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12.金銭じゃ無い報酬


 呪いの腕輪の製作者を『底なしの壺』にした何かについてデイブに話したけれど、いま一つ反応が薄い。


「それなら学院で見つかった呪いの腕輪の鑑定情報の件は、大丈夫と思っていいのね?」


 個人的には微妙に嫌な予感が残っているが。


「今のところはな。おれの所にも特に情報はねえし。呪いに関してはおれはもちろん専門外だが……、お嬢は知り合いに宮廷魔法使いが居るようなことを言ってたよな?」


「そうね」


 いつ話したんだったか。


 プリシラ誘拐未遂事件の新聞記事をデボラに見せてもらった話を、デイブにした時だったかも知れないな。


「うろ覚えだが、王宮では呪いを研究してる魔法使いがいる筈だぞ。宮廷魔法使いに当たるのもいいし、お嬢のクラスメイトの王子様に助けて貰ってもいいかもな。何か分かるかもしれねえぜ」


 おっと、王宮にはそんな人材がいるのか。


 そうなるとデボラに相談して、ダメならレノックス様に相談かな。


「分かったわ、そうしてみる。デイブも何か見かけたら教えてくれないかしら」


「構わんぜ。今はヤバそうなモンじゃ無くても、呪い付きの商品を放置すんのもちょっとアレだしな……。ところでお嬢、別件だけどいいか?」


「どうしたの?」


「今度の闇曜日の午後って時間あるか?」


 午前だとバーベキューと狩猟部の交流戦があるんだったか。


 優先度に関してはひっくり返ってる気もするけど、気にしないのだ。


「午後なら大丈夫よ。午前中から昼くらいまでは予定が入ってるわ」


「そうか。キャリルから聞いてるかも知れねえけど、今度の闇曜日の午後三時、冒険者ギルドに来てくれねえか? 伯爵邸からの礼の話があるんだ」


「え、いいの?」


「どういう『いいの?』かは分からねえが、お嬢はあのとき依頼で伯爵邸に居た。報酬はきっちり受け取っておけ」


「……うん」


 キャリルから、か。


 今のところ彼女から話は無いけれど、キャリルも一緒に戦ってくれたんだよな。


 評価されるならキャリルも評価して欲しいと感じるのは我がままなんだろうか。


 そんなことを思いつつ、要件が済んだのでデイブとの連絡を終えた。




「どうでしたの?」


 あたしの部屋でベッドに腰かけて本を読んでいたキャリルだったが、あたしがデイブとの連絡を終えると本を閉じて顔を上げた。


「まずデイブの反応は薄かったわね――」


 あまり大っぴらに動けば国や商人ギルドが反応するし、現状では学院生徒の小遣いをかすめ取るくらいだ。


 現時点でデイブのところに情報は無いし、何か見かけたら情報を回す。


 呪いは王宮で研究しているはずなので、知り合いの宮廷魔法使いなりレノックス様に相談したらいいのでは。


「――とまあ、そういう感じね。あとは闇曜日の午後に冒険者ギルドで報酬を受け取る話が出たわ」


「ああ、その話もありましたわね。先に呪いの腕輪の話をしておきましょう」


「構わないわ」


 報酬を受け取る話については、キャリルも冒険者として報酬を受けるのだろうかと一瞬頭によぎった。


 それでもまず、呪いの腕輪の話に集中する。


「わたくしとしては、王宮に呪いの研究者が居るのでしたら、レノに確認してもらうべきだと思いますの」


「そう? デボラ先生に訊いてみてもいいんじゃない?」


 デボラは宮廷魔法使いだし、何か知っているかも知れないし。


 一応懸念が無いわけでも無いんだけどさ。


「デボラ先生に訊いても、呪いの研究が王宮の極秘事項だったりする場合は教えてもらえませんわ」


 今まさにキャリルが指摘して来たことは懸念してたんだけど。


「そして彼女に訊いてダメなら、わたくし達ならレノを経由することは想定するのではありませんか?」


「うーん……、その場合はレノに渡される情報も、制限されるかも知れないわね」


