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12.騎士をしているから


 みんなと昼食を取った後、あたしは寮の自室に戻ってきた。


 昨日に引き続き、夕食までの時間は日課のトレーニングを行う予定だ。


 環境魔力のトレーニングから始め、時魔法の【加速(クイック)】、【減速(スロウ)】では時計の魔道具とにらめっこしながら長めにトレーニングを行った。


 【加速】と【減速】のトレーニングの所要時間はメモしてみることにした。


 作業量が同じなら、効果時間に変化が出てこればモチベーションが上がると思ったからだ。


 次に【回復(ヒール)】の練習を、寮に戻ってくるときに入手した葉っぱで行った。


 そして【符号遡行(レトロサイン)】については、【減衰(アテニュエーション)】とセットで練習することにしてみた。


 どういうことかというと、葉っぱの一部をちぎり取って【減衰(アテニュエーション)】で枯らしてしまう。


 その枯らしたものに【符号遡行】を掛けて枯らす前の状態に直す(、、)ようにした。


 【回復】と【減衰】と【符号遡行】も所要時間は記録する。


「なんだか自由研究を始めた気分ね。……まあいいか」


 思わず呟くが、掛かった時間が短くなれば魔法が上達している目安になると思う。


 面倒くさいといえばそうなんだけど、やっていることは時間を計るだけだ。


「そのくらいは仕方ないか」


 そう呟いてトレーニングを続ける。


 【符号演算(サインカルク)】でコイントスを制御し、時属性魔力を手刀に纏わせるトレーニングをし、始原魔力を点で制御するトレーニングをし、日常的動作をしながらチャクラを開いた状態で気配察知の範囲を広げるトレーニングをした。


