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11.王城で用事があるの


 寮の自室に戻ってからは部屋着に着替え、日課のトレーニングを行った。


 そのあとはブルースお爺ちゃんちに持っていく荷物をマジックバッグにまとめる。


「忘れ物は無いはずだけど、何かあったら取りに来ればいいよね」


 そしてその日は早めに寝た。


 翌朝、自室の扉がノックされる音で目が覚める。


 あたしは気力でベッドから出てヨロヨロと移動し、扉を開けた。


「おはようウィン。もっとゆっくりでも良かったんじゃない? 父さんも母さんも着くのは夕方よ、多分」


「ありがとう………………ねえさん…………。きょうは、おうじょうで、……ぱーてぃーの、もぎせんがあるの」


「そんな話だったわね」


「ええ、……そのあと、……王宮で、デザート付きのランチが食べられそうなのよ、文官用の食堂で!」


 あたしは意識を正常に起動することに成功した。


 やはりデザートという言葉の響きはあたし達に勇気を与えてくれると思う。


「それも聞いたじゃない。私も興味はあるけど、さすがに王宮は敷居が高いわ。土産話で我慢するわよ」


 何やら姉さんは苦笑いを浮かべているけど、お土産が貰えればなあ。


 ともあれ、まずは出る準備をしないと。


「朝は食べていく?」


「私は食べて行った方がいいと思うわ。軽めでもお腹に入れておきなさい」


 あたしは姉さんの言葉に頷き、【洗浄(クリーン)】を掛けてから部屋着のまま二人で寮の食堂に向かった。


 早めの時間だったので、パンとスープだけ頂いてあたし達は自室に戻り、身支度を済ませてからマジックバッグを持って寮の玄関で姉さんと合流した。


「それじゃあ行きましょうか」


「あ、姉さん、悪いけど途中で商業ギルドに寄っていい?」


「別にいいけどどうしたの?」


「ちょっとゴッドフリーお爺ちゃん宛ての手紙を預かっていて、早めに出しちゃいたいのよ」


「商業ギルドなら日の出と共に窓口が開くし、大丈夫か……。そういうことなら構わないわよ。それにしても誰から預かったのよ」


「デリックさんていうお爺ちゃんの友達で年配の方よ。この前偶然会ったの。忙しくて出しに行けないって言ってたから、その位なら出しときますってことになって」


 うん、嘘は言っていないハズだ。


 それに多分、この世界では郵便事情は地球ほどは良く無いし、早めに出しておく方が無難だったりする。


「ふーん。まあいいわ。行きましょう」


「うん」


 あたしとアルラ姉さんは学院を出て王都内の乗合い馬車で中央広場まで移動し、商業ギルドに立ち寄った。


 商業ギルドではあたしが封書の送付依頼をしているあいだ、姉さんにはアルバイトの掲示板を眺めるなどして待ってもらった。


 手続きは直ぐに済んだので、あたし達はまた乗合い馬車で移動する。


 ブルースお爺ちゃんの家に近い停留所で降りて、歩いてすぐにたどり着いた。


 門をくぐり玄関扉のドアノッカーを叩くと、中からコニーお婆ちゃんが顔を出す。


「おはようアルラ、ウィン。元気そうね」


「「おはようお婆ちゃん」」


「またしばらく、お世話になるわねお婆ちゃん」


 姉さんがそう言うとコニーお婆ちゃんは目を細める。


「賑やかになるわねぇ。まずは入りなさい、寒かったでしょう?」


「あ、お婆ちゃん、あたしこれから王城で用事があるの」


「王城で用事? あらそう?」


「ちょっと急ぐから、一旦荷物を置いて出かけてくるわ」


「忙しないわねえウィン。お茶の一杯でも飲んで行けばいいのに」


「ごめんなさい」


 あたしが頭を下げるとお婆ちゃんは「まあいいわ、気を付けて行ってらっしゃい」と微笑んだ。


「行って来まーす」


 あたしは玄関口の中にマジックバッグを置き、手を振りながら出かけた。


 後ろではお婆ちゃんがアルラ姉さんに「王城の用事って何かしらねえ」とか訊いていたけど、話してから出れば良かったかな。


 でもコニーお婆ちゃんと話し始めると、けっきょくお茶を飲みながらって事になって出かけるのが遅れそうだ。


 あたしはお婆ちゃんに頭の中で謝りながら、門を出て王城の方に向かう。


 そのまま内在魔力を循環させて身体強化し、気配を遮断し場に化して高速移動を始めた。




 あたしが王城前広場に着くと、広場の端にはコウとカリオの姿があった。


 二人の近くに移動して気配遮断を緩める。


「おはよう、二人とも」


「「おはようウィン」」


「ウィン、コウから聞いたぞ。なんか面倒な相手と戦ったみたいじゃないか」


 そう言ってカリオが心配そうな視線を向けた。