 別に現状で困る話では無いような気もするけど、ジェイクの一件を経て、あたしの中では呪いは面倒そうな技術という印象がある。


 可能なら手が空いている時に、こっそり呪いについての情報を集めた方がいいと考えている。


 だから、手に入れられそうな情報が制限されるのは避けたいんだよな。


「そうでしょう? それなら初手からレノに頼るべきだと思いませんかウィン?」


 レノックス様なら、本当にマズい時以外なら教えてくれそうだよね。


「分かったわ。そういう事なら提案者のキャリルがレノに相談してみて」


「お安い御用ですわ。呪いの腕輪の製作者の話を、王宮に居るという呪いの研究者に訊く話ですわね?」


「うん、それでいいと思う」


 レノなら意外と関心を持って調べてくれそうな気もする。


 キャリルも伯爵家の令嬢だし、レノとキャリルの二人掛かりなら平民のあたしが王宮の情報を訊こうとするよりはガードが緩くなるんじゃないだろうか。


「ウェスリー先輩への報告はどうしますか?」


「明日の放課後辺りに、風紀委員会の週次の打合せが終わってから話してみましょうか。取りあえず中間報告という扱いで」


「いいですわよ」


 あたしとキャリルはそこまで話して頷きあった。




「それで、闇曜日午後に冒険者ギルドで報酬を受け取る話をされたのよ。キャリルから聞いてるかもって言われたんだけど、知ってたの?」


「知っておりましたわ。伝えるつもりで忘れておりましたの」


「そ、そうなの」


「ええ。当日は金銭的な報酬の他に、わたくし達の冒険者ランクの話になりますわ」


「あ、わたくし達ってことはキャリルも報酬があるのね?!」


 エントランスホールでは、キャリルが一瞬気を引き付けてくれたから装備を取り出せた。


 あれが無かったら素手での対応になっただろうし、そうなると手加減とかが多少怪しくなった気がする。


 比喩ではなく物理的な意味で侵入者を死屍累々にしたら、色んな意味で問題だったんじゃ無いだろうか。


 床を血の海にしたのも問題ではあったけど。


「わたくしはもちろん我が家での出来事ですし、金銭的報酬は受け取るつもりはございません」


「まあ、ラルフ様のお財布だしね」


 あたしの言葉にキャリルが呆れたような表情を一瞬浮かべるけれど、そんなにヘンなことを言ったかな。


「お爺様の財布としては大した額でも無いでしょうけれど、身内から金銭的報酬をもらう位なら、お小遣いという名目で頂いた方がギルドに払う手数料が掛かりませんもの」


 伯爵家レベルなら手数料とか誤差みたいなものだろうに。


「手数料ねえ……」


「元は領民の税金ですしね」


「それを聞くとケチれるところはケチりたくなるかな」


「ケチではありませんわウィン。倹約という美徳ですのよ」


 そう言ってキャリルはドヤ顔を作る。


 いや、税金を納める側としたら有難い美徳ではあるんだけどさ。


「まあ、うん……。あたしはいい美徳と思うわ。それで、金銭じゃ無い報酬って、さっき少し言ってたけど冒険者ランクってこと?」


「そうです。結論を先に伝えますと、ウィンをランクBに、わたくしをランクCに認定する予定ですの」


 それは嬉しいかそうでないかでいえば嬉しいことだ。


 でもあたしは先週末にランクCに上がったばかりなんですけど。


「キャリルはともかく、あたしがBなんて制度面で可能なの?」


「国から推薦がある場合は可能らしいです。特にランクBくらいまでは貴族が王国に推薦し、国が冒険者ギルドに推薦する形で昇格しやすいそうですわ」


 実力が伴わないともちろん通らない話だが、冒険者ギルドとしてはどんどんランクが高い冒険者を増やしたいそうだ。


 理由としてはその方が、面倒な依頼や難易度が高い依頼を解決できる冒険者が増えるからとのこと。


 冒険者の方もランクが上がれば冒険者ギルドから受けられる依頼の幅が広がり、収入が上がるメリットがある。




