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08.権力を持ち過ぎないか


 今日のお昼に秘密組織『神鍮の茶会オリハルコン・ティー・パーティー』(キャリル命名)の打合せを行った。


 テーマは『ディンラント王国の貴族派閥問題への対策』について。


 昼休みに話した限りでは、王国貴族の兵や領地や既得権益を取り上げるのは難しいだろうという話になった。


 実現可能性は考えなくていいという前提の議論だけど、貴族が揉めて内戦などのきっかけはOKって訳じゃあない。


 少し話してみたけれど、カンタンに答が出てくるようなら問題になっていないことに気付く。


 それでもこれからその話をする。


 第三王子であるレノックス様が議論をしたいと切り出した訳だけど、王宮では割と危機感が高まっているのかも知れない。


 そんなことをふと思う。


 食堂にあたしとキャリルが着くとレノックス様が一人で待っていたので、合流して近くの席に座った。


「お待たせしましたわ、レノ」


「お待たせ、レノ」


「ああ。コウにもオレから連絡を入れておいた。すぐ来るそうだ」


「そう。それならコウが来るまで待ちましょうか」


「そうですわね。レノは今日は放課後は何をしていたんですの?」


「オレか? 史跡研究会でマーヴィン先生の蔵書を読んでいた。王都の都市計画についてまとめた本だ」


 また難しそうな本を読んでいたんだな。


 あたしが言うのも何だけど、レノックス様を始めうちのクラスのクラスメイトは色々と規格外な人が多い気がする。


 ところで史跡研究会といえば、その後王都地下の古代遺跡関連で何か調査は進んだのだろうか。


 内緒にした方がいい話なので、あたしは【風操作(ウインドアート)】であたし達の周りを防音にする。


「ねえレノ、前にみんなで集まってレリーフの話をしたじゃない。あの後何か進展はあったの?」


 あたしの言葉に少し考えてからレノックス様は口を開く。


「進展か。あの後ニナの助言に従ってライゾウ先輩を中心に、王都で似たようなレリーフが残っていないかを探した。だが空振りだったな」


「そうなりますと、現時点では王家の植物園の方と、コロシアムの方の二か所のみで怪しいものが見つかっているということになりますのね」


 キャリルに問われてレノックス様は頷く。


「そうだ。いちおう念のためマーヴィン先生の伝手で、王宮の司書にそれらしいものが無いかを文献の方から調査させている。だがそれも、芳しく無いようだな」


 ライゾウの調査というのはいつものフィールドワークだろう。


 なんだかんだ言ってライゾウは引きが強い。


 というか、重要そうなものをいつの間にか手元に手繰り寄せるような幸運を持っている気がする。


 それでもダメなら、もしかしたら今見つかっている二か所に注力するのが正しいのかも知れないな。


 根拠が運頼りというのもどうかとは思うけれど。


「それとは別に、王都防衛の訓練も兼ねて王国に警備の協力をしてもらう話も進んでいる」


「そうなんですのね」


「ああ。年内はスケジュール的に難しそうだが、年が明けて来月以降になれば都合がつくのではないかという話になっているようだ」


 実際に王都の地下に古代遺跡があったとして、その入り口を開いた瞬間に王都に魔獣が溢れたら大惨事だろう。


 警備を行うことでその危険性を下げられるならやっておいた方がいいと思う。


 ダンジョンなんかの未踏区域を開いたら、スタンピードが起きたってのは割とあるらしいし。


 そういうリスクがあるとしても、古代遺跡を探索するのは好きな人には堪らないんだろうなとあたしは考えていた。




 食堂にやや気配を抑えたコウが現れた。


 運動着のような格好をしているので、ゴールボール部の練習を切り上げて来たのかも知れないな。


 コウが席に着いた段階であたしは【風操作(ウインドアート)】を使い、防音壁を作り直した。


「みんな、待たせたね」


「部活中だったのだろう? 手間を掛ける」


「いいんだ。レノがお昼のテーマを出した切っ掛けは聞いたけど、要するにアイディアを募集中ってことなんだよね?」


 切っ掛けというのは、プリシラ誘拐未遂事件の実行犯から情報を得られた件だろう。


 コウは、誰が募集中とは問わない。


 第三王子であるレノックス様が貴族派閥問題のことをテーマとする以上、少なくとも王宮は何らかの形で関わっているだろうから。


 恐らくレノックス様は、王家の一員として自分の中で意見をまとめておきたいということなんだろう。


 少なくともあたしはそう思っていた。


「そういうことだ。それでも正直なところ、オレが責任ある形で意見を求められる可能性は低いだろう。ただ、おまえ達と話す中で問題が整理できれば、見えて来るものがあるかも知れん。そう思ったのだ」


「うん。……レノが背負ってるものを肩代わりするわけには行かないけど、進む道に生えた雑草をどうにかする手伝いくらいは出来るかも知れないからさ。ボクはそういう手伝いなら力を貸すよ」


