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01.名前を付けるとしたら


 パーシー先生にキラースパイダーの毒腺を預けた翌日、いつも通りに授業を受けた後に実習班のみんなと昼休みを過ごし、午後の授業を受けて放課後になった。


「それじゃあ行きますか」


「早速参りましょう」


 あたしが声を掛けると、プリシラは気合が入った口調で応えた。


 プリシラの周りにみんなで集まって、あたし達は附属研究所に移動する。


 ウィラー先生にプリシラのスキルを魔法化してもらう件で、今日集まることになっていた。


 一週間経ってそれぞれが知り合いを誘った結果、学生の参加者は三十人弱くらいになったそうだ。


 それに加えて研究者の先生とか魔法科の先生たちも興味を持った人が出て、最終的な参加者希望者は五十人弱まで膨れ上がった。


 もうその規模になるとさすがにウィラー先生の研究室では収まらないので、附属研究所の大会議室を使うことになった。


 大会議室とはいうものの、机の並びは日本の記憶の中にある大学の講義室みたいな感じになっている。


 あたし達が着いたときにはすでに何人も集まっていて、先生たちに促されて生徒たちは前の方の席に誘導されてしまった。


 たぶん昼寝することは無いと思うけど、この位置では万が一の場合は目立つなあなどとあたしは微妙に心配していた。


 室内を見渡すと知った顔ばかりだった。


 直接の面識は無くても魔道具研究会や回復魔法研究会、広域魔法研究会なんかで見掛けた先輩たちが気合の入った顔をしている。


 そして先生たちの方を伺うとさりげなくマーヴィン先生が居て、初等部の魔法の教科担当の先生と何やら談笑していた。


 学長って忙しいんじゃなかったんだろうか。


 それとも以前想像した通り、忙しいから逃げてきたんだろうか。


 自分で言うのも何だけど、あたしとは行動パターンは違うよね。


 ちなみに話し相手の教科担当の先生はノーマ・ブライアントという女性教師で、広域魔法研究会の顧問をしている。


 たしか魔法科初等部一年Dクラスの担任だったはずで、アンのクラスの先生だ。


 ニナが「ノーラお姉ちゃんと名前が似てたから、最初はびっくりしたのぢゃ」とか言ってた記憶がある。


 そんなことを考えていると、ウィラー先生が大会議室の前面にある黒板のところまで出ていき、口を開いた。


「はい、それでは大体参加者が集まったと思いますので、そろそろ始めますねー。皆さんこんにちはー」


『こんにちは』


「僕は、本日進行を勤めさせて頂きますウィラー・レスター・サマースケイルです。今日はあくまでも授業とかではなく、一時的な研究会とか検討会という扱いになっています。ですので特に学生の皆さんは、気負わずに参加してください」


『はい』


「――おお、気合が入ってますね……。もっと、気楽でいいんですよ?」


 ウィラー先生の言葉に、参加者からは先生たちも含めて笑い声が上がる。


 前回会った時も感じたけど、ウィラー先生は話し慣れている感じがする。


 その後も先生は、「参加者に増減があっても気にしないで進める」という話をして、ゆるい感じで“一時的な研究会”が始まった。、




 最初にウィラー先生はこの集まりが開かれることになった経緯を説明し、その上で告げた。


「今回は初等部の学生も多く居ますし、理論的な話を最低限に抑えて、できるだけ実践的な話をしておこうと思います」


 そこまで言ってウィラー先生は参加者を見渡す。


「でももし、詳しい話を聞いて共同研究をしたい先生たちや、一緒に研究を進めたい学生さんたちが居たら歓迎しますので、そのときは“魔法構造学研究室”までいらっしゃって下さい」


 そう言って先生は微笑むが、直後にあたし達の後ろから「営業活動かよ!」とか「抜かりねえな!」という野太い男性教師たちの声が上がって室内は笑いが溢れた。


「それでは気を取り直して、まずは基本の確認です――」


 そう言ってウィラー先生は、あたし達も魔法の授業で聞いた以下の内容を説明してくれた。


・魔法の発動には、使用者の体内に魔力が必要。


・発動のために集められた魔力は、意識の働きによって特定のエネルギー状態に整えられるのが必要。


・発動には、意志の働きで魔法の名を詠唱することが必要。


「――いま話した内容は無詠唱の訓練で出てくる内容です。ですが今回はスキルの魔法化の話です。ここで重要になるのは、ここまでの話では何だと思いますか?」


 先生からの質問に対し直ぐに数名の生徒が手を挙げるが、ここでジューンが指される。


「はい、“特定のエネルギー状態に整えられる”という部分だと思います」


「そう、正解です」


 正解と言われてジューンは嬉しそうな顔を浮かべる。


「ここで考えなければならないのは、“何を”、“特定のエネルギー状態に整えるのか”という部分です。話を進めるために順に説明しますが、“何を”というのは矢張り“魔力”です――」


