんは元々王国西部の出身なんですね?」


「そうだ。両親が高位冒険者だったんだが、おれはブライアーズ学園の体育科に進んでな。卒業して光竜騎士団を受けたら第一師団に配属されて、今は連隊長だ」


 何やらコウがブルースお爺ちゃんに太刀筋のことで質問をしたら、そのままお爺ちゃんの来歴の話になっているようだ。


「俺、留学が決まったときは、光竜騎士団の連隊長の方と話をする日が来るとは思ってませんでした」


「確かに共和国とは歴史的な経緯があるから、王国の中でもいろんな考えの奴はいる。だが少年よ、光竜騎士団の多くは剣には剣を、握手には握手を返す者たちだ。その点は覚えておいて欲しい」


「はい。共和国も、好戦的な連中は少数派です。俺としては王国に友達が多く出来たし、ずっといい関係で居たいです」


 カリオも肉をぽいぽい食べながら、ブルースお爺ちゃんと何やら騎士団の話をしているみたいだ。


 ブルースお爺ちゃんも負けずに肉を食べまくってるけど、大丈夫なんだろうかあれ。


「時にブルース連隊長様、今回はわたくしのわがままにお付き合いいただきありがとうございました。大変貴重な経験をさせて頂きましたわ」


「いやキャリル嬢。こちらこそ感謝したい。本当にありがとうございました。まさかこの歳になって、孫がいるパーティーと模擬戦が出来るとは思って居なかったです」


「それでもブルースお爺ちゃんは、家ではあまり武術の話とかはしないじゃない。今日はカッコ良かったわ」


 あたしとしては半分くらいは感謝を込めつつ、率直な感想を言っただけだったのだが、お爺ちゃんはニッコニコに破顔してしまった。


「そうか、カッコいいか、はっはっは! ウィンにそう言わせることが出来ただけでも、おれとしてはいい日だった。はっはっは!」


 あたし達のやり取りを見ていたレノックス様が、微笑みつつ口を開く。


「ふむ、実際ブルース連隊長の動きは見事なものだった。模擬戦の初戦はこちらの奇襲が成功したものの、それでも主戦力として圧倒的な技量を見せてくれたな」


「もったいないお言葉ですレノックス様。しかし我ら騎士団としては、個の力はもちろんですが、集団としての力も磨いております。今後も精進してまいりますぞ」


「ああ、期待している」


 ブルースお爺ちゃんとレノックス様のやり取りを眺めながら、あたしは三個目のマンゴーショートケーキを頬張っていた。


 多分このマンゴーは王都南ダンジョンで取れた奴だと思うけど、ケーキに使ったのはこの世界で初めて見たかも知れない。


 そう思ってもう一個お代わりをするかを悩みながら、みんなの会話を聞いて過ごしていた。




 王都西広場は昼どきを過ぎ、これから少しずつ王都に着く旅人が増え始める時間帯だった。


 王国の場合、年末年始は地元で過ごす者が多いものの、それでもこの国の中心である王都には毎年それなりの数の旅人が訪れる。


 久方ぶりに王都に辿り着いた彼らも、そういった旅人に含まれた。


「やれやれ、ようやく着いたねえ」


「北部に比べると暖かくて安心します」


 二人は似たような旅装をした人の流れに乗って、王都の道を進む。


「そう言えば、きみは王国南部の出身だったよね」


「流石にもう、冬の寒さには慣れました。けれど、慣れたことと暖かいことは別の話です」


「それは確かにぼくも同感だよ」


 アレッサンドロはそう言ってアンナに微笑む。


「それでボス、今日はこの後どうしますか?」


「どこか宿に入って王都での食事を食べに行きたいね。共和国の料理が食べたいかな」


「ああ、いいですね」


 二人はパスタ料理を思い浮かべながら歩き、商業地区を目指す。


 これまで巡ってきた王国北部では煮物や腸詰を使った料理が多く、古エルフ族(魔族)であるアレッサンドロとしては故郷の味を楽しみたかったのだ。


「でもそのためには尾行を撒かないといけないよ」


「ええ。これだけ人の流れがありますし、気配の付け替えでいいと思います」


 そう言ってアンナは軽く周囲の街並みを確かめる仕草で、人の流れを確認する。


「そうだね。手抜きな気もするけど、それでいいか。取りあえず商業地区を目指そう」


「分かりました」


 二人は周囲の気配を確かめながら、王都の中央部方向へと歩いて行った。



挿絵(By みてみん)

ウィン イメージ画(aipictors使用)




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