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03.勝負事が好きなようで


 運動部のイケメン男子たちがスタンバイするのを食い入るように見ながら、ニナが呻き声をあげてから告げる。


「ウィンよ、妾はこのままここで見学するのぢゃ! 美少年が空を群舞するなど素晴らしい(ファンタスティコ)に尽きるのぢゃ!」


「誰かと思えば桃色の哲学(ロージーロジック)さんじゃないですか。あなたならもっと早くに現れると思ったのですが、遅かったですね」


 ニナの声に気づいた『美少年を愛でる会』のパメラが声を掛けてきたが、心持ち頬を紅潮させている。


「パメラ先輩よ、おぬし達がこのような場を整えたのかの?」


「無論です。……もっとも今回は、私たちの活動を疑問視するリー先生を説得できたのが大きかったのですが」


 そう言ってパメラはリー先生に視線を向けるが、視線を感じたリー先生はこちらに向き直り、ニヤリと不敵に微笑んだ。


 その笑みを受けてパメラもまたニヤリと微笑む。


 たしか過去の出来事でリー先生と『美少年を愛でる会』は敵対していたハズだったけれど、今回のことで和解したのかも知れないな。


「先輩よ、素敵(ブラーヴァ)なのぢゃ!」


「ええ。桃色の哲学(ロージーロジック)さん、ここからは至高の時間ですよ」


「うむ、堪能するのぢゃ!」


 そう言ってニナはテコでも動かない感じになってしまったので、あたし達も仕方なく付き合った。


 ちなみに筋肉競争部に合わせたのか、水塊で服が濡れるのが嫌だったのか、その回に飛んだ男子生徒たちも飛ぶ直前に上着を脱ぎ棄てた。


 その瞬間、地上からは黄色い声援が上がっていたが、ニナはあたしの隣で「素敵だ(ブラーヴィ)!」とか叫びまくっていた。


 その後三回ほど跳躍が行われてから高所落下試験は終了したけれど、ニナを始め女子たちの一部がリー先生に詰め寄って何やら陳情していた。


「ニナ、そろそろ行きましょ?」


「いやぢゃ! ウィンよ、今回の試みは共和国でも見たことが無かったのぢゃ! 何としても定期的に開催させるのぢゃ!」


「その辺はもう『美少年を愛でる会』が動いてるから多分何とかするわよ」


 いい加減あたしはどこかの部活に行きたかったので、脳内で計算を巡らしあることを思いつく。


「今日はあたし美術部に顔を出そうと思ってたんだけど、ニナは描かなくていいの?」


「描く? 何の話じゃ?」


「さっきまで色んな人が跳躍してたけど、その光景を覚えているうちに絵にした方がいいものが描けるんじゃないかしら?」


 ニナはあたしの言葉で「むはー」と呻きながら固まってしまったが、何やら脳内で色々と考えている風だった。


 その隙にあたしはニナを引きずってみんなと部活棟に入り、キャリルが歴史研究会、サラが食品研究会、プリシラとホリーが裁縫部にそれぞれ向かった。


 あたしとニナが美術部の部室に着くと、ニナは突然鬼気迫る感じで木炭画を描き始めた。


 それを横目に、あたしは部室に居たアンとお喋りしながら、学院の風景の木炭画を描いて過ごした。


 少しするとバタバタと美術部の女子生徒が部室になだれ込んできて、ニナと同じように鬼気迫る感じで何やら描き始めていた。


 前に美術部で絵を描いたときは部員達は平和にお喋りしていた気がするけど、今日はキャンバスとかを睨むようにして絵に取組んでいる子が多かった。


 気が付けばアイリスも部室に居て同じような雰囲気だったけど、声を掛けたら恐ろしい目に遭う予感がした。


 やがて、何やら言葉にしがたい悶々とした気配が部室に充満し始めたので、あたしとアンは適当なところで切り上げた。


 そして二人で薬草薬品研究会の部室に行き、カレンも交えてハーブティーを飲んでのんびりと過ごした。




 寮に戻ってからは姉さん達とウィラー先生の魔法化の一時的研究会の話をしながら夕食を食べ、自室に戻って宿題をやっつけた。


 その後は日課のトレーニングをいつものように始める。