「中途半端に話してもカリオが心配しそうだし。それとは別に悪魔の力を宿した相手との戦いなんて、知っておいた方がいいだろうと思ったんだ」


 カリオの様子に微笑みながらコウが告げた。


 確かに悪魔の力を宿した相手と戦うなんて滅多に無いよね。


「いや、俺は別にウィンの腕に関しては心配はしてないぞ。……ただ呪いとかは気になるよな。よく分からんし」


 そう言う割にはカリオも、あたしの顔を見てホッとした感じがしたんだよな。


 いちおう仲間意識くらいは持ってくれているのだろうか。


 それなら普段から、もうちょっとこちらにストレスが掛からないよう行動して欲しかったりする。


 カリオが悪い奴じゃ無いのはさすがにもう分かってるけど、ときどき残念な行動をするんだよな。


「悪魔そのものは色んなグレードがあって分からないけど、呪いというか呪術なんかで味方を強化する場合は、対戦相手には影響が無さそうよ」


「「ふーん」」


「でもそうね、みんなには心配かけて悪かったわ。あたしもキャリルも無事だから、今日の模擬戦はランチのためにがんばりましょう」


「おー……ランチのため? やっぱりウィンは食い気なのな」


 カリオは『応!』と言いかけてからじとっとした目をあたしに向けた。


「ははは。でもウィンらしくていいと思う。ボクもちょっと料理は興味はあるかな」


「……そう言われたら俺もそうなんだけどさ」


「そうよ! ランチのために頑張るべきよ!」


 そう言って握りこぶしを作るあたしを見ながら、コウとカリオは苦笑いを浮かべていた。




 程なくティルグレース伯爵家の馬車が王城前広場に現れ、そのまま今朝は開いている王城の正門をくぐって行った。


「あれってキャリルなんじゃ無いのか?」


「多分そうだろうねえ」


「キャリルだったら、中に入ったら連絡をくれると思うわ」


 たぶんだけど馬車の中からキャリルの気配がした気がするので、そのうち魔法で連絡があるだろう。


「おはようございますウィン、今どちらにいますか?」


「おはようキャリル。王城前広場でコウとカリオに合流済みよ。数分前に馬車が入って行くのが見えたわ」


「分かりましたわ。そのまま正門脇の通用門まで三人で来てください」


「分かったわ」


 二人に説明してあたし達が歩いて通用門まで向かうと、警備兵が控えていた。


「…………」


 今日はレノックス様が同行している訳でも無いし、顔パスで通してもらう訳には行かないだろう。


 それでもあたし達が警備兵のお兄さんたちの表情が読める距離まで近づいても何も言われないのは、『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』で顔が売れているからかも知れない。


 すると王城前広場の方から暗部の人たちに特有の気配の動きがあった。


 たぶんレノックス様の警備目的で展開しているんだろう。


 そう思っていると王城側から通用門を通ってレノックス様とキャリルが現れた。


 レノックス様は戦闘服の上からロングコートを羽織っている。


 キャリルはスケイルアーマーに濃い色のマントを合わせているけど、場所が場所なので女性騎士といった感じに見える。


 二人の周りにはティルグレース伯爵家のいつもの“庭師”の男女二名と、王都南ダンジョンに同行してくれる近衛兵のお兄さんが三名控えていた。


 彼らは正装というか、騎士っぽいマントを羽織った格好をしている。


「おはようおまえら。早かったな」


「おはようございます、あなた達」


『おはよう』


 あたし達は挨拶もそこそこに王城の中に移動した。


 三つある城門を抜け玄関を上がり、どんどん中に進んでいく。


 レノックス様の後を追って移動したのだけど、王城の砦部分を目指しているのだろう。


 廊下を進み、階段を何回か上ったり下りたりし、やがてあたし達は訓練場のような広い場所に辿り着いた。


 そこには騎士団らしき人たちが鎧や戦闘服を着て待機していたが、彼らをまとめるように最前列で立っている男性があたしの身内だった。


「ブルースお爺ちゃん?」


 ちょっと予想外だったので大きな声を出しそうになったけれどあたしは我慢した。


 お爺ちゃんはあたしに反応することは無く、待機状態を続けている。


 あたしは『敢然たる詩』のみんなを見回すと、キャリルがあたしに得意げな笑みを浮かべていた。


 その瞬間、彼女が何かを仕込んでこうなったとあたしは理解した。



挿絵(By みてみん)

レノックス イメージ画 (aipictors使用)




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