 その後も時おり質問が混ぜられながらウィラー先生の説明が続いた。


 以前、魔道具研究会で『呪いを検出する魔道具』の相談をした事がある。


 その時に聞いた話も説明の中で出てきた。


 以下のような内容だ。


・魔素に指向性やら極性を持たせたものが魔力。


・魔力量などの量的な尺度で魔素を捉えようとしたときは、魔素は『粒』として振舞う。


・魔力の属性や独自性を語るときに『波』として振舞う。


 これに加えて、ニナが史跡研究会で話していた以下の内容も説明された。


・魔力には属性の他に“種類”がある。


・魔力を『波』としてとらえたとき、魔力を出した者の出身地域や血縁などで似た波形が保存される。


「――ということでここまで専門的な話をしてきました。まとめると、スキルの魔法化をしようとしたとき、魔力の“波”が重要だということは理解してもらえたと思います」


 そう言ってからウィラー先生は参加者を見渡しながら「だいじょうぶですかー?」などと呼び掛けている。


 それに対してアーシュラ先生が手を挙げ、ウィラー先生に指された。


「ここまで丁寧な説明をありがとうございます。ただ、長い説明だと生徒が飽きるといけません。わたしの方であとはカンタンにまとめていいですか?」


「どうぞ。いいですよー」


「はい。――魔法化しようとしてるスキルは、その魔力の『波』を『波長』として魔道具とかで調べられる。でも調べた魔力の『波長』には、魔力を出した人間の“出身地”とか“血縁”とか色んなジャマな情報が入り込んでる。これはいいですね?」


「そうですね」


「そのジャマな情報を魔道具とかを使って『キレイな波長』にして、まずはそれを“お手本”にする。……ウィラー先生が過去の論文で言ってたのはそういう事だね?」


「はい、正解です。あっという間に説明が済みましたね」


 そう言ってウィラー先生はニコニコした笑顔を浮かべた。


 自分の論文の話をされて嬉しいのかも知れないな。


「うん。でも、ウィラー先生の論文は魔法を研究する人には参考になる。生徒たちは余裕があるならぜひ読んで欲しい」


「宣伝ありがとうございますアーシュラ先生」


 ウィラー先生がそう告げると、後ろの席の男性教師たちが「宣伝かよー」とか「ずるいぞー」とか叫び、それを学生たちが笑った。


 そのことで、やや張りつめていた大会議室の空気が少し緩む。


 その後いったん休憩を挟み、ウィラー先生はマジックバッグから複数の魔道具を大会議室の前の方に準備していた。




「はい、それでは本日の後半は実践編に入ります。さきほどアーシュラ先生が“お手本”という話をしてくれましたが、実際にプリシラさんにスキルを使ってもらってその魔力の『波』を調べます」


 そう言ってからウィラー先生はプリシラに前に出るように促した。


 プリシラは直ぐに席を立って前に向かう。


 サポート役としてホリーも同行して、マジックバッグを運んでいた。


「まずは、この魔道具が魔力の『波』を調べる魔道具です――」


 ウィラー先生が魔道具を説明するが、魔力を検出する部分とその結果を統合して表示する部分に分かれるそうだ。


 検出する部分は、手持ちサイズのパラボラアンテナに拳銃の持ち手が付いたようなデザインになっている。


 どうやら拳銃の撃鉄の位置にスイッチが付けられているようだ。


 表示する魔道具は空中投影式で、先生が黒板前の机に置かれた本体をいじると宙に浮かぶSF風のモニターが表示された。


 モニターの中には心電図のような横向きのグラフが六本伸びていて、魔力を検知すると波形が出るそうだ。


 六本のグラフというのは地水火風光闇の六属性に対応しているらしいけれど、時属性は対応していないようだ。解せぬ。


「それではプリシラさん、始めて下さい」


 そう言ってウィラー先生は検出部分をプリシラに向けてスイッチを入れた。


「分かりました」


 プリシラは応えるとホリーに視線を向ける。


 ホリーはそれを受けて、マジックバッグから大きなウサギの縫いぐるみを取り出す。


 以前見掛けたことがある、デフォルメされたラブリーなウサギさんだ。


「起きなさい」


 プリシラが声を掛けた瞬間、表示部分のモニターに動きが現れ、六本のうち三本の線で波形が表示された。


 ウサギの縫いぐるみはその場で立ち上がり、一礼する。


 そしてぽいーんぽいーんという擬音がしそうな軽やかな足取りで、大会議室を後ろまで進んでから再びプリシラの傍らに戻って行った。


「眠りなさい」


 その言葉と共にウサギの縫いぐるみはその場に座り込んで動かなくなった。


 そこまで見届けてから、あたしを含めて参加者のみんなは一様に拍手をしていた。


「はい、プリシラさんありがとうございます。引き続き、補正用の『波』を調べるために、何でも良いので魔法を使ってください。簡単なものでいいですよ」


 プリシラは「分かりました」と応えた後、水魔法の【治癒(キュア)】を使った。


 これも直ぐにモニターに波形が表示される。


「はい、ありがとうございます。これで補正結果が直ぐに表示されると思います」


 ウィラー先生がそう告げるとモニター表示が切り替わり、新しい波形が表示されていた。


 波形はどうやら先ほどまでのものと違って、全体像を表示しているようだった。


「はい、おめでとうございます。まずはここまでの作業で順調に“お手本”の波形が得られました。今日予定していたのはここまでですが、プリシラさん、新しい魔法に名前を付けるとしたらどういうものにしますか?」


 ウィラー先生の問いに少し考え込んだ後、プリシラは鈴の音のような声で告げた。


「“従僕召出(コールサーバント)”を希望します」


「はい、いい名前だと思います。ここから先は次回以降に説明します。皆さん、ありがとうございました」


『ありがとうございました』


 みんなでそう言ってから拍手をして、今回の一時的な研究会は幕を閉じた。



挿絵(By みてみん)

ニナ イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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