表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
384/857

12.連隊長を主戦力とし


 王城内の砦部分にある訓練場で、レノックス様に率いられてあたし達は待機している騎士らしき集団の前に移動した。


 人数としては数十名ほどは居るだろうか。


 全員と模擬戦を行うわけでは無いだろうけれど、みんな相応に強そうな人が揃っている気がする。


 あたし達はその集団の前で足を止め、代表を務めているらしきブルースお爺ちゃんにレノックス様が告げた。


「おはようおまえたち。毎回重ね重ね手間を掛ける」


 レノックス様の言葉を受け、ブルースお爺ちゃんが口を開く。


「第三王子殿下に敬礼!」


 その号令に合わせて、待機していた騎士たちとお爺ちゃんが揃ってレノックス様に敬礼をする。


「直れ」


 直後に再び気を付けの姿勢に戻ったけど、所作のタイミングとかが完全に揃っている。


 ふだんから敬礼だけのトレーニングとかをしているのかも知れないな。


 ブルースお爺ちゃんは王都の家では冒険者っぽい口調で気楽に話している姿のイメージが強いから、騎士の正装で敬礼をしている姿は見違えたかも知れない。


「おはようございます第三王子殿下。殿下の鍛錬のお役に立てますのなら、身に余る光栄にございます」


「ふむ……。ブルース連隊長、オレが所属するパーティー『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』のメンバーに自己紹介をしてくれ」


「承知いたしました。――初めてお会いする皆様、自分は光竜騎士団第一師団にて連隊長を任されておりますブルース・マリク・ヒースアイルと申します。平素、第三王子殿下の鍛錬にお付き合い頂き、誠に感謝申し上げます」


 お爺ちゃんはそう言ってからあたし達にビシッと敬礼を決めた。


 この所作は騎士らしい風格を感じるというか、ちょっとカッコいいかも知れない。




 ブルースお爺ちゃんの自己紹介を観察していたレノックス様がお爺ちゃんに告げる。


「気は済んだだろうかブルース連隊長。パーティーの仲間に自己紹介をさせるから、普段通りの言葉や振る舞いに戻ってくれ。……第三王子殿下などと呼ばれると肩が凝ってくる」


「「「え?」」」


 思わずあたしとコウとカリオが頭の中に疑問符を浮かべると、お爺ちゃんは微妙に残念そうな表情を浮かべた。


「承知しましたレノックス様……。あー、『敢然たる詩』の諸君、おはよう。気付いた奴もいるかも知れんが、おれはそこのウィンの祖父だ。レノックス様のみならず、孫まで世話になって本当に感謝する!」


『おはようございます!』


 お爺ちゃんはあたし達の挨拶に頷く。


「光竜騎士団の第一師団は、王都を含めた王国中央部の防衛と王城の防衛を担当する。その関係で、礼儀を重んじる中で実力主義を重んじるのが伝統になっている。相手を敬う気持ちさえあれば、多少言葉遣いが砕けていても気にすることは無い。……格式とかそういうのは近衛騎士団に任せてるからな」


 ブルースお爺ちゃんはそう言いつつ、レノックス様の護衛をしている近衛騎士らしき青年たちに視線を向ける。


 彼らはその視線で困った表情を浮かべているけれど、とりあえず物申すつもりは無いようだった。


 そのあと『敢然たる詩』のみんなはレノックス様以外は自己紹介をした。


「――それで、最後になるが、彼女がウィン・ヒースアイルだ」


「初めまして皆さん、ウィン・ヒースアイルと申します。いつもあたしの祖父、ブルースが大変お世話になっております。ありがとうございます。本日はお手数をかけますが、よろしくお願いいたします」


