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09.神気に馴染みやすい体質


 あたしのじっとりした視線を受けて、教皇様は焦った口調で告げる。


「いや、待つのじゃウィンちゃん。以前国教会の神官で、お主の学院の生徒に呪いを掛けて失踪した戯けがおってのう」


「呪いを掛けられたの、風紀委員の先輩なんで知ってます」


「そ、そうじゃったか。それは済まんかったのう」


「いえ……、教皇様も被害者じゃないですか。学生に呪いを掛けるようなろくでもない人が、神官をしているなんて普通は思いませんよ」


 まあ、国教会内部の体質なんかは知らないから、あくまでもあたしの中でもイメージでしかないけれども。


「そう言ってくれると助かるのう。……ともあれ、再発防止の体制が整うまで、本部の敷地を出られないのよ吾輩」


「あー……、それでモフモフが足りないって言ってるんですか」


 敷地内に軟禁まではいかないけど、自宅に帰れなかったりとかはけっこう厳しい状況かも知れないな。


「そうなのじゃ。一応新年になったタイミングで、国教会の中で再発防止のための部署が動き始めることになっておる。年が変われば吾輩も外に出られる、……と思うのじゃ」


「状況は分かりました。あたしは何をすればいいですか?」


「うむ。『肉球は全ての答』という店は覚えておるじゃろう? あそこの嫁のロレーナ・パベルに手紙を渡して欲しいのじゃ」


 花街の獣人喫茶で、店長がマリアーノとかいうクマ獣人の店だな。


 奥さんがロレーナで、マリアーノは彼女に頭が上がらないのだったか。


 あたしが「手紙ですか?」と言おうとした瞬間に魔力が走り、教皇様は無詠唱で手の中に【収納(ストレージ)】から二通の封書を取り出した。


 さらにもう一度魔力が走り、チケットのようなものが教皇様の手の中に出てくる。


「渡して欲しい手紙はこちらの封書じゃ。もう一通はゴード宛の手紙じゃが、もう書き終わっておる」


「ロレーナさんへの手紙は手渡せばいいんですね? お爺ちゃんの方は商業ギルド経由で出しますがいいですか?」


 あたしは手紙を受け取って確認する。


「それで構わんよ。そしてこちらは報酬というかお駄賃じゃ」


「お駄賃、ですか?」


 教皇様はそう言ってあたしにチケットを差し出した。


「この券を王都内の書店で会計するときに渡せば、どんな本でも会計が国教会に回ってくるという券じゃ。元々は吾輩や高位の神官のお使いで使うためのものじゃが、どうじゃろうか?」


 どうじゃろうかって言われてもなあ。


 さっきも言ったけれど、教皇様も被害者な気がするんだよな。


 悪いのはジェイクに呪いを掛けた神官だし。


「その券は受け取れませんよ。教皇様はお爺ちゃんの友達ですし、その手紙を預かるのと王都内での手紙を持っていくお使いくらいは、タダで引き受けます」


「それは……、済まんのうウィンちゃん」


「お爺ちゃんがお世話になってますし、ささやかですがそのお礼です」


「ありがとう、ウィンちゃん」


 教皇様は機嫌良さそうに微笑んだ。


 あたしは無くしたりしないうちに、預かった二通の手紙を【収納(ストレージ)】に仕舞った。




「もう一つ、伝えたいことがあるのじゃ。ウィンちゃんはどうやら神気に馴染みやすい体質かも知れんのじゃ」


 おっと、ステータスの『薬神の巫女』がバレそうなんだろうか。


 そこはちょっと気を付けたいところだな。


「神気ですか? 神官に向いているということでしょうか」


「平たくいえばそうじゃ。もしくは神々の巫女たりえる資格があるのやも知れん」


「はあ……。神官とか巫女になると、国教会に就職ということになるんでしょうか? その場合、一生独身じゃ無きゃダメとかだったりします?」


「そうじゃのう……。神官になる場合は王立国教会という組織に入ってもらうことになる。その場合は結婚などは自由じゃ」


 意外と国教会の神官は戒律が緩やかなんだろうか。


 地球の仏教のお坊さんとかだと、現代ではともかく昔は独身だったような気がする。


「巫女の場合は神々の方針によるのう」


「神さまの方針ですか?」


「国教会はそれなりに長い歴史があるゆえの、巫女や(かんなぎ)の行動指針は神託が下りて記録が残っておる。有名どころの神様じゃと、水神様は国教会で過ごすようにという方針じゃのう。結婚についても年齢の指定があったような気がするわい」


 神様に神託で結婚年齢を指定されるのか。


 けっこうそれは本人的に悩ましいんじゃないだろうか。


「対するに風神様や薬神様は対極というか、市井で過ごすことも含めて全て本人の意志に任せよという記録がある筈じゃ」


「全然違うんですね」


「うむ」


 薬神はソフィエンタのことだけど、風神様も同じということは似たキャラなんだろうか。


 まだ神域でも会ったことは無いけど、『風神の加護』はもらってるんだよな。


「まあ、それでも国教会を含め、神官の中には本人の意向を誘導すべしという考えの者もおるし、大ごとになりやすいがの。……ともあれじゃ、ウィンちゃんが学院卒業後に進む道に悩んだ時は、国教会でも受け入れられると覚えておいて欲しいのじゃ」


