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06.念のために教会を訪ねて


 合体魔法が放たれていた現場には、あたし達を始め風紀委員会のみんなと、コウやレノックス様やペレなどの協力者に学院の先生たちが駆けつけていた。


 もっとも合体魔法は既に放たれていないので、そこまでの緊張感は無いのだが。


 それでも駆け付けた先生たちの一人が、あたし達に状況確認の意味で話しかけてきた。


「ええと、君らは風紀委員だな。ここの状況がどうなっているか教えてくれないか?」


 あたしとキャリルは風紀委員のみんなに視線を向けるが、カールやニッキーがあたしに頷く。


「ウィン、説明をお願いしますわ」


 キャリルもあたしに投げたか。


 誰かが説明しなければならないし、まずは駆けつけて無力化したところまでを話してしまおう。


「それではあたしから。予備風紀委員のウィン・ヒースアイルです。大規模な魔力が確認され、先輩からも連絡があったのであたし達は現場に急行しました――」


 そうして、出来るだけ端的に事実を伝えることにした。


 ・襲われている生徒が四名おり、襲っている生徒が八名いた。


 ・襲っている生徒たちは【風壁(ウインドウォール)】の合体魔法を使い、襲われた生徒は【風の盾(ウインドシールド)】の合体魔法で防いでいた。


 ・襲っていた生徒に魔法の停止を命じたところ停止したものの、呪術を使って抵抗された。


 ・使われた呪術は悪魔の力を身に宿すものだった。


 ・襲われていた生徒たちもその呪術を知っていた。


 ・あたしとキャリルは実力行使で襲っている生徒を無力化した。


「――ということで、詳細は彼らから確認してください」


「分かった、後は任せてくれ。君たちはケガなどは無いか?」


「問題ありません」


「大丈夫ですわ」


「よし、ここからは先生たちが引き継ぐ。君たちの対処に感謝する」


 あたしと話していた先生はそう告げて、騒動の当事者である生徒たちの方に歩いて行った。


「ウィン、悪魔の力ってどういう事なんだい?」


 近くで話を聞いていたコウがあたしに問う。


 何やら心配そうな表情を浮かべているな。


 呪術と聞いて呪いを受けたとでも考えてしまったんだろうか。


「大丈夫よコウ。術者の能力を上昇させる呪術を使った連中がいたの」


「でも、君の身に呪いが掛かったりしたら、ボクは心配だよ」


 そう言ってコウはさりげなくあたしの右手を自身の両手で取る。


 あんまり自然な所作だったので抵抗もなく取らせるままにしてしまったけど、コウはかなり慣れた動きだった気がするな。


 ふだん女の子たちにこういう所作を取っているのだろうか。


 べつにムカついたりはしないけど、微妙にモヤっとした。


「身体強化を行う呪術か。良く対処できたね」


 近くで聞いていたジェイクも告げる。


「その呪術だけれど、ここで何が起こったのか教えてくれるかしら? 場合によっては教会に行った方がいいかも知れないから」


「わかりましたわ。それではわたくしから――」


 ニッキーに問われてキャリルが応じた。


 三人一組の二集団が祭句を唱え、魔力を込めたことで二人の生徒の右手の甲に紋様が浮かんだ。


 その直後から二人の生徒に魔獣に似た気配が感じられた。


 魔力を纏わせない戦槌(ウォーハンマー)の攻撃は効いていないようだったが、火属性魔力を込めて打撃技を叩き込むとダメージが通った。


「――つまり、わたくし達に何か呪いを掛けるというよりは、自分たちに呪いを掛けているように見受けられましたわ」


「呪いか。……パワーアップはしていたかい?」


 キャリルの言葉にエルヴィスが興味深げに問う。


 エルヴィスは学院卒業後に冒険者として活動するようなことを言っていたから、悪魔という存在に興味があるのかも知れないな。


 あたしはキャリルと視線を交わしてから告げる。


「正直……、速いだけでしたね。怖さは感じなかったですよ」


「ディンルーク流体術の動きでしたが、魔力を込めていない状態で打撃を加えたら肉の塊というか、とにかくヒットの瞬間に打撃を分散させるような感触でしたわ」


「あ、それ、あたしも思ったわ」


「なるほど。悪魔の特殊能力のようなものを使うようなら厄介だったろうけど、そこまではいかなかったのかも知れないね」


 そう言ってエルヴィスは一つ頷いた。


「悪魔の特殊能力ですか?」


「悪魔は無詠唱の魔法のような力だとか、毒や酸をバラまいたりとかするみたいだね」


『うわ~』