 環境魔力の制御は腕輪サイズの循環を行っている。


 指輪サイズの循環ほどスムーズには魔力が動いていないけれど、いちおう手ごたえがあるのでまだやりがいはあるトレーニングだ。


 問題はもうお約束の如く変化のない、時魔法の【加速(クイック)】、【減速(スロウ)】のトレーニングだ。


 相変わらず小皿に乗せた大豆を箸で移すトレーニングをしているけれど、時属性魔力の発動は感じられているので発動はしているとおもう。


「トレーニング方法を見直した方がいいのかな……」


 思わず呟いてしまうが、いつものようにやり切る。


 時魔法の【減衰(アテニュエーション)】も、変わらずに自作の振り子を使ってトレーニングを続けている。


 魔法を覚えた時のように、ムリせずに葉っぱを萎れさせた方が効果が見えやすい気もするんだよな。


 ただ、あんまりゴミを増やすのもなと思って、今のトレーニングをやっているという面もある。


 一応この魔法でも時属性魔力の発動は感じられるので、魔法自体は発動しているとおもう、うん。


 時魔法の【符号演算(サインカルク)】もコイントスを続けている。


 七回連続して表または裏を狙って出せるようになれたらサイコロに進むつもりだけど、これも変化が無いんだよな。


 時魔法の練習についてはもう、気長にやるつもりではある。


 だが、ジェイクの件で王城に行ったときに習った時魔法の【符号遡行(レトロサイン)】は、他の時魔法に比べて効果が見えやすいみたいだ。


 【治癒(キュア)】や【回復(ヒール)】を練習したときのように葉っぱに切れ込みを入れ、それに魔法を掛けている。


 葉っぱを(治すではなく)直す(、、)トレーニングだ。


 これに関しては直すことには成功しているけれど、効果が出るまで時間が掛かるし魔力の消費が【治癒(キュア)】に比べて倍以上ある気がする。


 仕方が無いのですごーく小さい傷を葉っぱに入れて、トレーニングをしている。


 始原魔力については身体の狙った位置に纏わせるトレーニングを行っているけど、これに関しては実戦レベルで使い物になりそうな気がする。


 属性魔力の扱いの延長でいけるので、このままだと素手の状態でも月転流(ムーンフェイズ)の技に普通に込めて“連続で”出せる日も遠く無い気がする。


 まあ、斬れ過ぎるので、実戦で試すのが怖いというデメリットはあるけど。


 【回復(ヒール)】は【符号遡行(レトロサイン)】と同じく葉っぱに傷を入れて行っているけど、こちらはずい分スムーズに治せている気がする。


 時属性魔力を月転流(ムーンフェイズ)の技に乗せる練習は、やっぱりそこまで到達していない。


 地道に、手刀に乗せて貫き手を放つ練習を続けている。


 ただ、時属性魔力の操作自体は、練習を始めたころよりはずい分マシになっている気がする。


 以前は意識を緩めるとすぐに纏わせた魔力が発散していたけれど、いまはある程度無意識に維持できるようにコントロールすることは出来ている。


 あとはチャクラを開いた状態で周辺の気配を察知するトレーニングを最近始めた。


 元々トレーニングの時はチャクラを開くようにはしている。


 チャクラを開くこと自体はソフィエンタが直々に神域で教えてくれたからマスターしているけれど、その状態で色んな能力が上がってパワーアップするという話だった。


 超能力の話はいまひとつピンと来ないけど。


 現状で“役割”を『風水師』にして近隣の気配を探ることで環境魔力の動きを探れるけれど、これには立ち止まって意識を集中する必要がある。


 そうでは無くて、特に“役割”を意識しなくても同じことが出来れば色々便利そうだと思ったのだ。


「特にダンジョン攻略でもっと精度とか範囲を上げられたら、まえに護衛のお兄さんが言ってた“意識の外からの奇襲”を防ぐ手段になるかも知れないし」


 思ったことをあえて口にしながら、それでも同時に周囲の気配を探り続ける。


 でもまだ『風水師』にしたとき程には探れないようだ。


