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04.ムダが無いと思うんです


 アシマーヴィア様からもらった闇神の狩庭(あんじんのかりにわ)を使い、みんなと夢の世界に来ている。


 週明け地曜日の夜は何となく定例になりつつあるな。


 あたしにとっても得るものがあるし、みんなのトレーニングになるから来ること自体は否は無い。


 それに休憩の時にみんなが虚空から取り出してくれる、お夜食やおやつが割とクセになりそうなのだ。


 けっして食い気に目がくらんでいる訳じゃ無いんだぞ。


 でもアンが出してくれたワッフルは絶品だったなあ。


 外の焼き目でザックリ感があって、噛み締めるとモチモチ食感が口の中に広がる。


 これにバターとメープルシロップが優しい味を示してくれて、ハーブティーが捗るのだ。


 ええと、ともあれ、夢の世界ではみんなでトレーニングをすることになった。


 まず前回同様に、寮内をゆっくり移動している闇属性魔力の塊をみんなで破壊した。


 その足で寮の屋上に移動して、属性魔力の操作系魔法の練習を開始する。


 アンに関してはニナとアルラ姉さんとロレッタ様が指導を買って出た。


 魔力の制御でみんなと同じ操作系魔法を練習することになったみたいだけど、アンはあたしに質問してきた。


「ウィンちゃんはなにを練習しているの?」


「あたし? 【風操作(ウインドアート)】を練習しているわ。地とか水の属性と違って空気の操作だし、片付けがラクかなって」


「それはそうだねウィンちゃん! わたしも【風操作】にしようかな。ラクかどうかはわからないけど、何となくムダが無さそうな気がするもの」


「そうそう、ムダが無いのよ。ほらね! 客観的意見だとラクなのはいい感じなのよ!」


 あたしがアルラ姉さんとかに視線を向けてそう告げると、姉さんやロレッタ様やキャリルはじとっとした視線を向けてきた。


 でも今回はアンという味方がいるのですよ。


「アンちゃん、ホントにいいの? さっき聞いた話だと、水とか地属性魔法の方が得意みたいだけれど」


「え、あ、はい……。ウィンちゃんが言っているけれど、空気とか風を操るのってお片付けがラクそうだし、ムダが無いと思うんです」


 アルラ姉さんに問われてアンがしっかりと返答した。


 それを聞いていたプリシラも口を開く。


「私もお婆様の課題が無ければ【風操作】を選んだと想定します。私たちは魚ではありませんし、水の中で生きてはいません。空気の中で過ごしている以上、無駄が少なく感じると結論します」


「そうじゃのう。アンの場合は新しく【風操作】のトレーニングを始める方が、余計なクセが付いていない分上達が早いかも知れんのう」


 あたし達のやり取りを聞いていたニナが、真面目な顔をして何か考えている。


 その隣でロレッタ様もニナの言葉に頷いているな。


 結局アルラ姉さんもニナの言葉に納得して、ロレッタ様やニナと一緒にアンの特訓を手伝い始める。


 あたしを含めそれ以外のみんなも、それぞれが選んだ操作系魔法を練習し始めた。




 練習のサイクルは前回と同じだ。


 三十分魔法のトレーニングを行い、その後ティーブレイクまたは夜食タイムを入れる


 相対時間で四時間半ほど過ぎてティーブレイクを取っている時に、アンの話になった。


「アンの魔法の使い方を見ておるが、今のところ苦手という言葉が当てはまらない感じがするのじゃ」


「私も同感ね。ウィンよりも素直だし、少し慎重なところもあるけれど教えた魔力操作をかなりスムーズにおぼえているわ」


 まあ、あたしよりもアンの方が素直だというのは異論はない。


 というか、あたしはある意味で屈折しているかも知れないというのは、自覚はある。


 あたしのことはいいか。


「アンが素直なのはあたしも同感だけれど、トレーニングは順調なの?」


「かなり順調ね。予定していた滞在時間の間に、魔法科初等部一年のCクラス以上に食い込むのは確実ね」


「いや、妾の見る限り、今回だけでBクラスの実力には届くじゃろう」


『お~』


 あたしを含めてみんなが声を上げると、アンは何やら顔を真っ赤にして俯いてしまったな。


 もっと自慢すればいいのに。


 アンのクラスはDクラスだったと思うのだけれど、夢の世界で集中力を保ってトレーニングしているとはいえ、恐ろしい成長速度に感じる。


 そしてそのことであたしは学院のクラス分けというか、もっと言えば入試の仕組みに問題があるような気がしてきた。


「そうすると、いまの学院のクラス分けがおかしい感じがするのはあたしだけかしら? 入試の結果で分けたって話だけど、その目的は同じ力量の生徒でグループにして、指導をしやすくするためよね?」