 エルヴィスの説明を聞いてあたしたちは思わず声を上げた。


 そんな厄介そうな奴なら、問答無用で斬り捨てていたかも知れないな。




「ところでコウ、大丈夫だからそろそろ手を放してくれないかしら」


 相変わらずコウはあたしの右手を両手で握っている。


 あたしの言葉でみんなの視線も集中するが、コウは動揺することが無かった。


「そうかい? 附属病院や教会に行かなくて大丈夫かい?」


「そうねえ……、先生たちに相談して鑑定してもらうわ」


 そう言って事情聴取を始めている先生たちに視線を向ける。


「いいえウィン。わたくしと念のために教会を訪ねて、調べてもらいましょう。万が一があるといけませんわ」


 キャリルは慎重だなと思うけれど、確かにいままで悪魔と戦った経験は無いし、その力を宿した相手と戦ったことも無い。


 念のための確認というのは大事かもしれないな。


「分かったわキャリル。移動はどうしよう?」


「直ぐに我が家の馬車を呼びます。車寄せのある附属病院の方に参りましょう」


 あたしはキャリルに頷いてからコウに視線を向ける。


 そうするとようやく彼は手を放してくれた。


「心配をかけてごめんねコウ、みんな」


「全くだよ。ウィンは腕が立つから、逆に心配かな」


「どういう意味よ」


「うまく言えないけど、うん、ギリギリの戦いで大変な目に遭わないかなって」


 そう言ってコウは苦笑いを浮かべた。


 そんな苦笑いに、あたしも苦笑いを浮かべる。


「大丈夫よ、キャリルもいたし。一人で戦う無茶はしないわ」


「……約束だよ」


「うん」


 あたしは返事して、右拳をコウに突き出した。


 すると彼はあたしとグータッチし、それを見ていたキャリルや他の風紀委員のみんなも拳を出してグータッチした。




 現場を去るときにあたしは違和感というか、何かを見落としているような予感がした。


 そして、その予感に導かれるように視線を動かすと、今回襲われていた四人の生徒が目についた。


「すみません、あの四人の生徒って、誰か知っている人は居ませんか?」


 あたしが風紀委員のみんなに問うと、カールから返事がある。


「――ああ、彼らか。リー先生から話があった例の非公認サークルの四人だ。右から順にマニュエル・デュラン、ナタリー・カーヴァ―、フレイザー・ボスウェル、ゴードン・シンプソンだな」


「あの人たちがそうなんですね」


 あたし達の視線を感じたのか、次の瞬間フレイザーがこちらを見た。


 何となくあたしと視線が合った気がすると、直後に彼はねっとりとした笑顔を浮かべた。


 表情としては不気味な笑顔でしかなかった。


 でもその内面に秘められた何かが、ひどく不吉なものを含んでいる気がして、あたしは微妙に胸がざわめく。


「ウィン、連絡が取れましたわ。直ぐ馬車が参りますから行きましょう」


「そうね。ありがとうキャリル」


 キャリルに応えながらあたしはフレイザーから視線を外し、みんなと共にその場を離れた。




 現場で自分たちを襲った生徒たちが事情聴取を受けるのを眺めながら、視線を感じたフレイザーはそちらに目を向けた。


 彼は自分たちを護ってくれた斬撃の乙女(スラッシュメイデン)が、こちらを向いていることに気づく。


 彼女と変幻の乙女(メタモルメイデン)は、悪魔を宿した相手に見事に戦っていた。


 フレイザーは戦闘中の魔力の動きを観察したが、魔力を身体の表面に纏わせない掌打ではダメージが通らなかったところを直ぐに修正した。


 つまり、悪魔を宿す呪術には対抗する手段があるということで、呪術の実践者としては改良の余地が見つかったということだ。


 フレイザーは半ば感謝の念を浮かべつつ斬撃の乙女を見ていると、自分が思わず笑みを浮かべているのに気づいた。


 そうしているうちに彼女たちは仲間たちと共にその場を去って行った。


「どうしたのフレイザー、機嫌が良さそうじゃない?」


「ええナタリー。今回ぼく達が襲われたことで、結果的に悪魔を宿す技術の問題点が幾つか見えてきました」


 フレイザーはナタリーに応えるが、その声は弾んでいた。


「詳しく聞かせてくれるのよね?」


「おっと、君たちだけでずるいなクフフフフ」


「より美しい学びを求めようじゃないか」


 彼らは呪いに関する新しい課題を見付けた事で、さらなる呪いの探求に臨める喜びに思いを馳せていた。



挿絵(By みてみん)

コウ イメージ画(aipictors使用)




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