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11.たまたまでも大金星


 椅子で固まっているあたしにアイリスが声を掛ける。


「ウィンちゃん、どうしたの?」


「……その様子だと、やっぱり当事者だったか?」


 アイリスの言葉にデボラが言葉を繋ぐけれど、あたし的にはうわの空である。


 ていうか、斬撃の乙女(スラッシュメイデン)てなんだよ。


 たぶんこれあたしの事だよね。


 どうしよう、新聞の一面なのこれ。


「ウィンちゃん、ちょっと見せて?」


 アイリスに促されるが、あたしは反射的に新聞を胸に抱え込み首を横に振る。


「あー……、ちょっと待つんだアイリス」


 そう言ってデボラは無詠唱で【収納(ストレージ)】を使い、手の中に別の新聞を取り出した。


 それを無造作にアイリスに渡す。


 あたしはそのやり取りを首を横に振りながら見ていることしかできなかった。


「えーとなになに、“乙女の正義は示された!”か。ふむ……。ほほう……! ほうほう、なるほど……! うん、面白い!」


 一通り記事を読み終わったアイリスはあたしに視線を向ける。


「それで、記事の内容からして斬撃の乙女(スラッシュメイデン)ってウィンちゃんのこと?」


 それが他意の無い質問なのは分かっていたのだけれど、あたしは新聞を手放して頭を抱え、座ったまま上体を伏せた。


「「あー……」」


 あたしの仕草で察したのか、二人はどう声を掛けるか考えているようだった。


「そうだね。匿名で書かれているし、事件が事件だ。詳細を話せないことは察するよ」


 そう言いながらデボラは床に落ちた新聞を拾い、無詠唱で仕舞った。


「そうですね。うーん……、ウィンちゃん大丈夫?」


 アイリスも心配そうに声を掛けてくれた。


 あたしは深呼吸した後に身体を起こし、テーブルにあった果実水を一口飲んでから告げる。


「お願いですから、この件はあまり聞かないでください」


「まあ、分かったよ。ただ、気が付く奴は気が付く事件だ。今から多少の覚悟はしておいた方がいいかもね」


 白ワインを口にしながらデボラが告げる。


 たしかに学院でもあたしが当事者だって知られる可能性は高いよな。


「気にしない方がいいわよウィンちゃん。いまでもあなたは学院で名が売れているし、少しくらいそれが広がった程度じゃ無いかな?」


「そうですかね?」


「ネタとしては小説の一部みたいな事件だし、色んな人の興味を引くわね。でもたぶん、すぐみんな忘れるわよ」


「そうそう、アイリスの言う通りだ。だいたい君は、先週とか先々週とかの新聞のトップ記事を覚えているかい? 自分が当事者じゃない事件はみんな忘れるよ」


 そう言われてしまえばそうかも知れない。


 あたしは少しだけ気分が落ち着いた。




 幸いこの世界にはインターネットは無いから、そこまで延々と情報が残ることは無いだろう。


 そこまで考えてあたしはステータスの存在を思いだした。


「あ゛……」


「どうしたんだい?」


「いえ、昨日からステータスを確認してなくて……。ちょっといま見てみていいですか?」


 あたしは二人にそう言ってから自分のステータスを確認した。


 すると以下の状態になっていた。


状態(ステータス)

名前: ウィン・ヒースアイル

種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)

年齢: 10

役割: 影客(ディープシャドウ)

耐久: 80

魔力: 210

力 : 80

知恵: 240

器用: 250

敏捷: 370

運 : 50

称号:

 八重睡蓮(やえすいれん)

 必殺委員(キラーモニター)

 斬撃の乙女(スラッシュメイデン)

加護:

 豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、

 薬神の巫女

スキル:

 体術、短剣術、手斧術、弓術、罠術、二刀流、分析、身体強化、反射速度強化、思考加速、影拍子、専心毀斬、隠形、環境把握、魔力追駆、偽装、毒耐性、環境魔力制御、周天、無我、練神、風水流転

戦闘技法:

 月転流(ムーンフェイズ)

固有スキル:

 計算、瞬間記憶、並列思考、予感

魔法:

 生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態、複写)

 創造魔法(魔力検知、鑑定)

 火魔法(熱感知)

 水魔法(解毒、治癒)

 地魔法(土操作、土感知、石つぶて、分離、回復)

 風魔法(風操作、風感知、風の刃、風の盾、風のやまびこ、巻層の眼)

 時魔法(加速、減速、減衰、符号演算、符号遡行)