「でもウィン、それは入試という仕組みの限界かも知れません。アンという才能を見出すには、入試の期間だけでは時間が足りなかったんだと思います」


 ジューンはそう言ってみせるけど、一理ある。


 それでも入試で同じような成績の生徒を、学年全体で均等にクラス分けした方が、アンのような生徒を伸ばしやすいということは無いのだろうか。


 みんなにも話してみたけれど、さすがに教育についての専門知識をもつ人は居なかったから、それぞれメリットデメリットがありそうだという話になった。


 それでもサラの一言でアンについては話がまとまる。


「ウチたちと一緒にトレーニングしたら、アンちゃんやったら来年はAクラスなんやろ?」


「そう、なのかな?」


「魔法に関しては大丈夫じゃないかしら? もちろんアンちゃんの努力次第だけれど」


 アルラ姉さんが笑みを浮かべてそう言っている。


 姉さんがそう言う以上、大丈夫な気がしてきた。


 なにせこれでもロレッタ様と二人で初等部三年間をAクラスで過ごし、高等部も特待生で入学してAクラスに在籍している。


 学院での競争を生き抜いてきたアルラ姉さんの言葉なら、信じる価値はあるかも知れない。


「ちなみに姉さん、あたしはAクラスで居られるかしら?」


「ウィンの場合は目端が効くし記憶力もいいから心配していないけれど、変な事件に巻き込まれないようにしなさいね」


「はーい……」


 べつにあたしは、変な事件に巻き込まれに動いている訳じゃあ無いんだが。解せぬ。




 みんなでトレーニングを続けていると、ニナが【時間計測(タイマー)】の魔法で予定していた十二時間ほど経つとみんなに伝えた。


 あたし達はトレーニングを切り上げたけれど、その頃までにはアンはずい分魔法の腕を上げたようだった。


 【風操作(ウインドアート)】以外にも、アルラ姉さんとロレッタ様の勧めで盾の魔法の練習をしたようだ。


 魔法の授業で期末試験として実技試験があるからだ。


 アンは魔法の授業では【水の盾(アクアシールド)】を練習したそうなので、ここでも同じ魔法を練習したという。


「そういえばニナー、アンの内在魔力量が多いって話をしてた気がするけど、どのくらい多いの?」


 ホリーが微妙に気になることをニナに訊いていた。


「また説明が面倒な事を訊いてくるのうホリーよ。そうじゃな。このメンバーでは妾がブッちぎりで多いのじゃが、それ以降は多い順にプリシラとサラとアンが同じくらい、次にアルラ先輩とウィンが同じくらいじゃの。その次はロレッタ先輩が多めじゃが……、横並びかの。ちなみに学院生徒は市井の大人と比べても、魔力量自体は多めなのじゃ」


『ふ~ん』


 そんな話をしていると突然強いめまいを感じ、気付いたらあたし達はニナの部屋にいた。


「アン、時計を見て」


「え、うん。……あ、ほんとだ」


「ナイショだよ」


「うん! ――ええと、今日はみんな、ありがとうございました」


 アンはそう言って立ち上がり、すし詰め状態のニナの部屋で頭を下げた。


 みんなは口々に「気にしないで」とか「これからもよろしくね」とか言っていた。


 そんな感じで今回の闇神の狩庭(あんじんのかりにわ)を使ったトレーニングを終えて、あたし達は自分の部屋に戻った。


 問題はここからなんだよな。


 まずは今日の授業で出た宿題のための資料を勉強机の上に広げる。


 その状態で椅子に座り、しばらくボケボケっとした。


 体感での疲労は無いんだけど、意識の上では十二時間連続で魔法のトレーニングをしていた記憶が残っている。


 そういう意味で気疲れみたいなものがあるのだ。


「とりあえずコーヒー淹れよう……」


 あたしはトボトボと共用の給湯室に向かい、コーヒーを淹れて自室に戻ってゆっくりと飲んだ。


 そうして気力を呼び覚まして宿題との対決を進めていった。


 それに比べたら日課のトレーニングはまだ気分的にマシだったので、習慣化しているメニューをこなして早めに寝た。




 一夜明けて授業を受けたけれど、先日に引き続いて期末試験前最後の授業らしくいつもと少し違う緊張感を感じた。


 あたしは内職しながら授業を受けていたけれど。


 実習班のみんなと昼食を取り、放課後になって『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』のみんなで学院の正門に集まる。


 そのまま身体強化と気配遮断を掛けて王都を走り、王宮を経由して王都南ダンジョン地上の街に転移しダンジョンに入った。


 いつもの転移の魔道具で前回到達した第十五階層の入り口に辿り着く。


 そこで小休止をしていると、レノックス様から声を掛けられた。


「そういえばウィン、以前回収した毒腺はどうなったのだ?」


「ああ、そう言えばちゃんと説明していなかったわね――」


 あたしは害獣駆除の研究者のパーシー先生に協力を仰ぎ、マーヴィン先生の許可も貰って毒腺から睡眠薬を作り出すことになったのを伝えた。


「ちなみに魔法薬と違って、魔獣素材の睡眠薬は量を取り過ぎると死ぬらしいわ。その原料の毒腺でも死ぬリスクがあるらしいの」


『は?』


 あたしの言葉でみんなはいきなり険しい視線を向けてきた。


「大丈夫、そういうこともあって専門家のパーシー先生に協力を仰ぐことにしたの。ディナ先生も同行するつもりよ」


 それを聞いてみんなは揃ってため息をついた。


「ウィン、そういう危ないことは早めに報告なさい」


「そうだぞ。全く、魔獣素材の毒腺が致死性のものだったとはな」


「俺がウィンの代わりにやらせてもらったりしたら、ぜったいヤバかったな。ウィンより不器用だし」


「ウィン、頼むからそういう時はボクたちに相談して欲しいよ」


「分かったわよ……。そうね、報告が遅くなったのはごめんなさいね」


 確かにもっと早くに相談した方が良かったか。


 ちょっと反省しなければ。


 その後キャリルにいつパーシー先生のところに行くのかを訊かれたけれど、まだ決めていないと正直に伝えた。


 そうしたらみんなは揃って参加したいと言い始めたので、パーシー先生に相談してみることを伝えた。


 さすがにプリシラの新魔法騒動のときのように、参加者がドカっと増えることは無いと思う。


 それでもあたしはパーシー先生やディナ先生、マーヴィン先生から許可が出るかが少し心配になっていた。



挿絵(By みてみん)

ロレッタ イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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