「それにコウはすでにランクBですわよ。レノから聞きましたわ」


「え、そうなの?! それは初めて聞いたわ」


 コウはエルヴィスとナイショの特訓をしているみたいだし、冒険者ランクはあたしよりも先行して昇格しているんだろうな。


「カリオがランクCでレノがDでしたか。レノの昇格が多少遅れておりますが、本人も周囲も気にしていないですし、のんびりランクアップが一番ですわよ」


「それには同意するわよ。でもレノは実力に比べて低すぎる気がするわね。単純に手続きをしているヒマが無いだけなんじゃ無いの」


「そうですわね。いちおう本人にクギを刺しておきますわ」


 冒険者ランクと個々人の強さに関しては、冒険者ギルドから公式の目安みたいなものは出ていないようだ。


 ただ一般的に言われるのがランクCが一般の兵卒と同じ程度の強さであることか。


 ランクBの冒険者に関しては、B級の魔獣を単独で撃破できるのが目安だと言われる。


 B級の魔獣の強さは、狩人とか手練れの冒険者が数名程度で安全に狩れるくらいだったハズだ。


 王都南ダンジョンの魔獣でいえば、第二十階層にいるジャングルのエリアの階層ボスがB級の魔獣だ。


 ハイオーク一体と取り巻きのオークソルジャー複数が控えているらしいけど、カリオはニコラス監督の元で一度ソロで撃破してるんだよな。


 もっともカリオの場合、修めている風漸流ヴェントトルトゥオーソがえげつない破壊力をもつ武術みたいだ。


 相手に触れた場所から振動波を叩き込んで魔獣の体内をジュースに変える壊し技らしいから、格闘の間合いで混戦とかなら有利かも知れない。


 意外とハイオーク位ならカンタンなんじゃ無いだろうか。


 まあ、たまたまカリオが帰還したときスゴイ疲れてたのを見てるし、カンタンと本人の前で言ったらいじけそうだけど。


 あれ、カリオがソロ撃破に挑んだのは課題がどうとか言ってた気がするな。


 まあいいか。


 あたしがもし単独で仕留めるならどうするかな。


 一番無難なのは場に化してボス個体の首を狩った上で、速度を活かして雑魚の機動力を削ぎながら無力化して個別にトドメだろうか。


 そこまで考えて、自分が脳筋に染まってるのはもう諦めようかなと思い至る。


「……ィン、聞いてますの?」


「あ、ごめん。ちょっと考え事をしてた。何だっけ?」


「闇曜日はお昼はどうしますの? 冒険者ギルドに行くなら、商業地区で一緒に食べませんか?」


 そう言えばキャリルには闇曜日の予定は言っていなかったか。


「ごめんキャリル。闇曜日は狩猟部の交流戦で、朝からゴーレム狩りをして、お昼にバーベキューの予定なの」


「ゴーレム狩りですって?! 詳しく訊いてもいいですか?」


 キャリルが少しばかり鼻息を荒くして問う。


 ふむ、キャリルは興味があるのか。


「ええ。学院の狩猟部はブライアーズ学園の狩猟部と定期的に交流戦をしていて、狩猟技術を競ってるらしいの。具体的には王都南門を出た草原で、ゴーレムを放って狩るらしいわ。その後、みんなでお昼にバーベキューをして解散なんだって」


「それは興味がありますわね」


「そうでしょう? 野外でバーベキューなんて絶対美味しいわよね?!」


 アウトドアで食事とか最高じゃ無いだろうか。


 当日に備えて調味料とか香草とかを持って行こうかな。


 いや、そもそも食べ物をディナ先生に相談しておいた方がいいかも知れないな。


「……ええ、ウィンならそう言うと一瞬思いましたわ。ともあれ、狩猟部ですか」


「キャリルも興味あるの? ディナ先生に相談したら見学くらい大丈夫じゃないかしら」


 あたしの言葉にキャリルは「そうですわね」と応えて微笑んだ。



挿絵(By みてみん)

デボラ イメージ画(aipictors使用)




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