表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
313/864

11.幹部が行う秘密の活動


 そろそろ今日も寝るかと思ったところで、お昼のことを念のためデイブに伝えておいた方がいいかも知れないと思いついた。


 元々、ティルグレース伯爵家の晩餐会の事件は匿名報道だった。


 でも貴族社会で噂が流れて有名無実化していたのが、学院内でも漏れてしまった。


 プリシラの名が学院内で実質的に流れたことは、本人のみならずホリー経由ででも侯爵家などに伝わるだろう。


 学院内では、武術研究会とか筋肉競争部がバックに付くと表明してくれた。


 けれど、それで抑えきれないような妙な動きが出てきた場合、月輪旅団が出遅れるのも問題かも知れない。


「考えすぎかもしれないけど、情報の遅れは甘く見ちゃマズいよね」


 自分に言い聞かせるようにそう呟いて、あたしは【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡を取った。


「デイブごめん、こんな時間だけどちょっといいかしら?」


「どうしたお嬢、構わないぜ」


「例の新聞報道があったじゃない? その件で学院内で動きがあったの――」


 あたしは今日のお昼に食堂で起きた騒動をデイブに伝えた。


 どんな反応があるかと思っていたけど、デイブには笑われてしまった。


「おもしれえじゃねえか。なるほど、“理不尽に対抗する理不尽”か」


「これって大丈夫かしら。特にプリシラの名前が学院内で出た件で、侯爵家とかの妙な動きが出てきたらって一瞬考えたんだけど」


「相変わらずお嬢は用心深いなあ。ま、そうだな。正直な話をすれば遅かれ早かれ、貴族家のガキ共から学院には情報が流れるだろうって分析は出てたんだわ」


「分析?」


「ああ。ティルグレース伯爵家と報道の件で事前に話はしたが、その時にそういう話は出た」


 なるほど、その可能性は検討済みではあったわけだ。


 それでもここまで早く事態が動くとは思ってなかったんじゃないかとは思うけど。


「どうするつもりだったのよ?」


「聞いてた話では、貴族家の上の方からクギを刺して、妙な方向に転がらないようにコントロールするつもりだったようだ。それを学生の方からやってのけたってのは興味深いな」


 なるほど、晩餐会の招待客にはマーヴィン先生も居たみたいだけど、実家は辺境伯家だ。


 晩餐会の主催もティルグレース伯爵家だし、プリシラの実家はキュロスカーメン侯爵家だ。


 高位貴族が揃っている以上、手の打ちようはあるのか。


「貴族社会の上位下達で、有無を言わさずってことね?」


「そうだ。だがその手間が省けるなら、基本的には歓迎なんじゃねえかな」


「それならいいんだけど」


「もし何か学院を巻き込みそうな動きがあるときは情報を流す」


 デイブがそう言う以上、そこまで大ごとにはならないということなんだろうか。


 とりあえずあたしは安心した。


「分かったわ、お願いね。そういえば伯爵家に押し入った傭兵団の件では動きはあった?」


「そっちはまだ調査中なんだが――、一言でいえばキナ臭いな。現状では貴族派閥で騒ぎになりそうな感じだが、……まあ、確認中のことも多い。今日明日どうこうって話は無い」