「はいっ、終わりっ!」


 自室でそう叫んであたしはベッドに横になった。


 時計の魔道具を見れば、夕食までは時間がある。


 昨日は休憩しようとして食堂に顔を出して、変人(ウェスリー)たちに遭遇したんだよな。


 今日は流石にいないと思うし、居たら逃げてこればいいだけだよね。


 そう思っていた時期があたしにもありました。


 あたしが制服に着替えて食堂に向かうと、ウェスリーとフェリックスとパトリックの気配がした。


 向こうがあたしに気づくかは微妙な距離だったけれど、反射的に内在魔力を循環させてチャクラを開き、割と本気度を増し気味にして気配を遮断して場に化す。


 とりあえずウェスリー達の気配に動きは無いので、気づかれなかったんじゃないかと思う。


 ちなみに彼らは他に四名ほどの気配が近くに座っている感じだったけれど、もしかしたら『諜報技術研究会』で集まっているのかも知れないな。


 その後あたしは購買の方に行き、棚で焼き菓子を手に取って気配遮断を解く。


 直ぐに会計を済ませて再度気配を遮断して場に化し、身体強化を発動して寮の自室に向かった。




 フェリックスが怪訝な表情を浮かべていたので、『諜報研』の幹部の一人が声を掛けた。


「どうした、何か気になったような表情を浮かべて」


「ん? ああ。一瞬知り合いの気配がした気がしたんだが、直ぐにフッと感じ取れなくなったんだ」


 フェリックスの言葉に反応したのはパトリックだった。


「え? ウィンのことを言っているなら、たぶん僕らに気が付いて気配を消して帰ったんじゃないですかね?」


 彼の言葉で幹部たちはウィンの話に興味が湧いた。


「なんだ、斬撃の乙女(スラッシュメイデン)が近くに居たのか?」


「まったく気が付かなかったが流石だな。それに気づいたフェリックスとパトリックも見事だ」


「でも何でわざわざ気配を消して帰ったんだ?」


「どうせウェスリーが変な弄り方をしたんだろう」


 幹部たちはそう話し合うと、その場の者はウェスリーに視線を向けた。


「まあ、『グリーンモンスタースムージー』の件を彼女に昨日相談したな。たまたまアップルパイを食べていたので、逃げることも無いだろうと声を掛けた」


 ウェスリー以外の幹部たちはどう評したらいいものかと頭を捻る。


 だが彼らは直ぐに言葉に出した。


「女子が甘いおやつを食べてるときに面倒な話をするとか、デリカシーが無いだろ」


「まあ、だから彼女とか居た試しがないんだよウェスリーは「ぐはっ」」


「それを言ったら俺らも彼女とかいないだろ」


「集まるのは野郎ばかりっていうのは、ウェスリーが部長の時点で回避不能なのかね「ぐはっ」」


「もう“彼女無し”はウェスリーに任せて、俺らは彼女づくりにトライしようぜー「ぐはっ」」


『それなー「はうぁっ」』


 何やらウェスリーは幹部たちの言葉を聞いた直後に食堂の机に突っ伏し、ぐったりとしていた。


 それを不思議そうにパトリックが観察する。


「ウェスリー先輩はどうしたんですか?」


「しっ、見ちゃいけませんー」


 街で不審人物を指さした子供を諭すような口調で、フェリックスがパトリックに告げた。


「ウェスリーやウィンのことはともかく、『グリーンモンスタースムージー』はさっきも言ったが学院に報告した。基本的に試験期間中は俺たちはノータッチでいいと思う」


『了解 (です)』


 本来はウェスリーが告げるべき言葉を、フェリックスが代わりに幹部たちとパトリックに伝えた。


 そこまで話したところで彼らは解散し、何事も無かったかのようにすぐにその場からそれぞれ別の方向に立ち去って行った。


 彼らが話していた席には、机に突っ伏したウェスリーが残されていた。




 あたしが寮の自室に戻ると、ちょうど部屋にキャリルが訪ねてきた。


「あら。ウィンは学院内のどこかに出かけていたんですの?」


「あ、うん。購買でちょっと焼き菓子を買ってきたの。気分転換をしたくて」


 そう言ってからあたしは扉の鍵を開け、キャリルを招き入れた。


「キャリルは何か用?」


「わたくしも気分転換ですわ。ウィンが集中しているようなら引き返すつもりでしたの」


 そういうことならお茶にするか。


 幸いおやつは買って来たし。


「コーヒーとハーブティーとどっちがいい?」


「それでしたらコーヒーをお願いしますわ」


「分かったわ」


 あたしが共用の給湯室でコーヒーを淹れて戻ってくると、ローテーブルの上にはマドレーヌが置いてあった。


 用意した覚えは無いのでキャリルが持ってきてくれたのだろう。


「マドレーヌは、ウィンは好きでしょう?」


「うん、ありがとう。お菓子を持ってきてくれたのね」


 さっそくコーヒーを用意し、牛乳粉と砂糖をローテーブルに出す。


 そして二人でコーヒーブレイクをしながら、他愛ない話をする。


 その途中に冬休みの話になった。


「そういえばウィンは冬休み中は、ブラッド様のご実家で過ごされるのですよね?」


「そうね。アルラ姉さんやイエナ姉さん、ジェストン兄さんも来るし、父さんと母さんも来るわよ」


「ふむ、いちど手合わせをして頂くためにご挨拶に伺うべきでしょうか」


「ちょっと待って。『手合わせ』と『ご挨拶』ってつながる言葉だったかしら?」


 キャリルというかティルグレース伯爵家のバトル脳が発動すると、時々こういうことがある。


 というか、父さんの実家まで殴りこむ気なんだろうか、あたしのマブダチは。


「それでもウィンの父方のお爺様のブルース様は、遠くからお姿を拝見したことしかありませんわ」


「王城でってことかしら? まあ、キャリルでも話す機会は無いわよね」


「そうですわね。どんなお爺様なんですの?」


 キャリルに訊かれて改めてブルースお爺ちゃんのことを考える。


「優しいけど、そうね。騎士をしているから、武術とかそういう面では厳しい人だと思う。外見的にはドワーフの血が出たのか、かなり筋肉質な上に身長があるわ」


「そうでしたか。ですが武術に厳しいのは、騎士なら当たり前でしょう」


「でも厳しいって話は、お婆ちゃん経由で聞いた話なのよ。家にはむしろ武術的なものを持ち込まないようにしている感じね」


「それは……、残念ですわね」


「たぶん、王城でトレーニングする時に居合わせるようなことが無い限り、手合わせはムリだと思うわ」


 あたしの言葉に何やら考え込むキャリルだったが、突然不敵な笑みを浮かべた。


 王城に戦槌(ウォーハンマー)を担いで突撃とかしないだろうな。


「いいことを思いつきましたわ」


「……頼むから、あまり妙なことはしないでね」


 そこまで話したところであたしの部屋の扉がノックされた。


 気配を探るとサラとジューンが尋ねてきたようなのでキャリルに断って応対する。


「こんにちわ~ウィンちゃん。ちょっと息抜きにお茶せえへん?」


「こんにちはウィン。突然すみません」


「こんにちは。キャリルも来てるわよ、入って」


「なんやキャリルちゃんに先を越されとぉやん。ウチもおやつ持ってきたで」


「私はハーブティーを持ってきましたよ」


 そうしてコーヒーブレイクは臨時のお茶会に発展する。


 その後も何故か今日は、あたしの部屋に来客が集中することになった。


 アルラ姉さんとロレッタが夕食に誘いに来た時には、キャリルとサラとジューンに、ニナとアンとプリシラとホリーが加わっていた。


 いやまあ、いいんだけど。


 姉さん達が来た後は、みんなでぞろぞろと寮の食堂に夕食を食べに行った。



挿絵(By みてみん)

フェリックス イメージ画(aipictors使用)




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