「あたしもよ」


「わたくしは家の力を使えばもう少し助けられるかも知れませんが、今回のことには都合が悪いかも知れません。大人しく議論を助けさせて頂きますわ」


「ありがとう。助かるぞ……」


 そう言ってレノはあたし達の顔を順に見渡してから口を開く。


「それでだ。昼の続きなのだが、ウィンが興味深いことを言っていたな」


「あたしの発言か。確か『貴族の利益を守るために、公平な仕組みがあればいいんだとおもう』って言ったわ」


 貴族の対立を解消するために、別のヤバい問題を発生させるわけにはいかない。


 対立を激化させるのは論外だし、王家に反旗を翻したり内戦の切っ掛けになるようなアイディアはダメだろう。


 だから方向性としては、貴族の利益の話になる。


「そういう足し算を王国に行うのだとも言っていましたか」


「どの程度の公平さを考えているのだ? 王家が介入する既存の仕組みではダメなのか?」


「ダメでは無いわね。ただ、王家というか実務上は王宮が取り仕切ることになると思うの。貴族間の揉め事をすべて手当できるほど、王宮には文官は居るのかしら?」


「手当てすることは出来るだろう。ただ、そこで問題となるのは時間だ。貴族同士のトラブルを王宮が仲裁するまでに、悪化するリスクはある」


「……あれ?」


 あたし達のやり取りを聞いていたコウが、何やら首をかしげている。


 何か気になったことでもあるのだろうか。


「どうしたんですのコウ?」


「うん、ちょっと待ってね。いまの三人のやり取りで何かに似てるような気がしたんだ……」


「「「似てるもの?」ですの?」」


「実務上は王宮が取り仕切る貴族の揉め事があって、これには時間が問題になる……。でもそんなことは以前から起きていただろうし、対策があったはずだけど……、あ」


「思い出したの?」


「思い出したというか思い付いたというか、“地方総督”だよ」


「「「あー」」」


 そう言われてみればその通りだ。


 プリシラの祖父のキュロスカーメン侯爵も王国北部の地方総督に就いているけど、この要職は国王陛下の代官みたいな仕事だ。


 貴族家同士の利害関係の調整とか、王宮に確認が必要だけど急な判断を迫られる案件の処理を任されている。


 コウが似てると言ったのは、地方総督が各地で貴族同士の利害関係を調整する部分だろう。


 要するに揉め事の解消だ。


「ああ、何ていうかカサブタが取れたみたいで気分がいいよ」


「そ、そうなんだ?」


 カサブタと聞いて、怪我したら魔法で治せばいいのにと頭によぎったが黙っていることにしよう。


「カサブタになる前に、ウィンに魔法で治してもらおうかな?」


「別にいいわよ」


 先にコウが話を振って来たか。


「でもコウ、あなたも【治癒(キュア)】や【回復(ヒール)】は練習しなさいね」


「もちろんさ!」


 あたしとコウのやり取りを見ながらレノックス様が何やら考え込んでいる。


 そして多分、自分なりの答えを頭で整理しつつあたし達に問う。


「地方総督が貴族間の揉め事を解決してきたとして、なぜいま王国貴族は派閥問題で対立しているのだろう?」


「管轄の問題じゃないかしら? 地方総督は王国の各地域の総督よ。自分の担当する地域を超えるような問題は、王家に相談するしか無いとおもう」


 あたしの答えを聞いて、レノックス様は一つ深呼吸してからあたし達に問う。


「地方で貴族の利害関係などの揉め事を調整している地方総督が、互いに相談し合ったら貴族派閥問題の解決につながるだろうか?」


 レノックス様から問われてあたし達は考える。


 地方総督なら普段から自分の担当の貴族たちと連絡を取っているだろう。


 当然だけど、地域の問題や課題にも詳しい。


 その人たちが互いに相談し合ったら、地域をまたいで貴族の揉め事に取組めるようになるかもしれない。


「悪くはない、とおもう」


「そうですわね」


 コウとキャリルが応えるけど、あたしと同じように頭の中で可能性を検討したのだろう。


 でも気になる部分はある。


「権力を持ち過ぎないかしら?」


「「「え?」」」


「王家を飛び越えて貴族のあいだのもめ事を調整していたら、地方総督が王家をないがしろにする危険性はだいじょうぶ?」


 地方総督の権限を増すことで王政が傾くのなら混乱が生まれる可能性はある。


 場合によっては中央と地方での内戦の切っ掛けになりかねない。


「あら、それはカンタンですわ。地方総督たちの合議で方向性を決め、陛下が承認する形をとればいいのです。何なら監査の仕組みを入れても良いでしょう」


「ふむ……、悪く無いな。さしずめ“地方総督府”……、いや、“地方行政府”とでも呼ぶか」


 レノックス様はそう呟きながら、珍しく目をキラキラ輝かせている。


 彼が希望を持ち始めているところ、あたしとしては些細な事だけれど前世の記憶に引っ掛かっていた。


 日本でのソフィエンタ(本体)の就職先が、地方公務員だった気がするからだ。


「まさか、前世からの因縁が巡らないわよね……」


「どうしたんだいウィン?」


 あたしが呟いているのを見て、コウが不思議そうな顔をみせた。


「あ、何でも無いわ。……レノのいう“地方行政府”は制度面では王国の貴族派閥問題に対応できるかもしれない。でも、あとは貴族の皆さまの気持ちの問題かなって思ったの」


 これを考えたのは事実だ。


 制度設計しても誰も望まないなら廃止になるだろうし。


「大丈夫と思いますわ。制度に説得力があれば、それをいかに有利に使おうとするのかが貴族ですもの。そこを上手く絡みとってしまえばいいのです」


「なるほど、それはそうかもね」


 あたしとキャリルとコウがそんな話をしている間も、珍しくレノックス様は目をキラキラさせて、恐らくは“地方行政府”にイメージを膨らませていた。



挿絵(By みてみん)

ライゾウ イメージ画(aipictors使用)




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