 数値に関しては敏捷が少し増えた。


 それよりも何よりも、称号に斬撃の乙女(スラッシュメイデン)が加わってしまった。


 しかも必殺委員(キラーモニター)はそのままだ。


 参ったなと思いつつ他の項目を確認すれば、“役割”で影客(ディープシャドウ)というのを覚えている。


 これにくっ付いてきたのか『影拍子』とかいうスキルを覚えているな。


 影客に意識を集中すると、“隠密+優れた護衛の実績→影客”という説明が出てくる。


 プリシラを護り抜いて得た“役割”なら、胸を張ってもいいのかも知れないな。


 『影拍子』については“戦闘中かを問わず相手の虚実を本能的に把握できる”とある。


 これはどの程度の性能なのかとか、スキルを無効化するスキルへの対策なんかはまた考えなきゃいけないな。


 そこまで確認して、あたしは口を開く。


「なんか今までの称号に追加して、斬撃の乙女(スラッシュメイデン)が増えてました」


「「あー……」」


 あたしの言葉にアイリスとデボラは苦笑いを浮かべていた。


 個人的に地球の記憶で何となくヘヴィメタルな感じを想起したのは秘密だ。


 必殺委員よりはマシだけど、あたし的には微妙だなと。


 それでも無理やり、プリシラを護って得た称号なんだと自分を納得させた。




 昼食をデボラに奢って貰った後、あたしは二人と別れてデイブの店に向かった。


 昨日の報告もそうだけれど、続報などが何か入っていないか気になった。


「こんにちはー」


「ああ、お嬢。こんにちは。昨日はお疲れさまだったね」


 通りに面した表の入り口から入るとブリタニーが居て返事があった。


「そっちこそ“急な話”で大変だったって聞いてるわよ」


「それは割とあるからいいんだけどね。……詳しい話は奥で聞いとくれ」


「デイブは大丈夫?」


「徹夜明けだが魔法薬(ポーション)飲んでるし、大丈夫だよ」


「ふーん……」


 あたしはブリタニーに手を振って店のバックヤードに向かった。


「こんにちはー」


「おお、お嬢。おつかれ。昨日は助かったぜ」


「そっちこそ急な話で、てんてこ舞いだったみたいじゃない?」


「そうだな。まあいつも通りではあるんだが、お嬢は怪我とかは無かったか?」


「大丈夫だったわ。まず忘れないうちにこれを渡しておくわね」


 そう告げてあたしは【収納(ストレージ)】からリストを取り出す。


 昨晩アメリア副侍女長に渡したリストのコピーだ。


「副侍女長に手渡したものを魔法で複写したリストよ」


「おお、ありがとよ。また確認させてもらう」


「それで、戦闘に至った流れだけど、順番に説明するわね――」


 あたしは【風操作(ウインドアート)】で周囲を防音にしてから、談話室(サロン)にいたプリシラが呼び出されたところから話を始める。


 違和感を感じてエントランスホールで彼女に確認すべきだと進言したところで、害意を持つ男たちが六人現れた。


 すぐにあたしを追跡していたキャリルとエリカが、不意打ちで敵二人に対処を始めた。


 キャリルが啖呵を切っている隙にあたしは【収納(ストレージ)】から武器を取り出した。


 その後三人同時にあたしに掛かってきたので、それを斬りまくっていたら指示役の一人が怪しい言動をした。


 プリシラの傍らに戻ると伏兵が三人出てきたので斬りまくって対処。


 その段階でエントランスホールに戦えそうな貴族の皆さんが登場して、敵が眠らされて終了。


「――というわけで、対処できたのは本当にたまたまよ」


「よく分かった。たまたまでも良くやってくれた。特にお嬢が動いたからキャリルも気づいたのかも知れねえ。……新聞は読んだか?」


「さっきお昼を食べながら、知り合いの宮廷魔法使いの人に借りて読んだわ」


 そう言ってあたしは重いため息をついた。


 その様子を苦笑しながらデイブが言う。


「ははは、まあいいじゃねえか、匿名記事なんだし」


「そうは言ってもさー……」


「だが今回キャリルが参戦できたことが本当に大きかったし、その様子を派閥を問わずに晩餐会の招待客に見せられたってのがでけえ。たまたまでも大金星だよお嬢」


 そしてデイブはあたしが寮に引き上げてからの話をしてくれた。


 新聞記事の内容については副侍女長から事前に相談があったらしい。


 匿名記事であることや内容の妥当性でデイブも了承したそうだ。


「ちなみにお嬢たちの記事での呼び名を決めたの、誰だと思う?」


「新聞社の人じゃないの?」


「ちがう。ティルグレース伯爵とキュロスカーメン侯爵が、飲んだくれたノリで決めたそうだ」


 それを聞いたあたしは脱力した。


 酒の勢いであんな呼び名を決めたのかよおい。



挿絵(By みてみん)

アイリス イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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