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11.思考誘導を受けた痕跡


 そういえば交流戦のバーベキューの時に、商業地区で風邪が流行り始めているという話を聞いた。


 何となく思い出してデイブ達に訊いてみる。


「ねえ、商業地区で風邪が流行り始めてるって話を聞いたんだけど、けっこう風邪ひいてる人が増えてるの?」


「風邪ひき? そうだな、確かに増えてるかも知れねえな」


「まあデイブも私も馬鹿だし、『バカは風邪ひかない』っていうから平気だろ」


「そうそう。罹ったときはその時だな」


 それでいいのか二人とも。


 それと自称バカっていう人ほど、油断が出来ない人な気がするのは気のせいだろうか。


「あたしも又聞きというか、元の文献は知らないけど、学院の回復魔法研究会の先輩から風邪の予防のための民間療法は聞いたことがあるわ――」


 念のためハーブティーを使ったうがいの話を、デイブとブリタニーとキャリルに伝えた。


 意外なことにというか、キャリルがうがいを知っていた。


 ティルグレース伯爵家の使用人から聞いたことがあるらしい。


「ハーブティーを使って“うがい”ってえのをやって、その後は口の中のものは吐き出すのか」


「要は口とか喉をハーブティーで洗う感じなのかね」


「いよいよ商業地区で風邪が流行して来たら試していいと思いますわ」


 デイブとブリタニーは半信半疑な感じだったが、キャリルに促されてあたし達は頷いた。


「風邪の話は気にしても仕方ねえし、また考えるとしてだ、お嬢とキャリルは晩餐会の誘拐未遂事件はどこまで話を聞いてる?」


 デイブの言葉にあたしとキャリルは顔を見合わせた。


 先日『神鍮の茶会オリハルコン・ティー・パーティー』で集まって議論をした。


 誘拐未遂の実行犯は南部貴族の男爵が依頼したもので、このままでは貴族派閥で揉める可能性があるとのことだった。


 だがこれはレノックス様があたし達を信用して議論に持ち込んだ話だ。


 それを踏まえるとデイブとブリタニーにも、詳しいことは今は伏せた方がいいのかも知れない。


 あたしがそこまで考えていると、キャリルがあたしに微笑んで頷いてから告げる。


「当家に侵入した傭兵団は、南部貴族の男爵が依頼したものと聞いておりますの。ですので今後、貴族派閥のことで色々と騒がしくなるかも知れませんわ」


「そうだ。さすがに当事者だし話が早いな」


 あたしはレノックス様からもたらされた情報なんですけどね。


 そのことは黙っていよう。


「いちおう現時点での情報共有として聞いておいて欲しいんだが、三つ情報がある。一つはその依頼主の男爵様だが、思考誘導のたぐいをされていた可能性が高い」


「思考誘導? って何? 暗示とか洗脳とかそういうもの?」


「大括りでいえば同じようなもんだね――」


 デイブの話にあたしが質問すると、ブリタニーが説明してくれた。


 思考誘導はある種の学習であるとか詐欺の手口に使われる。


 質問をしたり情報を伝えるときに、あたかも本人が自分で結論を判断したように思わせて相手の考えを誘導する手法だ。


 暗示は思考誘導よりももっと無意識での判断に関わる。


 様々な情報を相手に刷り込むことで、無意識のうちに刷り込まれた内容を本人に信じさせる手法だ。


 洗脳は他の二つよりも強制的なものだ。


 抑圧的な生活であるとか拷問に近いような精神的圧迫で、本人の価値観や思考などを特定の方向に変化させる手法だ。


「――まあ、厄介なのは魔法やスキルによっては思考誘導のレベルの気軽さで、洗脳のレベルの変化を標的に起こすものがあるってことだねえ」


 そう言ってブリタニーがため息をついた。


「王国の方は闇魔法であるとか、呪いの類いが男爵に仕掛けられた可能性を疑ったが、王立国教会の複数の専門家が診ても魔法での影響は無かったそうだ」


「それならば、男爵が思考誘導を行われたフリをして、自分が被害者として振舞っているということですの?」


「王国が行った取り調べでは思考誘導を受けた痕跡は見つけたらしい。魔法的な手段が不明ってだけでな」


「だからその話が流れた段階で、王都の裏社会は原因を探ろうとして情報屋が飛び回ってるらしいね」


 裏社会が興味を持ったのか。


 確かに王立国教会とか王宮が魔法的な手段を特定できない思考誘導なら、テクニックかスキルかは分からないけど悪用したい連中は多いかも知れないな。




「で、二つ目の情報だが、貴族派閥問題の根本的なテコ入れを王国が計画中らしい。テコ入れっつっても下手に大ごとにしても不味いから、王国の今ある仕組みを使うって話だ」


 王国の今ある仕組みを使った根本的なテコ入れか。


