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08.笑顔を増し気味にして


 ダンジョン行きから一夜明け、いつもの通りにクラスに行く。


 そしていつもとは違う、期末試験前の独特の空気の授業を受ける。


 お昼休みと午後の授業を経て放課後になり、実習班のみんなにプリシラとホリーを加えたメンバーで部活棟に向かった。


 みんなとは玄関で別れ、あたしとサラは狩猟部の部室に移動する。


 そこで動ける格好に着替えてから、部活用の屋外訓練場に移動した。


 前回同様みんなで身体強化しない状態で合同練習をする。


 その後個別練習に入ったのだけれど、先輩から普段使わない属性魔力を弓矢に纏わせる方法を教わっている。


 教わっているのだけれど、意外と簡単そうだ。


 先輩の魔力の動きに意識を集中させて、自分でやるときのイメージを脳内に作り出す。


 その状態で火属性魔力と水属性魔力にそれぞれ挑んでみた。


 結果としてはあっさり成功してしまった。


「え……、ウィンちゃんもう出来ちゃったの?」


「なんか……、先輩のお手本を見てイメージを練ってからやったら、スッと出来ちゃいました」


「才能かしらね~」


「どうなんですかね?」


 たぶん、日課のトレーニングで時属性魔力とか始原魔力を扱うトレーニングをしている関係で、何となく属性魔力操作の基本は分かる気がする。


 特に、時属性魔力に比べたら火属性と水属性とか凄く保持しやすいんですけど。


 あたし時属性魔力のトレーニングを続けるべきなんだろうか。


「浮かない顔をしてるけど、なにか心配でもあるの?」


「あ、いえ……、何でも無いです。纏わせるまでは出来たけど、ここからの魔力の操作とか瞬時の切り替えとかは大変そうだなって思って」


 時属性魔力のトレーニングの話は今のところ言えないんですよ、うん。


 普段使わない火属性魔力と水属性魔力の切替えについては、大変そうだと思ってるけど。


「その辺りは慣れよ。でもそこに慣れてくると、魔力の矢を飛ばす無影射(むえいしゃ)が見えてくるわ」


「おお~」


「いま弓矢に魔力を纏わせる千貫射(せんかんしゃ)は出来つつあるし、無影射も覚えれば白梟流(ヴァイスオイレ)の初心者は卒業ね」


 意外と何とかなるのかも知れないな。


 弓矢を射るのは好きだし、頑張ってみようかな。


「それじゃあ、火属性と水属性は普段使わないって言ってたし、身体に馴染ませるために千貫射(せんかんしゃ)のトレーニングをしましょう」


「はーい」


 そこからあたしは黙々と弓矢を射て過ごした。


 練習が終わり、解散前に集まってディナ先生から挨拶があった。


「皆さん揃いましたね。来週から期末試験の期間に入りますので、狩猟部としての年内の活動はこれで最後になります。試験期間中の練習は矢を使わず弓を引くトレーニングのみ許可します」


『はい』


「試験が開けると冬休みになります。この期間は部活用の屋外訓練場を使って大丈夫ですが、初等部の皆さんは高等部の先輩の監督の下で練習して下さい」


『はい』


「冬休み期間中は、希望者が多い場合は王都南ダンジョンの第十階層までを使って合宿を行います。これは強制ではありません。合宿を希望する方は今週末までにワタシにその旨を伝えてください」