 巫女を誘導しようとする人に絡めとられるのは、ちょっとイヤかな。


 それでも、就職に困ったら相談してという話はありがたいかもしれない。


「お気遣いありがとうございます」


「さて、内々の話は以上じゃ。そろそろ戻るかの」


「はい」


 あたしは教皇様に付き従って最初の部屋に戻り、キャリル達と合流した。


 その後、教皇様や女性神官への挨拶もそこそこに、あたし達は王立国教会の本部を離れた。


 執事の青年はここから伯爵邸(タウンハウス)に戻るとのことで、見送りをしてくれた。




 馬車の中ではキャリルに学院に戻っていいかを訊かれたので、商業ギルドに寄れるなら寄りたいと伝えた。


「それはウィン、教皇様からお預かりしたゴッドフリー様あての手紙を出したいということですの?」


「そうよ」


 教皇様とお爺ちゃんはモフモフ仲間だし、どんな内容になっているのかは微妙に気になるけれど、取りあえず気にしないようにする。


「分かりましたわ――エリカ、お願いします」


「承知しました、お嬢さま」


 エリカはそう応えて、御者へと窓越しに行き先を伝えた。


「それでウィン、用件はそれだけだったんですの?」


「そうねえ、キャリルとエリカさんならいいか。他言無用でお願いします」


「「分かりました」わ」


 あたしは別室で教皇様に二通の手紙を頼まれたこととその経緯、そして神気が馴染みやすい体質だと言われたことを簡単に伝えた。


「そうでしたの。……教皇様がモフラーなのは秘かに有名な話ですし、それはいいでしょう」


 秘かに有名なのかよ。


「そういうことでしたら、このあと商業ギルドに我が家の馬車で乗り付けるのは好ましくありませんわね」


「え、乗り付けるのがダメ? 教皇様がお爺ちゃんに手紙を出したのが追跡されるかもってこと?」


「その可能性を考慮すべきですわ――エリカ、学院へ直行してくださいまし」


「承知しましたお嬢さま」


 確かにその可能性は否定できないか。


 どうにも教皇様とお爺ちゃんだと、花街でのモフモフイベントで好き勝手にしていたイメージが強いんだよな。


 でも国教会での仕事とかに関係して、部下などでは無くてわざわざあたしに出させるというのは一応注意する必要はあるかも知れない。


「ありがとうキャリル。教皇様とお爺ちゃんだと友達同士だし、そこまで重い内容とは想像できなかったわ」


「いいえ、念のためですわウィン。実際はモフモフ情報の交換のための手紙という可能性もあるかも知れません」


「……そうなのよね」


「それと神気のことはわたくしには判断がつきませんわ。教皇様が自ら仰った以上、間違いない話でしょうけれど」


「そうね。その件はまたゆっくり考えてみるわ」


 お爺ちゃんへの手紙は謎のままだったけれど、あたし達は結局学院に戻ることにした。


 馬車で移動している間にキャリルからニッキーに魔法で連絡を入れてもらった。


 そのまま風紀委員会のみんなとリー先生に何事も無かったと伝えてもらうことになった。


 あたしはアルラ姉さんに連絡を入れて無事を伝え、ロレッタ様にも伝えてもらうよう頼んだ。


「これで一応大丈夫かしら?」


「ウィン、わたくしはレノに連絡を入れますので、あなたはコウに連絡しなさいな」


「コウに? ……まあ、過去の記憶とかそういう何かを思い出したのかも知れないけど、ちょっと大げさに心配してたよね。分かったわ」


 そうしてあたしは【風のやまびこ(ウィンドエコー)】でコウに連絡を入れた。


「ええとコウ、今ちょっといいかしら?」


「大丈夫だよウィン。具合はどうだい?」


「問題無いわ。高位の神官さまに神術で調べてもらって、全く問題無いって」


「ああ、神々に感謝を! それは良かったよウィン。やっぱり呪いって怖いねえ」


 コウは普段神々がどうとか口にしないけれど、そこまで心配させてしまったのか。


 何というか微妙に申し訳ない気分になってしまう。


「確かにね。心配してくれてありがとう。こちらはキャリルの家の馬車で学院に移動中よ。風紀委員会関係と姉さんには連絡済みで、レノにはキャリルから連絡を入れているわ」


「分かったよ。カリオにはボクから伝えておく。明日みんなで模擬戦だけど大丈夫かい?」


「大丈夫よ。ありがとう」


「ゆっくり休むんだよ。それじゃあ」


「うん、またね」


 馬車の中ではその後、今回のことで教会への寄付はティルグレース伯爵家が支払うとキャリルに宣言された。


 どうやら執事の青年が国教会本部に残ったのは、寄付の支払いのためだったらしい。


 それなりに冒険者としての稼ぎもあると説明したけど彼女には押し切られた。


 附属病院の車寄せで馬車を降りてエリカと別れ、あたし達が寮に戻ると玄関先でアルラ姉さんとロレッタ様とニッキー、エリー、アイリスに出迎えられた。


「おかえりなさいウィン、キャリル」


「ただいま姉さん、みんな」


「ただいまですわ」


 そのままあたしとキャリルはみんなに食堂に連れていかれ、国教会本部での話をせがまれた。


 みんなに教皇様に神術を掛けてもらった話をしたら割と羨ましがられた。


 もちろん、教皇様に別室で頼まれた件はナイショにしたけれど。


 そのうち夕食に来たサラやジューンやニナ、プリシラ、ホリー、アンも加わった。


 時間的に夕食の時間なので、そのまま謎の食事会に突入した。


 みんなも加わったことで改めて合体魔法の話から始めたら食いつき、面白がって質問をしてきたので説明しながら時間が過ぎて行った。


 ニナなどは「教皇様に会えるなら、妾も絵を放り出して行くべきじゃったのう」とか言っていた。


 なんの絵を描いていたのか訊いたけれど、はぐらかされてしまったが。



挿絵(By みてみん)

ジェイク イメージ画(aipictors使用)




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