 『神鍮の茶会』で散々“引き算”をやって荒れるって話になったし、基本的には“足し算”をして王国の機能強化だよね。


 案外あたし達が話してたアイディアが採用されちゃったりして。


 まあそれは無いか。


「最後に三つ目の情報だが、貴族派閥問題を重く見た王宮が王都にある教育機関に通達を出すようだ」


「どんな内容ですの?」


「詳細は分からねえ。基本的には学生同士で貴族派閥問題で揉めたときは、王宮に報告を上げろってレベルの話と考えられてる」


 王宮に報告って言っても、学院は王立の教育機関だしこれまでとは大きくは変わらない気がするんだよな。


 待てよ、デイブは『王都にある教育機関』って言ったか。


「デイブ。その対象になる教育機関って、学院だけじゃあ無いってこと?」


「そうだ。……いまのところはルークスケイルとブライアーズ、ボーハーブレア、セデスルシスの四校だな」


学院(うち)やブライアーズ学園はともかく、他は学校が厳しそうだけど揉めるかな?」


「お嬢、どんなに厳しかろうが規律が守られてようが、集団生活の中には揉め事はあるだろうさ。光竜騎士団のなかでさえイジメの話があるらしいんだよ?」


 ブリタニーが言うことも分かるんだよな。


「何だかうっとうしい話よね」


 ただそれでもめ事を報告したとして、王宮はどうするつもりなんだろう。


 文官を各学校に送り込んで指導とかを行うんだろうか。


 火に油を注ぐような結果にならなければいいけれど、さすがにその辺りは王宮も考えるか。




「ここまで話したついでだから、情報分析の話もしておくか。つってもお嬢とキャリルには直接的には関係ねえ話と思うがな」


 情報分析ってことは、晩餐会で集めた“人の名前”と“商会の名前”のことか。


 元々は貴族派閥問題で、王国内の食べ物の価格が上がるのが心配されていた。


 それで市場に影響のある商人と、その裏に張り付いている貴族の情報を集めたかったハズだ。


 デイブの説明では食べ物の取引で活発に動いているという、南部貴族と北部貴族の幾つかの家名が出てきた。


 いちおう覚えたけれど、確かに直接的には関係無さそうな話だな。


「食べ物の価格は上がりそうなの?」


 あたしとしては気軽に屋台メシとかを味わえなくなると困るんですよ。


「その辺はこれから情報収集だな。それと、これも直接は関係ねえって言えばそうなんだが……」


「どうしたの?」


「いやな、まだ情報分析の途中なんだが、明らかに動いてなきゃおかしい筈の商人の名前がキレイに出てこなかったんだわ」


「ふーん?」


「ノエル・ストーネクスって商人だ。王都から北の公国に掛けて食糧と鉱物を中心に手広く商売を広げてる豪商でな。もういい歳だしそろそろ隠居でも考えてるのかも知れんが、それにしても傘下の商会の名前がほとんど出てこねえ」


 デイブがそう言う以上、食べ物の取引で名前が出てきてもおかしくない商人なんだろう。


 傘下を含めて名が出ないというのは、何か計画的な動きなんだろうか。


 でも王国の商人は大手になれば貴族とパイプがあるはずだ。


 仮に商人が動いていなくても、貴族は何らかの動きをしているかも知れないな。


「そのノエルっていう商人さんは、どの貴族家と繋がりがある人なの?」


 あたしが問うとデイブが少し考え込む。


 なにかマズい事でも訊いてしまったんだろうか。


「もしかしてその辺りは秘密なの?」


「いや、そんなことはねえんだけどな……。ノエル・ストーネクスは、キュロスカーメン侯爵閣下と繋がりがあるってのが有名だな」


「それはプリシラのお爺さまですわね」


「プリシラ嬢な。お嬢の友だちで、誘拐未遂事件でお嬢が護ったご令嬢だな」


『…………』


 プリシラの名と侯爵様の名が出た時点で、みんなそれぞれ何かを考え始めた。


 あたしにしても誘拐未遂事件と貴族の派閥問題と食べ物の取引の情報とで、プリシラの実家に何か妙な縁が生じている予感がした。


 違和感と言ってもいいかも知れないけれど。


「まあ、なんだ。情報分析に関しては、キャリルの家が中心になって手堅く進めると思うぜ」


「分かりましたの」


 デイブの言葉にキャリルは一つ頷いた。


 デイブからの話はそこまでということだったが、このあとどうするかとキャリルに訊くとデイブとブリタニーに質問があるのだという。


 質問と言っても店に着いたときに、ここで食い入るように眺めていた図入りカタログの件だった。


 何やらキャリルは戦槌(ウォーハンマー)斧槍(ハルバード)で気になる物が幾つかあったらしく、目を輝かせて相談していた。



挿絵(By みてみん)

プリシラ イメージ画(aipictors使用)




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