『はい』


「それでは期末試験をがんばって、楽しい冬休みを迎えてください。皆さん、今年もありがとうございました」


『ありがとうございました!』


 そうして狩猟部のみんなは解散した。




 その場を離れようとするディナ先生に近寄り、あたしは話しかけた。


 毒腺から睡眠毒を取り出す方法について相談するためだ。


「先生、歩きながらでいいので、ちょっと相談に乗ってくれませんか」


「相談ですか、大丈夫ですよ。どうしたんですかウィンさん」


「実は例の毒腺の加工の件で、あたしがパーティーを組んでいる学院生徒も参加したいと言い始めたんです」


「そういう事ですか。ウィンさんには恩がありますし、協力したいですが……」


 恩って何の話だろう。


 直球で聞いてみればいいか。


「恩ってあたし何かしましたっけ、先生?」


「あ、いえ、ええと、ウィンさんは温和な性格で悪用しないと言おうとして、言い間違えただけです」


 ディナ先生はそう言ってニコニコっと笑顔を増し気味にする。


 まあ、言い間違えは誰でもあるけどさ。


「はあ……」


 よく分からないけど、ディナ先生がそう言っているならその評価はしっかりと受けとめよう。


 ときどき怒りに飲まれそうになるけど、あたしは学院では温厚な時が多いのは事実だよね。


 カリオをしばいたり、マクスを怒鳴り付けるのは誤差だと思う、たぶん。


「ちなみにウィンさんのパーティーメンバーは誰になりますか?」


「あ、言ってませんでしたっけ? うちのクラスのキャリルとコウとレノとカリオです」


「ああ、そうなんですか?! なるほど……、そういうことでしたか」


 ディナ先生はそう言って、あたしと歩きながら何やら考え込む。


 パーティーメンバーにレノックス様が入っている時点で、みんなの担任だから色々想起するのかも知れないな。


「念のために確認ですが、マーヴィン先生はウィンさんたちのパーティーについて知っていますか?」


「知っています」


「でしたら、パーシー先生からマーヴィン先生に照会してもらうのが、結局いちばん早いかも知れませんね。ウィンさんたちは急いでいますか?」


「いいえ、急いでいないです。急いでたら、もうちょっと必死になってると思います」


 そう応えてあたしは苦笑いを浮かべると、ディナ先生は微笑んだ。


「分かりました。いまちょっとパーシー先生に連絡してしまいましょう」


 そう言ってあたしとディナ先生は最寄りのベンチに移動して腰掛けた。


 一瞬ディナ先生から風属性魔力が走ったと思うと、先生は会話を始めた。


「パーシー先生済みません、いま宜しいでしょうか? ――ありがとうございます。実は例の毒腺の加工の件で相談がありまして――」


 その後ディナ先生はパーシー先生に用件を伝えてくれた。


 横からその様子を伺っていたけれど、努めて事務的な感じで会話をしているように見えた。


 バーベキューの時にパーシー先生を引きずっていたのとは、ずいぶんと違う感じがする。


「――はい、お手数を掛けます。――いえ、了解です。それではまた」


「ディナ先生、何か決まりましたか?」


 どうやら魔法を使った連絡が終わったようなので確認してみる。


 先生の表情は特に変化もなく穏やかなものだった。


「マーヴィン先生に確認してくれるそうです。パーシー先生の個人的意見では、一緒にダンジョンに行っているメンバーなら、むしろ知っていた方がいいと思うとのことでした」


「そうですか。知っていた方がいいんですね?」


「ええ。結局、毒腺を扱うということは魔獣のどこが危ないという話に繋がりますし、ダンジョンに挑んでいるパーティーが学ぶべき情報になると言っていました」


「そう言われたらその通りですね」


「はい。ただ、試験期間などが挟まるので、場合によっては先になるかも知れないと言っていました」


「分かりました。わざわざ連絡を取ってくれてありがとうございました」


「いいえ、気にしないでください。いつものことですから」


「いつものこと? ですか?」


 あたしが何気なく確認すると、ディナ先生は優しい微笑みを浮かべた状態でフリーズし、やがて何事も無かったかのように口を開く。


「いえ、生徒の相談を教職員同士で連絡し合って対応するのはいつものことですよ。我が校は生徒のためには多くの教職員が相談し連携して、最良の結果を得るために行動しているんです。教員の仕事をある種のサービス業という人たちもいますが、ワタシはどちらかといえばその立場は否定的です。むしろ、親戚などの身内の繋がりを広げたものという意識をどこかで持つようにしています。もっとも、あまりなあなあにする積もりも無いのですけどね。そしてそういう立場から、生徒の相談に誠実にあろうとするのはいつものことなんです」


 ディナ先生はそう言って、またニコニコっと笑顔を増し気味にしていた。


 ずい分ていねいな説明だな。


「はあ……。ともかく先生、ありがとうございました」


「いえ。パーシー先生とは連絡が付きますし、また何かあったらウィンさんに伝えますね」


「はい、お願いします」


 ディナ先生とはそこまで話してから別れた。


 先生は着替えて職員室に向かうようなことを言っていたけど、あたしは狩猟部の部室で着替えて別の部に顔を出すつもりだからだ。


 着替えたあたしは美術部に向かった。


 ニナに教わりながら木炭画を描いているけど、そろそろ美術部にも入部してしまっていい気もしてきたな。


 ただあんまりかけ持ちを増やすのもワケが分からなくなる気もする。


 回復魔法研究会も入部したわけでは無いし、取りあえずいまは現状維持のまま顔を出すようにしよう。


 たぶん、製作した作品を学院の内外に美術部員として公式な場で発表しなければ、美術部とトラブルになることは無いと思う。


 美術部の部室を訪ねると、部員の皆さんはお喋りをしながら平和な感じで絵を描いていた。


 あたしが顔を出すのが慣れたのか、気配遮断が無くても騒がれたりすることは無い。


 もともとアイリスも居るし、風紀委員会を過剰に恐れる必要が無いと気が付いたんだと思う。


 部室の中でニナとアンが並んで絵を描いているのを見つけ、あたしもそこに加わった。


「ウィンよ、いま来たのかの」


「こんにちはウィンちゃん」


「こんにちはニナ、アン。狩猟部に出てから来たのよ」


「なるほどのう。狩猟部といえば交流戦の話をアンにしてやったらどうじゃ?」


「こうりゅうせん? なにか試合があったの?」


 そんな話をしながらあたしは【収納(ストレージ)】から木炭画のためのスケッチブックと画材を取り出し、部室のイーゼルを借りて絵を描き始めた。


 王都の商業地区の街角の絵だけれど、お喋りをしながらあたしは気ままに描き続けた。



挿絵(By みてみん)

ニナ イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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