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03.見つけて尾行している


 寮に戻った後は、アルラ姉さん達といつものように夕食を取った。


「期末試験前だけれど、ウィンとキャリルは落ち着いたものよね」


「私とアルラもさすがに最初の期末試験前は、もうちょっと緊張してた気がするのだけど」


 姉さんとロレッタ様がそう評するけれど、確かにあたしもキャリルも普段と変わらないよね。


 そう思ってキャリルの方を見ると、彼女は首をかしげていた。


「どうしたのキャリル?」


「いえ、わたくしもウィンも、正直なところ授業の内容は既に初等部三年生分の途中までは予習済みですわ。どの辺りに緊張するのかを考えていたんですの」


 まあ、確かにね。


 でもその言い方は、無自覚に敵を作りかねない言い方な気がするな。


 幸い寮の食堂は夕食の時間帯でそれなりに賑やかだから、誰も聞いていなかったけれど。


「強いていえば、雑談に見せかけた小ネタの部分が試験にどのくらい出るかよね。歴史の授業とか経済基礎の授業で多かった気がするわ」


「それでもあなた達なら万全なんでしょう?」


 ロレッタ様が微笑みながらあたしとキャリルに順に視線を向けた。


「そこが微妙に判断が出来なくて悩ましいのよ」


「そうですわね」


 あたしとキャリルが揃ってため息をつくと、ロレッタ様とアルラ姉さんは面白そうな視線を向けていた。


 夕食後は自室に戻り、宿題を片付けて日課のトレーニングを行った。


 今日やった宿題の提出は冬休みあけの授業が再開したときだから、忘れないようにしないとな。


 教科担当の先生も【収納(ストレージ)】に入れっぱなしでもいいし、最悪初日の放課後に持って来れば受け付けると言っていた。


 とりあえず自室のどこか忘れないところに置いておこう。




 一夜明けて闇曜日になって、休みということもあり朝はゆっくりと起きた。


 起きて直ぐ朝食をどうするか考えたけれど、商業地区に用事があるし外で食べればいいやと思って外出用の服に着替えた。


 商業地区は風邪が流行っているんじゃないかという情報があるけど、人混みに近づかなければ大丈夫なんじゃないかと思うことにする。


 身体強化して駆けていく予定なので、スカートにレギンスを合わせてブーツを履いている。


 自室を出て寮の玄関に向かうとキャリルにばったりと会った。


「おはようございますウィン」


「おはようキャリル。お出かけ?」


「そうですわ。デイブの店に頼んだ武器が届いたのではないかと思いまして」


 そういえば戦槌(ウォーハンマー)斧槍(ハルバード)を注文してたんだよなキャリルは。


「なら一緒に行く? あたしは例の革素材を使ったロングコートとハーフコードが出来てるハズなの。魔石も見に行きたいし」


「そうですね、一緒に参りましょう。ウィンは朝食はどうしましたか?」


「まだ食べて無いわね」


「わたくしもですわ。屋台メシと参りましょう、ふふふ」


 キャリルも屋台が好きだな。


 まあ、王都の屋台のレベルが意外と高いこともあるんだけど、学院の食堂や寮の食堂で出てこないようなジャンクフードな感じは確かに食べたくなるか。


「分かったわ。でもあまり寒いようならどこかお店に入るわよ」


「構いませんわ」


 そうしてあたし達は王都に繰り出した。


 先ずはキャリルの用事を済まそうとデイブの店に寄ると、幸いお客さんは居なかった。


 応対したブリタニーとキャリルのやり取りを見ていたけれど、どうやらミスリルとメタルゴーレム由来の金属を使った合金製らしい。


 儀礼用ではなく実戦用の武器だし、デザインについては華美ではなかったけれど、それでもキャリルが前から使っていたものよりも若干白い色が強く出ている気がした。


「これを使う日が楽しみですわ!」


 そう言ってキャリルは屈託なく微笑んだのだけれど、その手にあるのは美しくも厳つい斧槍だ。


 直ぐそばには戦槌もあるな。


 その光景が割とナチュラルに物騒な感じになっているのは黙っていることにした。




 デイブの店を出たあたし達は革防具の工房に向かった。


 そこで試着してから残りの代金を渡して受け取った。


 試着の時に軽く掌打とか貫き手を放ってみたけど、今使っている羊の魔獣から取れたという糸で作られたコートとほぼ変わらない使用感だった。


 でも所々にワイバーンの革を使っているし、防具としての性能は上がっていると思う。


 余った素材については返却してもらったけれど、サイズ変更とか追加注文の時に持って来れば使えるだろうと工房の職人さんが言っていた。


 工房を出た後は、キャリルお待ちかねの屋台に行った。


 商業地区の中心部は避けて、それでも美味しそうな匂いを探して二人で突撃する。


 手始めにケバブサンド系の肉巻きパンを食べてクレープを食べ、レンズ豆とブルーチーズのスープにパンが付いてくるものを食べて一息ついた。


「やっぱり買い食いは最高ですわね」


「そうね。お日さまも出てきたし、そこまで寒く無いから外で食べるのはまだアリよね」


 商業地区内にある小さい公園で一休みしていると、何となく知った気配が近くに居るように感じた。


「…………」


「どうしたんですのウィン?」


「うーん、近くに知り合いが居る気がするんだけど」


「どういう知り合いですの?」


「ええと、学院の知り合いが多いわね。……なんかエリー先輩が尾行をしている気がするわ。同行者も……、うーん」


 念のために確認してみるけど、割と距離が近いので間違えようが無さそうな感じだ。


 でも何となくここでエリーに関わるのは嫌な予感がする。


「何かトラブルでも起きているのでしょうか? 直ぐに合流した方がいいと思いませんかウィン?」