 そう言ってあたしが頭を下げると、お爺ちゃんが真面目な表情を崩さずに頷く中で、整列している騎士の人たちが騒ぎ始めた。


「孫が居るってフカシじゃ無かったんだ」


「可憐だ……」


「つーか、外見が連隊長に似なくて幸運だったんじゃね?」


「年齢の割にしっかりしてそうだなぁ」


 なにやら色んな声が聞こえてきたが、ブルースお爺ちゃんが振り返って彼らに視線を送るとピタッと私語を止める。


「よし、いま無駄話をしていた奴は、その場で腕立て伏せを三十回やれ。身体強化は禁止だ」


『えー』


「「「お爺ちゃーん」」」


「いまお爺ちゃんとか言ったバカ共はさらに三十回追加だ。終わったら整列して待機。始めろ!」


『はい!』


 そして当初の騎士団らしい規律はどこへやら、彼らは適当にバラけてスペースを取り腕立て伏せを始めた。


「まったく、たまに客人を迎えると直ぐこれだ。平常心を保てるようにしごいているから、多少の気ままな感じは大目に見てくれ」


 騎士団がそれでいいのかとも思うが、どんな時も平常心を保てるのは確かに大切なのかもしれないな。


 じっさいレノックス様の側に控える近衛兵の人たちは、顔をしかめたりはしていない。


 多分シメるところはシメて振舞っているということなんだろう。


「さてレノックス様、模擬戦の方はいかがいたしましょうか」


「そうだな、今日はブルース連隊長が相手をしてくれるのだろう? まずはおまえを含めた騎士チーム五名とオレのパーティーとの対戦をして様子を見よう。兵種は任せる」


「分かりました。それでは三十分後を目途に始めましょう」


「頼む」


 そうしてブルースお爺ちゃんは整列し始めた騎士団の人たちに向き直り、指示を飛ばした。




 あたし達も近衛兵の人たちの案内で、訓練場の脇にある屋根付きの休憩スペースに案内され準備を始めた。


「ごめん、あたし未だ戦える格好をしてないわ」


「あ、俺もだ」


「ボクもいきなり模擬戦になると思ってなかったからこんな格好だよ」


「よし、近くに更衣室があるはずだ。案内してもらって着替えてこい。防具だけでいい」


 レノックス様の言葉で直ぐに近衛兵の一人が動き、あたし達を更衣室に案内してくれた。


 途中、廊下を移動しながら近衛兵の青年が声を掛けてくれた。


 あまり話し込んだことは無いけれど、王都南ダンジョンに入るときに同行してくれる一人で互いに顔は見知っている。


 今日は王城内だし、警護の仕事という意味では安心感があるのだろう。


「ウィンさんは、ブルース連隊長と稽古などはされるのですか?」


「え、お爺ちゃん――祖父とですか? 普段あたしは寮暮らしですし、祖父も家には努めて武術関係の話題などを持ち込まないようにしているようなんです」


「そうでしたか。騎士の仲間にはそういう者もそれなりにおります。任務のあいだは気を張って過ごすため、家族の時間は武の話を遠くしたいというのは理解できます」


 そう言われると理解はできる。


 あたしにしてもコニーお婆ちゃんとかに、月輪旅団の仕事の話なんかはそんなにしたくないかも知れない。


 一瞬、まえにデイブに言われた言葉が頭によぎる。


「『斬ったことで何を得て何を護ったかを考えろ』か……」


「どうかされましたか?」


「いえ、ごめんなさい、何でも無いです」


 廊下を歩きながらコウがあたしに訊く。


「ウィンのお爺さんは何か武術を修めているのかい?」


「ごめん、それも知らないのよ。何となく父さんが竜征流(ドラゴンビート)を使うから、お爺ちゃんもそうかなって思ってたけど」


 あたしとコウの会話を聞いていた近衛兵の青年が告げた。


「連隊長は竜征流を使われますね。皆伝者ですが、出身地の王国西部で修めたようです」


「そうなんですね」


 あたし、ブルースお爺ちゃんのこと何も知らないんだな。


 すこし罪悪感を感じた。


「今日の模擬戦に出られるのなら、いつもの通り『撲殺君』を使うんじゃないですかね。最新だと『撲殺君三十二号』だったかな?」


 その罪悪感はどこかにすっ飛んでいった。


『え?』


「両手持ちできる特殊な棍棒ですよ。どんなものかはお楽しみに」


 そう言って近衛兵の青年は微笑むけれど、不穏な武器の名前にあたし達は心配になっていくのだった。


 程なく更衣室に着くが、男女で部屋が隣り合わせだ。


 案内してくれた青年に礼を告げて室内に入り、あたしは【収納(ストレージ)】から戦闘服などを出して急いで着替えた。


 あたしとコウとカリオが訓練場に戻ると模擬戦の準備が進んでいた。


「よし、来たか。ウィンとコウもあの中から武器を選んでくれ。刃引きした武器を用意してあるが手斧やカタナもあるはずだ」


 そう言うレノックス様はすでに細剣を佩いている。


 キャリルも戦槌(ウォーハンマー)を手にしているけれど、戦槌の場合は刃引きとか関係無いんじゃ無いかと一瞬脳裏によぎった。


 カリオは近衛兵に教わりながらバンテージみたいなものを巻き始める。


「分かったよ」


「うん、分かったわ。急ぐわね」


「急がんでいい。手に合うものを選んでくれ」


 あたし達は武器置き場に向かい、手に馴染みそうな短剣と手斧を選んで装備する。


「使えそうなものはあったかいウィン?」


「あたしは大丈夫よ。コウは……、カタナはあったみたいね」


「意外としっかりしたものが置いてあったよ」


 そう言いながらコウは刀を佩く。


 そしてあたしとコウはみんなに合流し、作戦会議を始めた。


「まず最初に対戦する相手はあの五名のようだ――」


 レノックス様が説明を始めるが、まず目につくのはブルースお爺ちゃんだ。


 ラメラ―アーマーを纏って手にしているのは、身の丈ほどもある棍棒のようなものだ。


 どうやら木製の棒で、柄の部分は両手持ちできるようになっている。


 あれが『撲殺君三十二号』かも知れないけれど、何が付いているのか所々でくすんだ色が付着しているのがブキミな感じだ。


 あれを両手剣代わりにして、父さんと同じく竜征流(ドラゴンビート)を使うんだろうな。


 他の騎士は片手剣と盾を装備し竜芯流(ドラゴンコア)を使いそうな兵が二名と、素手にバンテージを巻いているのが一名、短剣を一本装備しているのが一名だ。


「恐らくだが、ブルース連隊長を主戦力とし他は随伴兵としているのだろう」


「盾持ちとそれ以外を二人一組(ツーマンセル)にして、それを二セット用意して行動させるのでしょうね」


 レノックス様とキャリルが予想を述べるが、あたしを含めてみんなから異論は出なかった。


「それでこちら側の作戦だが、基本的にはいつもの流れを土台にする――」


 あたし達は連携の方針を確認すると、模擬戦を始めるために訓練場の中央に移動した。


 そこで模擬戦のルールが説明されたけれど、即死攻撃が禁止で戦闘継続不能と判断されたら場外に連れ去られるとのことだった。


「――攻撃については即死攻撃でない限り、治療できる体制は万全に準備してある。模擬戦のあいだは相手を傷つけることを躊躇せずに技を振るって欲しい。こちらも手心を加えることなく相手をさせてもらう」


 ブルースお爺ちゃんはあたし達にそう告げた。



挿絵(By みてみん)

カリオ イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




おもしろいと感じてくださいましたら、ブックマークと、


ページ下部の☆☆☆☆☆のクリックにて応援頂けましたら幸いです。




読者の皆様の応援が、筆者の力になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