 そんな感じであたしは日課のトレーニングを終えた。


 明日は放課後から夜にかけて、ティルグレース伯爵家の邸宅(タウンハウス)での仕事がある。


 それが脳裏によぎったあたしは、共用のシャワーを利用して身体を温めてから寝た。




 いつも通りに授業を受け、お昼になった。


 実習班のみんなと昼食を取っていたら、ニッキーを見かける。


 あたしはキャリルに確認してから席を立ち、彼女に声を掛けた。


「こんにちはニッキー先輩」


「あ、こんにちはウィンちゃん。今日は週次の打合せは欠席よね?」


「ええ。その件ですけど、今週は特に気になる事は起きなかったです。キャリルにも確認しました」


「そう、分かったわ。もし委員会の方で何か連絡があるようだったら、急ぎじゃ無かったら週明けに連絡するわ」


「はい、お願いします」


 まあ、急ぎの連絡事項があるなら、その時はその時だと思う。


 あたしは席に戻ってキャリルにニッキーとのやり取りを伝えたけれど、彼女も特に心配していない様子だった。


 そして午後の授業を受け、放課後になった。


 事前にキャリルに相談したのだけれど、あたしは黒じゃない方の戦闘服を着こみ、寮の玄関で似たような格好をしたキャリルと合流する。


 その足で学院の附属病院の敷地に向かい、病院の車寄せからティルグレース伯爵家の馬車に乗ってあたし達は移動した。


「改めて確認するまでもありませんが、ウィンは今日の流れは大丈夫ですの?」


 車窓に映る王都の街並みをよそに、キャリルがあたしに訊いてきた。


 大丈夫と言われても、基本的な事しか知らないぞ。


「ええと、ミスティモントの別邸で行われた晩餐会の、規模が大きい奴よね?」


「そう考えて頂いて大丈夫ですわ」


「いちおう流れを確認しておくと、招待客が到着すると副執事長が応対して執事に引き継いで控え室の個室に案内するのよね?」


「そうですわね」


「招待客が揃ったら爵位が低い順に晩餐会の会場に執事が案内して、シンディ様が入り口で案内する。最後にティルグレース家が入場ね――」


 その後は基本はコース料理が振舞われ、適当なタイミングでロレッタの婚約発表をする。


 その挨拶なんかが終わってコース料理が出されて、食事が終わってからがあたしの仕事だ。


「晩餐後には基本、招待客を含め全員で談話室(サロン)に移動してゲーム大会よね、ティルグレース家は?」


 ゲームと言ってももちろんゲーム機を使ったものではない。


 ボードゲームやカードゲーム、ビリヤードなんかの伝統的な遊びだ。


 ちなみにこちらの世界にもチェスやバックギャモン、リバーシなんかはあるし、トランプを使ったゲームも普通にある。


 この世界で独自に発達したのか、それとも異世界の記憶がある転生者が持ち込んだのかは分からないけれど。


 将棋や碁は聞いたことは無いけど、案外マホロバ辺りにあったりして。


「そうですわ。母上の実家のアロウグロース辺境伯家では、お爺様が音楽好きなので演奏会を行うようですが」


 キャリルがいうお爺様は、要するにシャーリィ様の父君のことだ。


「家によって違うのね」


「ですわね。我が家は武門ゆえか勝負事が好きなようで、晩餐の後はゲームをしています」


 地球の記憶では、西洋の貴族家の談話室には男性しか入らず、女性は別の部屋でお茶会をしていたようだ。


 ところがディンラント王国では事情が異なる。


 王国では女性にも爵位が与えられる関係で、社交の場として談話室が性別問わずに開かれているのだ。


 その結果、キャリルのティルグレース伯爵家のように、老若男女問わずに晩餐後に談話室でゲーム三昧という状況が出現する。


 あたしはその場で今晩、情報を集めるのだ。



挿絵(By みてみん)

アン イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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