「うーん……、たぶん大丈夫じゃないかなあ。むしろトラブルなら魔法で連絡を入れてくるだろうし。どちらかといえば、エリー先輩の方が問題があるような」


「…………それはそれで後輩としては先輩を諭すべきではありませんでしょうか?」


 キャリルだとそう言うような気が何となくしたんだよな。


 無いとは思うけど、エリーがトラブルに巻き込まれてる可能性がほぼ皆無でも存在するかも知れない。


 あたしはやや呻きつつベンチから立ち上がって、キャリルと移動を開始した。




 結論からいえばエリーはすぐに見つかり、彼女の隣にはアイリスが同行していた。


 二人はどうやらディナ先生とパーシー先生を尾行しているようだった。


 先生たちは普段のスーツ姿からは想像できないような普段着な格好をしているな。


 控えめに言ってもデート中な感じだ。


 それをエリーとアイリスが見つけて尾行しているんじゃないだろうか。


「凄く分かりやすいわね……」


「確かにそうですが、あの距離でディナ先生が気が付かないのが意外ですわ」


 あたしが思わずこめかみを押さえていると、キャリルがそう漏らした。


 古流弓術の流派である白梟流(ヴァイスオイレ)の師範代が、尾行に気づけないとかありえない。


 とはいうもののそれは普通の状態ならという話ではある。


 いまディナ先生とパーシー先生は、尾行に気づける心理状態では無いのだろう。


 これはもしエリーとアイリスが見つかってしまった場合、ガチな感じでディナ先生の弓矢のマトになる案研では無いだろうか。


「ディナ先生もパーシー先生も、何らかの理由で尾行に気づける状態では無いのかも知れないわね。何となく想像がつくわ」


「わたくしも何となく分かる気がしますわ」


「いまの段階でエリー先輩とアイリス先輩を止めないと、ディナ先生の奥義で魔力の矢が商業地区に降り注ぐ事態にならないかしら」


 あたしとキャリルはそこまで話した段階で、揃ってため息をついた。




 このまま見なかったことにして別の場所に移動するのも選択肢かなと思い始めたのだけれど、キャリルにそれは読まれた。


「ウィン、逃げてはダメですわ」


「べつに逃げるのを優先でもいいと思うわ。……でもマジメな話、ディナ先生とパーシー先生にはお世話になってるし、少しだけ何とかしますか」


 でも気が進まないよ、めんどくさくて。


 それでもあたし達は気配を遮断して、歩いているエリーとアイリスに近づいた。


 そして二人が大声を上げたりしないように細心の注意を払いながら、背中側から二人の肩を叩く。


 彼女たちは立ち止まって一瞬ビクッとするので、あたしは小声で「ウィンです先輩」と告げる。


 すると二人はゆっくりと振り返った。


「何をしているんですの先輩たちは」


「キャリルちゃんもいるにゃー」


「いや、違うのよ。ワタシはエリーと商業地区に買い物に来ただけなの」


 二人は小声でそう言いながら、焦った表情を浮かべた。


 あたしは思わずため息が出る。


「あの、ホントにお願いなので、先生たちはそっとしてあげておいてもらえませんか? ディナ先生とパーシー先生は両方あたしお世話になってるんです。お願いします」


 たぶんその時のあたしの顔を鏡で見たら、死んだ魚のような目をしていたと思う。


 でも幸いというか何というかあたしの必死さが通じたようで、エリーとアイリスも途端に反省したような表情を浮かべた。


「分かったにゃ。ディナ先生には学院で突撃するにゃ」


 それはどうなんだおい。


 まあ、いま突撃するよりはいいと思うけど。


「ごめんなさいウィンちゃん、キャリルちゃん。このままエリーと買い物して寮に帰るわ」


「「お願いします」」


 よし、これで地雷を踏むことは取り敢えず回避されたか。


 そう思っていたら当の先生たちが妙な連中に絡まれていた。


「おう兄ちゃんに姉ちゃんよう。仲がいいのは結構だけど、往来で人にぶつかるんじゃねえよ、なあ?」


「ああ、申し訳ない。確かにちょっと不注意だった」


 妙な連中からかばうようにパーシー先生がディナ先生を自身の後ろに移動させる。


 ディナ先生は、なんとく嬉しそうな感じの気配をしてるんじゃないだろうかアレ。


 そして妙な連中というのは、クラン黒血の剣(こっけつのつるぎ)OBのゲイリーとケムとガスだった。


 ホントに知り合いによく合う日だな。


 相変わらずゲイリーはスキンヘッドだし、ケムとガスも鼻や耳にピアスをしている。


 ただゲイリー達の気配を読む限り悪意に関しては感じられないので、先生たちがぶつかったのは本当なんだろう。


 そこまで判断したあたしは内在魔力を循環させてチャクラを開き、場に化して気配を消した。


 そして揉めている先生たちの背後から近づき、気配遮断を微かに弱めてゲイリーに視線を送り、全力でブンブンと右手を振った。


 あたしに気づいたゲイリーは一瞬ビクッとしたが、あたしが頭を下げたらため息をついて穏やかな表情に変わった。


「俺たちみたいなチンピラ崩れだと、たまに碌でもねえ奴がいる。兄ちゃんよ、気を付けてその姉ちゃんをエスコートしてやれや。おう、行くぞ」


 そう言ってゲイリーはケムとガスを連れてその場を去った。


 ゲイリーは去るときに、あたしにウィンクをしてから歩いて行った。


 その後あたしはキャリルと先輩たちのところまで戻り、全員に移動を促してエリーのオススメだという屋台に向かった。


 先生たちは二人で商業地区の中心部の方向に消えたが、何やらパーシー先生がディナ先生の手を取って歩いて行った。



挿絵(By みてみん)

アイリス イメージ画(aipictors使用)




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