「そう。またお店に行ったときにでも詳しく聞くわ」


 デイブとはそこまで話して連絡を終えた。


 その後はいつものように【洗浄(クリーン)】で身体をキレイにして寝た。




 その日、みんなといっしょに食堂に行って、お昼を食べた。


 その後みんなはクラスに戻ったけど、わたしはひとりで購買に行った。


 部活で使う絵筆をちょっと見たかったからだ。


 わたしは美術部で、ニナちゃんやウィンちゃんと絵を描くようになった。


 二人とは仲良くしているし、カレン先輩を紹介してもらって友達になった。


 わたしは絵を描いているだけで楽しいけれど、同時にこのままでいいのかなと思ったりもする。


 担任のノーマ先生から、わたしには精霊魔法の才能があると言われた。


 わたしで出来るんだろうかと思ったりしたけど、特別講義に参加することにした。


 わたしも強くなりたかったからだ。


 ううん、本当は変わりたかった、だけかも知れないけど。


 特別講義ではニナちゃんが先生だったり、アイリス先輩やカレン先輩、そしてウィンちゃんもいて、びっくりしたけどホッとした。


 そしてニナちゃんが使った精霊魔法は、とてもびっくりして、とてもきれいだと思った。


 わたしもああいう風に魔法を使えたりするんだろうかと考えたりする。


 でも今は、教わったことを身につけようと思っている。


「あら、アリスじゃない」


 画材の棚の前にいたら、クラウディア先輩に声を掛けられた。


「先輩……。もう、わたしはアンですよ? いまはあの研究会には、わたしたちは参加していませんよ?」


「別にいいじゃない。絵の道具を見てたの?」


 クラウディア先輩は面白そうに笑っているけど、買い物に来たのかな。


「そうですよ。部活で使う筆を買おうかなって思って。先輩もお買いものですか?」


「そうね。ちょっととある研究会で使うノートを買いに来たの。ちょうどアンにも、放課後に声を掛けようと思ってたけど、ここで見かけたからさ」


「声をかける?」


「うん。前に君は、魔法以外の教科は自信があるって言ってたよね?」


 そんなこと言っただろうか、と思う。


「自信なんて無いですよ。でも、うん。入試でもっと魔法の成績が良かったら、上の方のクラスになってたかもって……」


 入試の成績では、わたしは後悔した。


 もっと勉強しておけば、魔法を練習しておけば、わたしはここには居なかったんじゃないか。


 それはでも、言い訳だって分かってる。


 結果は結果だから。


「それって、来年は上のクラスに行きたいってことかい? 勉強とか、成績を上げたいと思ってるかい?」


「それは、思っています」


 わたしの言葉にクラウディア先輩は嬉しそうに頷いた。


「アンはそう言うと思ったんだ。ちょっと別の場所で話をしないかい?」


 あたしは購買で絵筆を買った。


 そのあとクラウディア先輩に誘われて、講義棟の間にあるベンチに行った。


「突然だけどアン、君は『カンニング技術を極める会』って知ってるかい?」


「知りません。でも先輩、わたしはカンニングなんて……」


「まあ待つんだ。名前が名前だから誤解されやすいけど、それを含めてそう名乗ってる集まりなんだ。ちょっと説明させてほしい――」


 クラウディア先輩はときどき男勝りなところがあって、生真面目な人だとおもう。


 その先輩の話を聞いてみた。


 結果をいえば、わたしは面白そうだと思ってしまった。


「――わかりました。先輩が言うなら、わたしも参加させてください。でも……」


「どうしたんだい?」


「ウィンちゃんにひとこと、相談していいですか?」


「もちろん構わないさ」


 クラウディア先輩はそう言って、うれしそうに笑った。




「それであたしが呼ばれたのね」


「うん。ウィンちゃん、あのね。“カンニング”って名前がついてるけど、活動が勉強になりそうなの」


 あたしは食堂で実習班のみんなとお喋りしているところを、アンから【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡を受けた。


 重要そうな感じで「相談したいことがあるから」と言っていたから、みんなには急用だと言って急いで来た。


 まさか非公認サークルの話とは思っていなかったけどさ。


 しかもカンニングか。


 風紀委員的にはアウトな気がするんだけど。


「誘われたのはクラウディア先輩からよね? 先輩、アンに伝えた話をあたしも聞いていいですか?」


「構わないさ、私の説明は風紀委員会の先輩に確認してくれて構わないよ」


 彼女はそう言って『カンニング技術を極める会』の説明を始めた。


 ・通称は『カンニング研』という。


 ・幹部と一般会員に分かれていて、一般会員は普通に期末テスト対策を行う。幹部はそれに加えて、秘密にされている活動を行う。


 ・過去問の使いまわしでテスト問題が出る科目を特定する。


 ・過去問を使いまわさない科目は、近年のテスト問題の分析で、問題を変える方向性を検討する。


 ・過去問からの情報収集が一区切りついたら、各学科の各学年での成績上位者から直接的または間接的に想定問題を確認する。


 ・各学科各学年ごとの、今学期の成績の良し悪しを生徒や教師から収集する。


 ・今学期の成績の良し悪しの情報から今年のテスト問題の難易度を想定して、過去問と擦り合わせを行う。


「なるほど、話を聞く限りでは普通に試験対策を行う感じなんですね。情報収集が多い感じかな。確かにそれだけなら問題なさそうですけど……」


 幹部が行う秘密の活動っていうのが怪しすぎだろう。


 その辺は野放しなんだろうか。


 まあ、その辺りはクラウディアの話が事実なら、アンには関係無いかも知れないけど。


 あたしはステータスの“役割”で『影客(ディープシャドウ)』を覚えた時に、『影拍子』というスキルを覚えた。


 このスキルは“戦闘中かを問わず相手の虚実を本能的に把握できる”というものらしいけれど、実は日常生活でもウソとかを見抜きやすくなった。


 多分、魔力の流れだとか気配の移ろいや、相手とか周囲の変化みたいなものを皮膚感覚として捉えて、頭の中で情報を統合しているスキルな気がする。


 ともあれ、『影拍子』を有効にしている状態で聞いたクラウディアの話は、真実に聞こえた。


「――話は分かりました。ところでクラウディア先輩、先輩はその非公認サークルの幹部ですか?」


「違うよ? 幹部じゃないかなって思ってる人は知ってるけどね」


 彼女はそう言って笑ったけれど、これもウソでは無さそうだった。


 結局その後あたしは少し時間をもらい、ニッキーに【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡を取って情報の裏取りをした。


 その結果、クラウディアから聞いた話は問題無いことが分かった。


 同時にニッキーからは『カンニング技術を極める会』のことで説明があると言われた。


 今日の放課後は『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』の指名依頼の件があったので、寮に戻ってからでも話をすることにした。


「ウィンちゃん、わたしがんばるから」


「うん。もうすぐ期末テストだし、勉強会をしようか?」


「あ、それやりたい」


「分かったわ」


 そこまで話してからあたしはアンとクラウディアから別れ、実習班のみんなの所に戻った。



挿絵(By みてみん)

アン イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




おもしろいと感じてくださいましたら、ブックマークと、


下の評価をおねがいいたします。




読者の皆様の応援が、筆者の力になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